この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
その後、意識を取り戻した俺たちは、崩れ落ちてない部分の【セッカ砦】内に集まり暖を取っていた。
ユーリィはニンフィアとチギヨ、ハハコモリに無事な姿を見せ、気まずそうに「迷惑かけたね」と呟く。ニンフィアたちは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら彼女の無事を祝っていた。チギヨは断っても何度も俺とヤミナベに頭を下げ続けた。選択肢が限られていたとはいえ、気にしていたのだろう。ヤミナベは戸惑いながらも、顔を上げて欲しいと訴え、最終的には彼も頭を下げあう謝罪合戦になっていた。
やがて砦内の食料で作ったスープを配給するプリムラやココチヨさんたち。それはヤミナベの公開処刑を下見に来ていた者にもふるまわれていた。
見物人の彼らは最初のうちは納得いかない様子だったが、その意識をわずかに変えた奴らが居た。
ソテツと、アマージョである。
鉢合わせたヤミナベと、ソテツとアマージョ。初めアマージョはヤミナベを見るなりその鋭い蹴りを放とうとした。ところがソテツが割って入ってその攻撃を受けたのだ。
「……憎い気持ちは、オイラも同じだ。でも堪えろ、アマージョ。彼らに八つ当たりしても、じいちゃんたちは戻っては来ない」
うずくまりながらも説得するソテツに、折れるアマージョ。
アマージョに続こうとしたポケモンに対しても、ソテツは言った。
「やめておいた方がいい。ユウヅキとアサヒちゃんは、利用されていただけだ」
どよめきが「信じられない」と言った風に揺れ動く。でもその中には「本当なのか?」と半分以下の少しだけど、興味を示している層もいた。
デイジーが「詳しい話はこっちで引き継ぐ。治療行ってこいソテツ」と気を遣うも、ソテツはそれを拒否。虚栄なのか意地なのかは分からないが、座り込んで話を始めた。
ソテツはデイジーにあるものを貸すように伝える。呆れながらもデイジーはそれを懐から取り出し、彼に貸した。
それはヨアケの携帯端末だった。中には、デイジーのロトムが入っている。
そのロトムこそが証人だった。
ロトムによって記録されていた携帯端末の録音データは、サモンとヨアケの会話内容だった。
短い会話の中には、ヨアケが人質に取られてヤミナベがクロイゼルに協力せざるを得なかったなどの状況を示唆する内容が含まれていた。
ギラティナ遺跡跡地で偶然ヨアケの携帯端末を拾い、ロトムに情報を伝えられたソテツは、流石に情報を共有すべきだと考え、(気まずさ全開の中)<エレメンツ>に持ち込んだそうだ。
「つまり、だ。状況的には人質ちらつかされてポケモン乱獲していた君たちと何ら変わりないってことだ」
そう締めくくるソテツの口元には苦笑が浮かんでいた。でも彼の波導はそんなに波打ってはいなく、どこか落ち着いていた。
……もっともそのあとガーベラに引きずられて行き強制的に治療されている図は良くも悪くも格好つかなさがあって、見ていて正直面白いのを堪えていた。
そうしたらルカリオに抱えられたヨアケに『ビー君もアプリちゃんに似たようなことされていたね』と釘を刺された。
最近きつめだなあと思っていたら、『それからこの間はきつく言ってごめん。そしてありがとう。ユウヅキについて行ってくれて。酷いことされなかった?』と心配される。
結局ヨアケが俺に無茶するなときつく言ったのも、俺がヨアケに不安を隠すなと言ったのも、互いを心配し過ぎてのことだと思った。
心配されなくてもいいくらい丈夫にはなりたいものの、なかなかうまくいかねえな……なんて考えながら、牢屋でヤミナベに言った言葉を振り返る。
「こっちも悪かった。どういたしまして。それから」
『それから?』
「俺は……助けたいっていうのはおこがましいが、ヨアケの力になりたい。でもそのために俺自身がダメになってしまうのは、いけないのは、ちゃんと分かっている、だから……ええと……」
『うん』
言葉を待っていてくれるヨアケから目を逸らさないようにして、俺はルカリオの波導を感じる。
強くなりたい、力になりたい、そう想った先に描いた願いを、口にする。
それは、今自分自身が願っているモノだけでなく、未来への、将来への目標でもあった。
「俺は……いや、俺たちはもっと背中を預けてもらえるような、そんな頼れる奴らになりたいんだ……ならなくちゃ……絶対、なってやる」
『なれるよ、ビー君たちなら。だからって気負い過ぎない程度に、ね? でも……頼りにしているよ、相棒!』
「ああ、絶対身体取り戻してやるからな、相棒」
こつん、と小さな手に軽くグータッチする。
それからアプリコットとヤミナベに呼ばれて、俺たちはその方向へと向かって行く。
俺にとってその交わした言葉と拳は、大事な誓いと約束の記憶になっていた。
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<エレメンツ>。<シザークロス>。<ダスク>やその他多数。
それぞれの勢力に所属していた人とポケモンが一堂に揃う。
思惑も、スタンスも違う上、相容れない部分も抱えている者同士。
そんなみんなの前に、ユウヅキと私が立っていた。
アキラ君に「ちゃんと言ってみれば」背を押されたのもあるけど、それ抜きでも今私たちの力になってくれているビー君たちも、それ以外のみんなにも、私たちはお願いをしなければならなかった。
私たちだけじゃ収集がつけられないこのヒンメル地方の緊急事態を、何とかするために。
私とユウヅキは言葉を尽くさなければいけなかった。
緊張に包まれながら、私たちは口を開く。
「俺たちは、取り返しのつかないことをしてしまった」
『その罪を背負う覚悟はずっと昔からありました、でも』
「もう責任感のエゴだけで償うにはどうにもならないのは分かっている」
『そんな見栄とおごりはもう捨てます』
「だから“闇隠し事件”の被害者を、メイも含めた今苦しんでいる人とポケモンを、そしてアサヒを助けるのに協力してほしい」
『皆さんの力を、貸してください……!』
「お願いします……」
私たちは頭を下げる。
しばらくの沈黙の中、声をかけてくれる人たちが居た。
「直接力を合わせるのは難しいとは思うが、こっちはこっちなりで動くつもりはある。逃げねえって覚悟決めたからな」とジュウモンジさんが。
「正直オイラはいまだにキミたちを赦してはいけないって気持ちも、憎い気持ちも残っている。けれど、赦せないからって、こちらにも人生を縛ってしまった責任はある……だからそこはちゃんと償うためにも協力するよ」とソテツさんが。
「私たちは貴方たちに責任と傷を背負わせ過ぎた。私たちだって当事者。何ができるかはよくわからないけど、苦しんでいるみんなは放って置けない。少しでも一緒に背負わせて」とココさんが。
それから、続々とそれぞれバラバラな言葉だけど、私たちに声をかけてくれる。
ひとつ、ひとつとまた聞いていくうちに、決意が新たになっていく実感があった。
私は、これだけの人とポケモンを巻き込んで、どれだけのことをできるだろうか。
そう考えながら、途方もないことだと尻込みしそうにもなるけど、考えるのを諦めてはいけないとも思った……。
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話の流れから、しばらくは各地の騒動の収集と呼びかけ、そして<スバル>の所長でもあり、<ダスク>のメンバーのレインさんの捜索があたしたちの目的になった。
理由としては、クロイゼルにギラティナと【破れた世界】に逃げ込まれてしまう現状があった。
それをなんとかできそうな知恵をもってそうなのが、【破れた世界】の研究をしていたスバル博士をよく知っているレインさんだけというのもある。
みんながそれぞれ、出来ることと考えることをしている中、あたしたちもあたしたちで、何かできることがないかを考える。
でも……何ができるんだろうって行き詰ってしまっていた。
あたしは、アサヒお姉さんみたく言葉を並べることも、ビドーみたく戦いの中心にいることも、ユウヅキさんみたく他の人に指示を出せるわけでもない。
ライカが諦めていないのに、ダメだって思ってしまったこともあった。
そういう心の弱さも含めて、乗り越えたいとは思うのだけど、どうすればいいのだろう。
うずくまっていても埒が明かない。せめてこの先、戦えるようにならなきゃ。
そう思えば思うほど、深みから抜け出せなくなっていく気がする。
ライチュウのライカを抱きしめながら悩んでいるあたしは、まだまだちっぽけだなと思った。
ライカは何も言わない。でもずっと傍にいてくれる。言葉は通じないけど、あたしのことを支えてくれているのは、確かだった。
そう考えていたら、自然と立ち上がれていた。
「分からないなら、出来ること探さなきゃ……だよね」
ライカは小さく頷いてくれる。
うん、まだまだもっとやれることあるはずだ。昔諦めてしまったからって今簡単に諦めていいことにはならないはずだ。
そう自分を鼓舞していたら、背後から声をかけられる。
白いフードパーカーの褐色肌の少年、シトりんだった。メタモンのシトリーも一緒だ。
「おーいアプリん」
「わっ、シトりん……?」
「あはは驚かせてゴメン。アプリんのライカは、アローラ地方の姿のライチュウ、だよね」
「そう、みたいだけど」
「だったら」
シトりんはいきなりポーズをとり始める。メタモン、シトリーはライチュウのライカにするりと『へんしん』すると、シトりんと同じポーズをし始めた。
「これがボクたちのゼンリョク、『スパーキングギガボルト』! ……って言っても、Zリング持っていないんだけどねあはは」
「Zリングって……Z技使うのに必要なのだっけ?」
記憶を呼び起こす。確か中継で見ていたバトル大会でも、ジャラランガ使いのトレーナーがそんな感じのポーズと技を使っていた気がする。
そしてクロイゼルもダークライと仕掛けてきて、あたしたちは圧倒されてしまったんだった。
「そうそう。必殺技だね。ちなみにアローラのライチュウには、専用のZ技を出せる道具、Zクリスタルがあるらしいよ」
「それって……持っていればあたしとライカでも使える?」
「あはは、キミたち次第、じゃあないかな?」
シトりんの笑っているような瞳の奥には、あたしの姿が映る。
その瞳に映ったあたしは、もううずくまっているだけじゃなかった。
「どこか目星があればいいんだけど、知っていない? シトりん」
「あはは、【シナトの孤島】にリングの材料の原石が眠っているってウワサは聞いたことがあるよ。行ってくる?」
「行ってくる。行こう、ライカ!」
ライカも「行くか」と一声鳴いて、立ち上がる。
ライカの尾にボードを連結させ、あたしはそのボードに足をかけ『サイコキネシス』で一緒に宙へと飛び立つ。
「情報ありがとね! シトりん!」
「あはは、頑張ってね。アプリん、ライカ」
互いに手を振り合って、あたしたちは出発する。
少しでも力をつけるために、空を進んでいく。
目指すは――――【シナトの孤島】だ。
第十八話 魔法使いの慟哭 終。
第十九話に続く。
ゲストキャラ
シトりん:キャラ親 PQRさん
アキラ君:キャラ親 由衣さん