草木も眠る真夜中、イッシュ地方 ある森の奥。
そこには、森には不釣り合いな建物があった。四角い積み木をいくつも重ねたようなその建物には、目立たないところに入口があり、
妙な服を着た人々が出入りしていた。
その人たちはその建物を「アジト」と呼んでいた。
そこから少し離れた木の下に、一人の少女が肩にポケモンを乗せ、アジトのほうを見つめていた。
(見つけた…。)
探していたものが見つかり興奮を覚えながらも、少女は冷静をたもっていた。自分のしていることは、命がけだから。
今こうしているときも、襲われるかもわからない。
(まずは、あのアジトに入って、奴らの次の作戦を盗む…じゃなくて教えてもらう。
そしたら、リグレーの"テレポート"で脱出…。我ながらいい作戦じゃない。)
少女は腰についたモンスターボールを確認する。上半分が白、下半分が黒という普通とは違うモンスターボールは、特別なものだ。
中に入っているポケモンは、心なしか、いつもよりもたくましく見える。
「じゃあ、行くよ、みんな。
……パチリス、木の実ならまたあげるから、今は食べないで。」
『? チパ!』
肩に乗っていたポケモン…パチリスにも声をかける。彼女(♀だから)はいいパートナーなんだけど食べるのが好きすぎて、ほっといたら、持っている木の実がなくなってしまう。
でも、やめてくれたからいっか。
さぁ、行動開始よ。
「ミッション…スタート!」
少女は、木を駆け上り、枝の上に立った。そして、枝から枝へと飛び移っていく。その動きは、まるでポケモンのように滑らかだった。
そして、アジトにいちばん近い木の枝の上で、モンスターボールを開く。
パン!と軽快な音がしてリグレーが出てきた。
アジトに入るのも"テレポート"を使おうと思っていたが、入った先が奴らのど真ん中だったら元も子もない。
なので、窓から中の様子を見てから入ろうと思ったのだ。
どうやら、中には特に誰もいないようだ。
「リグレー、"テレポート"をお願い。」
『リグゥ』
少女たちの姿は消え、建物の中に移動していた。
「ありがと、リグレー。」
入ったのは、部屋のようだ。パソコンがいくつも置いてある。
「パチリス、リグレー、まずはここから探してみましょ。」
『チパ』
『リグ』
三人で別れて、部屋の中をくまなく探す。少ししてから、少女はパソコンの横にCDが置かれているのに気付いた。
(? 中身は何かしら?)
ここのパソコンを勝手に使うわけにもいかないので、カバンから自分のノートパソコンを取り出す。
軽量でコンパクト、防水や耐熱耐磨加工、さらには10mの高さから落としても大丈夫なすぐれものだ。
CDドライブを開けて、中身を確認する。
《……しかしこのイベントは他地方から実力者を連れてきてポケモンを奪うために我々が利用する。
すでに準備は整っているので、あとは時を待つだけだ。実行は○月×日で寝坊は禁物である。》
いきなり当たっちゃった。今日はついてる。どうせだからこれをコピーしちゃおう。
「パチリス、リグレー。作戦をコピーしちゃうから、何があってもいいようにしてね。」
『チッパ!』
『リググゥ!』
コピーまで、あと50%。よし、このままなら…
「おい!お前、何をしている!?」
「侵入者だー!侵入者がいるぞー!」
(! しまった、見つかった!でも、あと50%だし…こうなったら)
「パチリス、リグレー!こいつらを足止めして!」
『チパ!』
『リグ!』
敵は、数匹のゴローンを連れてきた。
コピーまで、あと45%
「パチリス、"スピードスター"!リグレーは"さいみんじゅつ"!」
『パチーパ!』
『リィグゥ…』
「怯むなそっちのゴローン!こっちのゴローンは寝るなぁ!」
コピーまで、あと30%
「ゴローンども、"いわなだれ"だぁ!」
『ゴロローン!』
「パチリス、"まもる"!」
『チパ!』
「守んじゃねーー!」
コピーまで、あと15%
「リグレー、"サイコキネシス"よ!」
『リグゥレー』
「あててててててて!俺らまで攻撃すんなああああぁぁ!」
ピーン!コピー完了!
「やった!コピー完了!二人とも、脱出…ひゃあ!」
脱出しようと、少女は部屋の奥に進むが、うっかり転んでしまった。
「チャーンス!今だゴローンども!一斉に…
"じばく"だぁ!」
『ゴローン!』
ゴローンたちが体を少し縮ませて力をため込んで…そして
ダガーーーン!
すさまじい爆発が少女たちを巻き込んだ---
---ように見えた。
近くの町、裏路地。
そこで、少女はパチリスを抱えながら倒れていた。
実は、ゴローンが"じばく"をする寸前、リグレーが自分から"テレポート"をして、少女たちをここまで運んだのだ。
しかし、ゴローンが何匹も居たため、無傷ではない。少なからず少女もポケモンもダメージを受けてしまった。
ちなみに、リグレーは今、ボールに戻っている。
(…ココは…町?…だめだわ…意識が…)
少女は、そのまま眠りについた。