ジェードさん主催、ポケモンバトル書きあい大会エントリー作品。
「やいヌオー! 今日こそ真面目に手合わせしろ!」
住処の前で怒鳴る。迷惑など知ったこっちゃない。今日こそ、さんざんはぐらかされ続けた決着を付けるのだ。今日のために二つのホタチをいつも以上に丁寧に研いだ。体調も万全。あとは全力を叩きつけるだけ。
しかし肝心のヌオーと言えば、俺がどなってからしばらくして、ようやくのそりのそりと住処から出て来た。
「やっと出てきたかうすのろめ! さあ、とっとと構えろ!」
「うるさいなあ。何度来てもやらないと言っただろう」
やる気に満ちあふれて早口になる俺とは対照的に、ヌオーはのろのろとマイペースに喋った。戦う気などまるでないというように大あくびをする。その一つ一つのしぐさの鈍さが、俺の神経を逆なでした。
「来ないなら俺から行くぞ!」
両手に持ったホタチに水の刃を纏わせる。ホタチを研ぐ意味があるのかと思われるかもしれないが、表面に少しでも急な凹凸があると、できた刃の形と強度に影響を及ぼすのだ。刃の出来だけで言えば今日は満点だ。刃を振り上げ、勢いよくヌオーにとびかかった。
「んー」
ヌオーは虚を突かれた形になるが、全く動じていないように見えた。よだれを垂らし――と言えるレベルではないくらいにドバドバと水を垂れ流している。まあいい。先制攻撃はいただきだ。
瞬間、天地が裏返った。
「は?」
呆気にとられたまま、頭から地面に突き刺さった。おかしいな、硬い地面だったはずなのに。
気づく由もなかったが、ヌオーが水を垂らしていたのは、地面に水分を持たせてぬかるみを作るためだった。そして俺の攻撃の勢いを利用してひっくり返し、今の形になったわけだ。
「よいしょお」
大きな手に掴まれて、俺の体が引っこ抜かれた。そしてぬかるみの外に優しく置かれた。
「ふざけんな! 真面目に戦――」
ヌオーに噛みつこうとした俺の瞼が、急激に重くなった。最初にヌオーがしていた「あくび」の影響だと気づくまで、時間はかからなかった。
対戦カード
C:ヌオーvsフタチマル