第40話 プテラの元へ

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「そうだ、“たいあたり”って~のはそうすんだ」

 翌日の昼近く、カレッジの隣町『チル』では、とあるポケモンがまだ幼いポケモン達を集めて技を教えていた。
 この町は比較的小さい規模の集落がいくつかあるのみで、長閑な田舎とあまり変わりない。親が仕事などで日中いないせいか、子供の姿が目立つ。

「じゃあ次、これも基本の“なきごえ”やってみ」

 そして、そんな子供を相手にしているのが、1年前まで犯罪に手を染めていたポケモンである。姿は翼竜そのもの。そう、彼こそバンギラスの父・ラルフを殺した犯人、プテラだ。
 今は刑期を終え、執行猶予期間中だ。改心した彼は社会奉仕活動をするためこの町へ移り、働きつつもこうして子供達の相手もしてあげている。

「おっ、いい感じじゃね~か。じゃあ今日はこれでおしまい。次に俺が来る時までにちゃ~んとマスターするんだぜ?」
『はい、先生!』

 子供達からは先生と慕われるまでになったようだ。その場で遊び始めた子供達に軽く「じゃ~な」というと、そのまま歩いてその場から立ち去った。
 今現在の彼の家は、子供達の相手をしていた広場からさほど遠くないところに位置している。それ故わざわざ飛行する必要もなく、歩いて移動している。
 帰路の途中にはきれいな小川や草花が目に入ってくる。今まで目もくれなかったものを改めて見ると、小さな感動を覚えてしまうもの。彼も例外ではない。

「ちょっと昼寝でもすっかな~。どうせ今日はもう何もすることね~しな」

 プテラはその場に屈み、翼を折りたたんで居眠りの姿勢をとる。目を瞑ろうとした、ちょうどその時だ。自分の視界の中に大きめの影が入り込んできた。
 何だろうと思って後ろを振り返ろうとする前に、彼の背後に立っていた何者かが声を掛けてきた。


「久しぶりだな、プテラ」


 声を掛けられた側にしてみれば、1年ぶりに聞く声色。彼にとっては忘れることのできない存在――口封じの対象となった標的・ラルフの息子、バンギラスの声に間違いなかった。

「……あ、おま……」

 振り向くと、そこにいたのはバンギラスだけではなかった。ヒトカゲもいる。そして見慣れない2人の姿もある。それだけでプテラは激しく動揺していた。
 バンギラスが口を開こうとしたと同時に、どういうわけか彼の方を向き涙ぐみながら地面に伏せる。突然のことに全員が驚く。

「た、頼む! 命だけは取らないでくれ! 頼む……」

 その行為はまさしく、命乞いそのものだった。あまりに意外な行動にバンギラスは戸惑ってしまう。その間もプテラは泣きながら地面に頭をつけ、ひたすら命乞いを続ける。彼が敵討ちに来たと思い込んでいるようだ。

「お、おい、殺さなねぇって言っただろ? とりあえず顔上げてくれ」

 その言葉を聞き、プテラは半信半疑顔を上げる。その目には涙を浮かべていた。改めて彼らの姿を見ると、殺気などどこにも感じない。そのままバンギラスの話に耳を傾ける。

「実は、お前に協力してほしいことがあってよ、頼みにきたんだ」
「お、俺に?」

 予想もしなかった発言にプテラは首を傾げる。黙ったままバンギラスやヒトカゲが頷いて、何か事件でもあったのかと推測したのだろう、「家で話そう」と彼は提案する。みんなは彼の後を追って、彼の家へ足を運ばせた。


 必要最低限のものしか置かれていない、プテラの家。みんなが到着するなり、バンギラスは話を始めた。軽くヒトカゲ達の経緯を話した後、すぐさま本題に入る。

「……っていうわけで、“チーム・グロックス”について何か知らないか?」

 まず切り出したのは、ライナスを捜しているというチーム・グロックスの情報についてだ。プテラが唸りながら目を閉じている様子から、何か知っているようだ。

「……あんまり言いたかね~けど、俺にとって1番厄介な相手だったぜ」

 嫌な思い出でもあるのか、渋々プテラは“チーム・グロックス”について知っていることを伝え始める。

「特にリーダーのガブリアス。あいつぁ強かった。もう少しであいつにやられるところだったからな。おっそろし~ぜ~」

 彼の話を受け、ヒトカゲ達はガブリアスの事を想像してしまったのか、恐怖を覚えた。ヒトカゲとアーマルドは抱き合って小刻みに震え、ルカリオは何故かカメックスを思い浮かべていた。

「それで、居場所は?」
「そりゃ~さすがの俺でもわからんわ。ましてやライナスを捜してんだろ? だったらなおさらだな」

 あまり期待はしていなかったが、やはりプテラでも彼らの居場所を把握していなかった。これについては諦め、次にライナスについて尋ねる。
 先程の発言からわかるように、ライナスの居場所についても知らない様子だ。だが、彼はライナスについて気になることがあったという。

「あいつ、行方不明になる少し前から、やたらとライボルトと一緒にいることが多かったな」

 これには誰もが驚いた。話に出てきたライボルトというのは、ライナスのいた“チーム・レジェンズ”の一員だとルカリオがすぐに説明したからだ。そして、ライナスと1番親しかった者でもあるという。

「何故かは知らんけど、全てを託した、そんな感じに見えたぜ」

 一時期ライナスを追っていたプテラが知っているのはここまでだった。それでも十分な情報である。特にルカリオは忘れまいとしっかり集中して聞いていた。
 そして気になったのが、プテラが言った「全てを託した」という言葉だった。あくまで憶測の話ではあるが、その言葉がルカリオにとってはどこか引っかかるものがあったようだ。

「今度は僕からききたいんだけど、『グロバイル』って知らない?」

 次にヒトカゲが『グロバイル』について質問する。これに関して意外にも素早く食いついたプテラは、少しにやつきながら話をする。

「グロバイル――“一夜にして壊滅した村”だぜ。お前ら知らないんか?」
『一夜にして壊滅した村?』

 みんなは声を揃えて言った。そんな村があっただろうかと記憶を辿るが思いつかず、その話をしたくてうずうずしているプテラに話すよう頼み込んだ。

「これも、20年前の話でっせ。小っさい村なんだが、夕方までは何ともなかったのに、次の日の朝には建物は全て倒壊、住んでいたポケモンはほとんど死亡。生き残った奴が1人いたかいないかって話だぜ」

 実際に目にしたことはなく、話で聞いただけだという。だがよく知られた事実として語り継がれているのだとか。そうなると疑い深い彼らでも信じてしまう。

「ところで、何でグロバイルなんて名前知ってんだ?」
「それなんだけど、実はね……」

 ヒトカゲはプテラに、昨日の戦いの様子を説明する。その際ジュプトルが告げた「グロバイルへ来い」という言葉に、ずっと頭上に疑問符を浮かべていたと。
 しかしプテラはジュプトルに関する情報を持ち合わせてなく、「ただ指定した場所が村の跡地だったのだろう」と考えていた。残念がるヒトカゲ達だったが、ただ1人、腕組みしながら考え事をしていた。

(もしかして、ジュプトルの奴、グロバイルの生き残り? それとも単にそこを選んだだけか……?)

 先程から一点を見つめてこう考えているのはルカリオだ。プテラがグロバイルについて話している時からずっと考えを巡らせていたのだ。前者の方が可能性はあると思っているようだが、それと自分自身、もしくは父親との関係が見えてこないでいる。


 結局それ以上の情報は得られず、あっという間に日が暮れてしまった。長居は無用ということで、ヒトカゲ達は出発しようとする。

「ホウオウか、俺も会ってみてぇな~。俺が言える資格あるかはわかんねーけど、頑張れよ」
「ありがとう。嬉しいよ」

 プテラから出たのは励ましの言葉。1年前の彼からは想像すらできない変貌ぶりにヒトカゲは戸惑うが、「頑張れ」という言葉がとても響き、心の底から嬉しそうな顔になった。

「あっ、ヒトカゲ。悪ぃが……」

 そこへ、ばつの悪そうな顔をして入ってきたのはバンギラスだ。どうしたのかと尋ねると、彼は手を合わせて頭を下げた。

「ここでお別れだ。一旦署に戻らなきゃならねぇし、こっから先に出るのはさすがに許可降りないんだ。本っ当に悪ぃ!」

 ヒトカゲ達はすっかり忘れていたが、バンギラスは任務としてついてきてくれていたのだ。一緒に旅ができるのはここまでということになる。

「そうだったぁ~。でもしょうがないよね。寂しいな~」
「ホントだぜ。バンちゃんがいなくなっちまうなんて、つまんねぇな」
「おい、てめぇ何回俺にバンちゃんっつった?」

 ルカリオは冗談のつもりだったがわりと怒ったバンギラスに胸倉を掴まれる。昨日に引き続き殺されそうになっている。これを見ていたアーマルドはもちろん、こんなメンバーだったのかとプテラも笑いを堪えている。

「じゃ、じゃあ行くよ! ありがとね、バンギラス、プテラ!」
「お、置いてくなよヒトカゲ!」

 逃げ腰になりながら、ルカリオを置いてヒトカゲとアーマルドは歩き始めた。慌ててルカリオも彼らの後を追う。残った2人は彼らが見えなくなるまで見届けると、改めて別れの挨拶を交わす。

「また来ると思うからよ、そん時はよろしくな」
「俺が頼りになるんなら、いつでも来てな」

 2人が互いに軽く頷き、意思疎通を図った。暗くなる前に戻らないと、とバンギラスは足早にその場を去っていき、姿が見えなくなるまでプテラは見続けていた。


 しばらくして家へ入ろうとした、その時、プテラは何者かの気配を感じた。久々に神経を研ぎ澄ませて辺りを警戒する。そんな様子を見てか、相手側から声をかけてきた。

「何をそんなに警戒している? プテラ」

 声のする方向へばっと振り向くと、そこにいたのは、彼にとっては何故ここにいるのかがわからない存在だった。

「はっ、ガ、ガバイト!? な、何故お前が……」

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