73話 合流

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 DPの襲撃から一夜明けた昼頃、前日にそよかぜ村を出発していたハルキとヒカリがレベルグに到着し、その様子に驚いた。
街の建物は前日の襲撃により、いたるところに戦闘による真新しい破壊の痕が残っており、街のポケモン達は建物の修繕や怪我をしたポケモンの手当てなど、みんなが疲弊している状態の中、何とかレベルグを元の状態に戻そうと動いていた。

「……ギルドに急ごう。 カリムさんならきっと、事情を詳しく話してくれるはずだ」
「そうだね。 もしかしたら、アイト達もそこにいるかもしれないもんね」

 ハルキとヒカリは変わり果てたレベルグの街中を走り抜け、救助隊のギルドに急いで向かった。

――――――――――――――――――――

 ギルドに着くと、建物内の入り口付近にアイトとヒビキの姿を見つけた。
ハルキが声をかけようとしたところ、どうやら建物内に入った瞬間からハルキ達の存在に気づいていたようで、アイト達の方からハルキの元に駆け寄ってきた。

「おう。 帰ってきてたんだな」
「ついさっきね。 それより、何があったの?」
「ああ、実はな……」

 それからアイトは昨日の夕方頃、ダンジョンポケモンであるDPが複数匹でレベルグの街に襲撃してきた経緯から、アイトやヒビキを含めた救助隊が早急に事態の収拾に動き、街の被害は最小限で抑えられた事や、トリスイルへ向かうための港にある船を1つ残らず破壊する事が敵の本当の狙いだった事など、知る限りの情報を話した。

「……そんな事があったのか」
「それで結局、街のいたる場所にDPの侵入を許しちまったせいで、侵入したDPを全て倒すのに夜遅くまでかかってな」
「あー、だから、街のポケモンはあんなに疲れきった顔をしてたんだねー」

 これで街のポケモン達の様子の理由がわかった。
そりゃあ、襲撃があった日の夜なんて、心配でとてもじゃないが警戒せずに熟睡するなんてできるわけが無い。 それに、緊張状態が続いているだろうから、疲労の蓄積も相当だろう。

「それで? アイトとヒビキは今、何してるの?」
「わたし達は団長さんから、ひとまず待機命令を受けているです」
「待機命令?」
「なんか、団長室で誰かと話していてな。 話が終わり次第、俺達を呼ぶからここで待ってろって言われてるのさ」
「ふーん。 私達もついて行った方がいいかな?」
「そうだね。 どっちみち、帰還報告はしなくちゃいけないから」

ハルキがそう言ったちょうどその時、団長室に続く通路から見慣れないポケモンがカリムと一緒に出てきた。
青い体に暗い色の甲羅を背負ったポケモン、あれは確かアバゴーラというポケモンだ。
 ハルキの視線に気が付いたアバゴーラはハルキの方を指さしながらカリムに何やら声をかけると、カリムの視線がハルキ達の方へ向き、こちらに来るように手招きするようなジェスチャーをした。

「あれって、こっち来いってことだよな?」
「そうだね。 とりあえず、全員で行ってみよう」

 誰を指定して呼んでいるかわからないのでハルキ達は全員で移動し始めると、カリムは特に何も言わず、再びアバゴーラを連れて、団長室に入っていったので全員呼ばれていたのだと考えていいだろう。
 ハルキ達が団長室に入ると中にはカリムとアバゴーラ以外にも副団長であるサラ、チームマジカルズのラプラ、イオ、クロネの3匹、それにアセビとシャドーの姿もあった。
最後尾を歩いていたヒビキが団長室の扉を閉めたタイミングで、カリムは団長室の席に深く腰をつけると、大きく息を吐いた。

「ふぅー。 まあ、話す事は色々とあるが、とりあえずハルキとヒカリ。 お前らの用事はもういいのか?」
「はい。 もう大丈夫です」
「そりゃよかった。 ちょうどいいタイミングで帰ってきてくれて助かったぜ。 同じ話を2度するのは手間だからな」
「ん? それって、今から話す内容はここに集められているメンバーと関係があるってこと?」
「そういう事だ」

 ヒカリの言葉を肯定した後、カリムは部屋に集めたポケモン達を見渡してから話し始めた。

「昨日、レベルグの港にある船が全て破壊されたという話はすでに聞いているだろう。 当然、港で造っていたトリスイルへと向かう船も壊された。 現状、俺達はこの事態を引き起こしている元凶をすぐには叩きに行けなくなったわけだ。 ……表向きはな」
「どういうことです?」
「まだ船は残っているという事だ」

 ヒビキの素直な疑問にカリムは口元をニヤリとさせて答えた。

「万が一に備えて、港以外でもトリスイルの海域を航海できる船をもう1つ造っていたのさ。 そこのアバゴーラさんに頼んでな」

 カリムの言葉にアバゴーラが頷いた。

「まあ、さすがに港の物よりは小さいんじゃが、使う分には問題ない筈じゃ」
「という事だ。 気づいた奴もいるだろうが、ここに集めた者達はトリスイルに向かうメンバーってわけだな」
「一応補足しときますが、副団長である私と船を造った責任者のアバゴーラさんは立場上、この場に同席していますが、トリスイルには同行しません。 それと、この場にはいませんが、救助隊連盟代表のネロがあなた方に同行します」

 カリムの説明にサラが補足の説明を加えた。
 救助隊連盟代表のネロは、首元に白いジャボのような物を身に着けているのが特徴のカラマネロというポケモンだ。 シュテルン島でDP騒ぎの収束に尽力していたという話はハルキ達の記憶に新しい出来事である。

「んじゃ、ここから詳しい説明に入る前に、聞きたいことがある奴は質問してきていいぞ」
「それじゃあ、あたしから」

 マジカルズのラプラがゆっくりと手を上げた。

「呼ばれた理由はわかったけど、そもそもあたしらが選ばれた理由って何だ?」
「あー……。 それについてはサラが説明する」

 あれだけ自信満々に質問を受け付けたのに、1つ目から副団長のサラに回答権を渡したので、サラは冷ややかな視線をカリムに送りつつ、小さくため息をついて話し始めた。

「では、選んだ理由は私から説明します。 まず、チームマジカルズについてですが、あなた方は[魔法]という特殊な技術を使用できる点から、イレギュラーな事態でも対応できるだろうという事で選びました。 次にチームスカイ。 あなた方は、ダークマターと戦わなくてはいけない大きな理由があり、それに備えて特訓をしたという話を複数のポケモンから聞いていますので、メンバーに入れました。 そして、アセビさんとシャドーさんについては単純に戦力として迎え入れました。 以上になります」
「なるほどな。 だがな、そこのフタチマルはともかく、あたしはあんたを信用してないからな」

 ラプラがシャドーを睨み付けながらそう言った。

「……信用なんていらん。 利害が一致しているから力を貸す。 これで十分だろ」
「けっ! 少しは改心したかと思ったが、あたしの勘違いだったみてぇだな!」
「はい、そこまでです。 彼に対して思うところはあるでしょうが、重要な作戦なので今は飲み込んでください」
「フンッ!」

 サラになだめられたラプラはぷいっと不満な態度を隠そうともせず、そっぽを向いた。

「他に質問のある方はいますか?」
「じゃあ、いいですか?」

 アイトが手を上げて、この場にいる全員の注目を集めた。

「なるべく早く敵の本拠地にこちらから攻撃を仕掛けたいのはわかるんですが、予備の船を使ってまで急ぐ理由は何ですか?」
「あー、それな。 あたいも同じこと思ってたよ。 なんか胸騒ぎはするんだが、その理由がわからなくてモヤモヤしてたんだ」

 アイトの質問にマジカルズのクロネが同意を示した。
 昨日、港の船を守るためにアイトとヒビキが街を走っている時に湧いた疑問と、漠然と感じていた嫌な予感をクロネも感じ取っていたようだ。

「2匹の言う通り、根本的な理由についての説明がまだでしたね。 アイトさんの疑問はもっともですし、クロネさんが感じているのと同様の胸騒ぎを感じているポケモンもいるでしょう」
「と言いますと?」
「……カリム、私がこのまま説明してもいいでしょうか?」
「別にいいよ。 団長のメンツなんて気にしてねぇし、口下手な俺が説明するよりサラが説明したほうがいいだろ」

 カリムがぶっきらぼうに手をひらひらさせてサラに説明を任せると、サラは無言で頷き、ゆっくりと説明し始めた。

「さて、私達がこれから戦おうとしている相手は遥か昔にこの星を窮地におとしいれたダークマターと同一の存在である事はすでに御存じでしょう」
「あのおとぎ話に出てくる奴だろ?」
「お姉ちゃん、おとぎ話じゃなくて、ちゃんとした歴史上に合った出来事だよ。 何度も説明したじゃないか」
「そうだっけ? イオの話は小難しいから、大体聞き流してたわ。 アハハハー」
「ハァ、これだからお姉ちゃんは……」

 笑って誤魔化すラプラの態度に頭痛を抑えるように額に手を当てて、ため息をつくイオ。
 隣で2匹の会話を聞いていたクロネも冷や汗をかいて、イオと目が合わないように視線をそらしている事からラプラと同じ認識だったのだろう。

「……何名かちゃんと理解できていなかった者もいたみたいですが、話を続けます。 私達は過去にこの星に生きる者達を絶望に陥れた巨悪と対峙しなければいけません。 そして、ダークマターの目的は過去から変わっていません。 この世界、ファンドモストの破滅を目的として行動しています。 皆さんが何となく感じる胸騒ぎは、この星の異変を無意識のうちに感じ取っているからでしょう」
「……なるほど。 それじゃあ、ダークマターはどんな方法で破滅をもたらそうとしているんですか?」
「残念ながら、そこまではわかりません。 過去の大戦では、星の公転を停止させる事で太陽との衝突を狙ったようですが、今回も同じ手段を取るとは言いきれません。 ですが、こうして胸騒ぎがある以上、すでに行動しているのは明確。 破壊された船を造りなおしている間に事を起こされてからでは遅いので、早急にトリスイルに向かう必要があるという事です」
「わかりました。 ありがとうございます」
「それでは、他に質問のある方はいますか?」

 アイトの質問が終わり、サラは他に質問者がいないか周囲のポケモンを見渡し、質問者がもういない事を確認すると質疑応答を終わらせた。
 その後、カリムから出発は明日の早朝、団長室に集まってから船がある場所まで案内すると説明を受け、どこから情報が漏れるかわからないので救助隊の仲間含めて、ここで聞いた話は他言無用にしてほしいと頼まれた。
船のある場所を直前まで教えないのも万が一の事を考えての事だろう。
また、レベルグからトリスイルまで距離が結構離れていて、少なくとも1週間の船旅が予想されており、その間の水や食料などはすでにギルドの方で用意が出来ているため、個別で買いそろえる必要はないと説明し、そのうえで必要なものがあれば今日中に各々で準備しておくようにと指示を受けた所で、今日は解散となった。

「さてと、話し合いも終わったし、どうするか?」
「とりあえず、明日は朝早いので、少しでも休めるよう、今のうちに晩御飯の献立でも考えますか?」
「あー、確かにありだな。 必要な物は今のうちに買いそろえておいたほうがいいもんな」
「あの、2匹ふたりともちょっといい?」

 ヒビキの提案でアイトが献立を考えていると、ハルキが申し訳なさそうに会話に入ってきた。

「どうした?」
「僕とヒカリから話したいことがあるんだ」
「……それは、大事な話か?」

 アイトの真剣な表情にハルキはちゃんと目を合わせて、頷いてから答えた。

「うん。 僕がヒカリとそよかぜ村に行って知った事をちゃんと伝えたいんだ」
「……わかった。 だけど、話を聞くのは晩飯の後だ。 お前らはここに帰ってきたばかりなんだ。 少しぐらい息抜きしてからの方が真剣な話もしやすいだろ?」
「……そうだね。 アイトの言う通り、そうさせてもらうよ」
「うっし! それじゃあ、今日の献立を考えるか!」
「わたし、しっかりと栄養が取れそうな料理がいいです!」
「あっ! それならヒカリ特製、栄養満点のスペシャルスープなんてどうお? 色んな木の実をふんだんに使って、栄養満点なんだよ!」
「へぇー、ちなみに何を入れるんだ?」
「まず、体力回復としてオレンの実とオボンの実を入れて、さっぱりとした風味を出すのに甘味のモモンの実と酸味のナナシの実をたっぷり入れて、すっぱさを強調するのにパイルの実の皮を丸ごと入れて、辛さを引き立たせるためにフィラの実とザロクの実とマトマの実、それとタポルの実の皮を少々入れて、料理の味を引き締めるのにイトケの実を入れて、それから――」
「もういい! もういい!」
「えー、この料理の本領はここからなんだけどなー」
「そんなにぶち込んでるのにまだいれるのか!?」
「そうだよー。 まだ半分くらいしか材料言ってないし」
「……マジかよ」

 その後、ヒカリのスープに興味を示し、食べたがっていたヒビキをアイトとハルキが必死に説得し、多数決でヒカリのスペシャルスープはまたの機会という事になった。
余談だが、この日の晩御飯は具がそこそこあって、ある程度の栄養もとれて、味もしっかりしているカレーライスとなった。
5章がはじまった瞬間、すぐ二手に分かれていたハルキとヒカリ、そしてアイトとヒビキが、ここにきてやっと【合流】しました!!
ここまで更新するのに費やしたリアル時間で換算すると、約1年ぶりの再会ですね(笑)

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