Episode 12 -Attractant-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 実技試験を終えたえっことローゼンは、ルーチェの店でピッツァはご馳走になっていた。えっこはふと思い出し、カイネが言及していた『ヘラルジック』についてルーチェに尋ねる。
一方、竹林ではシグレと謎のミジュマルの戦いが幕を開けようとしていた。
 カイネから、次の筆記試験に関する説明がされた。筆記試験は一週間後に行われ、1時間程度で終了するとのことだ。全ての試験の点数が総合的に判断され、ダイバー免許の合否と初期ランクが決定するとカイネは告げた。


「はっはー、やっぱりアタイの目に狂いはなかったねー!!!! ダイバーになってもいないのに二度もレギオンぶっ倒すなんて、アンタたち凄いよ!!」
「ありがと、ルーチェちゃん。それにこの絶品ピザを奢ってもらえるなんて嬉しいよ。」

「いいのいいの、ローレルちゃんの回復祝いと、青蛙君と軍服君の試験大成功のお祝いだ、今日は好きなだけピッツァを食っていきなよ!!」
「ありがとうございます、でもまだダイバー免許に合格した訳じゃないんですけど、ははは……。」

えっこはピッツァの切れ端を片手に苦笑いを浮かべていた。ローレルはまじまじとピッツァを見つめていたが、やがて小さな口を開けて一口かぶりついた。


「美味しいです……。とてもシンプルなのに、僕の家で出されていたディナーより何倍も美味しい……。」
「そのシンプルさが売りだからね。やっぱりピッツァはマリナーラに限る。うちの看板メニューでヒット商品さ。」

「そうだ、そういえばカイネさんに聞きそびれちゃったな……。ルーチェさん、『ヘラルジック』って何のことなんです?」
「あー、カイネ姐さんから聞いたのね? いいよ、見せてあげるから、ピッツァ食ったらちょいと庭先に出な。ここじゃ狭くてやり辛いしね。」

ルーチェはそう答えると、店のドアを開けて外へと出ていった。えっことローレルとローゼンは、ピッツァを慌てて食べ終えると、ルーチェを追って店の外へと飛び出していった。










 「さてと、この区画の竹ならそろそろいい感じの硬さかな?」
一匹のミジュマルが現れ、竹林に生えている竹の一本をコンコンと手で叩いてそう呟いた。ミジュマルはそのまま長刀を取り出して構えると、一閃の内に竹を切り倒してしまった。


「うん、これなら良いのが作れそうだね。」
ミジュマルが竹を確認して満足げにそう言った瞬間、何かが彼女に向かって飛んできた。ミジュマルは今度は短刀を使い、飛来物を弾き飛ばして身を守る。


「これは……。矢か何かか? おかしいね、この竹林に他にポケモンはいなかったはずだけど……。」
「おいラッコ女、お前何者だ? 何故ここにいる? 事の内容次第では、この場で串刺しにしてくれる。」

竹林の奥から現れたのはシグレだった。竹材で自作したと思われる弓矢を持ち、ミジュマルの元へと歩み寄ってきた。


「ここは長らく誰の持ち物でもないからね。私はもう3年は、ここで竹を切ってリード作りに使っているんだ。ここのじゃないと鳴りが悪いんだ、だから他じゃダメ。」
「り、リード?」

「えーっと、楽器の吹き口に取り付ける板みたいなものだよ。あれが粗悪だと、木管楽器は使い物にならなくてさ。」
「……。まあ何でもいい、勝手にこの竹林をうろつこうってなら、始末させてもらうぜ。悪いが、ここは俺の縄張りなんでな。」

シグレは使い慣れた自作の弓矢と、ジュナイパーだからこそ使える羽根の矢を駆使して嵐のような猛攻を放つ。

しかし、ミジュマルはそれらを上手く見切って避けていき、短刀を構えてみせた。


「あんまり見ず知らずのポケモン相手にこういうことしたくないんだけど……。相手がやる気なら仕方ないよね。悪いけど叩き斬らせてもらおうか?」
「随分余裕こいた口叩いてくれるじゃねぇか。まるで俺を倒せるかのような。悪いがその短刀も背中の太刀も、そう簡単には間合いに入らせねぇぞ。」

すると、ミジュマルが短刀をシグレに向けて突進してきた。シグレは迎撃のタイミングを図ろうとするが、次の瞬間信じられないことが起きた。


「なっ!? こいつ、一瞬の内に目前に!?」
「私がただの刀使いと思ってるなら、大間違いだっ!!!!」

ミジュマルの鋭い一閃がシグレの胴辺りを切り裂く。シグレは吹っ飛ばされて地面に倒れ込んだ。


「ぐっ……あんた、いつの間に……。」
「お前こそ、正直甘く見てたぜ……。お前の自信満々な様子を見て何かあると思ってた。懐に矢を一本隠し持ってて正解だったぜ……。こうなりゃ本気でその首に矢をぶち込んでやる……。」

間一髪で回避したのか、シグレの傷は致命傷には至っていないようだ。一方のミジュマルも、すれ違いざまにシグレが隠し持っていた竹串のような矢を、深々と左腕に突き刺されていた。
ミジュマルはその矢を引き抜くと、腰の辺りから何かを取り出した。

「本気を出させてもらうってのは私も同じだ。力の出し惜しみなんてしてたら殺されかねないからね、私もあんたを殺すつもりでやらせてもらう!!」

シグレはそう叫んだミジュマルの手元に、何か銀色の光るものを確認した。








 外で待っているルーチェの元に、えっこたちが転がり込む。ルーチェは徐ろにコートの裾のような後ろ羽根をかき上げ、胸元の辺りをさらけ出した。


「おわっ!? ちょっ、ルーチェさん何やってるんです!?」
「まーっ、アンタウブな子だねー!! そんなに顔を真っ赤にしなくていいじゃないかー!!」

「いやぁ……そういう問題じゃ……。」
「それより、コイツを見なよ。これ、この胸の横辺りにあるこれさ。」

ルーチェのサービスショットに思わず顔を赤らめるえっこをよそに、ルーチェは脇のずっと下辺りにある入れ墨のようなものを指し示した。そこには拳銃のような絵の周りに、手榴弾が配置されたような紋章が描かれていた。


「何ですか、この入れ墨は……? まるで何かのエンブレムのようにも見えますが、僕の知る紋章とも少し違うような……。」
「こいつこそが『ヘラルジック』。Heraldic(紋章)とMagic(魔法)を組み合わせてHeralgicって訳。要は魔力により収納された武器さ。」

「武器? 確かに武器の絵は描かれてるけど、収納された武器ってことは、そこから本物の武器でも取り出せるっていうのかな?」
「おー、さすが鋭いね軍服君。アタイも詳しいことはよく分かんないけど、魔力で質量と体積を極限まで圧縮した武器を、2次元の入れ墨の絵という形で閉じ込めてるらしいんだ。だからヘラルジックを開放するとこうなる。」

次の瞬間、ルーチェの両手に一瞬の内に小型拳銃が握られ、体中に仕込み手榴弾がぶら下げられた。


「わっ!? いつの間に武器が手に……? 何かの手品のようです、僕には早すぎて見えませんでした。」
「そりゃそうだ、魔力により0.04秒で武器が装着されるからね。いかにローレルちゃんの目がよくても、まず視認は無理さ。」

「その銃と手榴弾って、入れ墨に描かれていたものですか? それに入れ墨の色が透明に変わってる……。」
「そーそー、実物の武器を圧縮してヘラルジックにするから、絵は自ずとその武器と同じになるのさ。そして、ヘラルジックを実体化させている間は、入れ墨から魔力が消失するから色が消える。そんな感じだね。」

驚くえっことローレルに対し、ルーチェは銃をクルクルと回しながら説明している。すると拳銃や手榴弾が再びいつの間にか消え、入れ墨の色が黒に戻っていた。


「このヘラルジックを使えば、武器をいつでも出し入れ自由になってとても楽なのさ。しかもこんなことだってできてね、凄く便利なんだよ。」
ルーチェはそう告げると、再び拳銃と手榴弾を装備した。しかし次の瞬間には大型拳銃一丁と手に巻き付いたワイヤーに変わり、今度はリモートボムと起爆スイッチに変化した。


「なるほど、一瞬で武器を切り替えている……。複数のヘラルジック装備も可能なんですね?」
「まー理論上はいくつでもね。ただ、ヘラルジック入れるのめちゃくちゃ痛いよ。大の大人がギャンギャン泣きたくなるくらい。だからたくさん入れる奴もそこまでは多くないけどね。」

「そのヘラルジック、一体何でできているのかな? そんな苦痛を伴うなら、余程変なインクでも使ってるんじゃ……。」
「そうだね、とんでもない代物を使ってるんだ実は……。コイツの正体は、モノノケの体液さ。」

ルーチェの言葉に驚きと動揺を見せるえっことローゼン。あの危険なモノノケが死ぬときに残す赤い体液、あれこそがヘラルジックの不思議な力を実現させているのだというのだろうか?












 「何だこいつ……戦闘中に銀色の篠笛のようなものを取り出しやがった……!? どういうことだ……?」
ミジュマルが取り出したもの、それは楽器だった。ミジュマルはその銀色の横笛・フルートを構えると、音を奏で始めた。

フルートの甲高く美しい音色が響く中、呆気に取られていたシグレははっと我に返って攻撃を再開する。


「妙なことしやがって……何か事を起こす前に始末してやる!!」
シグレが放った矢がミジュマルに命中しようとした寸前、突然旋風が巻き起こってその矢を打ち落としてしまった。


「何だ、この蜘蛛みてぇなのは……!? 牛の顔に奇妙な身体をしてやがる…!!」
「召喚魔法で土の使いである妖魔・『牛鬼』を使役した。私のあのフルートは、魔法の譜面である『魔奏譜』を奏でることで、こうして式神や妖魔を使役することができるんだ。」

シグレの前に姿を表したのは、牛の顔に鋭い槍のような脚が8つ付いた胴体を持つ化け物だった。その不気味な怪物は、唸り声を上げるとシグレに飛びかかった。


「とんでもねぇもん出してくれやがったな!! 竹林がめちゃくちゃになっちまうぜ!!」
「まあ仕方ないよ。あんたを始末しなきゃ、安全に仕事ができなさそうだもの。さあ牛鬼よ、そのジュナイパーを切り裂け!! 我が名・カムイにおいて命ず!!」

カムイと名乗ったミジュマルの声に反応するかのように、鋭い脚が刃物のごとくシグレに斬りかかる。
シグレは素早く回避していくが、敵は8本も脚があるために、次から次へと攻撃が飛び交い、反撃する隙を見つけられない様子だ。


「くっ……こいつ、見た目以上に攻撃が素早い……。このままじゃ防戦一方になっちまう!!」
そのとき、脚の一撃がシグレを吹っ飛ばし、太い幹を持つ一本の竹に激突させた。


「痛ぇ……脚の根本だっただけに、真っ二つにされずには済んだか……。それにこの竹、相当弾力性があるらしい。俺の身体の衝撃を逃してくれたんで助かったぜ。」
シグレはよろよろと起き上がる。そして怪物に矢を叩き込むが、あまり効いているようには思えない。


「やはりこいつにいくら攻撃しても無駄か……。だがこの化け物はあのラッコ女の命令で動いている。そるなら、奴を直接叩くことができたなら……!!」
シグレは怪物の攻撃を回避すると、竹林を逃げ回った。その間も、時々フルートの旋律が耳に飛び込んできた。どうやら怪物の召喚維持には、時々演奏を続けてやらなければならないらしい。


「こんなことでやられる訳にはいかないんでな。必ず復讐を果たすその日まで、俺は死ねん!! この戦い、勝機は既に見えている!!」

シグレは竹林の中に姿をくらませると、カムイを倒すための行動を開始した。一方のカムイは悠々と竹林を歩き回り、怪物に指示を出すかのように演奏を断続的に行っていた。

シグレとカムイの攻防戦も、そう遠くない内に決着の時が訪れそうだ。


(To be continued...)

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