9.太古に生まれた少女の話 上

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 あれから、島には十二回の冬が訪れました。
 村で生まれた女の子も物心ついてからしばらくは母親から離れませんでしたが、少しずつ成長していき、今では村の住人たちから仕事の手伝いを頼まれるほどになっていました。


 東の山から太陽が顔を出し始める頃。
 村の住人たちは徐々に家から出ていき、各々の仕事に取り掛かり始めます。
 辺りで群がっていたポケモンたちは村が賑やかになると、村から離れて遠くの山へと姿を消していきました。
 今日も村の1日が始まりました。

「それじゃあ、行ってくるね」

 女の子も身支度を整えると、颯爽と家を飛び出します。

「ちょっと待って」

 今にも走り去ってしまいそうな女の子を、背後から母親が呼び止める。
 
「なぁに?」

 振り返ると、母親は嬉しそうに笑みを浮かべて女の子に近寄って来ました。
 そして女の子の首に大きな輪っかを潜らせます。
 輪っかの先には大きな木の実がぶら下がっていました。

「これを持って行きなさい」

「なにこれ、重たいよ」

「この木の実は中を綺麗にくり抜いて、飲み水を汲んでみたの」

 木の実を揺さぶると、たぷたぷと水の音がした。
 実の上部を引っ張ると、カポッという音がして上部の蓋が取れると飲み口が現れました。

「近頃暑くなって来たし、これなら何処にいても水が飲めるでしょ」
 
 確かに、これは便利かもしれない。
 この実は外側がとても硬く、味も渋くて美味しくなかったが、こんな使い道があったとは。
 女の子は母親からのプレゼントをとても喜んだ。

「ありがとう!これ、帰ったら作り方教えてよ。たくさん作って、村の皆んなにあげようよ。きっと喜ぶよ!」

「ええ、そうしましょう。なら今日はこの実をいくつか持って帰って来てくれるかしら」

「うん、わかった!」
 
 女の子は母親に手を振り、家を後にする。
 空を見上げると雲一つない青空で、女の子は今日は何か良いことが起きそうだと胸を躍らせました。

 
 農業をする者、家を建てる者、集まって談笑をする者、女の子はすれ違う人全てに笑顔で挨拶をします。
 村人たちはみな、女の子の元気な挨拶に負けないくらい明るく返事をしました。
 女の子は村一番の人気者になっていました。

「よお、今日は何処まで行くんだい?」

 村の出口に差し掛かかると、頭上からこちらを呼び止める声が聞こえてくる。
 女の子が頭を上がると、高台の上から弓を持った若い男が見下ろしていました。
 男の腕には三角の形をした刺青が3つ入れられている。これは村で大きな功績を残す度に与えられる勲章のようなものです。

「今日はね、山の麓まで行ってきます」

「おおー、結構遠くまで行くんだな。たしかに、あそこには色んな木の実が成ってるんだよな。親父さんに教えてもらったのか」

「えへへ、そうなの」

「ついでに俺の好きな奴も沢山取ってきてくれよ」
 
「えー、あの赤くて辛い奴でしょ?あれ全然美味しくないよ」

「俺ぐらいの歳になってくるとな、あの刺激がクセになるんだよ。お前ももう少し大きくなったら分かるさ」

「ふーん」

 女の子が体を揺らす度に、腰の方でたぷたぷと水の音を鳴らしている大きな木の実にふと男は視線を送った。

「ところで、腰につけてるそれはなんだ?」

「これ、中をくり抜いて中に飲み水を入れてあるの。いつでもどこでも水が飲めるんだよ」

「へぇーー!そりゃあ便利だ。俺にも一個作ってくれよ」

「そのつもりだよ!だから今日はこの実を沢山採って帰るんだ」

「そりゃあ楽しみだ!」

 高台の男に手を振ると、女の子は意気揚々と村を去っていきました。


 

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