Episode 6 -Sound of hearts-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 えっこはダイバーになるべく、ダイバー連盟会長のケルディオ・マックスウェルに面会する。一方のローレルは、休み時間に知り合ったハリマロン・カザネの案内で、彼の所属する部活を見学するのだった。
 「ようこそ、ダイバー連盟へ。ここに来たということは、ダイバーとしてのキャリアに興味があるということだね? 歓迎するよ。」

ダイバー連盟の会長室に招かれたえっことローゼン。会長であるわかごまポケモンのケルディオは、その蹄を握手代わりに差し出した。


「僕の名はマックスウェル。この連盟の代表を務めている。今はダイバーとしての現職は退いてはいるけど、最高ランクのマイスターランクだよ。」
「本日はお忙しい中ありがとうございます、マックスウェルさん。」

「いやいやー、それはこっちのセリフだよー。まあ、色々説明しなくちゃだから座って座って!!」

マックスウェルは何ともフランクな雰囲気で、えっこたちにそう告げた。会長との面会に身構えていたえっこも、どこか緊張がほぐれている様子だ。


「さてと、まずは契約内容からだ。要点をかい摘むと、まず報酬について。報酬に関しては、依頼主との間に交わされる出来高制となる。報酬の受け取りは、前払いでも成功後払いでも大丈夫だよ。」
「この契約書にある通り、報酬元値の50%がこちらに、残り50%が連盟にということですね?」

「そうそう。まあ、報酬に関してはそこら辺の仕事よりは余程高給なことは保証するよ。何せ後で触れるけど、とても危険な仕事だからね。元値の半額でも十分な額だと思う。まあ、依頼次第では無償やそれに近い形で受けようが、それは依頼主との交渉次第で自由だけど。」

契約書に目を通すえっこに対し、マックスウェルはそう答えた。


「それと、チームについて。ダイバーとなればどこかのチームに加わるなり単独で依頼に挑むなりすることになるけど、原則新規参入者は、経験者のいるチームに入らなくてはならない。」
「要は単独行動や、僕とえっこの二人だけでチームを組むことは許されないと。」

「そうなるねー。どうしても初心者だけで仕事をやってもらうのは危険すぎるからね。こればかりは仕方ない。」

その言葉を聞いたローゼンは、しばらく考え込む素振りを見せた後、えっこに対して提案をした。


「じゃあ、残念だけど別々に相手を探すとしようか。」
「同じチームにならないんです!?」

「やはり初心者二人が同時に入るのは難しいところがあるかもしれない。ルーチェちゃんたちのチームも3匹だったでしょ? 恐らくは大人数のチームは組まないのだと思う。だとしたら、一人ずつどこかに入れてもらう方がいいと思う。」
「なるほど、ひとりずつならどこかのチームにねじ込むこともしやすいと……?」

えっこがそう質問すると、ローゼンは静かに頷いた。









 「僕はローレルといいます。このアークにはやって来たばかりでまだまだ分からないことばかりだけど……よろしくお願いします。」

アーク高校の昼礼はホームクラスで行われる。各生徒がそれぞれ別の授業を取っているため、クラスルームにはロッカーと簡素なテーブルと椅子が置かれているだけだ。
特に決まった席はなく、それぞれの授業は各教室で別々に行われる。

ローレルがクラスに挨拶を済ませると、担任の教師であるミュウが話しかけた。


「まだ慣れないかもしれないけど、困ったことがあったら何でも言ってね、ローレルちゃん。」
「ええ、ありがとうございます。ニア先生。」

教師というより小学生か中学生くらいにも見える幼い見た目のミュウ・ニアに促され、ローレルは空いている席へと移動した。そのまま伝達事項などが伝えられ、午後の授業までの昼休みとなった。


「やあ、転校生なんて久々だよ。一緒にお昼、大丈夫?」
「ええ、構いませんよ。一緒に食べましょう。」

ローレルの隣に座っていたハリマロンの少年が話しかけてきた。普通のハリマロンとは違って頭のトゲの先が青緑色になっており、眼鏡をかけ、首には青と緑の縞模様があしらわれたフック付きのストラップがかけてある。


「僕の名前は『カザネ』。君はローレル君だね?」
「ええ、ですが僕は女性です。一人称が僕なのでややこしくてすみません…。」

「あわっ、そ、それはごめん…。ローレルさん、でいいかな、あはは……。」
カザネは齧ろうとしていたリンゴを机に落とし、慌てて拾いながらそう返した。


「ローレルさんは履修する授業は決まった? よかったら僕の取ってる授業見ていく?」
「そうします。よろしくお願いします。」

「あー、何というか、そうかしこまらなくても大丈夫だよ、僕たち同い年だしね。」
「不快でしたらすみません、でも僕はこの口調の方がやりやすいので……。」

どこか淡々としているローレルに、カザネは少しバツの悪そうな感じを見せていた。しかし、気を取り直してローレルに次の話題を持ちかける。


「そうだ、部活とか興味ない?」
「部活動……ですか?」

「うん、この学校には色々部活があってね。よかったら僕のとこを見に来ないかい? みんな歓迎するよ。」
「ええ、せっかくですから是非。」

カザネはその言葉を聞き、とても嬉しそうな表情を浮かばせた。ローレルはそんなカザネの表情には目もくれずに、えっこが作ってくれた大好物の炒り卵を挟んだパニーニを齧っていた。








 「えーと、それから最後に最も大切なことについて確認しておくね。さっきから何度も言及してる通り、この仕事は本当に危険なものだ。物探しや行方不明者の捜索程度ならまだしも、中には盗賊団やお尋ね者、モノノケやレギオンなんかを逮捕・討伐する依頼もある。」

マックスウェルの言葉を聞いて、えっこはどこか緊張した面持ちを見せた。ポケモンになってすぐ戦った巨大生命体・レギオン。ダイバーとなれば、それらとまた対峙することになるのは明白だった。


「怪我や事故なんてしょっちゅう、中には重傷を負ったり、最悪の場合は命を落とすケースなんかもある。それだけは伝えておかなきゃならない。ダイバーは困っているポケモンを救うヒーローみたいに見えるかもだけど、その裏で流れた血は数知れない。それは隠しようもない事実だ。」
「それでも、俺たちはやります。その覚悟でここに来ています。」

「うん、その目は本物みたいだ。けどそういう危険な仕事だから、ダイバー用の共済保険に入ることは義務付けさせてもらってるよ。1件でも依頼を受けた月は、毎月10000ポケを給与から天引き計算することになる。万が一のことがあるといけないからね。」

マックスウェルは先程とは明らかに違う真剣な表情で説明を続けた。やはりダイバーたちの生死にも関わりかねないことなので、特に重要な事項といえるようだ。


「さて、基本的な説明はこんなもんかな。これからのことだけど、まずは面接試験を受けてもらう。まあ、面接といっても今回のこととかの再確認と簡単な質問だけで、特に振り落とす意図でやるものではないけどね。」
「面接試験はいつ行われるんですか?」

「えーと、多分平日だしこの後でも大丈夫だと思うけど、どうしようか?」
「では是非お願いします。」 

えっこがそう告げると、マックスウェルはどこかへ電話をかけた。しばらく会話を続けた後、彼は電話を切っておもむろにキーボードを叩き、一枚の紙をプリントアウトした。


「そこに行けばいいよ。ダイバー試験でニアに面会したいと伝えたら、すぐ分かると思う。」
「あの……ここってアーク高校じゃ……?」

「そうだね、実は面接官はそこの教師なんだ。彼女の名前はニア。可愛らしい見た目だけど、実はさんじ……ゲホンッ、いけないいけない、エチケットがなってないね、そんなこと言っちゃあ。ははは……。」

マックスウェルはわざとらしく咳払いをしてお茶を濁す。えっこもローゼンも、訳が分からないという目つきをしていた。








 午後3時。この日の授業は全て終了し、ある者は帰路に、ある者は部活にとそれぞれ別れて行動を開始した。


「やあ、ローレル…だっけ? えっこさんから話は聞いてるよ。編入おめでとう、仲良くやろうぜ!!」
「アルバートさん、こちらこそよろしくお願いします。」

「あー、俺のことはアルバートでいいって、それより今日はもう帰るん?」
「いえ、カザネさんが体験入部に誘ってくれましたので。」

アルバートはその言葉を聞いて、少し引き攣った顔をした。


「あー……。あいつのとこってことは、吹奏楽部か……。」
「何か問題でも? 彼は至って親切かつ善良に思えましたが?」

「いや、別に問題はないよ、問題は……。けどあいつ、楽器とか音楽のことになるとうるせぇからな……。熱が入りすぎっていうか……。」
「僕は構いませんよ。面白い話が聞けそうですから。」

ローレルがそう答えると、アルバートは苦笑いをしてみせた。


「まあ、楽しんでくるといいんじゃないかな。因みに俺はフェンシングやってるんだ。運動だけが取り柄だし、将来は大学で騎士課程に進みたいからな。ローレルも今度覗いてみるかい?」
「せっかくのお誘い大変申し訳ないのですが、僕は運動神経は壊滅的でして……。」

「あー、そっか……。まあ、みんな向き不向きがあるもんな。それならカザネのとこの体験入部、楽しんできなよ。それと入部を押し付けられたらすぐ言いな。一発蹴飛ばしてやるからよ。」
「暴力に訴えるのはいけません。入部はあくまで僕自身で判断しますから大丈夫ですよ。では、行ってきますね。」

ローレルは顔色一つ変えることなくアルバートの冗談に対し真面目に答え、カザネとの待ち合わせ場所へと向かっていった。
アルバートは少しやりにくそうな顔をしていた。








 校舎の最上階の角部屋が音楽室になっている。ローレルが中に入ると、カザネが片目を瞑りながら、何やら黒いものをじっくりと眺めていた。

「カザネさん、今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ!! 見ての通り、僕らはこの高校の吹奏楽部をやってるんだ。部員は36匹だからまあ中規模くらいかな。取り敢えず、一通りのパートは揃ってるっちゃ揃ってる。」

カザネはローレルにそう告げると、再び黒い物を弄り始めた。


「それは一体?」
「ああ、こいつは『マウスピース』だよ。そこに『リード』と呼ばれる小さな木の板みたいなものを取り付けて固定し、楽器にくっつけるんだ。」

カザネはそう説明すると、銀色のS字のような形をした楽器を組み立て、首につけたストラップに装着した。リードを舐めるようにして湿らせると、息を吹き込んでみせた。


「綺麗な音色ですね。あまり僕の故郷では見かけない形の楽器ですが?」
「これは『サクソフォン』、通称サックスって呼ばれてる。特殊な息の入れ方をするとこのリードが振動して、その音が管内を反響して綺麗な音色になるんだ。」

ローレルは無表情ながらも物珍しげに楽器を眺めていた。すると、カザネがマウスピースをもう一つ取り出し、リードを取り付け始めた。


「試しに吹いてみる? 君の場合体格は小柄だから、このアルトサックスが丁度いいくらいかな。」
「どうすれば音が鳴るのですか?」

「やること自体はシンプルだよ、下唇を上の前歯の下にちょっと巻き込むようにしてマウスピースを軽く咥え、脇から空気が漏れないようにしつつ息を入れるだけ。」

楽器を首から下げてもらったローレルは、カザネの指示通りに息を楽器に吹き入れた。しかし、かなり強めに息を入れているにも関わらず、掠れたような弱く汚い音が出てしまう。


「上手く行きません。失礼ながら、この楽器は僕には合わないのかも知れませんね。」
「そんなことないよー、全くの初心者にしては、それなりに音が鳴ってたよ? でもまあ、無理にとは言わないし他のも見てみよっか、さあこっちこっちー!!」

カザネは嬉しそうにローレルの手を引いて歩き始めた。ローレルはカザネに続いて音楽室を後にした。


「君は小柄だしとても繊細で精密そうな性格してるから、うーむ……。」
「あれは何でしょうか? とても独特な音がしますが。」

ローレルが指差した先には、一匹の可憐なアシカのようなポケモン・オシャマリがいた。彼女は黒い小さな楽器を構え、どこか温かみのある繊細な音を奏でていた。


「うーん……、確かに性格や体格はいいかもだけど、あれは吹きこなすのがとても難しくてね……。『オーボエ』という楽器なんだけど、マウスピースが存在せず、二枚の薄い小さなリードがあるだけなんだ。それを直接咥えて息を吹き込む。息は殆ど必要ないけど、使いこなすのが本当に難しいんだ。」
「なるほど、初心者でいきなり入って足を引っ張っては一大事ですね……。他によさそうなものはありますか?」

「あーっと……。あ、そうだセレスさんのとこならいいかも。」

カザネは思い出したように顔を上げると、ローレルを次の場所に案内した。そこではピンク色のモフモフした羊のようなポケモン・モココが楽器を組み立てていた。


「セレスさーん、ちょっとお願いがあるんだけどいい?」
「えーと……うん、だ、大丈夫……。」
掠れそうな弱々しい声で答えた彼女は、手に銀色のラッパを持っていた。


「それは、トランペットですか?」
「そうそう!! 見たことあるみたいだね、それなら話は早そうだ。」

「セレスさん、ですね? 僕はローレルといいます。今日転校してきたばかりで、今はカザネさんにこの部を案内していただいているのです。」
「珍しいのね……転校生かぁ…。私はセレス、よろしくね……。」

少しおどおどしたような態度で、セレスはローレルに挨拶をした。どこか頼りなさそうな様子にも思える。


「ちょっとその楽器を紹介したいから、即興で何かやれる?」
「分かった……。ピッチ合わせてないから……ちょっと音程ズレてるかもだけど……。」

するとセレスが楽器を構えて演奏を始めた。トランペット特有の明るく高い音が勇ましくこだまし、とても先程の弱々しい雰囲気のセレスが奏でている音とは思えないくらいだった。


「す、凄いです……。とても力強くて勇ましい感じがしました。」
「ありがと……あなたも少しやってみる?」

「この前トランペットの担当が一匹辞めちゃってね……。いくら実力派のセレスといえど、トランペットが一本だけじゃかなりマズいと悩んでたところなんだ。もし君がここに入れたら、本当に喜ばしい限りだよ!!」

ローレルは早速セレスのものとは別の、オーソドックスな金色塗装の楽器を構えた。


「マウスピースの形がサックスとはかなり違いますが……。」
「サックスは木管楽器、トランペットは金管楽器だからね……。少し難しいけど、『う』のような『お』のような唇の形で、両唇の中心に小さな穴ができるように形作るの……。こうやって……。」

セレスがやってみせたように、ローレルも見様見真似で口の形を作った。

「そう…。その『アンブシュア』の形のまま、唇の穴から吐き出す空気で振動を起こして。」
「こんな感じ……ですか?」

ローレルが言われた通りに吹いてみると、一瞬ではあるがフワンとした軽い音が鳴った。


「うーん……。難しいです。」
「でも凄い……。金管、それもトランペットみたくマウスピースの小さな楽器なのに、初見で鳴らすなんて……。」

「そんなに珍しいことなのですか?」
「さっきのサックスなんかは音自体はかなり鳴らしやすい楽器なんだけど、金管全般は普通はどれだけ早くても、初心者が音が出せるようになるのに丸1日はかかるよ。」

「ローレルさん……だよね? よかったら私のパートに入らない……? 初心者だから大変かもだけど……やる気次第ではそう遠くない内に、簡単な曲とか、セカンドパートの譜面ならできるようになると思う……。」

セレスはどこか興奮気味にそう告げると、ローレルの手を取ってその目を見つめた。


「ええ、いいかも知れません。前向きに検討します。ところで、その譜面がトランペットのものですか? 意外と長めの音符が多い印象ですが……。」
「えっ? あ、あなた、楽譜読めるの……?」

「はい、両親の方針で各種情操教育は幼い頃から受けていましたから。3歳のときから11歳でパブリックスクールに入るまで、ピアノとバイオリンのレッスンを受けていました。」
「凄い…!! か、完璧じゃない……!! ぜ、是非来てほしいわ…!!」

セレスは先程よりより一層目を輝かせてローレルの手を引いた。弱気な性格のセレスとしては、かなり必死に勧誘している様子が目に見える。









 「おや、あなた方はこの間森で見かけた……。」
「君は確か、ルーチェさんやメイさんと行動してた……!?」

アーク高校へとやって来たえっことローゼン。学校の門を出た先で、モノノケと対峙した際にルーチェと共に戦っていたリオルと出くわした。
以前会ったときとは違い、青い薄手のマフラーを身にまとっている。


「僕は『ツォン』と申します。しかし、どうしてこんなところに?」
「何でも、ダイバー面接試験の担当者がここにいるらしくてねー。確か名前はニアとか言ってたっけか。」

「ダ、ダイバーになるのですか!? 失礼ながら、そんな無謀なことをされなくても……。」
「ルーチェちゃんのお墨付きだよー。僕らなら大丈夫そうだって、ははは。」

ローゼンから説明され、ツォンもメイに話したときと同じく、何ともいえない苦笑いを浮かべていた。


「ところで、君は何故ここに? 高校の生徒なのか?」
「ええ、今年からこちらに通い始めました。ニア先生なら2年生の担当教師なので直接のコネはないのですが……。恐らく今の時間帯なら音楽室でしょう。吹奏楽部の顧問ですから。」

「ありがとう、職員室に問い合わせる手間が省けそうだ。」
「いえいえ。既に会長から連絡が入っているなら、すぐに対応してもらえるかと思います。落とされることはないかと思いますが、お気をつけて。」

ツォンはそう告げると、そそくさと早歩きで立ち去ってしまった。恐らく放課後に部活に行かない以上、他で忙しい予定でもあるのだろう。


校舎の最上階に向かったえっこたちは、音楽室のドアをノックする。すると、ニアがゆっくりと入り口の引き戸を引いて開けた。


「君たちがえっこ君とローゼン君かな?」
「はい、あなたがニアさんですね? 本日はよろしくお願いします。」

「いやいや、大丈夫だよー。さ、早速面接に行こうか。ついて来て。」

ニアはえっこたちを連れて階下へと向かう。と、そこに基礎連を終えたセレスたちがやって来た。

「あ、ニア先生……。お客さんですか?」
「ダイバーの面接試験だよー。ちょっと全体合奏は行けないから、カザネが取り仕切っといてくれるかな?」

「はい、任せておいてください!!」
勢いよく返事をするカザネの横から、トランペットを持ったローレルが現れた。


「あれっ、ローレルじゃないか!? どうしてこんなところに?」
「そこの彼、カザネさんに誘われて部活を見ているのです。今のところは、ここをとても気に入ってますよ。入部も検討しています。」

「カザネ……カザネ……。うーむ、どっかで聞いた名前だね……。」
「あっ、そうだ!! 確かマーキュリーさんの弟さんなんじゃ!?」

えっこが思い出したようにローゼンの疑問に答えた。ローゼンはそうだったと言わんばかりに手をポンと叩く。


「あー、兄貴に会ったんですね……。バカなこと言ってご迷惑かけませんでした?」
「とんでもない、メイさんもマーキュリーさんも、ダイバーとか魔法のこととか、色々教えてくれて本当に助かったんだから。」

「申し遅れましたが、僕はカザネといいます。こちらはトランペットパートのセレス。」

カザネは少しだけ苦笑いを見せながらも、すぐにえっこたちに自己紹介を始めた。


「俺はえっこだ。ローレルとは幼馴染で、今は訳あって一緒に住んでる。」
「僕はローゼンだよ。また会う機会があればよろしくね。」

「ええこちらこそ。おっと、全体合奏へ向かわねば……。ではご武運をお祈りしていますよ!!」

カザネはえっこたちを見送り、音楽室へと向かっていった。
やはり余裕綽々な感じのお気楽ローゼンに対し、えっこは少し不安げな顔をしている。これから先に待ち受ける試験に対し、えっこたちがどのような活躍を見せるのか。それは今は誰にも分からないことである……。


(To be continued...)

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