69話 レゾナンス

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 色々な話を聞かされてから一夜が明け、ハルキとヒカリはまだ話があるというゼルネアスの元へ向かった。
 昨晩とは違い、今は太陽が主役の日中だが、あの大樹は相変わらず綺麗な桜が満開で咲いていて、夜とは違った美しさを醸し出していた。

「ゼルちゃん、来たよー!」

 ヒカリの声に呆れた表情を浮かべたゼルネアスがどこからともなく現れた。

「……やはり呼び方を変える気はないようですね」
「もちろん!」

 ヒカリが胸を張ってドヤ顔で言いきると、ゼルネアスは諦めたようにため息をついてから本題に入った。

「では、早速ですが始めましょう。 これからする話はあなたがたの能力に関するお話です」
「僕らの能力?」
「ハルキさん。 あなたはこの世界に来てから発現した能力がありますね?」
「……はい」

 ゼルネアスの問いかけに頷くハルキ。
 ハルキはこの世界に来てから相手が嘘をついているかどうかを識別する能力を身に着けていた。 だが、人間の時にそのような能力が身に着くような予兆は無く、この能力がなぜ身に着いているのかもわからなければ、詳しい能力についてもわかっていなかった。

「その能力において、重要なのは視る事です」
「視ること?」
「具体的に説明するならば、目で視た生物や物体、あるいは事象に偽りの要素がある場合、それを看破する。 それがあなたの持つ能力の詳細です」

 そう言われて思い返してみると、最初にこの能力を知るきっかけになったアングの件はアングの本心ではない言葉、つまり偽りの言葉を見抜き、シャドーの件では幻覚をすぐに偽物と看破し、シュテルン島ではイリュージョンで姿を偽っていたファロアの正体を見破っていた。

「本来、その能力は過去に起きた2つの戦いでミュウが、つまりヒカリの前世が持っていた能力の一部です」
「えっ、そうなんですか!?」
「うん。 『虹色の戦い』の時に倒れて意識が戻らないハルキに私がした処置の事を思い出せる?」

 ハルキはヒカリの言葉に顎に手を当てて、昨晩受け取った前世の記憶の中から該当する記憶を探し、思い出した。
あの時、非力な人間であるハルキは唯一、ポケモンと真っ向から戦う事が出来たある力を使い過ぎて、精神に負担がかかり、昏睡状態に陥ってしまった。
そんなハルキを救うため、当時のミュウは自身の魂の一部をハルキと共有することでハルキが自力で処理しきれない負担をミュウに分散するようにし、ハルキを救ったのだ。

「その視る能力は、あの時の処置による副次的効果で私の持っていた力の一部がハルキに移っちゃった結果なんだ。 おそらく、ハルキはポケモンじゃなくて人間だったから能力が発現しなかっただけで、能力自体はずっと持っていたんだと思うよ」
「だから、僕がポケモンになった事で能力が発現したってことか。 どうりで、僕も知らないこの能力についてヒカリがやけに詳しかったわけだ」
「えへへー。 あ、でも、ミュウだった頃に比べてその能力もかなり弱体化しているみたいだけどねー」
「ん? その能力も、って事は他にもあるの?」
「あるけど、ハルキが持っているのは視る力だけ。 他の能力は私が引き継いでるんだー」

 ヒカリが言うには、視る力以外にもいくつか能力を有していたみたいだが、そのどれもが前世であるミュウの時よりも弱体化しているようで、本来の視る力はもっと絶対的で、視るという事において想像できる大体の事はなんでも出来たらしい。
 また、他の能力の例として、視る力以外にヒカリは聴く力を有しているのだと話してくれた。
こちらも視る力と同様、本来ならば聴く事においてなんでも出来る能力だったようだが、現在は相手の発した言葉に対する微細な感情を読み取ったり、一定距離内にいる助けを求める声は絶対に聴き逃さない、といったことしかできないようだ。
とはいっても、使い方次第でかなり強力な能力であることに変わりはないので、ミュウの時はどれほど強大な力だったのか想像もつかない話ではある。

「ところでハルキさん。 この世界には代表的に3つの力が存在するのをご存知ですよね?」
「はい。 記憶が戻った事でそこに関する知識もある程度、思い出しました」

ゼルネアスの言う3つの力とは、[技]・[魔法]・[意思]の3つの力だ。
[技の力]は、その名の通りポケモンならば誰もが使えるポケモンの技そのものを指し、[魔法の力]に関しては、以前、マジカルズが説明してくれた通りだ。
そして、[意思の力]というのが3つの力の中でもかなり特殊な部類に入るもので、率直に説明するならば、『強い思いによる事象への干渉と一時的な上書き』を可能にする力である。 わかりやすく言うと、強い意思の力でパワーアップするような感じだ。
ハルキが『虹色の戦い』の際に行使した力であり、ポケモンよりもはるかに劣る人間の身体能力をこの力によって一時的に強化させることで、1対1でも互角以上に戦う事が可能になるほど強力な力である。
 しかし、[意思の力]は発動する際の条件として、心の底から湧き起こる強い思いと確信に近い強力なイメージ力が要求されるので並大抵の精神では発動する事は困難であり、事象への干渉が強ければ強いほど、それに比例して使用者の反動もより大きなものとなる。
最悪の場合、精神が崩壊して、使用者の意識が永遠に戻らなくなる事もありえる。

「記憶の戻った今のハルキさんならば、[意思の力]も扱えるでしょうし、ハルキさんは現在もミュウと、ヒカリと魂の一部を共有している状態にあります。 行使したところで、反動は最小限で済むでしょうが、できるだけ危険が伴う[意思の力]は使わないでほしいのが本音です。 なので、ハルキさんには別の力を身に着けていただきます」
「別の力?」
「はい。 そのための道具も既にヒカリから受け取っている筈です」

 ヒカリから受け取った物。 そう言われて、ハルキはハッとしたように自分の首元に巻かれている深緑色のスカーフを見た。
あの夜、ヒカリが大事そうに小さな宝箱から取り出し、再会した時のために用意していたと手渡したスカーフ。
今まで、ただのスカーフを宝箱に入れて、大切に保管していた意味など考えた事は無かったが、重要な道具だと言われればその小さな違和感の意味も遅れて理解できる。

「そう。 そのスカーフはこの日のために私やゼルちゃん、他のポケモン達と協力して用意したこの世に2つしか存在しない、私とハルキ専用の道具」
「名は『共鳴スカーフ』。 2匹の魂の繋がりによる共鳴値を引き上げる補助をしてくれるスカーフです」
「共鳴?」
「うん。 前にシャドーの時に不完全だけど発動したのを覚えてる?」

 シャドーが救助隊を襲撃してきた日、ハルキとヒカリは戦闘中に力が湧いてくる不思議な青い光を纏った事がある。
あの時は無我夢中で不思議な力について考える余裕が無かったが、思い返せば首に巻いているスカーフが僅かに光ったのをきっかけに不思議な力は湧いてきたように思える。

「あの時はハルキの思いが強かったから、私がそれに合わせる形で発動させたんだけど、本当は私とハルキが強い思いを持った時に、お互いの心を重ね合わせる事で完全に発動するんだよ」
「息を合わせるってこと?」
「そんな感じ。 でも、ただ息を合わせるだけじゃなくて、[意思の力]と同じように心の底から湧き起こる強い思いが必要でもあるの」
「その力、……名付けるならば[レゾナンス]、と言ったところでしょうか。 その[レゾナンス]は[意思の力]の延長線上にある力なので、条件や効果が[意思の力]と類似する点が多いのです」
「だから、この力を使えるハルキの『きあいパンチ』は特別なんだ」
「そういうことか……」

 これで以前、ヒカリがハルキの使う『きあいパンチ』は特別だと言っていたのかわかった。
『きあいパンチ』とはその名の通り、気合の込められたパンチなので、思いをのせる事に適しており、強い思いが重要になる[意思の力]や[レゾナンス]と相性はいいだろう。
過去にオコリザルのアングとの戦いで、『きあいパンチ』を当てた後にアングが正気を取り戻した事から、もしかしたらハルキは無意識にこの力を使っていたのかもしれない
また、気合とは精神を集中させる事以外にも、誰かと気持ちが通じ合う事を指す言葉でもある。 おそらく、ハルキが使う『きあいパンチ』の溜める時間の短さや移動しながらでも溜められるという普通の『きあいパンチ』と違う点は、ヒカリと魂が通じ合っている事が関係しているからであろう。

「というわけで、ハルキさんとヒカリには本日中に[レゾナンス]をしっかり扱えるようになってもらいます」
「えっ、それって……」
「もちろん、特訓です」

 ハルキの言葉に満面の笑みをわざとらしく浮かべるゼルネアス。
ダークマターとの決戦のために、この力を扱えるようにするのは理解できるが、本日中にものにできるかどうかと聞かれると、正直、自信が無い。
 そんなハルキの心の内を知ってか知らずか、ヒカリがハルキの肩を叩いた。

「大丈夫だよ! 前に事情を知らなくても出来ていたし、なにより私とハルキはベストパートナーってやつだからね!」
「……そうだね。 とりあえず、やってみなくちゃわからないよね」
「その意気だよ! 細かい部分は私がフォローするから任せて!」
「うん、ありがとう。 その、……頼りにしてるよ、相棒」

 ハルキが恥ずかしそうに早口で言ったその言葉を聞いたヒカリは一瞬、キョトンとした表情を浮かべた後、嬉しそうでもあり、今にも泣いてしまいそうな表情を見せ、その表情をハルキに見られないよう、思いきり抱き着いた。
――『相棒』
この言葉はヒカリが名前を持たないミュウの時に、ハルキがたまに呼んでいた呼び名の1つであった。
『虹色の戦い』が終結した際、ミュウが2度とダークマターが現れないよう、ポケモン達、みんなの光のような存在になりたいと願い、その話を聞いたハルキが別れの前に『ヒカリ』と言う名をミュウに与えてから、ミュウは周囲から『ヒカリ』と呼ばれるようになった。
だが、それでもヒカリにとって、『相棒』と言う呼び名は特別なものであり、『ヒカリ』という名前と同じかそれ以上に大切な言葉であった。

「あの、感極まっているところに水を差すようで悪いのですが、そろそろ特訓を開始しますよ」
「……うん。 わかってる。 ゆっくりしている時間はもうないもんね」

左腕で乱暴に目元を拭い、ヒカリは表情を引き締めた。
 それから、この日は1日中、[レゾナンス]の特訓に費やし、なんとか形になったのは昨晩のように綺麗な月が昇る深夜の時間帯であった。
レゾナンスって、共鳴をそのまま英語に言い換えただけなんですよねー(笑)
ここら辺はオリジナル設定全開なので、ちょっと混乱したり、疑問もあるかもですが
そう言うもんなんだと思ってください(^_^;)

余談ですが、共鳴スカーフの色が深緑色なのは、青色と黄色を混ぜた色が緑色だからという地味ですが、ちゃんとした理由がありました。

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