No.09 † 虹色の羽を守れ †

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ルアンの町から東に向かって徒歩30分。

私達は大陸最東端にある水と緑の町 ・ 『 ハイルドベルグ 』 のポケモンセンターを訪れていた。

アーシェ:「ハイルドベルグ……か。」
ティア:「どうしたの?アーシェちゃん。」
アーシェ:「いや……この町に来たら、行っておきたい場所があったんだ。今から行くけど……ティアも一緒に来る?」
ティア:「えぇ。同行させてもらうわ。」ニコッ

センターを出て、町外れへと続く補正された道を通り……私達は林の中にある建造物を訪れた。

建造物は静かにそこに佇まい、蔦が絡まりながらも神々しさを保っている。

ティア:「アーシェちゃん……此処は?」
アーシェ:「『 繁栄の神殿 』。此処には伝説のポケモン・ホウオウが祀られていて、宝玉として虹色の羽が保管・展示されてるんだ。この町に来たら、見ておきたいと思ってたんだよ。」
ティア:「そうなの!?へぇ、ホウオウが……私はてっきり、あなたのお母さんの家を探すのかと思ってたわ。」
アーシェ:「いや、私もそうしようかなぁと思ったんだけどな……ルアンの学者さんに訊いた話だと、何か色々遭ったらしくって、父さんと結婚する時に後腐れの無いよう、必要な物をルアンに運んだ後日に家を取り壊したんだって。」
ティア:「あら、そうだったの?アーシェちゃんの御両親も色々大変だったのね。」
アーシェ:「そんなことより!!ほら、早く中に入って虹色の羽見ようぜ。」
ティア:「えぇ。」

*** 繁栄の神殿内部 ***

静かな空間の中、両サイドの壁には大昔の塗料を使って描かれた人間とホウオウに関する絵が祭壇の方まで続いている。

ティア:「えっと……んん?これは……?」
アーシェ:「ん?どうした、ティア。」
ティア:「あ……ごめんなさい。この絵と一緒に書かれている文字なんだけど……この地方独自のものなのかしら?仕事柄、その国でしか使われていない言葉や文字は把握しているつもりなんだけど……この文字は初めて見るわ。恥ずかしながら、何て書いてあるのか解らなくって……」
アーシェ:「え?あぁ、『 古國語ここくご 』のことか。そりゃ異国から来たティアが読めるわけねぇよ。それはこの地方で現在使用されている文字のベースになった物だもん。この地方に現在住んでる人……それも御高齢の方々でも、殆どの人が読む事の出来ない文字だぜ。」
ティア:「なるほど。象形文字のような物なのね。」
アーシェ:「まぁ、書いてある内容を簡単に纏めると……此処にはホウオウと人間との出会い、人とポケモンがどう接していくべきなのかを説いた物語が、独特な絵と一緒に書かれてる。」
ティア:「……アーシェちゃん、この文字読めるの!?」
アーシェ:「え?ぁ……うん。お父さんの仕事上、目にする機会が多かったし………」

私は壁の絵を眺めながら、神殿の奥にある祭殿に展示されていた虹色の羽に歩み寄る。

アーシェ:「共存の仕方は様々……人としての善と悪の区別をしなければならない。人とポケモンが仲良く接している土地には繁栄を、ポケモンを使って悪い事をたくらむ奴等が多い土地には災いをもたらす。この虹色の羽は人とホウオウの約束の証で、人がポケモンと共存するための初心を忘れないためのアイテムでもあるみたいだ。」
ティア:「そうなの……ただ綺麗なだけじゃなく、本当に大切な品物なのね。」
アーシェ:「うん、その通りだよ。だからこそ…………」

私はモンスターボールを投げてキバゴを呼び出した。

同時にキバゴは柱の陰へと駆けて行き、ひっかくを放つ。

ティア:「アーシェちゃん、何を……あら?」

キバゴが攻撃を仕掛けた柱の陰から、1人の男とムウマージが姿を見せた。


【 ムウマージ 】
マジカルポケモン / 高さ:0.9m / 重さ:4.4kg / ゴーストタイプ
神出鬼没のポケモン。
呪文のような鳴き声を出して、耳にした相手を頭痛や幻覚で苦しめる。
祟りや呪いを振りまくとして恐れられてきた。
相手を苦しめるものだけでなく、幸せにする呪文もある。
気まぐれに人を助ける呪文も使う。
恋の願いが叶う呪いをかけることもあるので、命懸けでムウマージを探す者も居る。


男性:「少しびっくりしたぞ……危ねぇなぁ、おい!!」
アーシェ:「警備面が手薄なのは、やっぱりいただけねぇな。こういう輩に貴重な品を盗まれでもしたらどうする気だったんだろう?物の価値を理解してねぇで、ぞんざいな扱いをするから、こういう馬鹿が湧いてくる。」
ティア:「アーシェちゃん……あの人……」
アーシェ:「十中八九、虹色の羽狙いだろう。普通に参拝に来たんなら、あぁして身を隠す必要なんて無いからな。ティア……ハイルドベルグの人達を呼んで来てくれねぇか?」
ティア:「え……?アーシェちゃんは?」
アーシェ:「あいつが此処から逃げねぇように、足止めをする……」
ティア:「危険よ。私も一緒に……」
アーシェ:「私なら大丈夫。ゴーストタイプのポケモン相手なら、何とかなるさ。何より……私はあいつを許せない。未遂だけど、神殿に盗みに入ったっていう行為そのものが……頼む、ティア。私の我が儘を聞いてくれねぇか?」
ティア:「アーシェちゃん……わかったわ。でも、くれぐれも無理だけはしちゃ駄目よ。」
アーシェ:「ん~……それに関しては、あんまりちゃんと約束できねぇけど……一応、気をつけるよ。」

ティアが入口から駆け出していくのを確認してから、再び虹色の羽へと足を運ぼうとしていた男性の方を見る。

アーシェ:「おい、こら。ちょっと待て。」
男性:「あぁ?何だお前、さっきから……俺の邪魔をする気か?」
アーシェ:「うん。邪魔するね。過程はどうあれ虹色の羽を盗もうって言うんなら……私は全力で、お前の邪魔をする!!」
キバゴ:「 (。`・ ω ・) ” 」
男性:「くそっ!!こんなところで時間を食ってられないってのに……ムウマージ!!シャドーボール!!」
アーシェ:「キバゴ、辻斬り!」
キバゴ:「( `・ ∀ ・)ゞ 」

キバゴはその場で跳び上がり、黒い球体を作りかけていたムウマージの細い身体に力いっぱい牙を叩きつけた。
作りかけの球体が霧散し、攻撃を受けたムウマージが悲鳴を上げる。

男性:「うおぉ!?しっかりしろ!ムウマージ!」
アーシェ:「このまま追撃を仕掛けるぞ!キバゴ、駄目押し!」
男性:「このっ……良い気になるなよ、女ぁ!!ムウマージ、10万ボルト!」
アーシェ:「なっ……!?ゴーストタイプの技、ワンウェポンじゃなかったのか!」

床から浮かび上がったムウマージが体から強力な電気を放ち、攻撃を仕掛けようとしたキバゴを強襲する。

アーシェ:「キバゴ!!」

電撃を受けたキバゴがフラフラとその場に立っていたが、すぐに短い足で力強くその場に踏みとどまる。

まぁ、『 効果いまひとつ 』だからいきなり戦闘不能になることは無いとは思っていたけど……それなりのダメージは受けたのかもしれない。
それでも、麻痺状態にならなくて良かった……

男性:「ちっ……余計な時間を費やしちまったぜ。さぁて……虹色の羽を頂いて行くとするか……」

勝利を確信した男が虹色の羽根に歩み寄り、貴重な品へとその汚い手を伸ばす。

アーシェ:「おい!!勝手な事をするな!!」

私は慌てて、虹色の羽と男の間に割って入った。

男性:「おい……そこを退け。まったく……何をムキになってんだよ?たかが羽根1枚で……」
アーシェ:「たかが羽根1枚でも、とても貴重な品物だ。そもそも……お前は虹色の羽を手に入れて何をするつもりだ?」
男性:「俺は依頼されただけだ。虹色の羽を盗って来いって……大都市の領主の娘さんによぉ。何でも、虹色の羽を装飾品に加工するつもりらしい。」

『 大都市の領主の娘 』……そうか、あいつか。こんな馬鹿な依頼をしたのは……本当に救えない奴だ。

アーシェ:「まったく……そんなくだらない理由で……だったら、尚更そんな真似を許すわけにはいかねぇな。そういう邪な心の持ち主が、この虹色に触れちまったら、未来がどうなるか分からねぇ。」
男性:「粋がるのは良いけどよぉ、お嬢ちゃん……口先だけじゃあ、俺は止められねぇぜ!!」

私の背後に突然現れたムウマージが再び黒い球体を作り出す。

アーシェ:「シャドーボールか……キバゴ、もう1度駄目押し!」
男性:「無駄だ!これでくたばれっ!」

ムウマージが放ったシャドーボールを目視で回避したキバゴが、ムウマージに駄目押しを叩きつけた。

男性:「なっ!?」
アーシェ:「おぉ!よく避けた、キバゴ!」

男性の指示に応えようと浮かび上がったムウマージだったが、途中で力尽きて伏せる様に床の上に落ち、そのまま戦闘不能となった。

男性:「そ……そんな、バカな……っ!」
アーシェ:「キバゴの攻撃力を嘗めるなよ!……ふふっ、お疲れ様。よく頑張ってくれたな、キバゴ。」
キバゴ:「 (; ・ ∀ ・)b☆ 」
男性:「おっ……お前!!よくも……!!」
アーシェ:「文句を言われる筋合いはねぇな……これも立派な防衛だ。」
男性:「ふん……まぁいい。今日は失敗したが、またお前が居なくなった頃に、手持ちポケモンを増やして盗りに来ればいいだけのこと……」
アーシェ:「そっか……懲りねぇ奴だな、てめぇも。はぁ……仕方ねぇ。今、その羽に手を出さねぇって言うなら、私はてめぇとムウマージを見逃してやる。」
男性:「ん?随分、おとなしく……」
アーシェ:「でも……外に居る人達はどうかな?」
男性:「え?」

神殿内でのバトルに気付いて駆け付け、そして今の話を聞いていた町の人達が神殿内になだれ込み、そのまま男性を取り押さえた。

そのすぐ後、ティアが連れて来た町の警察やお偉いさんにより、男性は抵抗空しくそのまま御用となった。

ティア:「アーシェちゃん!!大丈夫!?」
アーシェ:「ティア……うん。私は大丈夫。犯人も無事に捕まったみてぇだし……よかった、よかった。」
ティア:「幸い、何処も怪我していないみたいだけど、お姉さん、心配で—————……」

何か言葉を紡ごうとするティアの唇に、私は人差し指を押し当てる。

アーシェ:「これが私のやり方だから……私のキバゴがちょっとダメージを受けちゃったけど、それだけの被害で虹色の羽根が無事だったんだ……それで良いじゃねぇか。」
ティア:「それは……そうかもしれないけど……」
アーシェ:「はい!この話は終わり!!流石に疲れた……私もキバゴと一緒に、ちょっとポケモンセンターで休ませてもらうぜ。」
ティア:「え……えぇ……」

その後……繁栄の神殿襲撃の話題は、私が思っていたよりも速く世間に広がり、その対処も迅速だった。

元気になった翌日、もう一度繁栄の神殿を訪れると、虹色の羽の横に2人の神官さんが立っていた。

神官さんの話によると、此処だけではなく、他の神殿でも交代制で神官……もしくは町のポケモントレーナーの方が配置される事になったそうだ。
貴重品に対する危機感を持つようになった……神殿と宝玉を管理する町の人達は、ほんの少し賢くなったのかもしれない。

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