第16話 殿様のいる街

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 1週間後、ルカリオの怪我も完治し、3人はビッパに別れを告げて旅を再会した。インコロットを過ぎ、次の街へと続く1本道をひたすら歩いている。

「ルカリオ、次の街ってどんなとこ?」

 てくてく歩きながらヒトカゲはルカリオに尋ねる。家を離れる際にビッパに聞いていたことを彼はそのまま話す。

「なんかよくわかんねーけど、確か名前が『ロルドフログ』ったかな? ちょっと変わったところらしいぜ」

 実はビッパからいろいろ聞いたものの、ルカリオはその大半を忘れてしまっていたのだ。唯一覚えていたのが街の名前と、ちょっと変わったところということの2つである。

「変わったところって?」
「俺に聞くなよ。行けばわかるだろ」
「…………」

 コイツ絶対ビッパの言ったことを忘れてるな、とアーマルドは確信した。前回の件から仲直りはしたものの、まだ少しだけルカリオの事を「乱暴者」と思っているようで、アーマルドは彼が自分を見るとビクついてしまう癖がついてしまった。

「そうだよな、アーマルド?」

 今もルカリオがアーマルドの方を振り向いてきた。その瞬間背筋に緊張が走り、体に金属が入っているかのように固くなった。そして機械的に首を縦に振って返事をする。

「……? なんか最近、お前変だな」

 ルカリオは、まさか自分のお仕置きのせいでアーマルドに恐怖心を抱かせてしまったとは思ってもないようだ。


 数時間後、3人は足を引きずりながらも、インコロットの隣町『ロルドフログ』に辿り着くことができた。この街は水に関する設備が整っていて、人工的に造られた河や噴水などがあちらこちらに存在している。

「うわ~、きれい~!」

 流れる水は太陽の光を反射してきらきらと光る。噴水の水しぶきによって光が拡散し、虹も出ている。ヒトカゲを始め、ルカリオとアーマルドもしばらくこの光景に見とれていた。

「どうですか? この街は綺麗でしょう?」

 突然、3人は背後から誰かに声を掛けられた。誰だろうと後ろを振り向くと、少々老けているニョロトノがニコニコしながら立っていた。

「だ、誰っすか?」

 不審そうにルカリオが尋ねると、申し訳なさそうにそのニョロトノは自己紹介を始めた。

「あ~すまんすまん。ワシはニョロトノ。この街の殿様じゃ」
『へ~……ん?』

 何かを聞き間違えたのではないかと不安になった3人の思考は一瞬停止する。自分達の耳が正しかったかを確認すべく、代表してヒトカゲがニョロトノに聞く。

「あのー、さっき“殿様”って言ったりした?」
「“殿様”って言ったりしたぞい。何かおかしいかの?」

 間違いなかった。3人が聞いた“殿様”という言葉は間違いなく目の前のニョロトノがはっきり言ったものだった。それを理解すると、3人は数歩引き下がって正座をする。

(と、殿様って? ホントなの!? だったら殿様見るの初めてだ~♪)
(は? この爺が殿様だって? おいおいマジかよ、キチガイとかじゃねーだろな?)
(殿様……イメージと全然違うな。こういうもんなのかな? ならいいんだけどな)

 3人は各々いろんなことを思っていた。ちなみにニョロトノの事を爺とかキチガイ等の失礼な事を思っているのはルカリオである。その殿様が3人に近づいてきて、詳しく語り始めた。

「君達知らないのかね? 殿様っていうのは、この街では市長のことを言うんじゃよ。毎年くじ引きで選出されて、今年度はワシが市長なんじゃ♪」

 ニョロトノ曰く、100年ほど前の市長がふざけて殿様を気取ったところ、それが住民達の人気を博したらしく、現在までこの習慣が残っているのだとか。
 事実を知った3人は少し残念そうに溜息をつく。とはいえ、このニョロトノは市長。立派な存在には変わりなかったため、正座は保ったままだ。

「なぁジジ……し、市長。こんなとこほっつき歩いてていいんですか?」

 危なく犬、もといルカリオは無礼発言をかますところだった。聞こえていたかどうかは不明だが、ニョロトノは口調を変えずに話を始めた。

「実はな、この街に最近、怪しい奴らが出没しているようでな」
『怪しい奴ら?』

 もしやその中にジュプトルがいるのではないかと、3人はさらにニョロトノの話に耳を傾ける。

「そうなんじゃ。誰かはわからんが、そいつらはまるで何かを探し物をしているかのように、この街の図書館や美術館などをひっかきまわしてるんじゃ」

 話によると、至る所が荒らされてはいるが、物は何一つ盗まれていないのだという。警察も必死で捜査にあたっているが、手がかりが掴めていないらしい。

「だから、ワシは凄腕のお助け隊に何とかしてくれるよう依頼したんじゃ! そのポケモンが来るのが楽しみで楽しみで……」

 どうやらこのニョロトノ、じっとしているのが苦手なようだ。さらによくよく聞くと、そのポケモンが来るのは明日だとか。

「へー、でもわかるな。楽しみなものって待ってるの辛いもん」
「だけどよ……このジジイ子供みてーだな」

 同感してうんうんと頷くヒトカゲに対し、やれやれと言った具合に溜息をつくルカリオ。ただ1人、アーマルドだけは正座で痺れ始めた足を気にしていた。

「そういえば、君達はどちらさんかね?」
(今更かよ!?)

 ニョロトノのいかにも年寄りらしい時間差発言にルカリオとアーマルドは心の中で突っ込みを入れる。しかし、純粋なヒトカゲは何を思うでもなくしっかりと自己紹介を始めた。

「僕、ヒトカゲ。アイランドのロホ島から来たんだ。こっちがルカリオ、そしてこっちがアーマルド。2人ともつい最近知り合って、僕についてきてくれてんだ」
「ほぉ、アイランドからわざわざ。どうやらただの観光とかでここに来たわけじゃなさそうじゃな?」

 自信満々に言うニョロトノの目は光っていた。怪しい者ではないとわかっていたヒトカゲは、今に至る経緯を説明する。そして、ホウオウとディアルガを探していることを告げると、再びニョロトノの目つきが変わった。

「ディ、ディアルガとな!」

 この口調から、3人は彼がディアルガについて何か知っているのだろうと推察した。これはチャンスかと思ったヒトカゲは追及し始める。

「な、何か知っているの!? ディアルガについて何かわかるの!?」

 前回のホウオウについての時も同じだが、ヒトカゲは必死だった。ついでとはいえ、自分の体をリザードンに戻すことができると思われる唯一の存在。些細な情報も集めたいところだ。
 しばらくうなり声を上げていたニョロトノだが、急に3人に背を向けた。

「そうじゃな、こっちに来なさい」

 ただそれだけ言うと、ニョロトノは歩き始めた。訳もわからないままとりあえず3人は彼の後を追いかけ始めた。


 10分後、彼らが着いたのは大きな屋敷。”Politoed”と扉の前に書かれていたことから、ここがニョロトノの家だということに気付いた3人は内心ほっとする。

「まぁまぁ、構わずお入りなさい」

 促されるままに家の中に入ると、玄関から長く続く廊下にはポケモンの彫刻が左右にたくさん並べられていた。それも見るからに強そうなポケモン達ばかりだ。

「うへー、これグラードンっつーんだろ? すげー!」
「あっ、ルギアあった♪」

 大分廊下を突き進んでいき、リビング前の扉の前にそれはあった。5mはあろう高さに、胸には加工された青色の水晶がはめられている彫刻――そう、これはディアルガの等身大彫刻だ。
 3人は初めてみるディアルガの全容に開いた口が塞がらない。彫刻とはいえ、それから発せられるプレッシャーは言葉で言い表せることが困難なものだ。

「これが、時を司る神・ディアルガの姿じゃ」

 3人の後ろからゆっくりとニョロトノがやって来た。少し誇らしげな顔つきで、彼自身もディアルガの彫刻をじっと見つめる。

「昔、世界が生まれる前に、神は時間と空間、これらを創造・管理するポケモンを生み出した。その瞬間から、4次元のベクトルは一気に広がりを見せ、世界が生まれたのじゃ」

 ニョロトノは、自身が知っているディアルガにまつわる話を始めた。それを3人は黙って耳にする。

「そのうち、時間を管理するのがこのディアルガじゃ。普段は“歪み”というものを直して、いくつも存在する世界を回っているらしいぞ」

 初めてディアルガについて、そして世界の始まりについて知った3人は、ディアルガに会うという事の困難さを一瞬にして感じ取った。だからと言って、落胆した様子は全くない。

「……会ってみたい。難しくても、ディアルガに会ってみたい!」

 少々興奮気味に、ヒトカゲがその場にいた全員の顔を見ながら言った。ニョロトノだけ焦った表情になっていたが、あとの2人はそんなヒトカゲを見てふっと微笑んだ。

「なら見つけて会ってみようじゃねーか、なぁアーマルド」
「……あぁ」

 ルカリオ、そしてアーマルドもヒトカゲの意見に賛同する。この「仲間」というものを見たニョロトノは、さっきまで見せていた焦りをなくし、逆に期待を込めた目で3人を見ていた。

「まったく、若いとは素晴らしいことじゃ。困難や危険を恐れず、果敢に立ち向かう……無茶で危なっかしいけど、それが『旅』や『冒険』というものなのじゃな」

 そう、こうやって、ヒトカゲは『旅』を続けていくのだ。終わりのない、常にスタートラインに立っているマラソンのようなものである。

「絶対見つけようね!」
『おーっ!』

 ちなみに、この掛け声の中にアーマルドは入っていない。

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