町への協力者(デューク視点)

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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 皆が村を出てからしばらくの間、儂は村でのんびりと……ということはなく、イツキ達の役に立つような情報を地道に集めていた。もっとも、村や外の者に聞こうとは考えておらん。彼らにとっては変わりようのない知識。得られるものはあまりないじゃろう。
 イツキが言っていた、「常識」を「非常識」へと変える「鍵」。あの時は知らないと言ったが、馴染む邪魔になるとしばらく使わないと思っていた方法で調べを進めた結果、その「鍵」がハッキリとわかった。いや、この場合は「鍵」というより「元凶」と言うべきか。
 アスタ達、特にアスタは恐らく原因はイツキにあると考えているじゃろうが、正確にはイツキはあまり関係していないと言える。元をただせば全ては「鍵」が原因と言っても過言ではないのじゃからな。
 これによってイツキ達は儂が言った場所を巡る旅を続けなくていいとわかったが、肝心の「元凶」の居場所が掴めん。彼の目的は「鍵」を探すことにあるのじゃから、どちらにしても旅を続ける必要はあるじゃろう。
 問題はどうやってこれをイツキ達に知らせるか、じゃ。電話などというものはテレパシーで代用するからか存在せず、メールも近いものはあるが届くのに最低数日はかかる。それについでで集めた情報によると、イツキ達は焔の町を目指しているという。
 あそこは特定の条件を満たすポケモンしか入ることができない。イツキ達の中にその条件を満たす者は一匹もいない。当たりを求めて近くを彷徨うのもよいが、それだと騙された時が恐ろしい。何よりイツキや他の者をそんな目に遭わせたくない。
 こうなったら、儂が直接行った方が何かと早い。サラに留守番を任せ、焔の町を目指す旅を始めることにした。儂を心配して一緒に行きたがっていたが、旅の危険さを改めて教えると渋々諦めてくれた。
 つまらなさそうな表情を浮かべながらも送ってくれるサラを見ながら、旅を諦めさせる要因となったもう一つを思い出す。じゃが、それは彼女が知らなくてもいい事実。サラにはここで楽しい記憶だけを作って貰いたい。すぐに隅に押しやると、儂は村を出た。
 それから目的地までの長く険しい旅が始まった……と語ればいいのじゃろうが、実は儂には情報と似たような方法を使ったショートカットがある。必要だろうと色々な情報を仕入れながら行ったのじゃが、なかなか大変なことになっているようじゃった。
 宵闇の町にあった研究所は「事故」により完全に倒壊。研究所の持ち主であるクチートは行方不明となったらしい。彼女は警察と組んで前々から危険なことを繰り返していたようだから、相応の結末を迎えたと考えるべきじゃろう。
 その時まで知らなかったが、どうやら儂の知り合い達も彼女の「世話」になっていたらしい。時期を考えると無理やりだったろうから、記憶が完全でない状態での訪れだと想像するのに難くない。片方は残念でならないが、片方は今までの罰が下ったと考えるしかない。
 クチートが関わった出来事から警察にも捜査のメスが入ったらしく、色々と変わったという。一部の住民が警察から出た噂を聞いてもなお行方不明になったカフェのマスターを探しているとの情報も入ったが、今の儂にはあまり関係のないことじゃ。
 以降は特にそれといった情報も入らず、あっという間に焔の町の前にまで来てしまっていた。村を出てから着くまでにかかったおおよその日数を聞いた者は一体どうやったのかと驚くかもしれぬが、方法が方法じゃから仮に教えても実行できないじゃろう。ある意味ズルじゃからな。
 それからしばらく焔の町近くの場所に滞在しようと思っていたが、じっと待つのでは先に真偽のわからぬ協力者を見つけてしまう可能性が高い。せめて直前の町で待とうと思い移動すると、町でちらほら少し変わった一行を見かけたという話が聞こえてくる。
 一行はイーブイの進化形の集まりで、大きな町からでも来たのかほとんどの者が腕輪をしている。リーフィアが二匹いたが、一方が意識のないように見えて心配だった、とのことじゃった。
 ……偶然にしては、儂が知る者達と特徴がよく一致している。気の利いた奇跡でも起こらぬ限り、ポケ違いという可能性はないじゃろう。腕輪は恐らく「幻影に魅入られし者」、ちらと仕入れた情報によるとジャックというゾロアークから貰ったとしても、じゃ。
 リーフィアの一方――話だけではイツキがアランかはわからぬが――の意識がないのはなぜじゃ? 宵闇の町以降、特にこれといって気になるような情報はなかった。だというのに、意識がないということは。
 儂の中で一気に嫌な想像が膨れ上がる。こうなったら一刻も早くイツキ達がいるところに行かなければ、と聞き込みをしていると、ある宿にいることが判明した。用があると半ば強引に部屋の場所を聞くと、嫌な想像をかき消すために勢いよく扉を開ける。
 その瞬間、儂の目に飛び込んできたのは泣いているリーフィア、驚いた顔でこちらに向かうサンダース、互いに睨み合うシャワーズともう一匹のリーフィア、場違いな笑顔を浮かべかけているブラッキー。
 色の違いから一瞬混乱しそうになったが、雰囲気などからイツキ、クレア、エミリオ、アラン、ディアナであることがわかる。サリーとウェインが見当たらぬが、どこに行っておるのじゃろう。そう急がず、もう少し情報を集めるべきじゃったか。
 色々と聞きたいことは多いが、ともかく予想していた事態は起こっていないので安心する。いや、ディアナが怒りかけている時点で安心してはいけないの。別の意味で最悪の事態が起こってしまう。
 とりあえず儂はこの何とも言えない空気を吸うと、挨拶代わりの言葉を吐き出した。

「……ここまで来たかと思い訪ねてみたら、何だか物騒なことになっておるのう?」



 儂の登場に空気が止まったと思ったのも一瞬で、すぐにどうしてここにいるのか、何も言っていないのに自分達だとわかったのか、なぜこのような状況になったかといった質問や報告の嵐が飛んでくる。そのほとんどはディアナやクレアで、他の者はどちらかというと単なる意見じゃった。
 なるべく聞き流さないようにしていると、イツキが「憑き者」なる存在となってアスタ達を宿しているという衝撃の情報が入ってくる。そのような現象は聞いたことがあったが、名前があるとは知らなかった。名づけ親は誰じゃろう。
 そう思いつつ、先に質問に答えるべきかと口を動かす。
「ここに来たのは、儂こそがアスタが言っていた『協力者』だからじゃ。こう見えても出身は焔の町なのでな。わかったのは、お主達を色だけでは見ていないからじゃな。どうやって来たのかは、儂独自の方法で、としか言えぬのう……」
 正確には本当に町の出身ではなく「そういうことにした」のじゃが、通用するのだから問題はない。理由は「どうやって来たか」を説明するのと同じくらい面倒というか混乱を招きそうだからそういう他あるまい。
「あと、エミリオ達の言うことでイツキはこれっぽっちも悪くない。恐らくアスタが勝手に判断してやったのじゃろう。あいつはたまにそういうところがあるからの」
 儂の言葉のお陰かこの場の空気が徐々によくなり、イツキの目から涙は消えエミリオ達も睨み合うのを止めたようじゃった。ディアナも場違いに笑むのを止めておるし、これで本当に安心できる。
 早速皆にあのことを伝えようと思ったところ、さっと視線を巡らせたクレアが先に口を開いた。
「じゃあ、もうここに留まっている理由はなくなったね。早く焔の町に行くよ」
 クレアが出ると他の者達もそれに続いていく。強引に止めるのもアレなので、儂もそれに続くしかない。なぜかそのまま出て行っても宿の者は何も言わなかったが、イツキを見てかなりホッとしているのがわかった。……真実を知らなければ、優しい者ばかりじゃ。
 特に問題もなく町を出ると、目と鼻の先にあるだけあってあっという間に焔の町の前まで辿り着くことができた。大きな門の前では番人であろうブーバーンとリザードンが、入ろうとするポケモンの多くを追い払っているのが見える。
 中には強行突破を試みる者もいたが、そのポケモンは見つかり次第――。
「うおっ!?」
 その瞬間を視界に入れないよう、そっとイツキの目を尻尾で隠す。幸いなことにイツキは全く別の場所を見ていたのか、隠した理由がわからないようじゃった。苦闘しながらも尻尾をどかすと質問を飛ばそうとしたのか口を開きかけていたが、エミリオが静かに止めていた。
 視界の端で哀れな者のデータが消えていくのを見ながら、儂は早く門の前に行くよう促す。イツキは不思議そうな顔をしながらも、他の者は何も言わずに門の前へと早足で移動を始めた。
 ……なるべく早くあのことを話そうと思っているのじゃが、今話すのは場所的によくないの。町で「鍵」のことを聞く必要もある。もう少しタイミングを計るのが吉か。
「待て、そこの一行。条件を満たしているか確認させて貰おう」
 目の前にまで行くと、見ていたのと同じようにブーバーンとリザードンが立ち塞がる。目配せしてから儂が前に出ると、リザードンが虚空に向かって手をかざした。一瞬だけ鳴り響く電子音。
「……無事に確認できた。さっさと通るがいい」
 リザードンの言葉が終わるのとほぼ同時に、ブーバーンが門の扉を開いた。辺りに重たい音が響き、後ろで誰かがこの隙に入り込もうとしているのがわかる。ブーバーンが攻撃の構えをしたのを見て、儂は走って中に入るよう叫んだ。
「へ? うえっ!?」
 イツキだけがこれから起こることを理解していないようだったので、少し乱暴かと思いつつ首をくわえて走る。タイミングを計ったように全員が通った直後に門が閉まると、耳を塞ぎたくなるような断末魔が鼓膜に突き刺さった。
「……え?」
 それを聞いて、やっと状況を理解したのじゃろう。イツキは信じられない、という顔で閉まり切った門を見つめている。
「さっきはただ追い返していただけなのに、どうしてそんなことをするんだよ。町に入りたかっただけなのに、何も悪いことはしていないのに……!」
 わかっているけど、認めたくない。イツキの声からは、そんな気持ちがハッキリと感じ取れた。儂が尻尾の一本を使って頭を撫でていると、アランがフッと息を吐く。
「どうしてって、それがこの町の偉いポケモンが決めたルールだからだよ。文句が言いたいのなら、そのポケモンに言えばいいんじゃないのかい? 最も、こんなルールを決めたポケモンがキミの言葉に耳を傾けるかどうか疑問だけどね」
「そういうやつには言葉じゃなくて実力行使だよ。懲らしめる手間も省けるしね」
 目つきを鋭くしたクレアがバチリと電気を放ち、ディアナがそれに「それでも話を聞く可能性は低いわね」と返す。エミリオは悲しい目を門へと向けていた。
 それぞれの気持ちはよくわかるが、門の前で固まっていては「紅蓮の女王」を探す前に町の者に怪しまれてしまう。
 だから早く進もうと言いたいのじゃが、それぞれの気持ちを考えるとなかなか言い出しにくい。儂は空気が読めないやつだと思われるのは嫌じゃな。特にイツキにはそう思われたくないものじゃ。
 どのタイミングで切り出したものかと考えておると、この光景を怪しく思ったらしい一匹のマフォクシーが向こうから歩いてくる。他に近づいてくるポケモンはおらぬが、一匹だけでも町に噂が広がるきっかけになる。
 今のイツキだとマフォクシーになぜこれを疑問に思わないのかと問うだろうし、アランはそれに乗せて相手を嗤うだろう。クレアは「用」があるからとルールを決めた者の居場所を聞くだろう。ディアナは冷静に、エミリオは悲しみながらも目的を果たすに違いない。
 だったら儂が話した方がいいのじゃが、マフォクシーの目はあくまでもイツキ達に向いている。どうやら、儂は偶然にもその場に居合わせた町の者、と捉えられているらしい。
 その証拠に試しに儂が声をかけてみても手を軽く振ってそれを制し、視線で用があるのはそこにいるリーフィア達だけだと伝えてくる。何を根拠にそう判断したのかわからぬが、これでは儂が話したとしてもまともに取り合って貰えるかどうか。

「お前達、一体ここで何をしている?」

 どうしたらと困っていると、もうすぐ近くにまでやってきていたマフォクシーがそう訊ねてくる。予想した通りイツキがマフォクシーに向かって目を吊り上げ、アラン、クレアも行動を始めようとした。
 ディアナが小声でそれを止めようとするも、誰も止まる気配はない。こうなったら儂の尻尾で物理的に止める以外、と狙いを定める。尻尾が先かイツキの口が開くのが先か、と思っていると、突然エミリオが一歩前に出る。
 予想していなかったのかイツキ達の動きが止まるのが見える中、エミリオがマフォクシーに視線を合わせた。
「……す、すみません。僕達は『紅蓮の女王』に会いに来たんです。でも、どこにいるのかわからなくて」
 マフォクシーはただの田舎者か、とフンと鼻を鳴らす。ある単語を聞いてクレアの顔に怒りが張り付きかけたが、それに気づくことなくマフォクシーは腕を組む。
「お前ら、運がよかったな? このワタシ、ロジャーこそが『紅蓮の女王』と呼ばれ町を治めるアリーシャ様の補佐だ。普段ならしないが、ここは特別にワタシがアリーシャ様のいるところまで案内してやろう。ついて来い」
 思わぬ展開に皆が皆驚いていたが、ロジャーと名乗ったマフォクシーは気にすることなくどんどん建物やポケモンの間を進んでいく。儂達は置いて行かれぬよう、慌ててその後を追うのだった。

 続く

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