第19話 “11回目”

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 少しだけ、ぼんやりしていた。
 心ここに在らずの俺を現実に引き戻したのは、ロコンの感嘆のため息だった。
「こ、ここが……幻の大地」
 俺とロコン、そしてジュプトルはラプラスに乗って時の海を渡り、前人未到の地――幻の大地へと辿り着いた。
 俺達の目的はただひとつ、世界を救う為だ。
「空に浮く時限の塔には、この先の遺跡に眠っている古代の船……虹の石船に乗れば行けるでしょう」
 この先に進めない代わり、ラプラスは俺達に行くべき道を示してくれた。
「よーし、ちょっと世界救って来るぜ!」
「調子良いなあ」
 少し慎重なこの♀のロコンは俺の相棒。初めて出会った時から一緒にいた、最高のパートナーだ。
 ジュプトルは、そんな俺達を一歩引いたところから眺めていた。

 未だ堂々と建つ石の遺跡は、半分地中に埋まっているようなものだった。所々壁は崩れ、土砂が雪崩れ込んでいる。
「わあ、見てよ……!」
 いくら世界を救いに来たとはいえ、探検隊なら興味を示さない訳がなかった。
 ロコンが広がる壁画に目を輝かせている。
「ミュウだよ、ミュウ!」
「こっちはカイオーガにグラードン……すげえ」
 圧倒された。古代の激闘を描いた壁画が、風化して色が落ちていても堂々とした存在感を放っていたからだ。
「ひと段落ついたら、また探検に来てみたいね」
 ロコンの一言。無理だと分かっていても、そうしたいものだ。

 不思議な事に、遺跡の中で迷う事は一切なかった。
 2匹は少なくともそう感じていただろう。後になって考えると、俺ももう少し迷えば良かったかもしれない。
 壁画の道を抜け、遺跡の外に出る。階段の頂上を、眩しそうに手をかざしながら見上げた。あそこに虹の石船があるんだ。
「こ、ここは……?」
 ここだ……。
「分からないが……多分、遺跡の神殿か何かじゃないかな」
 ロコンとジュプトルが周りを観察する中、俺は階段へと歩を進めた。2匹も訝しげに続く。
 頂上にのぼると、俺達は不思議な模様の上に立った。中央にくぼみがある。
「これだ」
 くぼみをなぞりながら呟く。
「分かるの?」
 俺の後ろからロコンが覗き込んだ。
「勘さ。けど分かる、これが虹の石船のスイッチなんだ。ロコンの持ってる遺跡の石をはめ込めば動き出す」
 ジュプトルに振り返ると、案の定驚いた顔をしている。何で知ってるんだ、そう言いたげだ。
 だけどな、説明してる暇はないんだ。
「けどその前に……やる事が」

――ピシャアァァゴロゴロゴロ……

 激しい閃光、轟く雷鳴。俺は『雷』を放った。ジュプトルの頬から数センチのところを、ピンポイントで。
「ウィィー!!」
 ちょうどジュプトルに飛びかかろうとしたヤミラミが雷に打たれ、階段を転げ落ちていった。
 やっぱりな!
「なっ……!?」
 驚愕する2匹をよそに、俺は次々と襲いくるヤミラミ達へと放電した。
 ここでヨノワールの待ち伏せにやられ、ジュプトルが犠牲になるのは既に経験済み。どこから襲いかかって来るか、タイミングはいつか、俺は全て知ってる。

 何故なら俺は、このシーンを10回経験したから。

 何度も繰り返し、巻き戻り、失敗を重ねるうちに俺は見つけ出した。ジュプトルと共に虹の石船に乗る為の、『攻略法』を。
 そう、俺達2匹だけじゃディアルガには勝てないんだ。だったら3匹で行くしか、世界を救う術は無い!
「うらぁぁぁぁ!!」
 最後のヤミラミを鋼と化した尾で叩き潰し、俺は息を整える。
 さーて、ここからは2匹にも参戦してもらわないと困る。俺はポカンとしている2匹に乾いた笑みを向いた。
「あ、あはは……説明すると長くなるんだ」
 2匹はため息をついて、俺の横を素通りした。
「当然キッチリ、」
「説明してね」
 俺の背後から襲いくるヨノワールを、2匹はリーフブレードで押し止め、火炎放射で押し返した。
 信頼する仲間を持てて、俺は幸せだよ。
「どうやって待ち伏せに気付いた!」
 怒り狂い、叫び散らすヨノワール。
 隙だらけだ。
「教えてやるぜ!」
 俺は『高速移動』を使い、ヨノワールの死角に入った。あとは簡単、奴の脳天に思い切り鋼の尻尾を……叩きつけた!
 階段を転げ落ちていくヨノワールを俺は背中で送った。
「……ちょっと未来、見てきた」

 時間を跳躍する能力を持ちながら、時間が無い、というのは皮肉な悩みだ。
 だから俺は道中――虹の石船に乗って時限の塔に向かいながら、2匹に全てを話した。
「……つまり私達、負けたの?」
 ロコンは何度目かの質問をした。俺の返す答えも変わらないというのに。
「あぁ。世界は救えなかった……でも、やり直すチャンスがあるんだ!」
「そのセレビィのような時渡りの力を授けたのは、一体誰だ?」
「それは俺にも……ただ、同じく世界を守ろうとしている誰かってのは確かだろ?」
 俺は、ジュプトルに訊ねた。
 言い切れなかった。
「……どうかな」
 ジュプトルにも、それは無理な相談だった。

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