【第018話】沈むは悪手、飛ぶは後手(vsボア)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

水位が壁の赤いラインに到達すると同時に、審判に寄って試合開始の合図が出される。
それと同時にボアとトレンチ嬢はボールを投げる。



「行くわよッ、ヒバニー!」
「みばばっ!」
「出てこい、ウッウ!」
「あがーーっ!」
互いの場に出た先鋒の対面はヒバニーとウッウ。
相手のウッウは何でもかんでも丸呑みしてしまうほどの強靭な胃とくちばしを持つみずタイプのポケモンだ。



みずタイプのジムに勝負を挑んでいる時点ですでにわかっていたことではあるが、ほのおタイプのヒバニーでは明白に不利対面である。
加えて現在、部屋の水位はお嬢のくるぶしが浸る程度には上昇している。
身体の小さなヒバニーにとっては既に腰元まで水に浸っている状態である。
足を主に使うヒバニーとしてはさらなるディスアドバンテージだ。



どのみちお嬢とヒバニーの勝利は早期決着以外にありえない。
お嬢は不意打ち上等、と言わんばかりにヒバニーに攻撃の指示を出す。



「行くわよヒバニー、飛び上がって!」
「みばっ!」
ヒバニーは水の抵抗に抗い、壁に向かってジャンプをする。
水中ではまともに身動きが取れない関係上、妥当な選択肢と言えるだろう。



そして下半身が水の支配を受けなくなった所で、続けざまにわざを繰り出す。
「『エレキボール』ッ!」
「みばーーっ!」
足元に電気を帯びた光弾を生成し、真下のウッウに対して一直線のシュートを決める。
だが、当然相手とてこれをタダで受けるわけではない。
「飛べ、ウッウ!」
「あががっ!」
ウッウは翼を羽ばたかせて飛び上がり、『エレキボール』を回避する。
そしてそこから続けるようにヒバニーの喉元にくちばしの狙いを定めて飛びかかってくる。



「行けッ、『じごくづき』だ!」
「あががーーーッ!」
ヒバニーは現在空中に飛び上がっている状態だ。
つまり足場にするためのものがどこにもない、無防備な状態と言える。
『じごくづき』攻撃は無情にもヒバニーに強くヒットする。
「みばばっ……!」
「ヒバニー!」
「よし、そのまま叩き落とせ。」
「あががーーーッ!」
ウッウは首を振り下ろすと、水が一面に貼られた床に向かってヒバニーを投げ飛ばした。



大きな水しぶきを上げ、ヒバニーは水へ放られる。
唐突に水中に投げ出されたヒバニーは溺れ、もがき始める。
「みば……みばばばっ!」
「ひ、ヒバニー!落ち着いて!」
だがヒバニーは焦る。既に水位はヒバニーの身長と同程度にまで迫っている。
底に足をつけることすらもままならない以上、パニックに陥るのは必至だろう。



「よし……更に行くぞウッウ、『ダイビング』だ。」
「あががッ!」
ウッウは頭から水中に身を潜める。
水は透明なので、ただ潜っただけならば常人でも十分に目視できる。
しかし『ダイビング』は違う。
長時間の間、まるで跡形もなく消えたかのように存在感を消すことが出来るのだ。
よってこのわざを出されてしまったら最後、攻撃を受ける直前までウッウの居場所を特定することは不可能に近い。
しかも溺れかけている状態のヒバニーがこの奇襲に対応することはもはや無理と断言してもよいだろう。
完全にまな板の上の何とやら、といった状況だ。



「……そこだウッウ!」
「あがーーーッ!」
ウッウは水中から突然姿を表すと、翼の一撃をヒバニー食らわせる。
「みば……っ!」
「くっ……!」
『ダイビング』はみずタイプのわざ。
ほのおタイプのヒバニーにはこうかばつぐんだ。
「よし、良いダメージだ。もう一度『ダイビング』だ。」
「あがッ!」
ウッウは更に無駄のない動きで『ダイビング』を行い、次の攻撃を装填する。
このままでは一方的に『ダイビング』を喰らい続け、何も出来ずに倒されてしまうだろう。
「みっ……みばばっ……!」



焦るヒバニーを見たお嬢は、とっさに奇策を思いつく。
「……そうだ!ヒバニー、『エレキボール』を撃ちなさい!」
「みっ……みばばばっ!」
ヒバニーは足元に再び光弾を生成するが、当然溺れかけているのでボールを蹴るどころの状況ではない。
光弾はやがてヒバニーの足元から消滅する。
だが、そんなことはお嬢とて把握済みだ。



『エレキボール』が弾けたことによって、バトルフィールドの水一面には大きく電流が流れる。
「なっ……なんだとッ!?」
「よ……よしッ!」
トレーナーを含め室内にいる全ての者が感電し、身体の痺れをその身に感じる。
……当然それはウッウとて例外ではない。
「あがっ……あがががががッ!」
「う、ウッウ!」
ウッウは水を介して『エレキボール』を喰らってしまい大ダメージを受ける。
ポケモンバトルにおいて役に立つ科学の基本法則……そう、『水は電気をよく通す』というやつだ。



『ダイビング』によるステルスを維持できなくなったウッウは、その姿を表し思わず空中に飛び上がる。
だがヒバニーはそれを見逃さない。
「みばっ……!」
飛び上がったウッウの足にしがみつくと、そのまま水から浮き上がり溺れていた状況を脱したのである。
足元に思わぬ重石が着いてきたウッウはさらなるパニックに陥り、足をばたつかせる。
足元は丁度ウッウの視界には入らず、『じごくづき』が届かない場所でもある。
この位置取りはヒバニーを優位に立たせた。
「でかしたわ、ヒバニー!」
「なっ……!」
そしてそこを足がかりにして、ヒバニーはさらなる追撃を加える。



「『ブレイズキック』ッ!」
「みばばーーーッ!」
ヒバニーは鉄棒の逆上がりの要領でウッウの足を支点にし、丁度股下のあたりを蹴り上げる。
この距離で繰り出される『ブレイズキック』の威力はひとたまりもないだろう。
「がっ……!」
「よしッ、ナイス攻撃ッ!」
ヒバニーは続いて2回めの攻撃を加えようとする。



しかしここで再びウッウは反撃の体勢に出る。
「怯むなウッウ、『うのミサイル』を使え!」
「がっ……あがーーーーーッ!」
足元のヒバニーの方を向くと、ウッウは自身の内臓からミサイルのようなものを吐き出す。
そしてそれは、ヒバニーの脳天に直接ヒットしたのであった。



「みばっ……!」
「っ……!?」
ヒバニーはウッウの足を掴むことができなくなり、そのまま壁際に叩きつけられる。
死角をとったと思った矢先、思いもよらぬ遠距離攻撃で不意打ちを食らったのである。
このまま水面に落下してしまえば今度こそヒバニーの敗北は確定的……お嬢は何が何でもそれだけは避けようと最速でヒバニーに指示を飛ばす。



「天井まで飛び上がって!何が何でも着水しちゃ駄目!」
「みっ……ばーーーっ!」
ヒバニーは飛び上がり、間一髪で着水を回避する。
しかし明白な足場がない以上、それもただの時間稼ぎに過ぎない。
加えて相手のウッウは空を飛べるポケモンである以上、空中での勝負とてヒバニー側が不利なことには変わりない。



「もうそろそろ限界なんじゃねぇか?……決めるぞ、『うのミサイル』だ!」
「あがーーーーーッ!」
ウッウは渾身の力を込めて、空中のヒバニーに『うのミサイル』を発射する。
前述の通り、飛翔能力のないポケモンが空中で攻撃を回避することはほぼ不可能に近い。
それは避けるための行動の起点となる足場がないからに他ならない。



………そう、足場がなければ避けられない。
だがここには足場に等しい価値を持つものがあるではないか。
お嬢はすぐにヒバニーへ最後の指示を出す。
「蹴り返してッ!」
「みばばーーーッ!」
ヒバニーは空中で一回転すると、そのまま飛んできたミサイルへ直にキック攻撃を打ち込む。
「なっ……なんだとッ!?」
ヒバニーの足にあたって反射したミサイルは、180度方向を変えてウッウの喉元へと着弾したのであった。
「あがーーーーッ!!」
ウッウにとっても喉元は重大な急所……この攻撃は致命傷と鳴った。



やがて体力が尽きたウッウは水面に墜落し、そのまま審判の判定の元戦闘不能となった。
「よしっ、素晴らしいわヒバニー!」
「み……ばばっ……!」
ヒバニーは着水し、もがきながらもなんとか返事をする。
現在の水位はお嬢の膝上くらい。
既に直立が難しい領域である。



「ほぉ……やるじゃねぇか。あの状況で逆に『うのミサイル』を使うとはな。」
そう言ってボアはボールにウッウを戻し、すぐに次のボールを構える。
「だがこのバトルはここからが佳境だぜ?ついてこれるかな?」



うのミサイルで吐き出すサシカマスってどこから拾ってくるんだろ。
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