そこは、何処にあるか誰も知らない星の隙間──
プロローグの続きに当たります。
そこは星の隙間。
その場所は誰も知らず、存在すら確かではない。
命あるものが踏み込むことはなく、しかし命が始まるところとも言える。
その光すらない無の満ちた空間にいるのは、“創造者”と、“観測者”だけ。
そしてその“創造者”は、自らが定義し固定した「地面」に開けた光を覗いていた。
「それにしてもあんた、思い切ったわね」
そんな彼に女性的な声が掛かる。
「……君か。 他の者達は?」
「それが、分からないのよね。二柱とも連絡が無いわ。あんたこそ知らないの? ここら辺に居ないんじゃあ、それこそ“下”くらいしか場所はないじゃない」
声を掛けた彼女は呆れた顔で返す。
それに対し彼はあくまで冷静に答える。
「それはないだろう。“下”には彼らの分身が居る。同一の存在が二つあってはFirst programに混乱が生じる」
「それもそうだったわね……私も言ってる途中に気づいたわ。はぁ……疲れてるのかしら」
額に手を当てため息をつく。
と、彼が口を開こうとして、
「はいそこ! 『我々に疲労という概念はない』とか言わない! 言うつもりだったでしょ!」
「……」
制止されてしまった。
「ていうか、そんなことを話に来たんじゃないの。私が聞きたいのは例の彼のことよ。随分危険な橋を渡るじゃない」
「危険な橋か」
「そうよ。だって二つ以上の世界を行き来した者は大概普通じゃないわ。どう暴走するか分からない。現にほら、数個前の世界にもそんな奴がいて、そいつが発端で終焉を迎えたじゃない」
「光」を共に覗き込みながら語る。
「今回のケースとはかなり異なるが」
「そうは言ってもねぇ……あんただって全てを把握してる訳じゃないでしょうに」
「それはそうだが」
早口でまくし立てる彼女に対して、彼の返答はあくまで落ち着いている。
「あー……ほんっとあんたは張り合いってもんがないわ……。てか今回の世界だって既に一柱落とされてるじゃない! それも人間出身に! アイツこの前分身と連絡が取れないって嘆いてたわよ?」
「……君は見ていないかも知れないが。あれは既に他の不確定要素に汚染されていた。そのまま放置されていたら、別の終焉を迎えていたぞ。彼らは『星の停止』と呼んでいたが」
怒りも威圧も感じない、しかし彼は断言する。
「にしても一つ制御装置を失っているのよ。不確定要素を不確定要素に排除させてたんじゃあ、あまりに不安定だわ」
「仕方あるまい。始まってしまっては我々はほとんど手を出せぬのだから」
「……そこで開き直るのがあんただったわね……はぁ……」
両手を上げて降参の意を示す。
「ま、あんたなら結局どうにでもできるものね。心配する必要もなかったわ」
そう言い残し、“創造者”に背を向ける。
「ああ、そうだ……君に聞きたいことが」
その背中に彼が声をかけて呼び止める。
「何よ」
彼が、“観測者”に視線を向けた。
「君は、何もしていないよな?」
沈黙が訪れる。
彼の目は確かに“観測者”を見ている。だが意識はその先に向けられていた。
「…………知らないわ。奴に手を貸す義理もない」
彼女は今度こそ彼に背を向けた。
「それに、本当に知りたいなら強制的に調べればいいじゃない。“創造者”のあんたならカンタンでしょ」
そう言い残して彼女の姿は無に紛れて消えていった。
この空間は際限なく広く、そして彼が把握出来る範囲は限りなく狭い。彼女を再度捕捉するには時間がかかるだろう。
そして、去っていく彼女を見送った彼は、また光に視線を戻し、鑑賞を続けるのであった。