第1話 序章

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荒野を一陣の風が凪いだ。


「パパ!」
 ベランダで一人静かに本を読んでいた初老の男がその声に振り向くと、そこには興奮に息を切らした一人の少年の姿があった。
「今さっき外ですっごく大きなポケモン見た!」
 少年はかわいらしい足どりで男に走り寄り、その膝の上に飛び乗った。そこは少年のお気に入りの場所だった。
「野生のポケモンかい?それは珍しいね。」
 男は少年の髪をくしゃくしゃと撫でながら目を細めた。自分がまだこの少年くらいの年ごろの頃、未だたくさんの野生のポケモンがいた頃のことを思い出しながら。


それからしばらく少年は膝の上で楽しそうに足を揺らしていたが、ふと思い出したように顔を男の方に向けた。
「あ、それとね。イーブイ達がお腹すいたって言ってたよ。何か食べさせてあげて。」
「まるで本当に聞いたみたいな口ぶりだなぁ。」
 男は暖かく笑いながらそう言って席を立った。少年はしばらくキョトンとして部屋を出ようとしている父親の背中を見ていたが、やがて子供心にも本気にされていないということが分かったらしく、慌てて父親を追いかけた。
「ほんとにそう言ったんだもん!ほんとだよ!」
 その声に男は立ち止まり、自分にすがる少年を振り返った。そして目線を少年に合わせるように、少し屈んで少年の目をじっと見つめ、ゆっくりと語りかけた。真剣な時にはそうするのが彼の昔からの癖だった。
「疑ってなんかないさ。お前はポケモンの声を聞いたんだろう?それはとても素晴らしいことだよ。お前はこれからもそうやってポケモンの声にちゃんと耳を傾けてやるんだよ。いいね。」
 そう言いながら男は少年の銀色の髪を再びくしゃくしゃと撫でた。



それから数日の後、少年の父親と母親は少年の前から姿を消した。そしてその少年は・・・

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