メモリー36:「認識させられる現実~ハガネやま#9~」の巻

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 お久しぶりです!本日(2021.4.25)からいよいよ再開です!ユウキとチカの物語をぜひ楽しんでくださいね!
 “自分の弱さを認める”って結構辛い部分がある。ボクだってこんなの本当は不本意だ。チカのことを守らなきゃいけない“リーダー”って立場だから余計に。でもこれ以上チカの気持ちを汲み取れないのも嫌だ。ボクが弱さを認めてチカと行動する。そんな小さな気遣いで彼女の気持ちが救われると言うならば、この“勇気”も間違いじゃないと願いたい………………。


 「いけ!!“ひのこ”!!」
 「どれだけ通用するかわからないけど、ユウキを後押しするよ!!“でんきショック”!!」
 「させるかよ!“どろかけ”!!」
 「“がんせきふうじ”!!」
 「うわっ!!」
 「キャッ!!」



 タイプの相性から見れば、ボクたちは決してイシツブテに対して優位とは言えない。現に自分たちの気持ちを乗せた技もあっという間に返り討ちにされ、逆に彼らからの攻撃でダメージを負った。それだけでは終わらない。ボクは“どろかけ”によって視界を奪われ、“がんせきふうじ”によってその場から身動きが出来なくなっていた。


 「ユウキー!!」
 「チカ!?どうしたの!?え~い、この泥め、邪魔くさい!!はっ………!!」


 チカの悲鳴が耳に届いたボクは急いで顔についた泥を拭った。するとそこには岩で周りを囲まれて身動きがとれなくなっているチカの姿があった。隙間からなんとか腕を伸ばして助けを求めるのが精一杯だろう。


 「どうだ?お前に大切な“パートナー”を助けることが出来るのかな?」
 「お前ら………」


 小馬鹿にしているようなその笑いに、ボクは怒りの感情が込み上げてくる。あまり考えたくないが「ポケモンたちってこんなに自分勝手な連中ばかりなのか?」と、幻滅さえも出てくる。あるいはこの世界で自然災害が多発してることが原因で周りのことを考える余裕が無いのか………。真実を確かめようがないので何とも言えないのが歯痒いところだが、ボクたちのような救助隊にもっと協力的な住民たちはいないのかと、そんな嘆きの感情さえも生まれてくる。


 「どうした!?こないだのように突撃してこないのか!?」
 「だったらこっちから攻撃させてもらうぜ!?“たいあたり”!!」
 「!?危ない!」
 「!?」


 チカの叫び声でボクは背後を見る。するとかなりの勢いでイシツブテのコンビが突っ込んで来るのが目に入った。このままじゃまずい………なんてボクは思ったけど、ここを離れるということは身動きの出来ないチカのことを独りにすることも意味する。それを考えると迂闊に動くことが出来ない。


 (そういえば“でんじはのどうくつ”でも似たようなことがあったな。チカが崩れた岩の下敷きになって身動き出来なくなって…………。あのときのようにキツイ想いをさせることになるのか。……………ボクのせいで)


 ボクが意地を張ってそっぽ向いてるときでもチカは一生懸命自分に尽くそうと懸命になっていた。それなのに、ボクは彼女のためになんて何一つ出来てない。それが腹立たしかった。…………でも、


 「だからといって、ボクが倒されるわけにはいかないんだああああぁぁぁぁ!!」
 「なんだてめえ!!これでもくらえ!」
 「びっくりさせやがって!」
 「うわあ!!」


 複雑に絡み合うボクの感情。それらはまるで化学反応を起こしているかのごとく爆発したのである!握りこぶしを作って驚いてしまったイシツブテたちに向かっていった訳だが、あえなく“ロックブラスト”で返り討ちになってしまった。


 「うう…………ちくしょう」
 「ユウキ!?ねぇ!止めてよ!ユウキを攻撃しないで!!私たち、この場所を荒らしに来た訳じゃないんだよ!?」
 「いちいちうるせぇんだよ!!」
 「その顔を殴られないとわからねぇのか!?」
 「キャッ!!イヤ!!」
 「チ………チカ………!!?」


 チカは彼らから更に攻撃を受けた。必死に身を守ろうとするが、いかんせん身動きできぬ状況ではどうにもならない。まともに“ほのおのパンチ”と“メガトンパンチ”を受けてしまい、そのせいで顔に怪我を負った。女の子であるチカには、心へのショックも計り知れないだろう。「なんてことするの!!?ひどいよ!!」という絶叫が何よりもそれを象徴していた。これもボクがしっかりと彼女のことを守れなかったせいである。ショックのあまりに号泣するチカの泣き声を遮ろうと、思わず自分の耳を塞いだ。彼女に申し訳ない気持ちが強くなって。


 (自分がもっとしっかりしていればこんなことには………!)


 “パートナー”はこんなに尽くしてくれているのに、“リーダー”の自分は何一つ役に立ってなかった。嫌でも幻覚チカの言葉が過ってくる。「あなたには救助隊なんて向いてない」と。そりゃそうだ。自分の仲間さえも守れない“リーダー“が他のポケモンを助けることなんて出来るはずがない。正直ポケモンになったことや、その理由がわからないもどかしさ、将来的にはまた人間に戻れるのかという不安…………色んなものが重なりすぎたこの6日間、心身ともに疲弊しているのは確か。でも…………、


 「それでもチカとの約束を果たさなきゃいけないんだ!!」


 そう、自分にはチカとの約束がある。「世界一の救助隊になりたい。安心してみんなが暮らせる世界にしたい」という彼女の夢を叶えさせるという約束が。彼女は自分が“ヒトカゲ”になった理由を一緒に探したり、人間に戻れるように協力してくれると約束してくれた。ボクらは2匹でひとつのチームなんだ。だから…………、


 「こんなところで倒れるわけにはいかないんだ!!」
 『!!?』


 心の中で猛火が燃え盛る。忘れていた感覚。初日に感じたあのメラメラとした熱い闘志。その全てをぶつけるほかに、この局面を切り抜けることは出来ないだろう。何よりも大切な“パートナー”の体だけではなく、心まで傷つけた彼らを許すことは出来ない。荒らしだと思われても構わない。悪者だと思われても構わない。とにかくボクは“パートナー”を守り、この先で待ってる依頼主を助けて帰る必要があるのだ。


 「負けられないんだあああぁぁぁぁぁ!」


 ボクは再び起き上がり、イシツブテの方へと立ち向かった!右腕を高く上げ、爪を鋭く立てて狙いをその2匹の方へと向ける!


 「炎がダメなら打撃でどうだぁ!!“きりさく”!!」
 「無駄に決まってんだろう!!“たいあたり”!!!」


 爪を立てたまま、右腕を振り下ろすボク!彼らからも迎撃をされたが、それでも怯むことはしない。タイプ相性的にはそこまでのダメージを与えることは出来ないのはわかっている。でも、元々相性が不利な相手なのだ!だったら理論的な部分で立ち向かっていくしかない!







 (ユウキ…………ユウキ…………痛いよ。なんでいつもこんな目に合わないといけないの?)


 岩の隙間で何とか動かせる右腕。それを動かして顔についた砂ぼこりをひっかくようにして払っていました。涙が伝ったせいもあってか、毛に絡み付いてなかなか取れないものもあって、逆に汚れが広がったように感じましたけど。………そんなことより殴られた顔が腫れてしまっているのか、同じように涙が伝うと傷に染みてジーンとヒリヒリとした痛みに感じました。いくら救助隊をこなす上でバトルは避けて通れないとはいえ、女の子の私には顔を殴られることの方が心に大きなダメージを受けたような気がしました。それでも…………、


 (いやだよ!エーフィさんの言葉通り、救助隊やってるのを後悔する日が来るなんて!せっかくユウキともまた仲直り出来そうな感じがするのに………!!!)
 「!!!」
 「な、何だぁ!?」


 …………次の瞬間、岩の隙間から眩しく強く光が輝いた。それはボクのしっぽの小さな炎がもたらす明るさなんて比較対象にすらならない眩しい光。まるでこのフロアにだけ、外界とは別の太陽が出現したかのようである。当然のことながらその場にいたポケモンたち全員が驚いてしまう。更にそれだけではない。


 バリバリバリバリ!!!ピキッピキッ!!
 「な…………!?岩に亀裂が入ってる!?」
 「あのピカチュウにそこまでの電気エネルギーがあったのか!?」
 「負ける…………ものですか!!」


 そう。彼女は脱出を試みていたのだ。毛が汗で濡れてしまうほど苦しい表情で、両頬の赤い電気袋から電撃を放出しながら。下手をすれば完全に岩を破壊するまでに彼女の体力が尽きる可能性だってあった。そうなれば彼女は入り口へと戻されてしまう。
 …………それなのになぜ?そんなリスクがあるにも関わらず、チカはそこまで頑張ろうとするんだろう。


 (…………せっかく一緒にがんばろうねって再出発したばっかりだったのに。………そうか。ボクのせいだった。ボクが最初から素直にならなかったから、チカのことを考える余裕がなかったから。そのせいで彼女はあんなキツイ想いをしてまで………自分で自分を助けなきゃいけない羽目になったんだ)


 弱気な自分が急に心の中に溢れてきた。そのせいで腕を振り下ろすタイミングがワンテンポ遅れただけでなく、そのパワーを少しだけ弱めてしまった。結果としてイシツブテたちにあまりダメージを与えることができず、逆に“たいあたり”で弾き飛ばされることとなった。


 「ユウキ!!」


 そのとき私は「ドカッ!ドサッ!」という音と共に、彼が地面に叩き付けられるのを目にしました。「ぐうぅ…………」という苦しそうな声を上げながら、右腕あたりを押さえて痛みをこらえてるその姿に、急にイシツブテたちへの怒りがこみ上げてきたのです。


 (なんで?なんでここまで酷いことをされなきゃいけないの?私たちはただ困っているポケモンたちを助けたくて行動しているだけなのに。確かにこのダンジョンに住むポケモンたちにも迷惑をかけていることは確かだけど…………。でも、だからってこんなボロボロになるまで黙って攻撃され続けなきゃいけないの!?何にも反撃しちゃいけないの?自分が嫌な相手だったら、自分を嫌な目に遭わせたからって何したって構わないっていうの!?例え自分より傷ついたとしても!?そんなのおかしいよ!間違ってる!)


 …………チカの怒り………というか理不尽な事柄への抗議の気持ちが、電気エネルギーへ変換されているのだろうか。段々と光が眩しさを増しているような気がした。こうなれば彼女の身動きを封じている岩だって凝らえきれるはずがなかった。最初は小さな亀裂が入っただけだったものがお互いに段々と手を繋ぎ合わせ、大きな亀裂となった。やがて「ガァァーン!!」というような音と一緒に、岩は粉々に破裂したのである!


 「なんだと!?」
 「岩が壊れた!?」
 「チカ!!」


 イシツブテたちはチカの表情に一瞬怯んだ。ピカチュウは仲間が弱っていると電気を分けたりするくらい温厚で思いやりのある種族ではあるが、今の彼女にはそんな様子が微塵も感じられない。攻撃的でバチバチと両側の赤いほっぺから電流を打ち出している姿。それはまるでダンジョン内にいるポケモンたちと同じく、外敵を威嚇しては追い払おうとする野生的な雰囲気。恐らくこの6日間で最もキツイ物だった。仲間であるボクでさえ今の彼女に声かけするのは危険な感じがしたくらいって言えば、わかってもらえるだろうか。


 「もう迷わない!ダンジョン内のポケモンたちのことを今までは救助隊の都合に巻き込まれて可哀想って思っていたけど、こんなに悪者扱いされて攻撃されちゃうんだったら、こっちだってあなたたちが立ち上がれなくなるくらいの攻撃をするよ!!」
 「…………んだと!?」
 「…………チカ………」


 ボクは思った。チカは怒っていたり、理不尽な仕打ちに抗議してる訳では無いんだ。認識せざるを得ない現実を受け入れてしまって、悲しくて悔しくて辛くて仕方ないんだと。その気持ちをぶつける場所が無くて、本当は望んでいない「ポケモン同士で傷つけ合う」ことを選んでしまったのだろうと。


 だってそうだろう。イシツブテたちに向かって叫ぶ声が震えていたし、ボクには彼女が感極まって目頭が熱くなっているようにも見えたんだ。


 (夢が叶うって聞こえは良いけど、それって決して今までの苦しみから解放されたって意味とは限らない。むしろ今まで目にしなくて良かった苦しみや現実に直面しないといけなくなるから、自分の本来なりたかった姿とは全然違う姿になる可能性だってあるんだよね………。ボクはそこまできちんと考えた上で、チカの気持ちを後押し出来ていたんだろうか…………)


 チカの姿にボク自身はどんどん自信を失っていた。あれだけ偉そうなことを彼女に押し付けた結果が、より辛いことを経験させる結果になったのだったら…………、自分の起こした行動は果たして正しかったと言えるのだろうか………。ボクはなんだかよくわからなくなってしまって、その場に茫然と立っていた………。





 「ユウキ、しっかりして!!」
 「!?」


 助走が付きやすいように、私は四つ足の体勢をとり、一目散にユウキの元へと駆け寄りました。彼は驚いた表情をしていましたが、自分の方に振り返ったときには酷く沈んだ表情になったのです。


 「私たちには助けを待っている依頼主がいるんだよ!!?あなたの強さを私に見せてよ!!」
 「チカ……………違う。本当のボクは…………こんなに弱いんだよ。キミの気持ちだって汲み取れなかったし、自信だって無くなって………」


 私はユウキの心に訴えかけるように声かけをしました。弱っている彼の姿なんて見たくなかったから。でも彼はそれさえも拒むようにうつ向いたまま。よほど色んなものが彼を苦しめているのでしょう。それらを必死に自分の中に抑え込もうとしているのがわかりました。やっぱり彼は優しいんだなって思いながら。優しいから抱え込もうとするんだ…………って、そのように感じました。でも…………それでも、一人で頑張らないで欲しかった私は、また強く彼の心の扉を叩こうとしたのです。


 「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!ふたりまとめてくたばっちまえ!!“いわおとし”!」
 「“ロックブラスト!”」


 当然ながらイシツブテたちの攻撃はまだ続いています。技を繰り出す声が耳に飛び込んできた私は、彼らの方を振り向いて叫んだのです!


 「そうはさせない!!ユウキを傷つけるポケモンは私が許さないんだから!!“でんきショック”!!」
 「チカ…………」


 私はユウキの前に立ち、自分たち目掛けて飛んでくる岩や落ちてくる岩に向かって目一杯の電撃を放ちました。これ以上ユウキを独りにさせたくない、傷つく姿を見たくないって想いが強かったから。だって彼は………今の私にとって、たった一人しかない“友達”だから。


 バリバリバリバリ!!ガラガラガラ!!
 「ちっ!しぶといヤツめ!」
 「そんなに直接殴られないと気が済まないようだな!?」
 「危ない!!」


 ユウキの叫び声が聞こえました。彼らが私に殴りかかろうとしたからでしょう。しかもその握りこぶしからは赤々とした炎。つまりただのパンチではなく、“ほのおのパンチ”だと言うことがわかりました。確かにこのままでは危ないことは明らか。…………でも、


 「どんなことがあったって………私は負けない!!それが夢を叶えた代償だったとしても!!救助隊になったことを後悔したくない!後ろなんて振り返らない!ユウキのように前を向いて生きたいからぁぁーーーーーー!!」
 「チカァ!?」



 ……………ピイィィィィィィィカアアァァァァ!!!


 …………ボクにはその次の光景が衝撃的だった。なんとチカのハート型のしっぽが眩しく輝いたのだから。それだけでは終わらない。彼女は身軽な体を高く跳び跳ねさせ、体を小さく丸くさせたと思うと、くるりと空中ででんぐり返しをしたのである。そうしてしっぽが天井を向く………つまり逆さまにさせた状態にすると、次に地面へと落下する勢いを利用しながら「たああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と、大きな声をあげることで気合いを入れながら、そのしっぽをイシツブテに向かって振り下ろしたのである!


 (大丈夫なのか、チカ!?アイツらには物理攻撃はそこまで通用しないと言うのに、そんな………逆に自分の方が傷付きそうな攻撃を仕掛けて………!)


 ボクは急に心配になった。だからと言って彼女の動きを止めることは今さら不可能。何も出来ないまま、ただ動向を見守るしかなかった。



   ガァァァーーーン!!
 「!!!??」
 「ぐあああああああああああ!!」
 「大丈夫か!?貴様…………仲間に何しやがった!?」


 次の瞬間、フロア全体に響くような大きな音が耳に飛び込んできた。そのときにボクも一瞬目をぎゅっと瞑ってしまったため、キチンとしたことは確認出来なかった。ただ、体を構成している岩に深い痕跡ができるほどの衝撃に耐えきれなかったのだろう。目を開けるとその事が原因で苦痛の大声をあげるイシツブテに対し、もう一方のイシツブテが声をかけてチカに食いかかるところまでを目にした。


 …………しかし、それでも私は決して怖じ気付くことはありませんでした。むしろ不敵な笑みを浮かべて彼らに冷たく言い放ったのです。


 「“アイアンテール”を使ったの。わかるでしょ?自分のしっぽを鋼のように硬くさせて相手にぶつける技。練習をしてる途中で完成度は低かったけれど、あなたたちに勝つためにはもうこれしかないって感じたから、思いきって実践して良かったよ」
 「……………この野郎。俺たちのことを実験台にしやがったってことか!!」
 「危ない!!止めろ、イシツブテ!!」


 仲間に致命傷を負わされて、しかもその技を試す場面として利用されたことに憤りを感じたのだろう。血相をより怒りに満ちた物へと変えたイシツブテが、これまで以上の勢いでチカへと殴りかかったのである!!


 「何度も同じ攻撃はさせないよ!そ~れ!!」
 「!!?」
 「うわああああああああ!!」


 次の瞬間、彼女の体がまるで太陽のごとく眩しく輝いた。真っ正面からまともにその光を受けたイシツブテが眼を覆いながら叫ぶ。ボクもその直後に何が起きたは全くわからない。しかししばらくして視界が開けて来ると、そこには黒煙に包まれて焼け石となったイシツブテたちの姿と、彼らから受けた打撲傷によって顔面を赤く腫らせ、ギッと睨みつけながら荒く息をついている様子が広がっていたのである。


 (チカ…………。爆発ってことは“ばくれつのタネ”でも使ったのだろうか。さすがに物理攻撃への耐性があるとはいえ、至近距離から衝撃や爆風を浴びたらたまったもんじゃないだろうな)


 …………こうしてリベンジの末、ボクたちはイシツブテたちに勝利し乗り越えることができた。しかしなぜだろう。全然スッキリするような感じではないのだ。それもそうか。これですべてが終わりじゃないんだから。それにここまで彼らを傷つけて突破することは、きっとチカにとって不本意だったに違いないだろうから。






 「ようやく6階までたどり着いたね。あと少しだよ。がんばろう、ユウキ!」
 「うん、そうだね」


 チカのアドバイスを神妙な面持ちで聞き、ボクはうなずいた。


 …………山の中腹を越えたからなのだろうか。辺りの景色がだいぶ変化してきた。それまでは土気の多い茶色のゴツゴツした岩なんかがむき出し状態で、それらで山肌が出来ていたように感じたが、ここにきて足元も含めて全体が鋼質主体のシルバーな景色へと一変。ボクの小さなしっぽの炎がわずかに明るく照らしていた5階までと異なり、この場所は逆にわずかな光でさえも反射が起きるせいか若干眩しく感じた。


 (でもまあ、ひとまずここまで来れた。バトルで費やした時間を取り返すためにも先を急がないとな………)


 無意識のうちに歩くスピードが上がっていく。しかし、バトルを乗り越えた直後だ。小さな体への負担は相当なものになっていた。そんな時間も経たないうちに息が上がってしまった。慌ててチカが駆け寄ってきて「ユウキ、大丈夫?少し休んでいこっか?」と、心配そうに優しく声をかけてくれた。彼女だってボク以上に負担がかかっているだろうに。


 「ありがとう、チカ。でも大丈夫。少し休めば、また歩けるよ………」
 「ユウキ…………ちょっと待っててね」


 苦笑いを浮かべて元気をアピールしたかったボクだったけど、彼女の前では通用しない。肩から提げた道具箱をトンと地面に置き、パカっとその蓋を開いてすぐに“オレンのみ”を取り出す。例のごとく電撃を浴びせさせて柔らかくしてくれて。昨日の時点では底をついていた道具がここまで揃っているところを見ると、恐らくボクを迎えに来る前に色々と集めて準備をしているのかもしれない。もはや気遣い上手って一言じゃ片付けられないくらいの行動だった。改めて彼女の凄さを感じていた。自分の情けなさに唇を噛みしめながら。


 「はい♪口開けて?」
 「ありがとう…………って!いいよ!そこまでしなくても//////!!自分で食べられるからぁぁ…………!!」


 さりげなく首を小さく傾げてニコッと笑顔を見せるチカ。その可愛さと言ったら例えようがなかった。もう癒しそのもの。そして何気なくこんなことを言うものだから、ボクの気持ちに焦りが出てしまった。………もちろん本音じゃ嬉しくてたまらないんだけどさ。そこまでされてしまうと、それはもはや単なる“チームリーダー”と“パートナー”という関係を越えている感じがするから。だからそのときボクは不機嫌そうにそっぽ向きながら、キミが用意してくれた“オレンのみ”を放り込んだんだ。そのときのキミのちょっぴり残念そうな表情が印象的だったな。


 そんなもどかしい(?)感じがするひとときを経て、“メモリーズ”は前へと進んだ。“オレンのみ”を食べて体力を回復できたこともあって、その足取りもどこか軽い。目指すはディグダとダグトリオの救出だ。ボクは小さくガッツポーズをする。そうしてから後ろを振り返る。チカが何かを悟ったかのように温かい笑顔で頷いた。「がんばろうね♪」って言わんばかりに。なぜだか自分の背中を押してくれてるようで、その時間が一瞬だけだったけど幸せに感じた。


 ……………そう。ホントに一瞬だけだったけど。


 「あ、いたぞ!アイツらが僕たちのすみかを荒らしてるんだ!!」
 「みんなでやっつけるぞ!!」
 「おーー!!」
 「チカ、また他のポケモンが…………!!」
 「落ち着いて、ユウキ!」



 チカが声をかけてくれなかったら、ボクは動揺を沈めることが出来なかったかもしれない。いつからこんな気持ちが弱くなってしまったのだろうか。本当ならグループで襲撃してきたこのポケモンたちを前にして、ボクが先手を打たなきゃいけない場面だったし、そうしてバトルを乗り越えるんだってチカと話し合っていたはずだった。


 …………でも、このときに先に動いたのはチカだった。ボクの背後からでも攻撃できるスピード技、“でんこうせっか”が使えるとはいえ、それをてつヨロイポケモンという種族だけあって、物理的な攻撃への耐性が著しく高いココドラに向かってぶつけていくなんて無茶があった。事実彼女は「うっ………!!」と体に痛みを覚えるくらいの反動を感じていたのにも関わらず、ココドラはまるでそよ風が体に触れたくらいの感覚しかなかったようで、チカのことを「バカじゃねぇの?タイプの相性のことくらい考えろよ!!」って、ケラケラと笑っていた。


 「この野郎!何がおかしいんだ!!?“ひのこ”!!」
 「わっ!!熱い!!」


 ヒトカゲとして過ごした時間は6日に過ぎないけれど、不思議とタイプの相性やバトルでの状況なんかは考えなくても臨機応変に対応出来るようになってきた。ココドラの場合ははがねタイプも混ざっているため、イシツブテのときよりはボクのほのおタイプの技の効果もそれなりに得ることができた。その一撃で身の危険を感じたのか、彼はこの場から退いた。


 「ゴメンね、ユウキ。ココドラの動きを後ろから止めるのはこの方法しかなかったから………」
 「いいよ、そんなこと!無茶するな!!」


 その間申し訳なさそうに振る舞っていたチカ。ボクは逆に怒ってしまった。気持ちは凄くありがたくて、さすがは“パートナー”だなって感じさせてくれた。けれどもそれで自分の身を傷つけ、万が一倒れてしまうようなことがあっては元も子もない。そんなことまでチカは考える余裕はなかったとは思う。仕方ないことだけど。急にボクに怒られてしまったせいで涙目になりながら萎縮している様子が伝わる。そんな彼女にボクは続けて伝えた。


 「ゴメン………。つい感情的になってしまって。でも忘れないでね。一緒に頑張るんだってこと」
 「ユウキ………うん!」


 ボクの言葉で幾分か気持ちが落ち着いたのか、再び彼女に笑顔が戻った。しかしまだ終わりではない。背後からはこの場に残ったポケモンからの襲撃が近づいてきてるのだから……………!!


         …………メモリー37へ続く。










 

 


 

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