赤き番人

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作者:雛菊
読了時間目安:4分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ────昔は何もない場所だった。しかしある日、とりポケモンが落とした種により芽生え、花が咲いた。
 蜜を集めに訪れるむしポケモン、またそれらを捕食せんとするとりポケモン、はたまた花の世話をするのが好きなくさポケモンなど、様々なポケモンの手により、多種に渡る彩りがなされた花園が産まれた。

 しかし、どうしても赤い色の花が誕生することはなかった。


 時を同じくして、ある施設から逃げ出した一匹のポケモンがいた。
 その名もゲノセクト。太古の時代に生きていたとされ、悪しき組織の手により化石から復元•改造を受け今の世に誕生した存在である。
 しかしながら、そのポケモンは通常の個体とは異なるものだった。
 燃えるような深紅、目にも止まらぬ神速、何より機械による支配が不可能であった。
 故に、誰もこの赤きゲノセクトを止めることが出来なかった。
 脱走したゲノセクトは安寧の地を求め、三日三晩飛び続けある一つの場所に辿り着いた。

 そこは沢山のポケモンが住み、無数の花の海が広がる楽園だった。

 初めは花の価値など分からず、踏みつけたり無益に摘んだりするゲノセクトだったが、他のポケモンと交流し、この場所にとって大事な物と知ると、進んで世話をするようになった。
 またゲノセクトは自らの力を争いに使おうとはしなかった。何より自身によってこの楽園が失われるのを嫌ったからだった。
 
 そんな平和な日々がずっとずっと続く────はずだった。


 ゲノセクトを産み出した組織が居場所を嗅ぎつけ、侵攻しに来たのだった。目的はゲノセクトの回収であった。
 悪しきトレーナーが繰り出すポケモンらは強力で、戦いに慣れてない花園のポケモン達は蹂躙され、地に伏し、無数の血が流れた。心無き者どもにより花も無惨にも踏み散らされ、平和の象徴であったはずの楽園は一瞬の内に崩壊した。

 その光景を見たゲノセクトは怒り狂い、自らの力をただ外敵を滅ぼすためだけに振るった。ポケモンだけにとどまらず、人間にも等しく平等に死を与えていった。
 このままでは瓦解すると戦慄した組織の連中は、ゲノセクトごとこの場所を消し去ろうとし、手持ちのポケモンや機械により燃やし尽くす手段に出た。
 だが、それでも怯まないゲノセクトは止まらず、自らの腕が潰れようとも殺戮を止めなかった。
 背中の砲台で無数の標的を撃ち抜き、炎をもろともせずこちらに歩を進めてくるゲノセクトを彼らは恐れた。
 その光景はまるで深紅の悪魔とでも言うべきか、炎の中で一際輝く赤は見るもの全てに恐怖を与えていった。

 戦いが終わり、全ての存在が無に帰した空間でゲノセクトの生命活動も限界に達していた。
 荒れ果てた楽園で一輪だけ残っていた花の前に立つと、そこを護るように立ち塞がり、そのまま目を閉じたのだった。

 雨が降り、炎が消え、沢山の存在が地に帰り、ゲノセクトは苔むしていったが、それでも深い赤色は衰えることはなかった。


 
  やがて、新しく咲いた花々は全て赤い色をしていたと言う────。


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