Episode 17 -Tunnel-

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読了時間目安:20分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 磯場の洞窟に辿り着いたシグレたちは、洞窟横の窪みで夜を明かす。シグレが見張りをする中、眠れぬ夜を過ごすミハイルが語りかけてくる。
翌朝早く、アークではローレルが魔導書の特訓をしていた。そこにある一匹のポケモンが偶然通りかかる。
 既に夕刻、黒い雲に覆われた空はより一層深い闇へとその姿を変え、目の前の地形すらもあまりよく見えない程に暗くなってきた。

焦りを見せながらも事故に見舞われないよう慎重に進んでいくシグレたちの目の前に、荒天の黄昏時よりもさらに黒く深い穴が、その大口を揚げて現れた。


「やっとお出ましって訳か。この洞窟を通れば座礁船の方へ出られるはずだな。」
「確か、入り口の辺りに深く窪んだ場所があるのよね? そこで雨風を凌ぐことになりそうだね。」

カムイはComplusから何かを取り出しながらそう呟いた。彼女はその丸く固い何かをシグレとミハイルに手渡す。ミハイルはその感触からすぐに合点が行ったらしく、手渡されたものを頭に被った。


「何だこりゃ? 妙に丸っこい兜だな……。」「それはヘルメットです。高いとことか洞窟とか、頭を打つと危険な場合に被るんです。それにこのヘルメットにはこんな機能も付いてるんですよ。」

ミハイルはヘルメット側面に付けられたボタンをカチッと押し込んだ。すると、ヘルメットに付けられたヘッドライトが点灯し、洞窟の中を明るく照らし出した。
ヘッドライトはLEDでできているらしく、強い白色の光が、底なしに深く続く穴に鋭く射し込む。


「ああ、あれだね。ほら、右の方。あっちが例の窪みだ。あそこで野宿しようか。」

カムイが指し示した方向にある窪みへと、一向は入っていった。窪みには出入り口になる穴が一つだけ開いており、シグレの身長では屈んでやっと通れるくらいの直径だった。

それ以外はゴツゴツした岩に囲まれており、敵に襲われる心配はほとんどなさそうだ。一向はランタンを地面に置き、濡れたレインコートや蓑を岩の上に並べて乾かすと共に、手頃な岩を椅子とテーブル代わりにして食事にありついた。

ミササギが作ってくれた真空パックの炊き込みご飯やおかずを、雨水を溜めて沸かしたお湯で温めて食べる。
その味は料亭のあの美味しさを完全再現とまではいかないまでも、降りしきる雨の中磯場をひた進んだシグレたちの疲れた身体に染み渡る味だ。

やがて3匹の内1匹が交代で見張りをし、残り2匹が睡眠を取る形で床に就いた。










 「おい、お前は寝ておけ。今は俺が見張る番だ。お前が出てくるのは後でいい。」
「ううん……。何だか目が冴えちゃって……。横、いいですか?」

「勝手にしな。明日寝不足になっても知らねぇぞ。」
「ありがとう……。」

シグレがランタンを傍らに置いて周囲を見張る中、ミハイルが窪みから身を乗り出し、シグレの横へ座った。カムイはどこでも寝られるタイプの神経の持ち主らしく、疲れのあまり寝袋の中で爆睡していた。


「ボクの過去のこと……カムイから聞いたんですね? このマフラーのこと知ってるってことは、そうだろうと思って。」
「ああ。アイツが勝手にくっちゃべったにしても、個人的な立ち入った事情聞いちまって済まなかったな。もし嫌だったら、カムイから聞いたあの話は忘れておく。」

「ううん、とんでもないですよ。これから一緒に過ごす仲間だから、ボクもあのことを包み隠したくはないんだ。」
「そうか、ならせめて、胸の中にきっちり秘密として留めておく。約束するぜ。」

シグレはランタンに微かに照らされた洞窟の入り口側を眺めながらそう呟いた。相も変わらず荒れた天気が高い波を作り、遠くにある海からは、波が砕ける音だけが繰り返し聞こえてくる。


「ふふっ、シグレさんってやっぱり優しいですね。」
「はぁ!? バカ言うんじゃねぇよ、独りで生きてきた山賊だぞ? 偏屈で荒くれ者なことに関しては、自分でも認めざるを得ないくらいだぜ?」

「だってボクにあの藁のコートを貸してくれたし、今だってボクの気持ちを思いやって、過去の話を他のポケモンには秘密にしてくれるって……。」
「どうだかな。単なる気まぐれみたいなもんかも知れんぞ? 何かお前みたいに鈍臭いの見てると、放っておけねぇんだよ。面倒臭い限りだがな。」

「ボク……。大人の男性がとても苦手だったんです……。父はいつもお酒を飲むと暴れて、ボクや母に暴力を振るった……。殴る蹴るは当たり前、母なんて性的な暴行まで受けて……。」
「とんでもねぇ野郎だな……。」

シグレはそう答えると、手元にあった小石をひょいと投げ飛ばした。小石は闇の中に消え、コロンコロンと軽く小さな音を響かせた。


「だから大人の男性って、ずっと怖くてたまらなくて……。近寄ると過呼吸になったり、昔の怖い思いが脳裏に蘇ったり……。」
「おい、息が荒いぞ? 辛いなら思い出すんじゃねぇ、落ち着きな。」

「は、はい……。でも、シグレさんって不思議と大丈夫だったんです。初めて会ったときから、何だかこのポケモンだけは大丈夫そうだって、直感できるものがあった……。シグレさんみたいなお父さんだったらよかったのにな……。」

ミハイルは、笑顔をシグレに向けてそう呟いた。暗くてよく見えないが、その目尻には一瞬涙の粒が光った気がする。 


「また『どうだかな』ですか?」
「ああ、お陰で自分で言う手間が省けた。」

「顔に書いてあるんですもん。ボクにも分からない……ボクのたった一度の子供時代は終わってしまったから……。もうボクに、幸せな家庭で両親から愛情を注いでもらえる可能性なんて残ってはいないから……。でも、仲間や友達ができることなら、それだけは今からでも遅くない気はするんです。」
「ならそれでいいじゃねぇか。俺が心の底から、お前らのことを仲間と思うかは分からねぇ。だが、もしもお前がそれを望むなら、取り敢えず考えてはおくぜ。」

「はい……。ありがとうございます。何だか落ち着いてきたら眠くなっちゃった……。」
「見張り番の時間まで休んでろ。まだ夜は長いからな。」


シグレの言葉に促され、ミハイルはゆっくりと窪みの中へ戻っていった。シグレはランタンに照らされた自分の仄暗い翼を眺める。

「幸せな家族と共にある子供時代、か……。俺にはミハイルの気持ちは分からねぇな。俺の場合、無理矢理奪われちまった……引き裂かれちまった……。だから……。」
シグレはため息をつくと、まだどれくらい続くかも分からぬ夜の海の闇と激しい波の音に、その身体を向けた。











 「うーん……上手く行かないなぁ……。イメージは教えてもらった通り心掛けているのに、上手く魔力が制御できていませんね。」

夜もまだ明け切らぬ頃、暗がりの中でローレルは、ランタンの地面に置いて魔法の詠唱の練習をしていた。

旧市街から徒歩15分程の位置にあるこの海岸は、『雲海海岸』と呼ばれるスポットだ。名前の通り、海岸線の先には眼下に広がる雲海や下界の様子が見えるため、日中から日没までは景色を楽しむポケモンが多く訪れる。

もっとも、真っ暗なこの時間帯ではポケモンの姿もまばらなため、ローレルが魔法の練習をしていても迷惑にならないのだが。


「おやおや、女の子がこんな時間に誰もいない海岸をうろついちゃ危ないよ。最近は物騒な輩も増えてるからね。」
そう言って背後からローレルの元へ近寄る影が見えた。


「あ、あなたはこの間の……。あの節は助けていただきありがとうございました。」
「いやいや、困ってるポケモンを助けるのが僕らダイバーの役目だからね。ところで君はこんな朝早くから何を?」

「魔法の詠唱の練習をしています。この間の件もあったことですし、僕も戦えるだけの力を付けねばと思いまして。運動神経には自信がないし、ポケモンの技もよく分かりませんから、魔法を使えるようにしたいのです。」
「なるほどねぇ、その変な石柱は『アースニードル』の魔導書か……。とはいえ、見る限りまだあまり使いこなせていないようだね。」

ローレルに話しかけてきた黒魔法使いニンフィアのユーグは、懐中電灯を触手で持ちながら、ローレルの出した岩の針をまじまじと眺めている。

ローレルが呼び出した岩の針は80cmほどまでに長くなったが、形はぐねぐねと曲がり歪なままだ。さらに、ユーグが軽く攻撃しただけで途中からへし折れてしまい、強度にも問題があるらしい。


「針の歪さと脆さから考えられる原因は、呼吸や脈の周期リズムが崩れていることかな……。」
「あなたは魔法のこと、お詳しいのですか?」

「そりゃあまあ、これでも魔法アカデミーの黒魔法専攻の院生やってるからね。僕が使いこなせるのは黒魔法とか呪術だけだけど、土属性魔法だって同じことさ。ちょっと貸してみなよ。」

ユーグはローレルの持っていた魔導書を受け取ると、ローレルと同じ要領で詠唱を始めた。現れた岩針は、高さ20cmにも満たないサイズではあるが、綺麗に整った円錐形をしており、先端も鋭さとしなやかさを両立していた。


「僕は土属性に適性がないからこれで精一杯。けど君のより強度があるし、形も綺麗になってるだろ?」
「ええ……一体どうして……!?」

「君は詠唱時に変に力んだりしてないかな? 身体のどこかに力がかかりすぎると、そこで生命エネルギーの流れが滞ってしまう。そうじゃなくて、脱力しながら呼吸を乱すことなく一定のリズムで行って詠唱するんだ。」
「確かに……言われてみれば、詠唱するときに右手と両脚に力をかけてしまう癖があるような……。」

「ならちょっと寝転んで仰向けのまま詠唱してみようか。寝転ぶと力が重力で均等に分散するし、深くて遅くて一定の腹式呼吸に切り替わる。だからコツを掴みやすいと思うよ。」
「寝ながら……やってみます!!」

ローレルは早速その場に仰向けになって魔法を詠唱した。すると、120cmほどの岩針が明るみ始めた天に向かって一気に伸び、途中で折れ曲がることなく真っ直ぐに空を貫いた。


「凄い……あれだけ苦労してたのに一発で……!!」
「さてはメイさんにでも習ったね? あの子、天才肌過ぎて感覚でしか教えてくれないからね……。魔導書にしろ魔杖にしろ、適当にやっただけなのに凡才が逆立ちしても追いつけないレベルに一瞬で到達しちゃうし。」

「そ、そうだったのですね……。確かにメイさんに教えてもらいました。イメージは手取り足取り教えていただいたのですが、理論的なところが……。」
「あー、やっぱり……。まあ、今のでコツは掴めてきたと思う。後は頑張ってね。」

「ところで、ユーグさんはどうしてこんな時間に海岸に……? 僕のように魔法の練習ではないようですし、景色は真っ暗で見えませんし。」
「ああ……研究課題で徹夜してて、気分転換に散歩してたのさ……。この辺りはよく通るコースだからね。全く、あんなレポート出すなんて先生は鬼だ、悪魔だ、修羅だ!!!!」

ユーグの顔をよく見ると、一睡もせず研究をしていたのか大きく青黒いクマが出来ていた。ユーグは近くの散歩道の自販機で大きなエナジードリンクの缶を買い、喉を鳴らして飲みながら立ち去っていった。










 シグレたちは交代で見張りを続けて朝が来るのを待ち、洞窟の奥深くへと進んで行った。
昼間でも日光が一切届かない深淵の闇の中ではあるが、幸いにも道はそれなりに広く、時折足元にぽっかりと開いている、海水の滲み出している穴に落ちないように気を付けさえすれば、とてもスムーズに進むことができた。


「Complusの座標システムでは、後30分も歩けば出口に出ると表示されているよ。後もうひと頑張りね。」
「それにしても、妙な胸騒ぎがするぜ……。思い過ごしであることを願いたいが、こんな海辺の洞窟に誰もいない訳がねぇ。俺みたいな賊としては、こういう人目に付かない穴ぐらなんぞ、一番身を隠しやすい場所だからな。」

「? あれ、今何かトプンって沈むような音がしたような……?」

カムイが周囲をきょろきょろと見渡すが、特におかしな点は見受けられない。それなりに広い道幅の通路に、いくつかの穴が開いている光景が広がっている。穴には海水が満ち、波もなく穏やかな水鏡となっていた。


「何もおかしなところはないみたいだね……。うーん、何か不気味……。」
「……!!!! おい、アイツ、ミハイルがいねぇ!!!!」

「なっ!? さっきまで後ろにいたはず……!! ミハイル!? 一体どこにいるの? 隠れてないで出てきて!!!!」

カムイとシグレがミハイルを呼ぶが、その叫び声がこだまするだけで、ミハイルの返事は聞こえない。そのとき、カムイはふと近くの穴を見た。


「あの水面の泡……まさかミハイル……!!!! シグレっ、このロープお願い!!!!」
「おい、待てよどこ行くんだ!?」

シグレが止める間もなく、カムイはロープを身体に巻き付けて穴の中へ潜っていった。シグレはロープを軽く手で支え、カムイに万が一のことがあっても引き上げられるように準備している。

すぐに潜っていくロープの感覚が急に軽くなり、カムイが水面に浮上してきた。その腹にはミハイルが抱きかかえられている。


「おい、ミハイル!! しっかりしろ!!」
「ミハイル!!!! まだ意識はかあるのね? 水吐いて!!!!」

「ごほっ……げほっ……ぐっ…………!!」

ミハイルはシグレに背中を叩かれ、口から大量の水を吐き出した。一歩間違えれば肺に水が入り、呼吸困難の後溺れてしまっていただろう。


「バカ野郎、何でそんなとこに入ってたんだ!? 溺れ死ぬ気かお前!!」
「ダメっ……早くここから……はな……れ……。」

「どうしたのミハイル……!? ここから離れるって……?」

その瞬間、シグレの羽根の矢がカムイの方に放たれた。矢はカムイの顔の左スレスレを掠めて、何かに命中したようだ。


「チッ、逃げやがった……!! だが確かに命中させたぜ……。これで出て来ようとしても、海水に交じる血の色で分かるってもんだ。」
「何かが私を襲おうとしてたのね? ありがとうシグレ。私はミハイルを守る、シグレは周りの穴の警戒をお願い。」

「っ!! そこか!!」

シグレが背中の弓から大きめの矢を、少し離れた穴の入り口に放つ。少し赤くなった海中に、矢が消えてゆく。

敵を仕留めたかと思われたその瞬間、先程の隣の穴へ近付いたシグレの脚が、強烈に引っ張られた。


「何っ!? これは何かの尻尾か!?」
「シグレ……さんっ……!! やめろぉ、シグレさんに手出し……するなぁっ!!!!」

ミハイルが咄嗟にシグレと共に海中に飛び込む。二匹は穴の中へと消え、大量のあぶくがその入り口へと立ち上っていった。


いくつかの穴の入り口は内部で繋がっているらしく、その奥へ進むと広い空間になっていた。シグレは脚に絡みついた尻尾に矢を突き刺すが、敵は構わずにシグレを海中に引きずり込んだ。

「(あいつはハンテール……!! そうか、ボクを引きずり込んだときも、ああしてシグレさんと同じように……!! 今回はボクのときと違って、完全に海底へ潜る気か……!!)」

ミハイルの見つめる先にはしんかいポケモンのハンテールがいた。ハンテールは長い尻尾でシグレをがっちりと捕まえており、早い泳ぎでシグレを振り回し、水を飲ませて溺れさせようとしていた。


ハンテールはミハイルの姿に気付くと、ぐるぐると高速で回り、海中に渦潮を巻き起こした。

「(まずい……こんな流れじゃ脱出できない!!!!)」
ミハイルは流れに逆らおうとするが、上手く抜け出せずに巻き込まれていく。シグレはハンテールに振り回されたせいで力なくぐったりしていた。

ミハイルもやがてぐったりした様子で渦潮に呑まれていき、するすると海中へと引きずり込まれていく。


「(なんてね、この時を待ってた!!!!)」
ミハイルの目に生気が蘇る。渦潮の目に吸い込まれる水流が発生することを逆手に取り、ミハイル渦潮中央に陣取るハンテールに猛スピードで接近していった。

「(リーフブレード!!!!)」
渦潮の勢いで加速したミハイルは、きりもみ回転しながらハンテールの懐に潜り込み、強烈な一撃を叩き込んだ。

弱点である草タイプの高威力の一撃をまともに食らい、ハンテールは辺りを真っ赤に染めながら力なく沈んでいった。










「(くっ……!! シグレさんを引っ張って上がるのは難しい…!! どうしたら…!?)」
ミハイルはシグレの腕を引っ張りながら上に向かって泳ごうとするが、シグレの体重でどんどん沈んでいってしまう。

二匹が足元に広がる真っ暗な底なしの海に、ハンテールに続いて消えそうになったそのとき、突然天井が割れて何かが猛スピードで突っ込んできた。

その姿はカムイだった。硬い鱗に覆われ、鋭い爪と虎の顔を持つ化け物に乗り、海の中を弾丸のように下り、シグレとミハイルを捕まえるとそのまま一気に浮上した。


「はぁっ……はぁっ……。げはっ!!!!」
「大丈夫!? 君が敵を倒してシグレを救ってくれたんだね? ありがとう、ミハイル!!」

「ボクのことはいい……早く……シグレさんを……!!!!」

カムイは黙ったまま頷くと、すぐにシグレに応急処置を施した。シグレはすぐに水を吐き出し、意識を取り戻した。


「シグレさん!! よかった……無事で……何よりだよ…。」
「…………。お前が助けてくれたんだな、ミハイル……。例を言うぜ。それにカムイもな……。そこの変なのが俺たちを引き上げたんだろう?」

「ええ。この子、水虎かあんたたちを助けてくれたの。ありがとう、またしばらく休んでてね。」

カムイが水虎の硬い鱗に優しく触れると、水虎は嬉しそうに喉を鳴らして消えていった。


「でも一番はミハイルだよ。この子がいなければ、私もどうやって助け出せばよかったか分からない……。シグレが消え、手負いのミハイルがいる状況だし、何があるか分からない敵陣だし……。」
「ああ、全く無謀なことしやがるぜ……。だがお陰で助かった。本当にありがとうな、ミハイル。」

シグレはわずかに笑いかけながら、ミハイルにそう告げた。ミハイルも穏やかな笑顔で応える。


「あんたのそれも考えたものだけどね。あの3本の矢がなければ、穴が中で繋がってるとは分からなかった。3つ全ての穴が一ヶ所の広いとこに通じてると分かったから、安心して召喚魔法使って岩盤を破壊できたし。」
「あの矢で伝えたかったこと、お前なら理解してくれるという確信が何故かあったからな。」

カムイの言う通り、壁に羽根の矢が3本突き刺さっている。シグレは海中に引きずり込まれた後、内部の構造を伝えるため、海中から3つの離れた穴へ向かって同時に矢を放ったのだ。


しばらくシグレの回復を待ってから、一行は洞窟を先へと進む。やがて灰色のくすんだ空が彼方に見え、シグレたちは久々の外界へとその身を晒した。

「相変わらずの天気だね……。時間は午後過ぎか、急いで灯台まで向かわないと。」
「ねぇ、あれ……!!!! あの先に見える光がそうじゃない!? それに大きな船も岩に乗り上げてる……。」

ミハイルが彼方の黒い雲の下を大声で叫ぶ。道なりに進んだ遠くの岩礁に、大きな客船が座礁しているのが見え、その奥にはチカチカと光ったり暗くなったりを繰り返している、黄色い淡い光も垣間見られた。

「よし、ここからあの船への道は幸いにも崖上の足場のいいとこみてぇだな。早いところあの船へ侵入し、灯台を目指すぞ。」

シグレは座礁船へと続く崖上の道への階段に足を掛けた。カムイとミハイルも雨具のフードを目深に被り直し、シグレがひた進むその後を追っていった。

(To be continued...)

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