修行その一 坊主はお経を唱えたい

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拝啓、父上、母上。お元気でしょうか。私はエンジュシティの修行僧になりました。28歳の頃から春夏秋冬と3度繰り返し、このエンジュシティの寺で修行をしていますが、まだ一人前のお坊さんにはなれず、見習いの修行僧です。塔や寺の掃除、煩悩を捨てるための座禅や写経、読経などを繰り返しています。和尚様には「お前は煩悩だらけだ」と叱られる毎日です。同期の修行僧は一人前になったというのに、不甲斐ないです。
ですが言い訳をさせてください。おそらく私が煩悩を捨てることができない理由は

挿絵画像



おそらくこいつのせいです。
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エンジュシティに一人の坊主がいた。坊主は過去、勉学に励まずクラブやパーティに参加し、若い女の子と遊びまくる情けない若者であった。ついには親と大喧嘩し家出をする事態になった。坊主はこのままじゃダメだと感じ、出家して正しい大人になることを決意した。生活習慣は厳しく修行は大変であったが、坊主は一人前のお坊さんになるべく必死に頑張ってきた。しかし、彼には大きな弱点があった。

坊主は毎日の日課として真昼時の寺の縁側で座禅を組む時、
「ぶいぶい~! いっぶ!」
毎日のようにイーブイがやってきて、坊主の頭に乗って遊んだり、膝の上で昼寝をするせいで坊主の脳内は「可愛いぃぃぃ!!!!!」と「もふもふがっ…私の頭…!膝の上にっ!!!!」でいっぱいになる。坊主はもふもふしたポケモンが大好きであり、イーブイのもふもふに触れた瞬間に坊主の脳内幸せホルモンが大爆発し、日頃の疲れやストレスが一瞬にして吹き飛ぶ。しかし、昼の温かい日差しにイーブイのもふもふがさらに坊主の体温を上げ、座禅をしている最中にいつもよだれを垂らして居眠りをしてしまい、和尚様に叩き起こされる。そのせいで「お前は修行が足りん。いつになったら煩悩を捨てることができるのだ」と説教を喰らう。

弱点、坊主はポケモンに好かれやすい人間なのだ。
幼い頃もそうだった。何かと可愛いポケモンに懐かれ、小学校の放課後は毎日ポケモンと追いかけっこをしていたほどだ。

坊主は一人前のお坊さんになるために、可愛いポケモンに惑わされないように、必死に煩悩と戦うのであった。



一方、イーブイは野生のポケモンで、エンジュシティの寺に住んでいる坊主にかまってほしいと心を寄せていた。イーブイは「この坊主は信頼できるいい人だ」と判断しており、遊び相手になってほしいのだが坊主は日中家事や仕事に忙しく、なかなか遊んでくれないことに、口をぷくーと膨らませ不満を持っていた。イーブイは、いかにして坊主と遊んでもらえるか作戦を練るのであった。







これは、 煩悩を卒業し、一人前のお坊さんになりたい坊主と、かまってちゃんのイーブイが激しい戦いを繰り広げる、煩悩バトルである!!!








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坊主は今日もいつものように座禅を組んで心を無にする修行をしていた。澄み渡る緑の音が坊主の耳に響き渡り涼しい風が頬を優しくなで、坊主は目を閉じ、脳内には澄み渡る草原が浮かび上がっていた。坊主は深く呼吸をし、さらに集中力を高めてゾーンに入ろうとしていた。澄み渡る草原でポツンと一人…
「い~ぶい~!」
いつのまにかイーブイが坊主の草原の世界に入り込んできた。

うっ!?可愛い声のせいで集中力が途切れてしまう…!決して目を開けるな…!目を開けてしまったら煩悩に負けてイーブイをなでなでしたくなる!目を閉じて心の中でお経を唱えるんだ!

「いーぶい?」
イーブイは返事をしてくれない坊主の脇腹をつんつんすると
「はふぅん?!」
坊主から変な声が出てしまう。こそばゆかったのだ。坊主の集中力は完全に途切れ、ハァハァと息づかいが荒くなり、脳内はイーブイにあふれてしまった。

ハァハァ…まずい…!ハァハァ…このままではまずい…!心でお経を唱えても脇腹つんつんに負けてしまう!こうなったら宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」を唱えて耐えるんだ!

「雨にも負けず、風にも負けず、雪にもオホゥン!?」
また、イーブイに脇腹をつんつんされて変な声が出てしまう。坊主は大きく3回深呼吸をして
「雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けぬ、丈夫な体を持ち」
「いっぶい!」
「欲はなく、決して瞋らず、いつも静かに笑っている」
「い~っぶい!」
(おいおいおいおいまさかお前も一緒に言っているのか?!待て待て可愛すぎるちょっと落ちつけ俺!!)

「一日玄米四合と!!!ハァハァ…味噌と少しの野菜を食べ!!!」
「いっぶいぶい!」

「ハァハァ…!あらゆることを!!!ハァハァ…!自分の感情に入れずに!!」
「いぶいぶい!い~っぶい!」
(今の自分感情に入れすぎじゃないか?!)

「よく見聞きして分かりィ!!!!ハァハァそして忘れず!!!!ハァハァ…!!」
「いぶぶぶい!!いぶぶ!!」

「ハァハァ…………ハァハァ………。」
坊主は冷や汗を流した。

この先なんだっけ?!忘れちゃった!!!まずい!!このままじゃ煩悩に負けてしまう…!思い出せ…!!!

坊主は深呼吸をし、考え込んだ。
「うーん……………………。」
「…………いぶい?」

「うーーーーーーん………………………………………。」
「いっぶ?」

「……………あふん?!」

イーブイの脇腹つんつんがトドメの一撃となり、坊主はイーブイの方を向き、

「参りました。もう勘弁してください…!」
イーブイの頬を満足するまでなでなでした。

「いーぶいっ!!」
イーブイは嬉しそうにしていたとさ。




本日の修行
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坊主の負け
理由:脇腹をつんつんされて変な声が出たから
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