Episode 52 -Twin Devils-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 荒野で何者かを待ち構えるハリマロンのえっこたち。そこに現れた2つの邪悪な小さな影は、ハリマロンのえっこたちに新たなレギオンを差し向けるのだった……。
 「よぉ、まさかとは思うがお前らだなんて言わないでくれよな? 小さなガキを捻り潰すのは、いくら何でも良心が傷むというものだ。」
「ふーん、エモノが向こうからやって来たってことだね。探す手間が省けちゃった、ラッキー!!」

リャンガンへと向かう荒野の一本道で、ハリマロンのえっこが立ち塞がる。その目の前にいたのは、プラスポケモンのプラスルと、マイナスポケモンのマイナンだった。


「人間の魂だ……でも違うみたい。探してる人間じゃない……要らないやぁ……。」
「そいつはどうも。せっかくの今宵のメインディッシュだというのに、お気に召さないのは残念な限りだ。もっとも、逃げ切れるなどとは思うなよ? ここらで食あたりでも起こして、2匹まとめて病院送りになってもらおうか?」

「やなこったー!! お前みたいなおじさんにやられる訳ないだろー? むしろお前の方が、アタシたちのおもちゃになって壊れるんだもんねー!!」
「言ってくれるね。私たち3匹相手に、余裕こいてられるのも今の内だからね!!」

プラスルの少女を相手に、カイネがそのように叫んで威嚇した。ニアとえっこも戦闘態勢を整える。


「ねぇ『イプシロン』……。早くこいつら片付けようよ……。邪魔な人間消したら、僕ら褒められるよ……?」
「そだねー、『ユプシロン』。そこのおじさんとババア2匹をぶっ殺して、早くもう一個の人間の反応が出てるとこに向かわなきゃ。レギオンは2体同時には出せないし、やられちゃったらしばらくは控えなきゃだもんねー。ま、アタシたちが負ける訳ないんだけど!!」

「んむむーっ!!!! 失礼しちゃう、私はまだおばさんじゃないもーん!!!! もう怒っちゃったよ、泣いて謝っても許さないんだからー!!!!」
「ファイとかいうピジョットと同じ、どす黒い魔力反応反応出してるのがこんな小さな子たちだとはね。でもビンゴみたい、やっぱりカザネやローレルちゃんたちを狙ってやって来てた。えっこの言う通り!!」

イプシロンと呼ばれたプラスルの女の子の言葉に腹を立てて言い返すニア。一方、ユプシロンと呼ばれた男の子の俯き気味の顔を眺めながら、カイネは緊張の糸をキリキリと張り詰めさせる。


「イプシロンだのユプシロンだのややこしいな。まあ、覚える必要もないことだが。」
「そうだね、おじさんのボケた脳みそじゃ覚えられないんじゃない? ずっとエロいことしか考えてなさそうな顔してるし。」

「あーあー、それ正解だわ、いーっつも可愛い男の子と添い寝することしか考えてないし、このバカ夫は。」
「失敬な……。それよりもさっさと始めようじゃないか。お前たちの減らず口を、レギオンごと叩き潰したくてウズウズしているのが分からないか?」

その直後、イプシロンの身体にEの形の赤いヘラルジックが、ユプシロンの身体にYの形の赤いヘラルジックがそれぞれ浮き上がり、禍々しいオーラを放ち始めた。


「じゃあお言葉に甘えてたっぷり遊んであげるね? 出てきちゃえっ、『ノクターン』!!!!」
やがて赤い光が一面を覆い、えっこたちの視界が一色に塗り潰されていく。今回はどのようなレギオンを呼び出してくるのだろうか?










 「えーと……。うん、多分問題なく繋がるかな……。後はえっと、その……。」
「ここに書いたリストのもんを買い揃えてこい。電子部品のジャンク物なら陰街の電器屋探せばいくらでもあるだろうし、PCの筐体や高性能メモリなんかはゴミ掴まされちゃまずいから、陽街まで行くしかねぇな。手分けして頼むぜ。」

何やらコンピュータとにらめっこしながら、素早くキーボードを打ち鳴らすヘイダルの姿があった。そう、カザネは専門職ダイバーであり、砂行船などのメカだけでなく、システム面にも詳しいヘイダルに電話していたのだ。

一方のアントノフも、その巨体と麻痺した片腕に似合わぬ手際のよさで、何やらコンピュータのパーツのようなものを組み立てている。

アントノフの指示により、ローレルといるかは陽街の電子機器ショップへと走り、カザネはジェニファーや陰街の住民を何匹か連れてジャンクマーケットへと向かって行った。


「アントンさーん!! 頼まれてたパーツ、全部見つかりましたよー!! ジャンク品やブラックマーケットとはいえ、こんな値段で売られてるなんて……。」
「フッ、陰街みてぇなとこも悪いことばっかじゃねぇって訳だな。さて、パーツの組み立てを手伝ってくれ。ややこしいとこはやらせたりしねぇからよ。」

アントノフは、カザネたちが買い集めてきたパーツを手分けして組み立て始めた。ヘイダルが出図したと思われる設計仕様書を元に、何かの機械の内部機構のようなものが徐々に出来上がっていく。


「ぜぇ……ぜぇ……っ、あー!! 重かったぁ!!」
「お疲れ様です、別に一人でそんなに持たなくても、僕だっていくつか持てたのですが……。」

「だって、あなたに押し付けたらまたカザネさんとアントノフさんに何か言われそうですしー。『レディー・ファーストって言葉知らないのか?』とか。」
「世は男女参画社会の時代のようですから。僕は気にしないのですが。」

いるかがたくさんのノートパソコンを両手にぶら下げ、背中に大きな筐体を背負って現れた。一方のローレルは、明らかに少ない荷物を持たされているようであり、いるかがムダに格好をつけようとして空回りしたのだと思われる。









 眩い光が晴れ、目の前からはイプシロンとユプシロンの姿が消えていた。だが、その他に決定的に何かがおかしい。


「どういうことだ……? レギオンの姿がどこにも確認できない……!!」
「でも確かに呼び出したはずだよ、例の不気味な気配が漂ってる……!! 私の感覚に狂いはないのー!!」

レギオンの姿を目視することができないが、確かにニアはその邪悪な気配を探知しているようだ。どこから襲ってくるかも分からぬ状況の中、3匹は互いに背中合わせに陣取って布陣を固める。


「……あいたっ!!?」
「カイネ!? 大丈夫か!?」

「私は平気……でもどうして? 何も見えなかったのに、突然鋭い牙みたいなもので噛みつかれたみたい。レギオンはどこから襲ってきたっていうの!?」

突然カイネの左前足に噛み跡のような傷ができ、血が流れ始めた。間違いなくイプシロンたちの呼び出したレギオンによる攻撃なのだと思われるが、依然として姿は確認できない。


「見えないなら見えないで、こっちから攻撃あるのみ!!!!」

ニアがヘラルジックを展開し、手からレーザーを放とうとした瞬間、ニアの両手とカイネの身体に同時に噛み傷が現れた。


「何で!? レーザーによる攻撃が出ている手を一瞬で!? それに隣にいたカイネを同時に攻撃してくるなんて……!!!!」
「まずいね、一体何を引き金にして攻撃してるんだろ……。それが分からないと、今みたくこちらの攻撃が当たらないばかりか、隙を突かれて攻撃されてしまう……。」

「カイネの言う通り、恐らく敵は何らかの条件をトリガーにして攻撃しているはずだ……。でなければ、相手の姿が見えないというこの状況で、一方的に攻撃を続けないのは不自然すぎる……。」

戦闘経験が豊富な3匹だけあって、敵の攻撃パターンに何らかの仕掛けやトリガーがあることをすぐに見抜いていた。しかし、その仕掛けが何なのかが一向に見えないまま時間だけが過ぎていく。








 「要は線がなければいいのさ、線がね。だから無線接続の設備を整えたって訳。これで花園一帯の、無線やWi-Fiによるテレビとネット電話とインターネット接続は万全のはずだよ!!」
「そんなことができたなんて……。でも、このでっかいコンピュータは何なんですか? 無線で繋げるのなら、こんなの必要ない気がするのに……。」

「これだけ大規模な無線を飛ばすんだ、かなりのパワーを持つサーバを立てねぇとならねぇ。要は一括で無線を統括して、ネットに繋げる中継点だ。」

そう、カザネは無線環境を花園全体に整備することで、ケーブルを敷き詰めずとも、住民たちのライフラインを実現する策を思いついていたのだ。

幸い狭い範囲に家々が密集しているお陰で、無線の届く範囲内で花園の全ての世帯を網羅できるらしく、カザネやローレルたちがお使いを頼まれて買ってきたパソコンや筐体、高性能パーツの数々は、その無線環境のサーバを作るのに使用されていたのだ。


「しかし、アントノフさんって意外とこういうことに詳しいんですね、ヘイダルさんとサーバの立ち上げをしてるとき、何か理解不能な用語が飛び交ってましたし……。」
「意外とは失礼な、アントンさんは地上にある名門大学・ソフィアグラード大学の工学部卒だよ? アーク魔法アカデミーの魔法関係の学部と同じくらい、入るのも卒業するのも難しいとこだ。」

「まあ、もう十数年前のお話だがな。航空力学関係だからヘイダルの奴と似たようなことをやってたが、こうしてシステム関連もいくらか触ってたもんでね。」

ともあれ、2匹の優秀なエンジニアのお陰で無線環境のセットアップは無事に完了し、一同はリチャードにそのことを報告しに行った。


「そうか、そのような術があるとは、さすが時代の進化は著しいものであるな……。しかしご苦労であった、これは我からのささやかな感謝の印だ、上がっていくがよいぞ。」

一同に微笑みかけるリチャードの前には、豪華な料理の数々が並べられていた。

どうやら伝統的な点心料理のようであり、水晶のような水餃子、湯葉で巻かれた焼売、ふんわりと蒸し上がった真っ白な饅頭、そして大きな茶瓶に用意された熱々のお茶。そのどれもがもうもうと美味しそうな湯気を立ち上らせており、口に運ばれることを今か今かと待ちわびているようにさえ思えた。


「す、凄い……やはり太子とだけあって、一流のお抱え料理人でもいるのでしょうか?」
「そうではない。全て我がこの手でこしらえたものだ。この地下水脈に長年居座っていると、こんなことくらいしか趣味がなくてな……。」

「ええ!? これ全部リチャードさんが!? 本当にプロの調理師が作ったんだと思っていました……。」
「そう言われると照れるではないか、さあ、遠慮は要らぬ。楽しんでゆくがよいぞ。」

リチャードに促され、5匹は円卓を囲んで飲茶を始めた。Steam cored heartsだからこそ大成功へと導くことができた今回の依頼。
いるかたちは、初めての成功に胸を高鳴らせながら、小さな宝石のようなリチャードの点心に手を伸ばすのだった。


(To be continued...)

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