Episode 113 -Disastrous frontline-

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 大きさ50mの巨人のような特大レギオンを相手に戦うハリマロンのえっこたち。それぞれの力を結集して、この規格外の敵に立ち向かう彼らの運命やいかに……?
 「そうか……分かった。負傷者4名は無理をさせずに安静にしておいてくれ。……いや、お前たちは立派に頑張った。後は俺たちが奴をぶちのめす、だから心配すんな!! オーバー。」
「敵はえっこ君たちの攻撃で右脚を、ローゼン君とツォン君の攻撃で胸をそれぞれ負傷してる……。ダメージは着実に通ってるはず!!」

トレはケロマツえっこたちと通信で言葉を交わし、必ず自分たちがやり遂げると心に誓った。カイネは敵に与えたダメージを確認し、有効な手立てを探るべく頭をフル回転させていた。そんな一行の元に、何者かの影が現れた。


「何者だ!? ……って何でガキがこんなとこに?」
「アンタ、どうしてこんなとこに来てんだい!? 早く避難所に戻りな、これから奴がここに来るんだ、マジに死んじまう!!」

「だからこそなのです……。ボクは……そしてシュメオンは、みんなと共にこのアークを守るって約束しました。だから、だからボクの力を使って欲しい……!!」

ネロが振り向いた先には、セレーネが魔杖を抱えて立っていた。ルーチェは慌てて避難所に戻るように説得するが、セレーネは険しい顔付きで一同にそう訴えかけた。その身体は小刻みに震えている。


「…………分かった、好きにするこったな。」
「ちょっとトレはん、アンタ何を言って……!?」

「セレーネは勇気を持って俺たちと共に戦うと誓ってくれた。シュメオン共々、ローレルちゃんやえっこの野郎を守るために全力を尽くしたいと答えてくれた。俺はその思いを尊重したい。」
「ありがとうなのです、トレお兄ちゃん……!! ボクは、そしてシュメオンは……ここにアークを守るための剣となることを願う!! 現われろ、『ガリレイ』!!!!」

セレーネの小さな身体に広がった赤いヘラルジックは、膨大な魔力となって展開され、ここに1体のレギオンとなって発現された。様々なペン先が随所から飛び出た石版のような形のレギオンは、緑・赤・茶・黃・青・白・黒の7つの発光球体を周囲に旋回させている。


「これはっ……!! まさか全ての属性の魔法を使いこなすタイプのレギオン!?」
「しかもかなりの高レベルだろうな……。コイツは頼もしい味方ができたもんだぜ、こうなればやることは1つ、まずはダメージが大きい右脚を徹底的に攻撃して破壊する!! 敵の移動手段を断つか、最低でも弱体化させることを目標とする!! さあ、作戦開始だ!!」

レギオンに変化したセレーネの姿を目の当たりにして驚愕するニア。一方、えっこは敵の右脚を中心に脚部を集中攻撃し、移動手段を奪うことを提案した。その目の前には、既に敵の巨体が差し迫っている。








 「いいこと考えたぜ、アンタ、細かい氷の礫をたくさん出してくれるか!?」
「お安い御用や、それっ!!」

「サンキューな!! コイツでどうだ、『スカイアッパー』!!!!」

ミササギが空中に生成した10cm程の無数の氷の礫を、ネロが渾身のスカイアッパーで弾き飛ばす。さながら特大のショットガンの弾のように高速で弾き飛ばされた氷の礫は、敵の右脚に深々と突き刺さって幾筋もの赤い体液を流させた。


「まだ止まらないって訳ね……。でも内側からならどうかな? えっこ、あのときの魔法!! あれでルーチェちゃんの爆弾を停止させて!!」
「なるほどな、悪くない案だ!! 『サブシスト』!!!!」

「対大型兵器用の特注パルスボムだ、衝撃波で対象を打ち砕く!! カイネさん、お願いね!!」
「任せといて!! 『ニトロチャージ』!!」

カイネはえっこに指示を出し、対象の時間を止める魔法を発動させた。この効果で、ルーチェのコートオブアームズに仕込んだ直径20cmの特殊爆弾を一時停止し、爆弾を持ったカイネは敵の右すねに突撃していった。時間が止められていることで、カイネのニトロチャージの炎でも爆弾は起爆しない。


「よしっ、脚の内部に爆弾を差し込んだっ……!! 私が離れたら魔法を解除して起爆して!!」
「よしっ、離れたな!! 今だルーチェ君、魔法を解除!!」

次の瞬間、金属がへし折れるような鈍くて重い音が、一同の身体の奥底にまで振動して伝わってきた。ルーチェの爆弾は高速振動による衝撃波で敵の装甲を破壊する爆弾であり、その威力は戦車をも貫くという。

しかしそんな一撃を受けたにも関わらず、敵は全く歩みを止めない。ただし大きなダメージは与えられたようであり、右脚の肉と骨の一部が抉れて剥き出しになっていた。


「このクソ野郎っ、身体の芯から黒焦げにしてやるぜ!!」
「トレ君、援護するよ!! 食らえーっ!!!!」

トレは旧市街に建てられた電柱を倒壊させ、体当たりで敵の右脚に突き刺した。ニアも応えるように電柱をレーザーで破壊し、ミサイルの爆風で敵の左脚に突き刺す。その直後、敵の全身が小刻みに痙攣して歩行をやめた。


「やるじゃんトレ君、鉄筋が通った電柱を電極代わりにして、敵の身体に電線の電気を流し込んだって訳ね……!!」
「これで肉も骨も心臓も感電して黒焦げだろうぜ、さっさとくたばりやがれ!!」

ところが敵は感電した状況でも体を捩って暴れ、遂には足に突き刺さった電柱を身体から引き剥がした。そのまま勢い余って後ろに倒れ込んだ風圧で、ニアとトレが吹き飛ばされてしまった。


「ニア!! トレ君!!」
「こうなったら、ボクがやるしかないのです……!! 全身の魔力を集中するのです……。『メリオ・フルクトゥス』、『メテオフレア』!!!!」

レギオンの強大な魔力を解放したセレーネは魔法を放った。次の瞬間、どこからともなく10m程の巨大な津波が現れた。10mといえどその勢いは絶大で、起き上がろうとしたところで足を取られてしまった敵は、その場に一瞬でひっくり返った。

続けざまにもう1つの魔法が襲いかかる。空に立ち込める暗雲にぽっかり穴が開いたかと思うと、そこから隕石が炎を上げて落下し、転倒している敵の右脚に命中して大爆発を起こした。災害のような破壊力を見せるセレーネのレギオンの魔法に、一同は衝撃を受けて固まっていた。


「これは間違いなくレベル8や9の最高ランクの魔法……!! しかも術者の魔力が強大なために、桁違いの威力を叩き出している!! もしかしたらこれなら……!!」
「ぎぇっ!? 何だよあの気持ち悪い姿……。あれってもしかして、手が足になってるのか……!?」

えっこの祈りも虚しく、敵はこれだけの攻撃を受けてなお立ち上がっていた。ネロの見つめるその姿は異様なものとなっており、今まで手だった部分で逆立ちでもするように歩き、今まで股だった辺りに顔が移動していた。

どうやら先程の一撃で右脚全体と左脚の膝から下が消し飛んだらしく、手を使ったこの動き方に切り替えたようだ。


「まずい……手で移動してもさっきとスピードは変わらない……!! 手を破壊して動きを止めないと……!!」
「待てっ、カイネやめるんだ……!! あの腕を念力で食い止めようなどと……!!」

「ぐぅっ……あぐっ…………!! きゃぁぁぁっ!!!!」

カイネは枝の杖で敵の手に念力をかけ、捻り折ろうと試みる。しかしカイネの念力をもってしても、敵の腕の硬さとパワーには敵わなかったらしい。杖の先に付いた宝石が粉々になり、カイネは逆流した念力で弾き飛ばされてしまった。


「ヤバいっ、あんな念力を逆流されたら身体が……!! 間に合ってくれよ!!」
「よしっ、何とかカイネさんは回収できたぜ!! セレーネ、もう一発かましてやれ!!」

「『コスモバスター』!!!!」
「ならば私も……『コスモバスター』!!」

ルーチェとネロが必死のバックアップを行ったことで、カイネは敵の魔の手から逃れることができた。セレーネは再度強力な魔法を詠唱し、宇宙の闇エネルギーを凝縮して弾丸の如く撃ち出した。

同じ黒魔法だけにえっこも使用できるらしく、2つの闇の弾丸が敵の胴体目掛けて飛んでいった。今度こそ敵の動きを止められる、誰もがそのように直感したそのときだった。敵の胴体のすぐ前に暗黒の弾が形成され、バチバチと電撃のような音を立てている。


「おいっ、まさかあの弾って……!!」
「えっこさん、セレーネちゃん!! 早く逃げてっ!! レギオンの身体はもうダメ、だからアンタだけでも!!!!」

「ちょっとでもこれで時間をっ……!!!!」

その直後、敵の元から先程と全く同じ闇エネルギーの弾が放たれた。ミササギが巨大な氷塊を敵の弾にぶつけてスピードを殺した甲斐もあり、一瞬の判断でレギオンから抜け出たセレーネと、ハリマロンえっことがその着弾点から命からがら脱出した。


「助かったよ、ミササギ君……。しかし何てことだ……まさか魔法攻撃を吸収し、自分のものとして使用できるようになるというのか!? ならばこれ以上の攻撃は危険か……。仕方あるまい、我々も一時撤退だ!!」

結局、彼らもこの場から撤退するしか選択肢はなくなってしまった。カイネとトレとニアが負傷し、セレーネとハリマロンえっこが大きく気力を使い果たした状況では、これ以上の抵抗は絶望的だろう。









 「分かったわ、敵に対して魔法を直接撃ち込むのはご法度ってことね? ……ええ、敵は間違いなくホイールに向かってる。だとしたら奴の狙いは……!!」
「このホイールには、アークの心臓が眠ってる……。あの世界石を壊されたら……この島はもうおしまいだ……!!」

ハリマロンえっこからの通信で状況を収集するメイ。敵はホイールの方面へと歩みを進めており、ユーグの一言にもあるように、ホイール最深部の世界石を破壊されるとアークは動力を断たれ、壊滅へと追いやられてしまう。


「万が一にも……あってはならねぇことだが、ホイールを守りきれなかったら究極にマズい!! 住民には直ちにエレベータによる地上への緊急避難を呼びかける!! 頼む……絶対に持ち堪えてくれ……!!!!」
「もちろんですとも、ワタシたちが必ず食い止めねば……!! ゼノ君、そちらのことは任せましたよ、オーバー!!」

デンリュウが通信を切り、東の方角を見つめる。アーク新市街地区に構えた最終防衛ラインチームは、絶対に敵を侵攻させまいと誰もが心に固い決意を抱いていた。東に立ち込める暗い雲から雨の雫がポタポタと落ち始めたそのとき、敵の巨体が一同の前に姿を現した。


「マーク、例の作戦を頼んだわよ!! 『スティールスピア』!!」
「任せときな、ソイツで直接顔を切り裂いてやる!!!!」

メイの魔法を直接ぶつけると敵に吸収される危険があるため、メイは金属性魔法で巨大な槍を地面に生成した。マーキュリーは長さ3mはあろうかというその槍を持ち、ビルの屋上から敵の頭部めがけて飛び込んでいく。


「とっとと止まりやがれ、このレギオン野郎!!!!」
「イヴァン君、ワタシたちも続きますよ!! 最大火力で一気に畳み掛けます、『でんじほう』!!」

「了解だ、私の力も使ってくれ!! 『でんじほう』!!」

マーキュリーの攻撃が敵の目を深々と抉る中、デンリュウとイヴァンのダブルでんじほうが敵の左手部分に炸裂する。極めて強力な電気を浴びたことで、その腕は熱により半ば溶けたような状態になっている。また、目を破壊されたことで敵は視界を封じられたらしく、マーキュリーの乗っている頭を闇雲に振り回し始めた。


「おいてめぇ、何して……おわぁぁっ!!!!」
「兄貴っ……!! この風に乗れーっ!!!!」

カザネがバリサクを奏でると、ビルの谷間に強い上昇気流が発生し、マーキュリーの身体をビルの屋上へと押し上げた。


「ナイス、カザネ!! 危うく落っこちて死ぬとこだったぜ!!」
「『突風即興曲』なら、ビルに囲まれた環境下で上昇気流を生み出せると思った。さて、後は敵がどう出てくるか……。」

「魔法を直接は使えない……それなら直接じゃなければ構わないってことだよね!? 『ジムソン・ウィード』!!!!」
「そしてこれで……『ファントムコート』!!」

「汚染された弾を食らってラリっちゃえですぅ!!」

ユーグが強力な幻覚作用を持つ細菌を、黒魔法により呼び出した。続けてメアリが白魔法による魔力コーティングを生成し、呼び出した細菌が拡散せず、シャルルのライフル弾にまとわり付くようにアシストする。


「これで目も見えず、感覚もめちゃくちゃだろうぜ!! よし、目標は敵の足……もとい手元だ!! やってやれ、いるか!!」
「行けぇっ、『まもる』!!」

ユーグの細菌をシャルルの弾に乗せて撃ち込まれたことで、敵は方向感覚を失ってよろめいていた。そこにリングロープで大きく弾みを付けたアントノフといるかが突撃し、水圧のバリアを踏ませて敵の足を滑らせた。


「後はこのままとどめと洒落込むぜ、『あやしいかぜ』!!」
「僕の本気の一撃、久々に叩き込めそうだ!! 『せいなるつるぎ』!!!!」

倒れ込んだ敵に、シグレの無数の影の矢が吹き付ける。更に追い打ちと言わんばかりに、マックスウェル会長の角が光り輝く刀身になり、その長さ10m程の光の刃が敵の半身を真っ二つに破壊してしまった。身体から洪水のように赤い体液を流す巨人。最早勝負あったかと思われたが……。


「嘘っ!? 両手足を破壊した!! 目も平衡感覚も全て奪われてるはず!! どうしてこんな!?」
「何とっ……!? あのスピードではホイールが!! すぐに知らせなくては!!」

メイとデンリュウは口々にそう叫びながら慌て始めた。それもそのはず、倒したと思われた敵の肋骨部分が身体を突き破ってせり出し、さながら蜘蛛のような8本足の怪物に変形して動き出したのだ。

しかもそのスピードは先程に比べて異常なまでに速く、まるで虫のようなその素早さのために、一同は敵の逃亡を許してしまった。

敵はいよいよホイールへと迫る。現在は第一次防衛網だったケロマツえっこたちが、ホイール内部で負傷者の手当てをしているだけであり、そちらにはもうまともに戦える戦力は残されていない……。


(To be continued...)

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想