第9話 お小遣いを手に入れる為に!テスト勉強だ!

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 教室内は、何だかピリピリしていた。それもその筈、もうすぐ中間テストなのだ。だが、テスト如きでここまでピリピリするのは妙におかしい……と思った僕は色々調べてみたんだけど、どうやらこの学園にはテストの順位結果に応じてお小遣いが貰えるらしい。1年生の学年1位だと、1万ポケ。2位だと9000ポケ、とまぁお金で釣るみたいで褒められたものじゃないけど、どうやら意外とそれがモチベーションになっている子が多いみたいだ。現に、休み時間の今、いつもなら騒がしいこの教室からは、ノートを捲る音とものを書く音くらいしか聞こえない。
 ぶっちゃけ、僕はそこまでして良い順位を取りたい訳じゃないし、日々の予習復習さえキチンとやっていればそこまで苦労する事は無いと思う。とはいえ、皆の勉強を邪魔する訳にはいかないし、僕は何処か別の場所で時間でも潰そう。
 そう思い、席を立ち上がると、後ろから誰かにぽんぽんと叩かれた。背後にいるのはリンドー、リンドーは怪訝そうな顔で、周りに迷惑をかけない為か(そんな気遣いが出来るやつなんだね)小声で話し始めた。

「……何処行くんだ?」
「……何処って、ここじゃない何処かだよ。僕は別にそうやって勉強する程、テストに対してモチベーション高くないし……」
「…………お前、社会得意か?」
「………………は?」

 いつもと違う、悲痛な表情を浮かべるリンドー。

「…………なぁ、社会……教えてくれよ……」
「……いや、教えるも何も……覚えれば良いだけでしょ……」
「頼むよ…………」
「…………はぁ、放課後ね」

 ここで渋ったりしたら、リンドーが騒がしくなるに違いない。僕はしょうがなく、リンドーの申し出を承諾する。

「本当か……!?ありがとう……!」

 なんっと、まぁ嬉しそうな顔をして……どんだけ苦手なんだよ。

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 そして時は放課後、場所はリンドーの部屋。

「で、なんで君達がいるの?」
「ほぇ〜?」
「よろしくお願いします!」
「いやさ、俺がビートに社会教えてもらうって話したらルートとニーノも教えて欲しい!って」
「そうです!僕、国語得意なんですけど社会が全然駄目で!」
「ワニャもねぇ〜、英語とかは好きなんだけど、社会は全然分かんな〜い」
「つーことでよろしく頼むぜ、ビート先生!」

 溜息を吐く僕。つまりここには社会が苦手な奴等しか居ないって訳か。……まぁ、教えるのは1匹も2匹も3匹も同じだ。

「……とりあえず、テスト範囲の教科書のページを開いて」
「えっと、今回はポケモンの誕生から縄文時代、でしたっけ?」
「開いたよ〜」

 僕は教科書を片手に、朗読を始める。

「“地球上にポケモンが現れたのは、今から約500万年前の出来事である。この時、地質学で言う鮮新世の初め頃の出来事で、これに続く更新世にかけてポケモンは発展した。更新世は、氷河時代とも呼ばれ、寒冷な氷期と、暖かい氷期が交互に訪れ、その度に海面の下降と上昇が繰り返された。また、地殻変動や、火山の活動も活発であった為、地形に変化が生じた”」
「分かんない」
「まぁ、これを全部覚えようとすればそりゃあ覚えきれない。だから重点に絞って覚える、ってのは流石に分かるよね?」
「ああ……けどよ、それがごっちゃになっちまうんだ」
「そこで使うのが“5W1H法”だ」
「ごだぶりゅー?」
「いちえいち?」
「それってWhen(いつ)Where(どこで)Who(だれが)What(なにを)Why(なぜ)、How(どのように)の5W1H〜?」
「うん、英語が得意って言うだけあるね。その5W1H。さっき読み上げた文章に、5W1Hが当てはまる場所を探してみよう。まずは最初の文。“地球上にポケモンが現れたのは、今から約500万年前の出来事である”。先に言っておくけど、
5W1H全部当てはまる訳じゃないからね、2Wになる事だってある」

 つまり、“地球上にポケモンが現れたのは、今から約500万年前の出来事である”という文章を5W1Hでまとめると

When:約500年前
What:地球上にポケモンが現れた

「こうやってまとめられるよね?」
「おお!……でもその次には“この時、地質学で言う鮮新世の初め頃の出来事で、これに続く更新世にかけてポケモンは発展した。”ってのはどうすれば……?」
「まず、さっきまとめたWhenの約500年前に“鮮新世”という単語も追加しよう。これが①。Whatは1つにしよう、社会が苦手な子って、ここで鮮新世ではポケモンが現れて、またポケモンが発展して……って感じで覚えようとするからごっちゃになるんだ」
「1つ1つの出来事で区切る訳ですね!」

そう、だから
①When:約500年前(鮮新世)
 What:地球上にポケモンが現れた
②When:鮮新世〜更新世
 What:ポケモンが発展していった

「こんな感じでまとめていくんだ」
「これなら覚えられそうだ!」
 
 意気揚々と勉強を進める3匹。だが、程なくしてリンドーの動きが止まる。

「んー……」
「……どうしたの?」
「いや……このアニミズムとかいうの、どうやって纏めれば良いんだ?“縄文時代には、万物には魂や霊が宿っているアニミズムという考えがあった”。Whenは縄文時代でいいだろ?じゃあ他は?」
「ああ、それは“アニミズム”をWhoにしてみよう」
「え?Whoに?」

When:縄文時代
Who:アニミズム
What:万物には魂や霊が宿っているという考え方

「うん、この5W1H法、When、Where、Whoに関しては、Whatは違うけど、Whoは同じ、みたいな事が起きる事を想定しているんだ」
「えっと、つまり?」
「例えば、この“アニミズム”をWhoとしておく事で、この先またアニミズムという考えが出たら?時代は違えど、同じ考えだ。そしたらWhenに追加してあげるだけで良くなる。このやり方は、伝統や文化、考え方に適応しよう」

 つまりまとめると
・文章の中の5W1Hを引き抜く
・1つのWhat(出来事)毎に区切る。
・伝統、文化、考え方などはWhoとして考える
・When、Where、Whoに関して同じものは、別でまとめるとなおよし

「と、いう訳。ま、あくまでこれは僕の考えで自分のやりやすいようにやってもらって構わないよ」
「社会って覚える事が沢山あって、ごちゃごちゃするけど、こうやってまとめてしまえば覚えやすいね〜」
「本当だな、でも良いのかビート?これじゃあ俺が学年1位取っちまうぜ?」
「別に良いよ、僕は学校の順位とか興味無いし、それに……」
「それに?」
「…………いや、何でもない」

 この5W1H法が今適当に考えたやり方だってことは黙っておこう、何か絶賛されているし。

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「じゃあテスト返すぞ〜」

 テスト前のピリピリした雰囲気が一転、教室内は若干和やかな雰囲気が漂っていた。だが、やはりテスト返却の時間は皆緊張の顔付きだ。僕は、何度も言うけどそこまで良い点を取る事にモチベーションがある訳じゃないし、悪い点数じゃなきゃいいや。
 ローゼル先生は1匹1匹、テストを返却していく。この返されたテストを見て、一喜一憂する皆の姿が見られるのは、こうやって学校に通っている時だけだね。

「なぁ、どうだったビート!?」

 テストが返却され、放課後。意気揚々と僕の席を取り囲むリンドー達。

「……別に、普通だよ」
「そうか!俺は、見ろ!2位だったぞ!」
「わ!凄いです!」

 ほぼほぼ満点のテスト用紙を僕の席に広げるリンドー。苦手と言っていた社会も87点と悪くない点数だ。

「私は7位でした。でも前まで10位以内にすら入れなかったので、大躍進です!」
「ワニャもだよ〜、初めて10位だった〜」

 和気藹々とお互いの健闘を褒め合うリンドー達。

「お小遣いも手に入ったし、これはもう宴だな!カラオケ行こうぜ、ビートも来るよな!?」
「そうですね!今回の順位はビートさんのお陰といっても過言ではないので、奢らせてください!」
「……ん、まぁ……だったらお言葉に甘えるかな」
「だったら思い立ったが吉日だ〜!」
「あ、待てよワニャ!」

 はしゃぎながら教室を出て行く3匹を尻目に、僕は鞄の中にそっと1万ポケを押し込み、彼等の後を追いかけた。
 カラオケは、まぁ楽しかったよ。

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