4 道場にて……

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なんか一万字超えましたが中身は普通です。それと、前回が割とまったり回だったので今回は戦闘シーンに挑戦してみました。ムズカシイネ
 時刻にして午後の三時頃。ユウカたちはシンリョク村にある道場にいた。そこで何をしているかというと……
「『ほのおのキバ』!!」
「ひいいっ!?」
 カエンから繰り出された技をユウカが全力で避けていた。ちなみにカエンがユウカに対して技を繰り出しているのは、別にユウカがカエンを怒らせたとかいう訳ではない。というかユウカたちが道場にいる時点でもうお気づきの方もいるかもしれないが、この二匹はどのような経緯があって、なぜこんな状況になっているのかを見て頂こう。


**********


 時を戻そう。
 午前七時。大抵の人が目を覚ます時間である。この時間帯からユウカたちに何があったかを追っていこ
「ぐうぅぅぅぅ……すやぁ」
 ……失礼。この野郎まだ寝てやがった。まあ昨日ユウカは頭痛がするまで起きていたから当然と言えば当然なのだが、話が進まないのでさっさと進展がある所まで飛ばさせてもらおう。
 ユウカが起きたのは今から四時間前、つまり昼の十一時だった。
「う~ん、う~~~~ん?」
 なんかチクチクする。
 自分はベッドで寝てたはずなのになんでチクチクするんだろう?とユウカが考えながら彼女が寝ているベッドを眠たい目を擦って見てみると、そこには藁が敷き詰められていた。
「なんだ藁か……って藁ぁ!?」
 目の前の光景を目撃したことにより時間差がありつつも目が覚め、驚きそのままに飛び起きてしまった。だって藁だよ、それとも何?新手のドッキリか何かなの!?と、芸人としてはほぼ百点満点の反応をしたユウカだったが、彼女の背後で揺れている紫の尻尾を見て全てを思い出した。
「あー、そっか。エーフィになったんだっけ。ポケモンのベッドは藁なんだね……」
 そう、昨日起こった出来事はやけに現実味を帯びた夢ではなかったのである。こんな朝っぱら(?)から芸人みたいなリアクションをとったので少々疲れたユウカだったが、昨日極限に眠くなるまで本を読まず、さっさとベッドのところに行って先に驚いておけばこんなことにはならなかった。要するに自業自得である。
 藁ベッドについて頭の中で整理をつけると、今度はお腹が空いてきた。何しろ今は十一時。寝起きとはいえこの時間帯では空腹感を感じるのは当然のことである。
「ご飯、ゴハン、ごはんっと」
 ベッドから降りて食べ物を探すと、昨日カエンからもらったオレンのみが目に留まった。確かこのきのみには体力を回復させる効果があったはずだが、現状その他の持ち合わせがゼロなユウカはお構いなしだった。流石に金色に輝くお金を胃の中に収める訳にはいかないのである。
「いただきまーす」
 気の抜けた声を出してユウカはオレンのみを齧った。オレンのみはほとんど味がしなかったが、よく噛んで味わってみるとほのかに辛みや酸味、苦み、渋みといった様々な味が隠されていた。けれどその中に甘さがなかったのはユウカにとって少し残念であった。砂糖が欲しい。
 ユウカがオレンのみを食べ終わると同時に、表から知っている声が聞こえた。
「ユウカー!起きてるー?」
 カエンの声である。
「起きてるよー!」
 とりあえずカエンに返事をしつつ、ユウカは階段を駆け下りて玄関を出た。
「何―?って、そっちのひ……ポケモンは?」
 まだ『人』という単語が出かけてしまうユウカの疑問の先には、カエンの隣にいる体がクリームでできていて、頭にイチゴ……の飴細工をのせているおっとりとした雰囲気のポケモン、『マホイップ』が立っていた。
「オレの母さん。ユウカに挨拶したいんだって」
「こんにちはーユウカさん。カエンのことよろしくお願いしますねぇ」
 ユウカに衝撃が走った。
「………………かあさん?」
「えっ、何昨日は言ってくれなかったけどやっぱり母さんって言い方やっぱ変!?」
「あらあいいのよカエン、昔みたいにママって呼んでくれても」
 もおぉーーー!!と、カエンがマホイップママになにやら抗議しているが重要なのはそこではない。二匹の話を聞く限りだとこの二匹は親子なのだろうが、なぜだかそんな感じがしないのだ。というか常識的に考えてみてくれ。ユウカやなんなら私たちはポケモンの生態についてあまり詳しくないが、(いや、もしかしたら部分的に詳しい・・・・・・・人もいるのかもしれないのだが話がそれるので一旦置いておこう。)それでも生クリームから猫が生まれるなど普通あり得るか?無論答えはNoだ。なら目の前の状況はどう説明する!?もはや何が何だかわからないユウカは、なかなかに恐れ多いがご本ポケたちに尋ねてみた。
「あのー……つまりお二方は血がつながっている家族ということで差支えないでございましょうか?」
「なんでいきなり敬語になってんだ。それ以外に何があんだよ」
「そっかー……」
 カエンに肯定されてしまいもはや表面上の納得の言葉以外何も出ないユウカと、その様子を不思議そうに見ているカエンだったが、
「……」
 ユウカの質問を聞いてほんの少し俯いたマホイップのことは、二匹とも気付かなかった。


**********


「じゃあ母さん行ってくる。ユウカ行くぞー」
「……あっ、はーい。気を付けてねぇ」
 カエンがマホイップにそれだけ言うと、ユウカを呼んで村の中心の方へ歩き出した。ユウカもカエンに置いて行かれないように、
「あっ、うん。マホイップさん行ってきまーす」
 とだけ言ってカエンを追いかけ始めた。
「はーい。じゃあねぇ」
 マホイップもユウカに別れの挨拶をして、二匹を見送ってくれた。
 先に歩き出したカエンに追いついたユウカが、
「カエンー。今日はどこ行くのー?」
 と、カエンに聞くと、
「村の紹介。つっても紹介するような場所はあまりないんだけどな……」
 と答えられた。
 相変わらず村の道は起伏が激しく複雑で、慣れるまで村の中を歩くのも苦労しそうである。まあこれはこれで楽しいところもあるのだろうが。
 しばらく歩く内に村の中心にたどり着いた。そこにあった建物は大きい鐘があるシンボルのような塔ではなく、大きめの倉庫だった。周りに木製の机や椅子が置いてあったりそこに座って話をしているポケモンも見受けられたりと、村の集いの場としても機能しているようにも見える。
「まずここ。見ての通り倉庫だ。ここにオレたちがダンジョンで見つけたものをしまったり、逆に倉庫から自分に必要なものを取り出したりするんだ。だからこの村の中心にある」
「へー。そうな「あっ!カエンじゃーん!やっほー!」、ん?」
 カエンがユウカに倉庫について説明していると近くの椅子に座っていた、昨日川のあたりで見かけたミミロルがこちらに気付き、近づいてきた。
「ねーカエン。昨日村長のとこに行ってたけど何してたの?ってそっちは?」
「あっ、うん、えと、」
「えっ、というかこのエーフィちゃん超かわいくない!?好きだわ~」
「えっ、まっ、あっ、」
 グイグイ来るミミロルに二匹は気圧されていた。なんかこう、チャラいというか、JのKみたいな雰囲気に。
 ミミロルからの押し寄せる言葉に二匹が反応に困っていると、どこからともなくまた別の声が聞こえた。
『ミミ、落ち着いて。二匹とも反応に困ってるから』
 口から出たのが似通っている二匹に助け舟を出したのは……無?声は聞こえるのだがその主の姿が見当たらない。
「あっそーだね。でもいきなりミズノの声が聞こえたのもエーフィちゃんにとってはなかなかに驚きなんじゃない?」
『……』
「?なん……うわぁ!?」
 ミミと呼ばれたミミロルの言葉を受け、ミズノと呼ばれたポケモン、『メッソン』がミミの横に姿を現した。
 メッソンが姿を消せることはユウカは覚えていたが、実際に見るのは初めてなのといきなり現れたからびっくりしてしまった。どことなく悔しい。
「じゃー自己紹介するね。ワタシはミミロルの『ミミ』!よろしくね!」
「あっ、うん!よろしく!」
 自己紹介をしたミミが手をユウカに伸ばしてきたのでユウカも前足を出し握手をした。衛生管理もクソもないが、そもそも靴すらはかないのがポケモンという生物なのでそのあたりは気にしていないようだ。
 そしてユウカはさっきと比べてミミと圧倒的に接しやすいと感じていた。この違いは何なのだろうか?そのヒントとなるものはミミの隣にいるミズノから出てきた。
「ちなみにミミのお姉ちゃんが村を出て都会に行ったからかは知らないけど、その時からさっきみたいな喋り方になったんだ」
「ちょっと、そんなんじゃないし!」
 なるほど納得。どうやら先ほどのラッシュは素の彼女ではないようだ。
「じゃあ次!!ミズノ自己紹介!!」
「はいはい。僕はメッソンの『ミズノ』。よろしく~」
「ちなみにミズノは最近姿を消せるようになってからよく消えてるから気を付けてねー」
 どうやらこのポケモンたちはそれぞれ少々こじらせているようだ。この手のものは大体いつか解決するから心配はいらないのだが。(主に恥ずかしい方面で)
「うん。よろしく。私はユウカっていうんだ」
 ちなみにユウカも自己紹介を終えた段階で完全に空気になっているポケモンがいる。だーれだ?
 正解はなぜかボーっとしているカエンである。
「それで?二匹は何してたの?おーい、カエンー?」
「……はっ、なんだっけカレーに福神漬けの話?」
「カエンがお腹空いてるのはわかったから質問に答えて?」
「というかそのごまかし方前にも聞いたー!」
 さっきまでの流れからカレーの話が出てくる辺りどうやら話を全く聞いていなかったようだ。そしてミミの言葉を聞く限り八割方こいつ常習犯らしい。初めてカエンにあった時に感じたイケメンオーラが崩れていくのをユウカは感じた。
 仕方ないのでカレーに福神漬けなカエンの代わりにユウカが説明した。
「私はカエンにこの村について色々教えてもらってるの。それでここに来たって感じかな」
「そーそー!それでここの説明し終わったから次行くんだ!じゃあな!!」
「「「あっ、ちょっと!」」」
 ユウカの説明を受けて状況を理解したカエン(現在イケメン指数9)がてきとうなこと言ってその場を誤魔化した挙句尻尾を器用に使ってユウカの前足を強引に引っ張り逃げ始めた。とっさの出来事だった上にカエンの逃げるスピードが異常に早かったので、何気にハモった三匹はカエンの逃走に対して何もできなかった。

 倉庫から少し離れた所でイケメン指数がマイナスに突入しちゃいそうなことをしでかしたカエンが我に返り、走る速度を緩めユウカから尻尾を離した。
「あっ、ごめん!!やっちった……」
「はあ、はあ……というかなんでボーっとしてたの……」
「んえ?あー……なんでだろうなワカリマセン」
 カエンがそう言った次の瞬間、ユウカはカエンの顔を上下左右に引っ張り出した。今のは完全に誤魔化す奴の言い方であったため容赦する必要はない。
 気持ち顔面の面積が広がったような気がするカエンが未知の言語をしゃべりだした。
「ふ、ふぁあふゅぎふぁのふぁふぃふぁふぁふぁいふぁらふゅぎいふぃまひょ」
「はあ……」
 ふが多すぎてもはや何いってるか分からないが、何となく察したユウカからはため息しか出なかった。


**********


 そしてユウカたちが次に向かったのは、昨日初めてこの村に来たときにもちらりと見た道場である。
「ここで最後。カモネギのおじさんがやってる道場だ。入るぞ」
「え?今日はここで何かするの?」
「ユウカの使える技とか、色々知っておいた方がいいだろ」
 カエンの意見には一理あった。何故かというと、今のところユウカが使えると分かっているのが攻撃力のないサイコキネシスだけだからである。
「分かった、じゃあ入ろっか」
「ああ、カモネギさーん!失礼するぞー!」
 そして二匹が道場の中に入るとその中にあったおそらく模擬戦をするのであろう土俵のような所の中央に佇んでいた、非常に太く重そうなネギをもった鳥のポケモン、『カモネギ』がこちらに気付き、立ち上がった。
「ああ、カエン君か。……っと君は?」
「初めまして、私はユウカっていいます」
「今日はちょっとこいつを特訓させてほしいんだ」
「なるほど、ユウカ君、わたしはカモネギだ。今日はよろしく」
「はい、よろしくお願いします!」
 カモネギと軽い会話を済ませて、ユウカはすんなりと技の特訓をすることになった。
「じゃあまず使えるわざを見せてくれるかな?」
 そう言ってカモネギは太いネギで、少し離れた所にあるみがわりのぬいぐるみを指した。どうやらあのぬいぐるみに向かってわざを打てということらしい。
「はい!『サイコキネシス』!」
 少々張り切ったユウカがみがわりにサイコキネシスを使った。最初にイワンコに使ったときから一回も使っていなかったがうまく使えないといったことはなく、むしろ細かいイメージをせずすぐに技が繰り出されたので、エーフィになってからまだ二日というのにもうわざを出すことに『慣れ』てきているようだ。
 だが、ユウカのサイコキネシスの問題点は残されたままだった。
 つまり、
「みがわりが壊れない……ユウカ君、本当にサイコキネシスを打ったのかい?」
 そう、今のところユウカのサイコキネシスには直接的な攻撃力が無いのだ。
「私はサイコキネシスのつもりで使ってるんですけど…やっぱり変ですか?」
「ああ、攻撃力が無いとなると、『テレキネシス』……いや、ユウカ君、あのみがわりをサイコキネシスで動かすことはできるかい?」
「あっ、はい!」
 カモネギにそう言われたので、ユウカはみがわりを空中に浮かばせた後、思いっきり地面に叩きつけた。叩きつけられた地面には跡が残っているが、みがわりの方は壊れることはおろか傷一つついていない。
 その様子を見てカモネギは唸りながら考え込み始めた。
「うーむ、地面に打ち付けられた威力が強いからテレキネシスではなさそうだ、しかしあれだけの威力で地面に打ち付けても無傷とは……いったい何が起きているんだ?」
「あの、何か分かりましたか?」
「ああ、すまない。まだよくわからないな。とりあえずこのわざが何なのかを見極めるのは後にする。次はそのわざの『PP』がどのくらいあるかを調べるよ」
「ぴーぴー?」
 ユウカがどこかで見たり聞いたりしたような言葉に疑問を持つと、またもや空気になりかけているカエンがPPについてそっと説明した。
「正式名称は『パワーポイント』。オレたちがわざを出すときに使うもので、わざごとに最大のPPの数が決まってるんだ」
 その説明を聞いたユウカはまだよく分からないといった感じで、
「つまり、私は何をすればいいんですか?」
 と、カモネギに尋ねた。
「このタイプのわざならずっと使ってるだけで大丈夫、切れるまでの時間で大体わかるよ」
 そういうものなのか、とユウカは納得しサイコキネシスが切れるまでみがわりを浮かばせた。
 二分半後。
「まだ使えるのか……」
「ユウカ辛くないか?」
「うん、大丈夫」
 さらに二分半後。
「30を超えた……?」
「本当に大丈夫か?」
「なんともないよ?」
 五分後。
「………」
「………」
「………」
 Five minutes later.ごふんご
「「!?」」
 いきなりみがわりが滅茶苦茶な動きをしてアクロバティックに空中を飛び回った。
 何事かと思いカエンとカモネギはユウカの顔を見たが、顔色どころか表情も変わってない。どうやらこの現象は暇を持て余したユウカの遊びのようだ。にしても危なっかしい。
 そして五分後。
 ぽとっと。ついにみがわりは空中から落下した。つまりサイコキネシスのPPが切れたのである。
「ついに終わったか……」
「ユウカお前大丈夫か?色んな意味で」
「ウン、ダイジョブ、オワッタ?」
「カモネギさんやばいユウカの精神が……!!!」
「とりあえず横にしろっ、ヒメリのみとキーのみを持ってくる!」
 カエンが二十分も集中してサイコキネシスを使い続けていたので片言になってしまったユウカを道場の隅にあった藁まで運び、寝かせると同時にカモネギがキーのみを一つとヒメりのみを十個ぐらい持ってきた。
「ユウカっ、木の実食べれるか!?」
「ま~わる~ま~わる~よじだい~はまわる~」
「ダメだやはり混乱状態になっている!カエン君とりあえずこのきのみをユウカ君にっ!!!」
 カモネギに大声で言われたカエンは焦ってきのみのヘタだけ取り、一気にユウカの口に押し込んで……
 次の瞬間。ユウカはいきなり襲ってきた辛さにしばらくのた打ちまわることになる。


**********


「かっ、からひ……したがしぬ……」
 まだユウカはひいひい言っているがキーのみが効いたのか、まともに話せる程度には回復した。そのことを確認したカモネギは、ユウカの技について話し始める。
「本当に回復してよかったよ……あっ、あとユウカ君のわざについて。これはわたしの予想なんだけれど……」
 そういうとカモネギはいつの間にか持ってきていた金属でできたトゲで地面に向かってなにかを書き始めた。……ここは一応屋内なのだが、床は土が敷き詰められたようになっているので心配はいらないのだろう、多分。
 カモネギがトゲを器用に使って書いた文字は、次のようになっていた。
1ぶんまわす
2いあいぎり
3かたきうち
4つじぎり
「……これは?」
 地面に書かれたものについてユウカはカモネギに聞いた。どのわざもユウカには関係ないように見えるが……
「これはわたしが使えるわざだよ。こんな感じでわたしたちは四つまでわざを覚えられるだろう?」
「えっ、あっ、はい」
 ここでユウカの反応が鈍くなっているのは、さも当たり前のようにわざについて言われたからである。まあカモネギにはユウカの事情は教えていないから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「でも、多分君のわざは今こんな感じになっていると思うんだ」
 そう言うとカモネギはさっき書いた彼自身の技を羽で払って消し、代わりに別のことを書き始めた。そこには、
1サイコキネシス
2サイコキネシス
3サイコキネシス
4サイコキネシス
 ……もはや呪いのようにしか思えないようなことが書かれていた。
「えっ、なにこれ……」
「君のサイコキネシスのPPは多分120あるんだけど……普通のわざはPPは最大で30までなんだ。だから同じわざで四つ分全部埋まっているとしか考えられないんだよ」
「となると、ユウカはサイコキネシス以外の技が使えないのか?」
 カモネギの説明に質問したのはカエンだった。
「うーん、どうだろう。『わざマシン』があればわざを上書きできるかもしれないけど……あいにく今は持ち合わせがないんだ。あるとしたら『いあいぎり』の秘伝マシンぐらいしか……」
「覚えられないだろうし覚えられたとしても一生忘れられなさそうなので大丈夫でーす」
 ポケモンの姿で生活する上では結構便利そうではあるが、いあいぎりという単語を聞いただけでなぜか拒否しなければならないという考えが頭をよぎったので丁重にお断りしておいた。
「そうか。でもそうなるとユウカ君の攻撃手段をどうにかしないと……」
「別にユウカがサイコキネシスで相手の動きを封じて、オレが倒せばいいんじゃねーの?」
「それだとユウカ君が一匹になった時に何もできなくなってしまうからダメだ。うーーむ……」
 ユウカの技に関してカエンとカモネギが議論している中、当のユウカは『あるもの』に注目していた。
「カモネギさん、ちょっとそれ貸してくれませんか?」
「それ?……ああ、『てつのトゲ』かい?別にいいけど……」
 それだけ言うとカモネギはユウカにてつのトゲを渡した。それをユウカは受け取ると、藁の上に座っていた状態から立ち上がりいまだ無傷なみがわりに向き直る。
 その様子を見てカエンはユウカに注意をした。
「それ投げる気か?口で挟んで投げるのは結構難しいぞ?」
 どうやら四足歩行のポケモンは口で挟んで道具を投げるらしい。確かにそれなら不便極まりないが、ユウカにそんなことをする気は毛頭ない。
「ちょっとやってみたくて、『サイコキネシス』」
 ユウカはカエンにそう答えると、サイコキネシスをみがわり……ではなく口にくわえたてつのトゲに使い、浮かばせた状態で尖っている部分をみがわりに向け……
 ズバンッ!!と、
 その音がみがわりからしたのは、ユウカがてつのトゲをみがわりに打ち込んだのとほぼ同時だった。てつのトゲが直撃したみがわりは爆発し、中身の綿が四方八方に飛び散っている。
 その一部始終を見ていたカエンとカモネギはもちろんだが、てつのトゲを打ち出した本ポケであるユウカが一番驚いていた。
「……え?何この威力???つよすぎない?????」
 ユウカがその言葉を発してからややあって、次に口を開いたのはカモネギだった。
「……凄いな、まさかここまでとは」
 それにつられてカエンも言葉を発する。
「スゲーーーじゃんユウカ!!なんだあのすごいの!?爆発するとか聞いたことねーよ!!!」
「うんちょっと落ち着いて近いから」
 ユウカに指摘されてカエンは慌てて身を引いた。どうやら気付かぬうちにユウカの方にどんどん近付いていたようだ。
 しかし、といった具合でユウカはこう言った。
「うーん、でもこれ大丈夫?ポケモンに打ったら死んじゃいそうだけど」
 そんなユウカの心配に、カモネギは少し苦笑しながら答えた。
「確かに普通のものをサイコキネシスで打ち出したら大問題だが、さっきのてつのトゲはダンジョン由来のものだ。それならどれだけ高威力でも死ぬことはないから大丈夫なはずだよ」
「なんなら噛んだだけで爆発する種もあるしなー」
 何やら穏やかじゃないことが聞こえた気がする。さっきてつのトゲを触ったときは紛れもない金属だったんだけど……とユウカは考えたが、もうそれ以外説明のしようがない。不思議のダンジョンの謎が増えるばかりだ。
 う〜んとユウカが己の訳わからんわざに対して唸っていると、突拍子もなくカエンがあることを提案した。
「ねえねえ!オレユウカとバトルしてみたいんだけど!!」
「え?ええっ!?」
 突然の申し出にユウカは困惑する。ちなみにユウカとしてはカエンと戦うことにはあまり気が乗らない。
「ほらっ、まだ私のサイコキネシスってよくわかってないからさ、まだ戦うには早いと思うんだよ。ねっ?カモネギさーん!?」
 うーん、とカモネギは考えて、そして決断をした。
「実際にやってみてわかることもあるからバトルしようか。これも特訓」
「よっしゃ!!」
「なんでぇ!?」


**********


 そして冒頭に至るという訳である。
 蓋を開ければ可哀そうなことこの上ないが、実際に始まってしまったものは仕方ない。もうやるしかないのだ。
 しかし、今この場でユウカは少々困ったことになっていた。いやまあこんなことになってる時点で十分困ってるんだろうがそれは一旦置いておいてだ。
 それは、
(てつのトゲがないっ!これじゃ攻撃できないよお!!)
 攻撃手段がないのだ。いや、本当は地面に『ゴローンのいし』や『いしのつぶて』が落ちていたり、少し遠くには『きのえだ』がまとめられていたりとダンジョン由来の道具はたくさんあるのだが、ユウカはどれがダンジョンでできた道具なのかが分からないので迂闊に手を出せないのである。
 というわけでユウカの中にある選択肢は一つになった。
(サイコキネシスでカエンの動きを止めて、それから何とかする!)
「『サイコキ「『―――――――』!!」ね………ッ!!?」
 ユウカがカエンの動きをサイコキネシスで止めようとしたがそこにカエンの姿はなく、カエンはユウカのすぐそばまで接近していた。そのままカエンが突進してきて、ユウカはなすすべもなく吹っ飛ばされる。
「げほっげほっ……いっ、今のは?」
「『でんこうせっか』。この前も見せたろ?」
 そう言われたユウカには確かに思い当たる節があった。
 ユウカは目を細くして答えた。
「ああ……さっきミミたちから逃げた時の」
「なんでそっちが出てくんだよ!?昨日のコラッタ倒したときの方!!」
 言われてみれば確かに、コラッタとの間合いを一瞬で詰められたのはでんこうせっかのおかげだったとするのならば納得がいく。
 嫌なところを突かれて若干顔が赤くなったカエンが、
「ああもういくぞ!『でんこうせっか』ぁ!!」
 と言って暴走状態に入った。
「うわぁっ、あぶなっ!!」
 ヤケクソ気味で戦っているからか狙いが甘くなっているので何とか躱せることもあるが、それでも躱しきれない攻撃に被弾してしまう。
(……まずあの『速さ』をどうにかしないと攻撃も当てられない……)
 だが、今のユウカの手持ちはいまだによくわからないサイコキネシスのみ。カエンの動きを遅くする手段がないのだ。
(どうする………)
 まさに防戦一方。
 単発の威力はそれほど高くないが、このまま削られ続けられれば倒れるのはユウカだ。
(どうする!!?)
 しかし、ここで
 ユウカの変なところで電球が光り輝いてしまった。


**********


 一方、でんこうせっかでラッシュを仕掛けたカエンは落ち着きを取り戻してきていた。
(……少し取り乱したが、)
 考えながら、カエンは口元に炎を纏わせていく。
(この勝負勝たせてもらうぞ、ユウカ!)
 なんか青い春みたいなこと考えていた。相手の都合や意志関係なくこういうことに巻き込むのが男という生き物である。こればっかりは人間ポケモン関係なく。
 そしてとどめを刺そうとほのおのキバの準備をして突撃しようとしたカエンだったが、
(っ?なんだ?)
 ユウカの様子を見て、足を止めてしまった。ユウカの体に青白い光が纏わりついている。
「……まさか」
 その正体は。
「お前っ、自分にサイコキネシスを使ったのか!?」


**********


 カエンは本能で何か危険のようなものを感じ取り、体の向きを180度回転させてでんこうせっかを使い走り出した。
 直後。
 カエンのでんこうせっかに匹敵する速さでユウカが打ち出された。形勢逆転である。
どういうことか愚かにもカエンが後ろを振り返ってみると、砲弾と化したユウカがきりもみ回転しながら飛んできていた。もうカエンの頭の中は恐怖でいっぱいである。
『あああまってカエンのと同じぐらいの速さにしてみたけど意外と速いっ、そして怖い!!』
「馬鹿お前オレも怖いんだよというかそれだったらサイコキネシスで飛んでくんな!!」
『えっ何なんか言ったー!?』
 ちなみにユウカは今回転しながら喋っているのでなかなかに愉快な声になっているが、カエンにそんなことを考えられる心の余裕はない。自分と同じぐらいの物体があり得ないスピードかつホーミングしてこっちに向かってくることほど怖いものはあまりないのだ。
命の危険を感じ始めたカエンは助けを求める視線をカモネギに送ってみるが……おいっ、笑ってんじゃねえ。こっちは死にそうなの!!
 しかし、カエンはとあることに失念しながらよそ見をしてしまった。
 今、彼はでんこうせっかを使っているのである。
 グキッと、
 嫌な感触を感じ、体感時間が一時的にかなり遅くなったカエンが足元を見てみると、なんともまあちょうどいいところにゴローンのいしが転がってやがった。
 しかしどうあがいたって起こってしまったことは変わらない。おかげでカエンは体勢を崩し派手に転がり失速してしまい、そこにもはや歯止めが効かなくなった生物兵器(脳筋)が派手に突っ込み、ちゅどーーーん!!というギャグマンガみたいな音が響いてこのバトルの勝敗が決した。


**********


「うっ、ううぅ……」
 なんか体がミシミシいう。
 まああんな馬鹿みたいなタックルを食らったのだから当然と言えば当然なのだが。
 カエンが目を開けてみると、道場主のカモネギが視界に入り込んだ。
「…おっ、やっと起きた。もう夕方だよ。ふふっ、」
 まだ笑ってやがる。
「……何笑ってんだ、というかユウカは?」
「いやあ、ごめんごめん。ユウカ君のした行動が本当におかしくてね。面白かったよ?あとユウカ君はさっきからずっとカエン君の隣にいる」
 そう言われてカエンは顔を横に向けると、何やら涙目なユウカが座っていた。
「……どうし
「ごめんなさい!!まさかあんなになるとは思ってなかったの。でもカエンが気絶しちゃって……ううっ、ほんとにごめーん!!」
 すごい勢いで謝れられた。カエン自身は気絶したことに対しては何とも思っていないが、ユウカにはカエンを気絶させてしまったことに対し罪悪感を感じたのだろうか。
「気にすんなよ。バトルしてたらこのくらいよくあることだから」
「わたしもユウカ君にそう説明したんだけど、どうしても謝りたいって言って聞かなくってね」
「そうだったのか……心配させたな」
 カエンがそういうとユウカは恥ずかしくなってしまったのかそっぽを向いてしまった。
 あらら……とカモネギがユウカの様子を見てつぶやいた後、カエンが気絶している間二匹が何をしていたのかを説明してくれた。
「……そうそう、カエン君が気絶している間にわたしはユウカ君にサイコキネシスについて話をしておいたよ。特殊技はわたしの専門ではないから力になれないと思っていたがあれなら話は別だ」
「……?」
 カモネギの最後の言葉にカエンは引っ掛かりを覚えたが、いつのまにやら体が浮かんでいたのでそれどころではなくなった。
「んえ?あれぇ!?」
「それじゃあカモネギさんそろそろ帰りますねー」
「ああ、また暇ができたらきてくれ」
「なんだと思ったらこれサイコキネシスか……?」
 二匹が普通に会話しているし、ユウカが出口に向かうと同時にカエンも出口に向かっていったので恐らく確定だ。まあこの状態ではうまく動けないからありがたいのだが。
 そしてカエンはサイコキネシスで浮かばせられたまま、ユウカと一緒に道場を後にした。


**********


 道場を出てから五分ぐらいして、ユウカたちはそれぞれの家の前までたどり着いた。カエンの家の扉の前には少し心配になったのかマホイップが立っていた。
「あらあ、おかえりなさあい。って、どうしたのぉ?」
 息子が結構ボロボロになっているというのにマホイップの調子は変わらなかった。というか道場での話を聞く限りもう慣れているのだろう。もしくはこれがこの世界の常識か。
「ユウカが結構強くてさー、負けちゃったよ。というかあれはほんとに怖かった……」
 気絶したことに対しては何とも思っていなくても、やはりあのめちゃくちゃなロケットブーストは なかなかカエンの恐怖心を掻き立てたのだろう。
「ううぅ……ほんとにごめん」
「だから気にすんなって」
「あらあ、いいわねぇ。ママに話してくれるかしらぁ?」
「いいけどママはやめてくれママは」
「じゃあ降ろすよー」
 ユウカがカエンに使っていたサイコキネシスを解き、カエンは約五分ぶりに地面に足を付けた。所々痛む所はあるが、もう大丈夫そうだ。
「それじゃあ、また明日ねー」
 ユウカはそう言うと、疲れた足取りで彼女の家に入っていった。やはりサイコキネシスを長時間使っていると負担がかかるのだろう。カエンは少しユウカに申し訳なく思った。
「それじゃあわたしたちも家に入りましょぉ」
「うん。……あっ」
「あらあ?カエンどうしたのぉ?」
 カエンはユウカの家を見て、そしてつぶやいた。
「ユウカあいつ……今日の夕御飯あるのか?」
 一日後、二階の廊下でげっそりしながら倒れているユウカがカエンによって発見された。

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