第44話 ご対面

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「さあ、歩け」

 ヒトカゲ達は森の中を歩かされている。1列に並び、最後尾にボーマンダがいる。下手な行動を起こせないように見張りをしながら誘導している。

「いいか、少しでも妙な真似をしてみろ。どうなるかわかるな?」

 数分おきに発せられる言葉だ。ボーマンダに隙は見られない。こうなったら覚悟を決めて、敵の本拠地で全員倒すしかないと、ヒトカゲ達は考えていた。
 だがそれと同時に、ボーマンダにまともにダメージを与えることすらできなかったのに、果たして全員倒すなど可能なのかという考えも頭を巡っていた。

(いつかは戦うことにはなっただろうけど、こんな早いなんて……)

 ヒトカゲも歩きながら考え事をしていた。グラードンを操り世界を崩壊へと導かせることだけは止めなければならない、ならば機会は今しかないと言い聞かせている。
 怖くない、といえば嘘になる。しかし怖いと言っている余裕もない。突破するしか術はない。そしてルギアに頼まれたホウオウ捜しをしなくてはならないと強く思った。


 しばらく歩くと森を抜け、ヒトカゲ達の目の前に洞窟が1つ、松明によって照らされていた。どうやらここがボーマンダとその仲間がいる占拠地のようだ。
 その中から、仲間であろう、鋼鉄の体と4本の足を持ち、顔に当たる部分には×字のプロテクターのようなものがあるポケモン――メタグロスが出てくる。彼が見張り番をしているようで、ボーマンダに近づいて小声で話をする。

「ボーマンダ、こいつらがお前の言っていた……」
「そうだ。命令どおり連れてきた。入り口を開いてくれ」

 メタグロスは「了解!」と言うと、すぐさま洞窟の中へと入っていった。それを確認すると、ボーマンダがヒトカゲ達に再び「歩け」と命令する。
 いよいよ本拠地に潜入かと、3人は同じことを思う。もう後戻りはできない。絶対に計画を阻止するのだと心を引き締めながら、言われるがままに歩き始めた。



「意外と広いな……」

 中の通路は想像以上に広く、幅はカビゴン3倍分程あるだろう。周りには小さな松明がいくつも点在し、洞窟の中を淡い光で照らしている。
 奥に進むにつれて、目の前に1つの部屋が見えてきた。扉の隙間から何者かの影が見え隠れしている。今まで以上に緊張感を高めて、3人はその部屋へと入っていった。

「……あら?」

 刹那、何やら聞き覚えのある声がした。その方を振り向くと、ヒトカゲ達の知っている顔がそこにはあった。

『ゲ、ゲンガー!?』

 そう、ヒトカゲ達の前にいるのは、ゴーストの姉のゲンガーだった。どうしてこんな所にいるのかと尋ねようとしたが、それを跳ね除けるほどゲンガーの方が驚いていた。

「うそ、あらーみんなでこんな所まで来てくれたの! なんでわざわざ? でも嬉しい♪」

 とにかく彼女のテンションが高い。ここって敵の本拠地だよなとヒトカゲ達は混乱し始めていた。そんな中、また聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「やかましいぞ、何を騒いでいるんだ? 俺様の仮眠を邪魔するな!」
『えっ、バシャーモ!?』

 次に現れたのは、自称正義のヒーローことバシャーモだった。寝付いたばかりのところを起こされ少々不機嫌そうに彼らを見ている。ヒトカゲ達は先程以上に驚くことになった。

「ん? お前達は俺様の弟子共じゃないか!」
(で、弟子共……)

 ここまで来ると、何が何だかわからなくなってきた3人は、ゲンガー、バシャーモ、そしてボーマンダの顔を順に見回している。
 そんな挙動不審な3人の様子を見てどうもおかしいと思ったようで、ゲンガーがボーマンダに質問した。

「ボーマンダ、あんたまた何も話さないで無理やり連れて来たんじゃないの?」
「……そうだが?」
「そうだが? じゃないでしょ! 完全にヒトカゲ君達混乱してるじゃないの! ただでさえあんた見て悪者だと思うポケモンがほとんどだって言うのに!」

 散々避難されるボーマンダ。おまけに悪者とまで言われる始末。ゲンガーは慌ててヒトカゲ達のところに駆け寄り、謝りながら事情を説明する。

「ごめんね~恐かったでしょ? でも安心して、ここはあなた達が思ってるようなところじゃないから」
「えっ、じゃあここは?」

 ヒトカゲはまだよくわかっていないような顔をしている。それに対してバシャーモは、まるで自慢をするかのような口調で自分達の事を明かした。

「ここは、俺達“チーム・グロックス”の本拠地(アジト)だ!」
『……えっ、えぇ!?』

 3人はこの日1番の驚きを見せる。ゲンガーの言うとおり、ボーマンダの事をずっと敵だと思っていたため、予想外の事実に腰を抜かしてしまった。
 同時に、今までゲンガーとバシャーモの様子がおかしい点があった理由がわかった。あれは自分達が“チーム・グロックス”の一員であることを隠していたためだと。

「そうなのよ、情報が漏れたら大変なことになるから、黙ってたのよ」
「そ、そうなんだ……ってことはこのボーマンダも?」

 ヒトカゲ達はばっとボーマンダの方を振り返る。無表情の、否、無愛想なボーマンダが静かに口を開いた。

「そうだ。俺もこのチームの一員だ」

 この一言でようやく安心できたようで、3人の緊張は解け、その場に力なく座り込んでしまう。若干落ち着いたところで、ヒトカゲはボーマンダに質問する。

「ソーナノとどういう関係なの?」
「あぁ、あいつか……」

 一瞬言葉に詰まるが、ボーマンダは事情を説明する必要性を感じ、ソーナノに出会うまでの経緯を語り始めた。

「少し前にな、任務に失敗した俺は瀕死の状態に陥った。その時に偶然俺を見つけてくれたのがソーナノだ。看病してくれて何とか動くことができた。いわば俺の命の恩人だ」

 それから、お礼の意味も込めて月に一度、ソーナノのところを訪れるようになったのだ。いつしかソーナノはボーマンダを“おじさん”と呼ぶようになっていたのだとか。

「そうなんだ、だから……」
「ところで、ヒトカゲよ」

 ヒトカゲとボーマンダとの会話に入ってきたのは、正義のヒーロー気取りのバシャーモだ。どうやら彼らと話がしたかったようで、先程からしきりに顔を覗いたりしていた。

「後でね」
「な、何だと!? 俺様と話ができないというのか!」

 相変わらずの口調のバシャーモにヒトカゲ達は今まで以上にリラックスできた。ふと3人の顔から笑みがこぼれる。彼は怒っているようだが。

「はいはい聞いてやるから、何だよ?」

 まるで幼い子供に対してするような口調でルカリオが話しかける。だが当のバシャーモはその口調に一切触れることなく嬉しそうな表情に変わる。それでも上から目線には変わりない。

「あれから何か進展はあったか?」
「進展? そりゃあ、ボーマンダにここにつれてこられたことくらいだな」

 ルカリオはボーマンダの方をじいっと見つめながらそう言った。それに対して彼は悪びれる様子を見せず、先ほどから一貫して無愛想な表情を貫く。

「ボーマンダ、お前には素直さというものはないのか?」
「黙れ、軍鶏(しゃも)」

 バシャーモが1番気にしていること、それは自分をニワトリ、しかも軍鶏扱いされることだ。それをあっさり言ってしまうボーマンダは、彼とあまり気が合わないらしい。

「し、軍鶏だと!? 貴様は何年経っても俺様を侮辱する気か!? ならばこの場で正義の鉄槌を――!」

 怒り心頭でボーマンダに殴りかかろうとしたバシャーモだったが、気づくと誰かに体を持ち上げられていた。少しの間もがいた後、後ろをよく見ると、自分を持ち上げた犯人であるメタグロスの顔が見えた。

「やめんか、バシャーモ。ボーマンダも口を慎まんか」

 こう見ると、メタグロスはバシャーモとボーマンダの仲裁役のようだ。口喧嘩になってバシャーモが手を出そうとする度にメタグロスが彼を抑える、という光景が容易に想像できる。
 案の定、少し落ち着きを取り戻したバシャーモは地面に降りると、そこから動こうとしなかった。腕を組んでボーマンダに対してそっぽを向いてはいるが。

「はは……みんな仲がいいんだね~……」

 ヒトカゲもこれにはどうコメントしてよいかわからず、当たり障りのない言葉しか出てこなかった。ルカリオとアーマルドも頑張って苦笑いしている。
 改めて見てみると、誰にでも優しく接するゲンガー、正義のヒーローバカと呼ぶべきバシャーモ、無愛想で何かと荒っぽいボーマンダ、そして彼らのトラブルを解決するメタグロスという、個人の色が強いチームである。

「ところで、お前らのリーダーはどこにいんだよ?」

 ふとルカリオがリーダーについて思い出す。ヒトカゲとアーマルドも言われて思い出したが、まだこのチーム・グロックスのリーダーであるガブリアスの姿が見当たらない。

「あぁ、リーダーならもうすぐここに到着するはずよ」

 ゲンガー曰く、全員が揃った頃に、まるでタイミングを見計らったかのように姿を現すという。今回もおそらくそうだろうとメンバー全員が口をそろえて言う。
 ちょうどその時、ザッ、と土を削るような音がみんなの後方から聞こえた。誰もがそれはガブリアスの立てた音だと理解し、彼が通れるほどの道を空けておく。
 重く、しっかりとした足音が洞窟内に響く。その音に気を取られているうちに、ガブリアスはその姿をみんなの前に現した。
 背中、腕、頭部はサメのような形状をし、体全体は細身の恐竜のように見える。その鋭い眼光でガブリアスはヒトカゲ達をじっと見ている。

「彼が、チーム・グロックスのリーダー、ガブリアス……」

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