【第170話】逃れたことの贖罪、切り裂く空白(vsミチユキ)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



『ミチユキ』だって……?
違う。
キミの名前は『キルト』だ。
僕の身体にマネネの心を宿した存在『キルト』だ。

間違えるわけがない。
いくら顔つきや身長が変わったからと言って、自分自身の姿を見誤るわけがない。
バリヤードと波長が合うのだって当たり前だ……だって、中身は全くの同系族なのだから。

カンムリ雪原で、よほど過酷な目に合ったのだろう。
それこそ、記憶が消し飛ぶほどに、辛いことがあったのだろう。
……全くもって腹が立つ。
無論、キミにじゃない。
そんな苦しむキミの隣に居てやれなかった、僕自身にだ。

決してその罪は許されない。
臆病さと自己嫌悪が招いたこの罪過は、一生拭うことは出来ない。

だが……もし、キミと同じ場所に立てるのであれば。
仮にそれが、『友』ではなく『敵』としての立場でも……
今こそ、キミを連れ戻す。
僕はここで、精一杯の贖罪をする。

さぁ、僕を見ろ……『キルト』!
お前の中の『ミチユキ』を、この手で倒してやる……!
今の僕は迷わない。
逃げない。
怯えない。
そんなものはとっくに死ぬほどしてきた。

力を貸してくれ、トレンチ……!



ーーーーー新たに『ワイドフォース』を取得し、相手の投槍を弾き飛ばしたマネネ。
強力な攻撃手段を得たことで、逆転の可能性が生まれた。
……無論、ソレはバリヤードとの差を埋めるほどのものではない。
それでも、相手の足首に掴み掛かる程度の力は手に入ったのだ。

……あとは、お嬢とマネネの足掻き次第である。

「行くわよマネネ……『ワイドフォース』で射撃してッ!」
「まねねっ……!!」
マネネが横一文字に腕を斬り、波状に飛んでいく念動力の斬撃を飛ばす。
最も基本にして……最も強力な形状の攻撃だ。

「(駄目だ……隙が大きい!あの程度、バリヤードなら容易に避けてくる……!)」
ジャックの見立て通り、強力ではあるもののまだ精度は遠く相手に及ばない。
マネネの攻撃は……回避するだけならば造作もないのだ。

「避けろバリヤードッ……!」
「ゔぁーーりりっ!」
斬撃のヒットする直前、バリヤードは『テレポート』で空間を跳躍する。
無論……回避のための最も基本的な行動だ。

転移先は……マネネの懐だ。
相手を逃さないため、最も近い距離からの攻撃を狙ったのである。
「叩き潰せッ……!」
「ゔぁりりっ!!」

瞬間……バリヤードの手には、念動力のメリケンサックが生成される。
マネネの腹部に目掛け、豪速のパンチが叩き込まれたのだ。
「ま゛……ね゛っ……!」
「(殴打による近接攻撃ッ……低耐久のマネネには、あまりに痛いッ……!)」
潰れた声を上げるマネネ……無論、致命傷だ。
あまりにも手痛いボディーブローである。


「掴みなさいッ!!」
「ま……ねっ……!!」
「何ッ……!?」
が、彼らもタダではやられない。
なんとバリヤードの拳に、マネネは両腕でしがみついたのであった。

「よくやったわマネネッ!そのまま、離すんじゃないわよッ!!」
「ま゛……ね゛……!」
非情な選択だが、お嬢は決してマネネに撤退を許さない。
彼の覚悟を、汲み取った上での言葉であった。

「ま゛……ね゛ねっ……!」
「(馬鹿なッ……今の攻撃で間違いなく限界のハズ……!その上自ら食い下がってくるだと!?)」
あまりにも鬼気迫るその戦い方に、ミチユキは悪寒すら覚えた。

「(何なんだよ……何がコイツをここまで駆り立てるんだ……!これはトレーナーの意志だけじゃねぇ……このマネネ……何なんだよ……!!!)」
まるで心の奥底の感情を、無理やり引きずり出されるような……そんな悪寒だった。
懐かしさすら覚える……そんな感覚だった。

その感覚が、彼を焦らせる。
「くそっ……くたばりやがれッ………!!」
「ゔぁりりっ……!!」
ミチユキの熱量に比例して、バリヤードの拳がマネネの身体へと深くめり込んでいく。
当然、ダメージもその分蓄積されていき……体力は削られていく。
それでも、マネネは決して相手の拳を離さない。
なんとしても、ノックバックを拒んでいるのだ。

「(無茶だトレンチッ……これ以上は耐えられない……!)」
観客も、ミチユキも、バリヤードも……誰もが今度こそ、決着を確信した。

その時だった。
「………!今よマネネッ!『サイケこうせん』ッ!!!」
防戦一方だったお嬢の態度は一変……まさかの『サイケこうせん』の指示が出されたのであった。

その意図にミチユキはすぐ気付いた。
「……ッ!?しまった、『テレポート』で離脱しろッ!!」
「ゔぁりりっ!!」
事態の重さに気付いたミチユキは、すぐにマネネから逃げるように指示を出す。

……が、マネネに深くめり込んだ拳がそれを許さない。
そのままバリヤードは、『サイケこうせん』のゼロ距離射撃をクリティカルに受けることになるのであった。

さて……覚えているだろうか。
『サイケこうせん』の接射が招く効果を……
そう、『こんらん』の罹患だ。

「ゔぁっ……りりりりりっ!!」
気の動転したバリヤードは、拳のメリケンサックをあらん限りの勢いで自らの身体に叩き込む。
腹部を殴りつけ、頬を横切る……凄まじい敵意に満ちた自傷行為に走り出したのだ。

「くそっ……してやられたッ……!おいバリヤード!起きろッ……!!目を覚ませッ!!」
呼びかけるミチユキ……だが、余程『サイケこうせん』が手痛い一撃だったのだろう。
狂気の底に堕ちたバリヤードには、誰の声も届かない。

バリヤードのターゲットから外れ、距離を取って息を整えるマネネ。
既に立つことすら危ういのか、足取りが覚束ない。
「ま……ね………」
「しっかりしなさいマネネ……!アナタを……負けさせるわけにはいかないのよッ……!」

遠のきそうなマネネの意識を、お嬢の言葉が引き戻す。
……そうだ、此処まで来たのだ。
彼らは絶対に、この戦いに負けられない。
負けてはいけないのだ。

「……ま……ねねっ!」
折れそうなその短い脚で踏ん張り、なんとか立ち直るマネネ。
あと1発、攻撃を打つための体力を……倒れそうな身体から絞り出す。

「ゔぁ……ゔぁりりっ!?」
「ッ!気付いたか、バリヤード……!」
一方のバリヤードも、深い狂気の底から帰還した。
互いに立ち直り、イーブンな状況にまで持ち直したのだ。


「これで最後よッ……マネネ、『ワイドフォース』ッ!!」
「まーーーーねねっ!!」
「負けんじゃねぇぞバリヤードッ……『ワイドフォース』ッ!!」
「ゔぁーーーりーーーーーっ!!」
両者の腕から、最大級の斬撃が放たれる。
互いの攻撃は空中でぶつかりあい、僅かに拮抗した後……









……バリヤード側が押し切られた。
マネネから放たれた『ワイドフォース』は、クールダウン中のバリヤードへ着弾する。
「っ、………!」
体力は既に限界……回避は恐らく、指示があっても叶わなかっただろう。

だが、それとは関係なく……ミチユキは言葉を失っていた。
マネネの攻撃に、切り裂かれたからだ。
バリヤードだけじゃなく……ミチユキの心までもが。





「(そうか……お前は…………!)」














やがて、バリヤードが膝を付き、顔面から地面に倒れ伏す。
ミチユキ側のブザーは全て消滅。
客席からは大歓声が挙がり、お嬢を称える声で埋め尽くされる。

「よしっ!!!1回戦、突破よマネネ!!!」
「ま……ねねっ!!」
お嬢は傷だらけのマネネを抱き上げ、その勝利を喜びあった。


「(ハハッ……マジかよ。こんな所で、捜しモンが見つかりやがった……)」
フィールドの向こうで歓喜するお嬢とマネネを見て、ミチユキ……否、『キルト』は満ち足りた気分に浸っていた。


「(……お前……ちゃんと誰かの役に立ってるじゃねぇか。キルト。)」

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