Episode 94 -Truth-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 カムイは引き続き、大切な情報をえっこたちに打ち明ける。モノノケの正体、レギオン使いたちについて、カムイや他のレギオン使いに起こった過去……それらの事実により、隠された世界の真実の一部が浮かび上がる。
 蝦夷共和国に生まれ、両親と共に幸せに暮らしていたカムイ。彼女は大国の侵攻により故郷を終われ、病死した両親の意思を継いでその盲目を治療する。

その後故郷を奪還すべくかつて暮らしていた街へと戻るが、大国の支配により荒廃したその地に絶望し、人間としてのあまりに悲しき生命を自ら断つことにした。


「次に、とても大切なことを話さなければならないね…………。その後私が何者になったのか、何故奴らと同じヘラルジックを使うのか、そしてモノノケやレギオンとは何か。」
「奴らやレギオンの正体…………。それって一体……!?」

「…………今からみんなに伝えようと思う。でも心に誓って、一度知ったなら立ち戻ることは許されない。どんなにショックを受けても、心に迷いが出ても、もう私たちは奴らとの戦いは避けられない。それでもいいんだね? 本当に話してもいいんだね?」
「何を今更。奴らをぶちのめすのは、最初から揺るがぬ目標であり信念だろうが。とっとと話を前に進めてもらおうか?」

えっこやシグレたちに対し、妙に何度も念押しをするカムイ。シグレがやや呆れた様子でカムイを促すと、カムイは息を呑んで次の言葉を語りだした。


「まずはレギオンの正体から説明する必要があるね。レギオンはモノノケという存在が同調し、暴走する形で融合した集合体。それはまあ見ての通りって感じかな。」
「問題はそのモノノケの方や……ポケモンの影みたいな姿はしとるけど、全く正体も何も掴めへん。奴らは一体……?」

「モノノケは………………私たちと同じだよ。元は人間だった存在。ハリマロンのえっこさんや私と違って、人間からポケモンに転生し損ねた魂の成れの果て…………。」
「なっ!? じゃあ俺たちが今まで散々討伐して殺してきたのは、得体の知れない化け物じゃなく人間…………!!!?」

一同を衝撃と静寂が貫く。モノノケの正体は人間だった。それも、ハリマロンのえっこやカムイとは違い、人間としての一生を終えた後にポケモンに転生できなかった者たち、つまりはESABプロジェクトの失敗被験体といえるのだと。


「じゃあ僕は…………僕はあのとき殺したん……ですね…………。人間を……人を……それも何よりも残酷な黒魔法で……。」
「ごめん………………それに関してはNoだなんて言えない。真実なんだ、みんなが知りたかった真相、私はそれを伝えた。そして既に約束してくれた通り、どれだけショックだろうと、驚きであろうと、私たちは前に進まねばならない……。奴らが立ち塞がるなら、殺してでも退けなければならない……どうかそれだけは…………分かって……。」

「……ああ、俺は約束する。人間の魂を殺すことになる。それが軽いことだなんて思わないし、正直驚かされた。でも、奴らがポケモンたちを脅かし、レギオン使いたちのしもべとして俺たちに牙を向けるのならば……叩き潰さなきゃならない。じゃなきゃ、ぶっ殺されてしまうのは俺たちの方だ。そして破壊されるのはこの世界の方だ。」

戸惑いを隠せないローレル。自分が結晶の神殿で暴走し、レギオンを惨殺したこと、それは即ち自らが人間の魂に筆舌に尽くしがたい苦しみを与えて殺したことに他ならない。

しかしえっこは誓った。この世界を狙うレギオン使いたちを退け、ポケモンたちを守り抜くため、そして同時に自分たちの旅の目的を成し遂げるために、例え誰が相手でも戦いを続けるのだと。彼がこの世界に対して持つ決意と思い入れは、それ程までに強かった。


「そう……でもその方がいいんだと思う。人間の魂といえど、モノノケは既に理性や自我を失っている状態……。転生に失敗したことでその魂はダークマターに引きずり込まれ、ダークマターの生み出した偽りの肉体を与えられている。人間の魂を持ちながらにして、人間ではない不安定な生命体。それ故に、彼らは人間の因子を継ぐこの世界のポケモンたちを襲い、その生き血を得ようとする。自らに刻み込まれた『人間』としての魂の記憶が薄まって消滅しないように。」
「地上のポケモンたちが襲撃されるのもそれが原因……。でもどうして、何で奴らはそんなレギオンを操れるの? 奴らは人間からポケモンに転生した存在なんだよね? それなら、寧ろ真っ先に狙われるはずじゃ……。」

「奴らレギオン使いは、君たちよりも寧ろダークマターに近い存在なんだ。私だって本当はそう。ダークマターの因子を継ぐから、レギオンと同調することができると同時に、奴らから攻撃されることもない。」

ミハイルの疑問にそのように答えたカムイ。ダークマターに生み出され、必死に人間としての自分を維持しようと本能でポケモンを襲うモノノケたち。そんな彼らと性質を同じにするダークマター由来のポケモンがレギオン使いなのだという。









 「私の過去を聞いて分かったと思う。レギオン使いになった人間は、誰もが壮絶な一生を送り、この世を呪って死んでいった……。報われなかった苦しみ、救われなかった悲しみ、選ばれなかった怒り、慕われなかった孤独……あらゆる負の感情を抱き、この世なんて滅びてしまえばいい、そう願いながら死んでいったんだ。」
「負の感情……そして自分さえ、自分の周りさえよければ、それだけがよければという強い欲望……。ハリマロンのえっこさんが話していた、『怪物』となった人間……。」

「なるほどな、そいつらが邪悪なレギオン使いとして、生命の営みが戻ったこの世界を再び破滅に追いやろうとしている……。だが俺はこうだとも思うぜ、『それが人間の本性なのだ』とな。そして本性と共に牙剥いた醜い人間は、それを隠して生まれ変わったポケモンたちの世界を脅かすって寸法だ。」
「僕も同意です……。残念ながら、人間は互いを憎み、負の感情によって自らを滅ぼした。ダークマターの分身である僕だからこそ、そのことは痛いくらいに分かります。でもっ……!!」

欲望や負の感情によって『怪物』となった人間こそが、レギオン使いとしてこの世に蘇った存在。それはシグレの言う通り、本来の人間の姿なのかも知れない。そしてその『人間』が、皮肉にも『人間』の殻を捨てて生き延びたポケモンたちを滅ぼそうとしている。


「せやね、それを止められるんも人間や。えっこはんやシグレはんのように、自らの目的も持ちつつ他のポケモンの力になるために身を捧げる者、そしてこのアークで自らの力を活かし、ポケモンたちの世界を変えていこうとするダイバーたち……。人間の魂が、彼らの残した希望が生んだうちらのような存在こそが、奴らを打ち砕く鍵になる。」
「そう、だからこそ私はこの道を選んだ。ミハイルのいる、シグレやミササギさんのいる、そしてみんなが笑顔で待ってくれているこの世界が好き。私は、もう破滅なんて望まない……!!」

一同はカムイの言葉に強く同調するように、互いの目を見つめて頷いた。カムイはそのまま、自分たちに起こった出来事に関して説明し始めた。


「死した私たちはある存在によって招集された。それは透き通るような肌を持つ1人の少女……。名前を『創世主・アルファ』と名乗った。」
「何っ!? 創世主だと!? それにその特徴、間違いなくあの小娘……!!!!」

「うっすら話が見えてきた気がしますね……。あの創世主、色々ちょっかいを掛けてくると思ったらレギオン使いとも通じていたのか……。」
「私たちはアルファによって導かれ、地上の別々の場所でポケモンとして転生した。そのダンジョンで人間として生きた記憶を追体験し、負の感情を思い起こさせた。どうやら転生するまでに果てしない時間を経ていた奴もいるみたいだったからね。ダークマターの手先として足りうる負の感情を維持するには、自分の忌々しい過去と向き合う必要があった。」

創世主を名乗り、幾度となくえっこたちの前に姿を現した少女。彼女の名前はアルファというらしく、えっこたちだけでなくレギオン使いにも秘密裏に干渉をしていたようだ。

カムイは次に、懐から1枚の石版を取り出す。それは帰らずの竹藪でネロたちが発見したものと同じ、青色の小さな石版だった。


「これは『魂の羅針盤』と呼ばれる魔導器。名前の通り、人間として転生して前世の記憶を取り戻した私たちが手に入れ、次に向かうべき場所を示してくれた羅針盤だよ。」
「何、奴らの向かうべき場所だと……!? それなら、そいつを使えばレギオン使い共の隠れ家を突き止められるってことか!?」

「ええ。でもこれ1枚じゃ用をなさない……合計で7枚必要なのよ。各羅針盤は共通してある場所を示している。そこに集まった元人間のレギオン使いたちが羅針盤を重ねると、最終目的地に辿り着けるって寸法。」
「一気にレギオン使いの出処を突き止めるまでには至らないのですね……。しかし、カムイさんが記憶を取り戻した今、アジトの場所を記憶を頼りに探せるのでは?」

すると、カムイは浮かない表情で首を横に振った。


「ごめん、それは無理かも……。重ね合わせた羅針盤が示した光は、どこかの海底を指していた記憶がある……。そのまま記憶は途切れ途切れで、気が付いたら私はどこかの平原に倒れていた。そして記憶を完全に失い、私はミハイルに出会った。後覚えているのは、レギオンを操る赤いヘラルジックについてだけ……。」
「あのヘラルジックか……。一体、あれはどんな代物なんだ……?」

「ヘラルジックとは、そもそも人間の成れの果てであるモノノケとの血の契約なの。彼らの血を交わらせることで、ポケモンの遺伝子をよりモノノケに近付けることができる。といってもどれだけたくさんヘラルジックを入れようが、100%ポケモンの遺伝子なところが、精々98%ポケモン・2%モノノケの血になる程度なんだけどね。」
「血と遺伝子が交わる……そんな変化が起こっとったんやね。」

えっことミササギに対してカムイがそう答えた。ポケモンと魂の性質の違うレギオンの遺伝子が血を介して混じり合い、体質変化を起こすのがヘラルジックなのだそうだ。









 「ヘラルジックによって血の性質が変化すると、ポケモンに特殊な魔力が宿る。モノノケは人間だった存在……人間の持っていた、道具を生み出してあらゆることに活用していくというある種の本能……。それを得ることで、魔力を用いて武器や魔導書などを身体に自由に出し入れできるようになる。」
「では、あの赤いヘラルジックは一体何でしょう? 何故あんな色を……。」

「あれは前世で多大なる罪を犯した人間を閉じ込めたヘラルジックなの。同じ人間という生き物を殺し、その肉を食らった魂のモノノケが世の中には存在する。もっとも、普通のモノノケみたくそこら中に野放しになっている訳じゃない。」
「そんなモノノケが……? それは一体どこに存在しているっていうの?」

ミハイルがそのように尋ねる。カムイはComplusを手に取ってある場所の座標を示した。


「ここ……きっと見覚えがあるよね? この場所こそ魂の始発点。この場所で転生する新たな身体を見つけられずに滞留している魂がダークマターに捕まると、汚染されてモノノケという存在になる。」
「これってテンケイ山……!? 確か、ハリマロンのえっこさんたちがこの間の遠征で向かった場所じゃ……。」

「そう。人間が滅び、ESABプロジェクトによりポケモンに転生しようと試みる魂が大量に滞留していた際に、そのほとんどはポケモンになるかダークマターに捕らえられるまで放置されることとなった。けれど、ごく一部の魂は別に保管されることになった。それがさっき言った特別な魂……。単独で強力な魔力を秘めた変異体……。」
「人間を食すという禁忌を犯した魂か……。だが、そいつらは何故特別保存されることになった? そして一体誰がそんなことを?」

えっこの言う通り、ハリマロンえっこたちに説明され、彼やカイネが遠征で見回りに行ったテンケイ山の聖地こそが、カムイの示した場所だったのだ。

次なる質問を投げかけたのはシグレだった。確かに、人間の亡き後に魂を操作できるものなど存在するのだろうか?


「滅びたのは人間のみ。その意味を考えてもらえれば自ずと答えは分かると思うよ。そう、人間だけが死に絶えた。」
「カムイちゃん、それってまさかどこかのポケモンがダークマターに手を貸したって言うん……!?」

「そのまさかだよ……ESABプロジェクトにおける、カイネさんの前世とは対極に位置する存在。人間の魂を転生させてこの世界から他の人間の魂を消し去ろうとするプロジェクト……。その発端となったポケモンがいるらしい。正体については詳しくは分からない。でもそいつがレギオン使いたちを転生させ、その手駒として使えるように一部の人間の魂を捕獲したということは聞いたよ。」
「そしてその魂……あの特異なレギオンですね? モノノケの集合体ではなく、それ単体でレギオンとしての力を持つ個体……。そして強力故に、レギオン使いたちのしもべとして利用されることになった。」

ローレルがそう推測を語ると、カムイは無言で頷いた。どうやらあるポケモンが画策した計画により、人間の魂をこの世から消し去るための兵力が徴収されたようだ。そんな状況を鑑みて、えっこが突然閃いたようにこう切り出した。


「これは俺の推測だ。そのレギオン使いたちの中心人物ともいえるポケモンって、創世主アルファのことなんじゃないか? 奴なら人間の命や魂に干渉できる……。魂を自由に操作し、レギオン使いたちをポケモンへと変え、特異なモノノケをその手駒として並べることも容易だろう。」
「俺も同感だ。あの小娘、裏でとんでもねぇことをしてやがったか……。だがそうなると1つ解せねぇことがある。何故奴は俺たちの側にも首を突っ込むのか。何故自分で用意したレギオン使いどもに対抗する勢力を、わざわざ回りくどいことをしてまで作り上げようとするのか。」

えっこの考えは可能性としてはあり得る。高い技術を持っていた人間でさえ、ポケモンへの転生はそのほとんどが失敗に終わっている。それに対してレギオン使いたちを百発百中で転生させてポケモンへと変える能力、それは他ならないえっこたちを人間からポケモンへと変えた創世主にしかなし得ない技ではないだろうか?

同時に、シグレの指摘も合点が行く。レギオン使いの勢力を生み出したのが彼女だとすれば、その敵対勢力であるえっこたちを自ら生み出すのは不可解な行動だ。とはいえ、今のえっこたちに真実を確かめる術などない。これ以上推測を進めることは、現状では難しそうだ。


「今のところ伝えられることはこれくらいかな……。また何か思い出した情報があればすぐに連絡するよ。あまり役に立てなかったかも知れないけど……ごめん。」
「何言うとんねや? カムイちゃんが勇気を持って打ち明けてくれたいくつもの手掛かり、絶対にムダになんかせぇへんよ。必ず奴らの居場所を突き止めて、その阿呆な計画を阻止する。そのために、また明日から気を引き締めて頑張りましょ。」

カムイの記憶から浮かび上がったいくつもの真実。人間の魂が変化したモノノケという存在、創世主アルファのレギオン使いたちへの干渉、人間でない何者かがレギオン使いやその手駒を準備したという事実……それらはいつか1つの事実に結び付き、えっこたちの前に姿を見せることとなるのだろうか?


(To be continued...)

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