初投稿です。普段はpixivで同じ名前で活動しているのでよかったら遊びに来てください。
ツンデレとクーデレがいまいち区別ついてない気がするが、阿波連さんもこんなもんだろ。大丈夫大丈夫。みんなわっかんねえ。
朝、鳥ポケモンの鳴き声が聞こえてくる時間帯。彼らは朝日と共に会話するようにざわめきだす。
部屋にはグレイシアとブラッキーが川の字(一本足りない)に並んで眠っていた。いつも先に起きるのはグレイシアの方。
グレイシア「……ふああ。……ブラッキー朝だよ?」
まだ眠い、とうめき声と寝息を同時に立てているのは彼氏のブラッキー。仕事はあるというのにいつも起きるのが遅い。そんな彼を、グレイシアはあきれながら起こす。
グレイシア「遅刻しちゃうよぉ……?」
眠いと言うなりグレイシアにかかっていた布団まで転がって巻き取ってしまう。体をくるみ終えるとミノムッチ状態でまた寝息を立てる。ミノムッチというよりはチョココロネだろうか。黒いし。
グレイシア「……王子様は私のキスで起きるのらぁ……」
彼女もまた目覚めが悪い方で、特に起きたばかりは頭がファンシーになる。
呼吸のためだけに出されたブラッキーの顔に、寝起きの狙いの定まらないキスが放たれた。
今日は無事に唇へと。
ブラッキー「……おはよ」
グレイシア「おはよぉ……」
ブラッキーの方は起きるのは遅いが、起きたら頭もちゃんと起きている。
その秘訣は彼女のキスにある。
普段はすました表情、言動をし、職場などではかっこいいなどと持て囃される彼。しかし彼はいわゆる「クーデレ」であった。
今日の朝もグレイシアのキスを受けられたことを内心喜んではいるが、いつものことと一般化を図り平静を装う。しかし嬉しい彼はたまに行動に出る。
ブラッキー「……お姫様はまだおねむか?」
カーテンの閉まった薄暗い部屋でもきちんとキスできるのは彼が元々夜行性で、それに適した目をしているからだろう。
彼女の方もブラッキーのキスで頭までばっちり目覚める。そしてようやく自分のしたこととされたことに気づく。
グレイシア「……!! 何をっ……勝手に……」
ブラッキー「何って……『デレ』ただけだが? それともそっちの番か?」
グレイシア「むぅー……!」
おやおや、今日は彼女の負けのようで。
そう。
グレイシア。彼女は普段は自分の思っていることとは逆の発言をし、言葉の縫い間、それはボタンを縫い付ける一本の糸のように本音を隠していく。彼女もまた「ツンデレ」であった。
「ツンデレ」と「クーデレ」というめんどくさいカップルのお話である……。
「とりあえずご飯食べよっか」
「うーん……」
彼女が布団から出ようとするなり、ブラッキーはその足にしがみついた。
「まだ寝るつもり? 早く起きなさい」
「うん……お母さん……」
「だ、誰がお母さんよっ! まだ結婚してないし子供もいないしっ!」
「むにゃ……結婚ならいつでもいいぞ」
「ばっ……// わ、私は別に、モテるし……」
「(なんでその話に飛躍するんだろ……)」
そんなこと考えながらようやく起き上がったブラッキーはグレイシアと共に朝食の支度を始める。
冷蔵庫から昨日の残り物を取り出し、できたてほかほかのご飯の湯気を浴びながら茶碗に盛る。
その間グレイシアはお弁当にも入れるための鮭のムニエル作り始める。バターと粗挽き胡椒の香りが漂ってくるのが一番の楽しみで、その味も想像する。
ブラッキーはすることがないので隣でコーヒーを淹れ始める。豆から挽くのが彼なりのこだわり。
出来次第食卓に二人、向き合って座る。
「いただきます」
「いただきます!」
左手にはコーヒー、右手には箸。
いつも通りに並べられたご飯たちに食いつくのだ。
「ブラッキー、今日はどれくらいで帰ってくる?」
「……遅くなるかもな」
「ふーん……? そう……」
涼しく対応するがその尻尾は無意識に揺れている。
ブラッキーは眼福とばかりに顔をつい綻ばせてしまう。
「何? そんなニヤニヤして。気持ち悪いわよ?」
「ふん。あいにくこの顔で生まれたんだからな」
「その薄気味悪い笑顔がデフォルトだったら怖いわよ……」
「さて、ごちそうさまだ。そろそろ行ってくる」
「お弁当忘れずにね。行ってらっしゃい」
「ん」
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ブラッキーの働く会社のオフィス。今日も騒がしく、せわしなく働いている。
ガラス貼りのビル、太陽の光も刺すように入ることなく、かといって暗すぎない時間帯に入ろうとしていた。
リーフィア後輩「ブラッキー先輩! これお願いできますか?」
ブラッキー「……ああ」
リーフィア後輩「毎回すみません……。こういうのは苦手で……」
ブラッキー「……気にする必要はない。見て覚えて、段々できるようになればいい」
会社ではブラッキーは常に頼られている。彼はどちらかといえば対人は不器用で口数が少ない方だったが、彼の実力を知る者にはそれほど問題のないことだった。クールに仕事をこなし、後輩からも上司からも信頼の厚い彼は常に憧れと嫉妬の対象であった。
無論、そんな彼を狙う者も多いわけで……。
エーフィ「あの……ブラッキー先輩……」
ブラッキー「……どうした?」
エーフィ「そ、その……。よければお昼を一緒に……」
ブラッキー「ああ、だい……」
彼が了承する瞬間、他の後輩も……。
シャワーズ「ぶらっきー先輩っ! かわいい私とご飯に行きませんかっ!?」
ブースター「いえ私の手料理を一緒に! ついでに聞きたいことが……」
……ゆえにいいオスは困るのだ。
シャワーズ「私とっ!」
ブースター「いえ私が……」
エーフィ「……シュン」
ブラッキー「……悪い。今日はエーフィと行ってくる」
エーフィ「……!?」
ブラッキー「その……先約だし、お前から誘ってくれたの、初めてだしな……//」
リーフィア後輩「(先輩やっぱイケメンっす)」
ブラッキー「ブースター、分からないところはあとで指南するから」
ブースター「……はい」
エーフィ「あ、あのっ……。ブラッキー先輩……!」
ブラッキー「……また後でな」
エーフィ「……~っ!」ピョン!
彼の後輩たちが去っていくなか、ただエーフィだけは喜びのあまり尻尾を揺らして跳ねていた。廊下でスキップしそうになり千鳥足になった彼女に異変を覚える者も多かったが、彼女自身は気にしてないので問題ないだろ……。多分。
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一方そのころ、ツンデレグレイシアさん。
彼女の普段の仕事はブラッキーの尾行……などではない。まだ駆け出しの女優さんだ。普段のこの時間なら彼女の仕事があるが、今日は珍しくお休みのため街に買い物に出ていた。
グレイシア「……コーヒーでも飲もうかしら。そのあとはお買い物しなくちゃ……」
いつものコーヒーショップでお気に入りのエスプレッソを注文し、ブラックの絶妙な苦味に白い吐息をすると、その奥によく見た顔が小さく確認できた。ブラッキーだった。
グレイシア「ふぶっ……。ごほっ……。なんでここに……」
しかもよく見るとその隣にはメスのエーフィがいるではないか。
グレイシア「えっ……。なんで……?」
しかも普段、自分には見せてくれない心地よい笑みをエーフィに向かって浮かべているではないか。
他から見れば営業スマイルのそれであったが、激しく動揺しているグレイシアにはそんなことは関係ない。
グレイシア「……そんなはずは」
彼女の副業が始まった。
エーフィ「ブラッキー先輩は何が好きなんです?」
何とでも取れる質問。流れ的には食べ物の話なのだろうが、そうでないとも言える。
けれど彼は絶対に恋人の話はしない。一応会社のなかでは秘密にしているらしい。
ブラッキー「マトマの実……かな?」
エーフィ「そうなんですか? 私も好きなんです!」
エーフィは身体をぐいと近づけた。
ブラッキーは反応しがたそうにしている。
ブラッキー「なあ……近づくのやめてくれ」
エーフィ「あ……失礼しました……」
ブラッキー「俺も……恥ずかしいからな」カアァ
クーデレキャラは外でも通すつもりのようです。
エーフィ「あそこのお店に入りましょう」
ブラッキー「ああ……」
エーフィはメモ帳片手に、そちらとブラッキーを交互に見ながら歩いている。若干早足なエーフィに置いていかれそうになりながらブラッキーもそれについていった。
そして50mほど離れたところから、色付き眼鏡とマフラーと帽子をしたちょっと怪しい子……。変装したグレイシアがついてきていた。
氷タイプの彼女にはいらぬ防寒具たちだが、なぜ持っているかは想像にお任せしよう。
大通りから少し離れた路地。と言っても風情ある中世ヨーロッパのような石畳のきちんと整備された道。ランプの下には重厚感のある木製の扉。そこを開くと店員のランプラーが客を出迎えた。
ランプラー「いらっしゃいませ。カウンターとテーブル、どちらがよろしいですか?」
エーフィ「えと、カウンターで……」
ランプラー「承知いたしました。こちらへどうぞ」
幾らかの客がカウンターとテーブルをぼちぼちと占めるなか、二匹はとなり合って座った。
天井にはおしゃれな店によくあるファン、吊り下げ式のランプたちが仄かに天井とポケモンたちを照らし、闇をも作り出す。
ブラッキーがメニューを手に取ると、端正な文字と写真ではなく、いや写実的なイラストが目に飛び込んできた。マトマの実パスタや、オボンの実パスタ。コース料理もある。
彼がメニューをまじまじと見つめている間、エーフィはまたメモ帳を漁っていた。
エーフィ「(気に入ってくれたかな……。センス悪いとか思われてないかな……?)」
ブラッキー「(なにしてんのか暗くてよく見えん)」
「なあ、何してるんだ?」グイ
エーフィ「ひゃ!ぶ、ブラッキー先輩!?」
グレイシア「ちょっとブラッキー!?」
店の大きな窓からブラッキーを観察していたグレイシアは、突然の急接近に驚きつい声を荒げて立ち上がってしまった。
彼女自身も邪魔しちゃ悪いのは分かってる。仕事の付き合いかも知れないし、また彼の旧友なのかもしれないのだから。とはいえ驚くのは当然だろう。
ランプラー「……そこのグレイシアさん? 誰かお探しですか?」
グレイシア「えっ!? いえ違うんですお構い無く……」
ランプラー「そうですか……」
その場を発ち、また店員のランプラーの警戒も解けたところでまた定位置に。
エーフィ「な、なんでもありませんよ……!」
ブラッキー「そうか……?」
エーフィ「(自分から近づくのはいいんだ……)」
ブラッキー「……注文は?」
エーフィ「私はいつもの、と言えば伝わるので……」
ブラッキー「(常連だったか)」
「じゃあマトマの実パスタで……」
彼が注文しようとマスターを呼ぶと、優雅な動きで、しかし一瞬で奥の方からマスターと呼ばれたコジョンドが現れた。
コジョンド「うちがマスターやで! ご注文はぁ!?」
エーフィ「いつもので……」
ブラッキー「(これがマスターか……)」
「マトマの実パスタ」
コジョンド「あいよぉ! ところでエーフィちゃん、このイケメンさんは彼氏かいな?」
エーフィ「違います違います! えと、その、なんて言うか……」
ブラッキー「ぐぶっ……。いやただの後輩で……」
エーフィ「……」
おどけるエーフィとブラッキーを見て、何を察したのかコジョンドは妖しい笑みを浮かべた。
ランプラー「(悪巧みしとる)」
コジョンド「ふーん? ほなら、作ってくるからちょっと待ってな~」
そう言い残すとコジョンドは摺り足のような、また優雅な足取りでカウンターの奥へと消えていった。
エーフィ「ごめんなさいブラッキー先輩、本当はいいポケモンなので……」
ブラッキー「あ、ああ大丈夫だ、気にしてない」
するとブラッキーはおもむろにカバンから箱を取り出し始めた。
エーフィ「ブラッキー先輩? それは?」
ブラッキー「ん? 弁当」
グレイシア「あ、あの阿呆~! レストランで注文しといて、その上弁当食うやつがあるか!」
まだ窓から一連の動きを観察していたグレイシアは、自分の作った弁当を食べようとするブラッキーに対して複雑な感情を抱きながら震えていた。感情のあまり、無意識に放たれた冷気により窓に氷が張り始めた。
ランプラー「あの……大丈夫ですか?」
グレイシア「私もっ! パスタ食べる!」
すべてを察したランプラーはブラッキーたちにとって死角となるテーブル席に案内してくれた……。
エーフィ「ところでそのお弁当は誰が作ったのですか?」
ブラッキー「ああ……、自分で作った」
グレイシア「嘘ついたっ」
正確には半分嘘だ。ブラッキーも料理をするので、そのおかずが弁当にも入っているのだからあながち嘘ではない。もちろんグレイシアが作ったのも入っている。しかも弁当を詰めたのはグレイシアだ。
え? なんで嘘ついたかって?
そういうやつだ。
エーフィ「先輩はすごいですね。お料理もできるなんて……」
ブラッキー「作らないのか?」
エーフィ「私、こう見えて不器用なので……。私なんかとつき合ってくれるポケモンなんていませんし……」
ブラッキー「……エーフィ。お前はお前自身をそんなに卑下する必要はない。自分に自身がなくてもいい。けれど、そんなこと言ったって変えられるものも変えられなくなるぞ」
エーフィ「……でも、私、仕事でもミスばっかりですし、落ち込みやすいですし、それに……」
エーフィは暗がりからメモ帳を出した。
エーフィ「実は、ずっと誘うつもりだったんです。そのために準備もしてましたし、どんなこと言えばいいか考えてましたし、その……」
ブラッキー「無理するな。お前のいいところはそこにもう表れている。いくらミスしたって、できるようになればいい。落ち込める、ってことは、それだけその問題に向き合えているってことだ。仕事の合間を縫ってそういう準備ができるのはいいことだ。だから……な?」
エーフィ「……先輩っ……!」
お弁当を周囲を気にすることなく頬張り続けるブラッキーに、けれどエーフィは感動してしまった。
グレイシア「…………」
一方、グレイシアは朝のブラッキーとの会話を思い出していた。自分が「モテる」と言ったのはブラッキーにあわててほしかったからだ。彼の周章狼狽する様子を見てみたかったから。
けれどそんなものも今目の前で打ち砕かれた。彼はいいポケモンだ。それゆえ彼を狙う者も……。
自分が彼と一緒にいられるのは、何の因果なのかと思うようになってしまった。
エーフィ「先輩は……その、か、彼女さんとか……」
その時、そんな想いと声を打ち破ってコジョンドがパスタを持ってきた!
コジョンド「おまちどおさま! たんと召し上がり!」
ドカッと置かれた二匹のパスタの上にはなんとハート型にソースをかけられ、デコられまくったパスタが!
ブラッキーは驚き、食べかけのおかずを少し床にこぼしてしまった。
エーフィはそのおかずの異常さに気づいた。
エーフィ「え!? こ、これは……!?」
ブラッキー「……イラストと大分違うが」
グレイシア「うそっ!?もうそんな関係だったの!? じゃあ私は……」コゴエ
コジョンド「上司と部下のあっつうぃ恋、応援しとるで!」
エーフィ「……違いますって!」
ブラッキー「あ、あくまで先輩と後輩でだな……」
コジョンド「ほな、ごゆっくり~」
そうしてまたも優雅に去っていくコジョンド。他の客の注文を取りに行った。
これには問題ないだろう。取りに行った先がグレイシアでなければ。
コジョンド「お嬢さんご注文は?」
グレイシア「ぶふっ……。ちょっと空気を……」
コジョンド「う~ん?」
勘が悪そうにブラッキーの背中を見ると、彼は少し狼狽えている。
コジョンドは常連のエーフィのことはよく知っている。あんないいメスは他にいないと思っていた。……コジョンドと同じくらい。
それを前にして狼狽える理由……。そして目の前のグレイシア……。ランプラーに次ぎ、すべて察した。
コジョンドは注文を聞くことなく、ただ手でグッドをつくりグレイシアの前から去っていった。
ブラッキー「……エーフィ。さっき何か言いかけたか?」
エーフィ「え!? えと……」
ブラッキーは食べ終えた弁当を片付け、その箱をしまっている最中だった。
ブラッキー自身は気づいていなかったが、彼の弁当のおかずにはハート型のおかずがあったことにエーフィは気づいていた。
彼女が驚きのあまり上げた声は、実はパスタにではなく彼のお弁当のおかずに対して。
自分でハート型のおかずを入れる者はそう多くないだろう。異常なこだわりがない限り、恥ずかしくて入れられないはずだ。
けれどそれが入っていた。ただその事実と憶測を目の前にして、質問の続きを言えるわけがなかった。
彼が弁当を仕舞い終え、顔を上げるとエーフィが隣で小さくなり涙を落としていることに気づいた。
ブラッキー「ど、どうしたエーフィ!? 何があった!?」
エーフィ「違うんです……。けど、けど……!」
望みがないことは、これを言ってもないと分かっていた。
エーフィ「私は、先輩の、後輩以上になれませんか……?」
鈍感なブラッキーでも、すぐに言葉の意味を理解できた。そしてようやっと気づいた。聞きたかったことも、泣いている理由も。
数分前の自分の言葉を思い出す。彼女のことを思えば、「ただの後輩」という言葉はどう聞こえるだろうか。
適当な返答をどうしても見つけられず、自分は悪役を買うしかないと思ったブラッキーだった。
ブラッキー「……俺の言ったこと、できるようになればいいかな」
……彼とて、エーフィの言葉の意味を理解していないわけではない。
涙ぐむエーフィを横目にしながら、ブラッキーは湯気を立てるハート型のソースのかかったパスタを頬張ることしかできなかった……。
エーフィ「マスターが突っ込んでこなきゃ気づかなかったかもなのに……」
コジョンド「……エーフィちゃん。それはすまんな。けど、エーフィちゃん本当は勢いで言いそうになったこと、後悔しとるやろ? 本当は期待しとったんちゃうの?」
エーフィ「!? そ、それは……」
コジョンド「あんさんはそういうことよくあった、ってうちに話しとったやろ。それにランプラーから聞いてしもうて……。うちは、どないしたらよかったんか……」
エーフィ「……マスター、ごめんなさい。でも、ありがとう」
コジョンド「……ん。どういたしまして」
エーフィの恋は叶わなかったが、ブラッキーの恋にも危機が訪れていた。
ついてきてしまったばかりに、何も解決していないグレイシア。どうしたものか……。
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なんとかバレずに帰ることのできたグレイシア。けれど彼女はたった今、一種の放心状態にあった。
はたから見ればよく分からない状況の前に、しかし突っ込んでいくことは許されない。どうすればいいねん。ほんま。
自身がブラッキーに対し、その愛情を疑ってしまった。そうなった以上、これを解決しなければわだかまりが残り続け、次第に亀裂が深くなることだろう。
こうなるのも当たり前。彼の性分を分かっているとはいえ、自分にさえ見せてくれない眩しい笑顔を、知らないメスに向けられていたらどう思うだろう。
少なくとも、グレイシアの心穏やかではなかった。
だがさすがは拗らせカップル。彼女は自分自身で確かめるよりも良い方法を思いついた。
グレイシア「……言わせなくちゃ、面白くないもの……ね?」
買ってきた食材を使い、料理を始めた。
ついていってしまった彼への「贖罪」をかけて。
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ブラッキー「ただいま」
グレイシア「おかえりなさいっ!」
彼の帰りは普通の社会人よりは遅い方であろう。なぜかって? それは……ね?
グレイシア「ご飯、もうできてるわよ」
ブラッキー「……今日も待ってたのか」
グレイシア「だって……寂しいじゃない……//」
晩ごはんは彼女のこだわりですべて手料理である。インスタントや冷凍食品は「添加物の味」だそうだ。
ブラッキーもまたそのことには感謝してはいるのだがおいしいとは絶対に言わない、だが本音は出そうになる。
「いただきます」
その声と共に箸をつけ始める。
グレイシア「どお? おいしい?」
ブラッキー「うん」
グレイシア「どれがおいしい?」
ブラッキー「うん」
グレイシア「全部おいしいと」
ブラッキー「……」
グレイシア「」ヤパイワセナキャオモシロクナイナー。
反応こそしないが美味しさで震えそうになった尻尾を一生懸命ブラッキーはこらえているのをグレイシアは知っていた。その仕草だけで顔がにやけていくのもブラッキーは知っていた。
お互いにこのことに気づいていないめんどくせぇやつらである。
だが本番はこれからだ。彼女が弄する策とは。
今日はたまたま彼女が出ているドラマの放送日。おあつらえ向けに主人公とのキスシーンがある回だった。実は合成だけど。出来はいいので問題なかろう。
さりげなくチャンネルをそのドラマが放送される局に設定しているので、準備は万端である。
グレイシア「ねえ……。私のこと、好きでいてくれる?」
ブラッキー「……?」
性格悪いなおい。
二匹が見ているテレビには、グレイシアが映り始めていた。
彼の反応を確認しようと隣をちらと見ると、いや凛々しいくらい真顔ではないか。
グレイシア「ちょっ……どんな顔で見てるのよ!」
そうして画面の中のグレイシアは主人公のサンダースとキスした。安心しろ、合成だ。
ブラッキー「……なあ、これ合成だろ?」
グレイシア「ぐっ……!? ごほっ……」
ブラッキー「だってお前、キスするときは片目だけ閉じるクセがあるからな」
グレイシア「えっ……」
慌ててテレビを見る。けれど当然、そのシーンは終わり次のカットへと進んでいた。
グレイシア「……~っ! あ、あんたキスするとき目を開けたまましてるわけ!?」
ブラッキー「お前だって開けてるだろ。それに……」
グレイシア「……それに……?」
ブラッキー「べ、別にキスシーンぐらい撮っていいんだからなっ……!」
グレイシア「な、何よそれ! なんか、なんと言うか……。もうちょっとなんかないわけ!?」
ブラッキー「うるせえな……。別に、お前が誰とキスしてようと俺はお前が好きだから……//」
グレイシア「……最後まで言いなさい!」
ブラッキー「絶対言ってやらね」
グレイシア「むぅ~……」
ふててやる気も削がれ、なんとなくこのドラマをながし続けるのも気に食わずチャンネルを変えた。
ニュース番組、音楽番組、バラエティー番組へと変わっていく。バラエティーが出てきたところで動かすのをやめた。気が紛れそうだから。
今は街中で暇そうな人にインタビューする企画をやっていた。内容は「好みの子は?」という質問。昼食行き、または帰り。学生、仕事中の人まで敏腕であることがうかがえるリポーターがアタックしている。
なんともなしに眺めていると、VTRの画面が切り替わったところでよく見た顔が出てきた。ブラッキーだ。
ブラッキー「やば」
ブラッキーはすぐにリモコンを手に取ろうとした。
グレイシア「させない! つららばり!」
あとちょっと、数センチのところでつららばりの壁がリモコンを囲った。そんなことはお構いなしにテレビの画面は進んでいく。
ブラッキー「サイコキネシス!」
囲まれた氷の壁から出る方法は唯一。空いた天井のみ。リモコンはフワッと浮き上がり瞬く間にブラッキーの手の中に。
ボタンを押そうとする手を弾くように弾丸がとんだ。
グレイシア「こおりのつぶて!」
ブラッキー「いたっ」
ブラッキーの手から飛び出したリモコンをキャッチし、すぐに録画ボタンを押した。
ブラッキー「ああ……。やめてくれ……」
グレイシア「何がダメなのかなぁ~?」
テレビは無慈悲に流れる。
リポーター『そこのブラッキーさん! こういう番組で、好みの子について聞いてるのですが、お話よろし……』
ブラッキー『彼女以外ありえません』
ブラッキー「ぐはぁっ……」
グレイシア「ふぶっ……」
リポーター『特徴をお聞きしても?』
ブラッキー『朝起こしてくれるときキスで起こしてくれるんです。その時やり返すと死ぬほどかわいいです。基本ツンデレなんですが攻められると弱いです。でも攻められるのも悪くないんです』メチャハヤクチ
リポーター『あの……性癖が……』
『彼女はかわいくて、かわいくて、かわいいですね』ハヤアシサンダースナミ!
『頭がよくて、仕事もできて、ちっちゃくてかわいいです』レジエレキゴエ!
『あと飯を作ってもらいますがすべて旨いです。毎日食べたいです。どれだけ旨いものを食べても彼女の料理と見分けがつく自信があります』ヒカリノハヤサ!
『家に早く帰ると素っ気ないですが遅く帰るとツンデレ口調で心配してくれるので最高です。そのために毎日遅く帰ってもいいくらいです』スバヤサガサラニロクダンカイアガッタ!
リポーター『ちょ……早口が過ぎるようで……』
『あとたまに俺が料理をしますがその時の反応は天に昇れます。あれだけで米を一升はいけますね』
『彼女はお酒を飲む前は強がるくせに、いざ飲むと数杯で潰れちゃいます。その時のテンションが寝起きと同じレベルでかわいいです』
『あとお酒飲んだあとの彼女がかわいいのでそのまま夜のバトルを……』
リポーター『CMです!! ありがとうございました!』
『まだ終わってな』
いきなり切り替わった画面には通信販売の長めのCMが出てきた。
グレイシア「あはははは!! 私のことこんな早口で語れるんだww」
ブラッキー「もう……やめてくれ……」
グレイシア「これ全国だよね? なんでこんな熱く語っちゃうのww?」
ブラッキー「つい…………」
グレイシア「笑いすぎて死にそうww」
ブラッキー「……」
グレイシア「?」
ブラッキーは黙りこくって下を向いたかと思うと、いつもの鋭い眼光から彼女を口説く甘い目付きに変わった!
グレイシア「ちょ……何よっ……」
ブラッキーはもう吹っ切れたようだ!
ブラッキー「ああそうだよ! お前がかわいくてたまんねえよ! この飯も全部旨いし、ツンデレて言ってるくせにたまに出てるところも大好きだよ!」
グレイシア「なっ……。そう言って強がる私を崩すつもりでしょ!」
ブラッキー「ああそうさ! どんなときでもお前が一番かわいいさ! 弱ってるお前もなあ!」
グレイシア「……~っ//!! 何よこんな時ばっかり……!」
ブラッキー「うるさいな……。こういう時じゃなきゃ言えないだろ!」ドンッ
グレイシア「きゃ」
ブラッキー「あ……わり……」
グレイシア「……何? こうやって押し倒して、全部勢いに任せるつもりなの? それは最低よ?」ジー
ブラッキー「手順は踏むよ……」ヒョイ
グレイシア「でも……」
ブラッキー「なんだ?」
グレイシア「たっ……たまには……いいかな……?」
ブラッキー「っ……」ヤパカワイーナ
グレイシア「(あとで録画したやつUSBメモリとパソコンに入れなきゃ……)」
以降弱味を握られるようになったブラッキーと、勢いに任せてくれないかとちょっと期待するグレイシアであった。
おしまい
pixivの方ではシリーズも投稿しています。
気に入っていただけましたらそちらもよろしくです!