1-10 ギルド試験:実技

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主要登場キャラ
・リアル(ピカチュウ)
・ヨゾラ(ツタージャ)
・師匠(プリン)
・ソワ(ルンパッパ)
午前十二時。
少し早めの昼食を各自でとった受験生は、ギルド玄関前の庭に集められていた。

ポケモン達の数を数えて、全員いるかどうかを確かめたソワは、よく通る大きな声で話し始めた。

「では、これから実技試験を行う! 君たちには今から、ギルド裏の屋外訓練場に行き、一対一のバトルをしてもらうぞ!」

「バトルするのかぁ、やっぱり……って大丈夫、リアル?」

受験生の中でも後ろのほうで話を聞いているリアルとヨゾラ。
浮かない顔をして下を見つめているリアルにヨゾラが声を掛けた。

「大丈夫……じゃないけどどうしようもねぇ……」

何を隠そう、リアルは午前の筆記試験で大失敗している。未だにそれを引きずっている訳だが、失敗したのなら午後の実技試験で挽回しなくてはならない。
ずっと落ち込んでいる訳には行かないのだ。

その間にもソワの話は続く。

「組み合わせはランダム。どちらかが戦闘の続行が不可能になるか、審判が危険と判断するまでバトルを続けてもらう」

なかなかハードなバトルだ。事実、どちらかが倒れるまで終わらないデスマッチということらしい。

が、しかし! とソワが一際大きな声で意識を引く。

「バトルで勝敗は着くが、それでテストの結果が決まる訳では無い! あくまでもバトルの内容を評価するため、負けても諦めないように!」

「なるほど、たしかにその通りだ」

ヨゾラは納得のいった表情。

「バトルの勝ち負けでテスト決まっちゃったら、全体の半分は点数大変なことになっちゃうもんね」

「確かにそうだな……優しい」

というか配慮が効いているというか。バトルが苦手なポケモンもいる。ギルドにはバトル要員以外のメンバーもいるのだろうから、そういったポケモンを採用するには必要な配慮だろう。

もしかしたら師匠あたりがテストの内容を決めているのかもしれない。師匠ならなんでもお見通し、みたいなところもあるし。

「えー、じゃあ今から訓練場に向かう! 着いてきなさい!」

そう言ってソワが後ろを向いて歩き出した。
それに伴って集団もぞろぞろと動き出す。

「よぉーし、お互い頑張ろうね!」

やる気に満ちた表情を見せるヨゾラ。
その顔を見て、リアルはふと考え込む。


彼はもし、片方だけしか合格しなかったらどうするのだろうと。いや、考えても仕方の無いことではあるのだけど……。

だってヨゾラとは初対面で、別に思い入れは無いはずだし、二匹一緒に受からなくたって問題は無いと思ってるんじゃ……。

しかし、リアルはヨゾラの目を見てその考えをかき消した。

(いや……きっと、ヨゾラは本当に一緒に受かりたいと思ってる)

思えば声を掛けてきたのだって、本人は一匹だと不安だからと言っていたけど、本当は自分を心配してくれていたのだろう。そして元気づけるために明るく振舞ってくれた。……まあもともと明るい性格みたいだけど。

そもそも、自分だって頑張るしかないんだから、なんだって構わないじゃないか。疑心暗鬼になる必要も無い。
頑張った結果に、このツタージャと一緒に合格するのだって面白そうだ。

そういえば、同い年くらいのポケモンと話すのって初めてだし。縁があったってことで。

そしてリアルは深く頷いた。

「……おう、頑張るぞ!」

二匹は一緒に並んで歩き出した。


          ※


「なんじゃあ、こりゃ!!」
「凄いや……! プリンのギルドはやっぱり大人数なんだね!!」

受験生達が連れてこられた屋外訓練場。
そこでは広いグラウンドがロープで四面に区切られていた。

そしてその周りには、大勢の観客がいたのだ。

「緊張するね……! ここのポケモンたち、みんなギルドのメンバーなのかな!」

おそらくそうだ、このグラウンドの周りに集まる集団は全員ギルドメンバーだ。何匹かギルド内で見かけたポケモンたちがいる。ギルドメンバーは大体、身体のどこかにスカーフやリボンをつけているから分かりやすい。
多分ギルドメンバーの全員がここにいるんじゃないだろうか。

リアルは観客達を見回して知り合ったポケモン達を探す。アンドリューさんに、グラスさん……と、ついにリアルはその姿を見つけた。

「あ、師匠だ」

「師匠って……プリン師匠!? え、どこ!?」

リアルが指を指す。その先には用意された椅子に座る師匠の姿がある。

「あの有名なプリン師匠も観戦するの!? うっそ、緊張するよ!!」

「そ、そんなに有名なの?」

「えっ、知らないの!? ちょー有名な探検家なんだよ!?」

心底驚いた顔のヨゾラ。
いや、知らないよ……記憶ないんだから。とは口には出さないが。

でも、師匠がすごいポケモンなのはよく分かる。
あの何でも見通す目で自分のバトルを観られるのは落ち着かなそうだ。


「えー、うぉっほん! そろそろ試験を始めるぞ!」

観客の多さに圧倒されている受験生たちに、注意を引こうとソワが大きな声で叫ぶ。

「今から順番に四組ずつ呼び出す! 呼び出されたら速やかに指定のコートに行くように!」

そう言って紙を取りだして、他のギルドメンバーに渡した。渡されたメンバーは名前を読み上げ始める。

「いよいよだな」

「うん、いよいよだね。やっぱり緊張する……」

そう言ってヨゾラは足踏み。
緊張を紛らわしているのだろう。

自分といえば、緊張というよりは不安。
どうしても心のどこかにある、受からなかったらどうしようという気持ち。
それにリアルには実はもう一つ、他のポケモンたちにはない不安もある。

でももうここまで来たのだ。呼び出されてコートに向かうポケモンたちを見ながら、リアルは拳を固く握りしめた。

と、ヨゾラがふと呟いた。

「あ、もしバトルがリアルとだったらどうしようね」


           ※ 



「次! 2番コート! リアルとヨゾラ、入りなさい!」

「うっそー……」

「言った通りになっちゃったね……」

まさか言ったそばからその通りになるとは。
ヨゾラは引きつった笑顔。
どうしよう、流石にヨゾラと戦うのは考えていなかった。

「とりあえず行こうぜ」

「うん……」

ヨゾラの手を取って走り出す。
彼は浮かない顔だけど、リアルとしては意外と気にしていない。と、言うよりちょっと楽しみだ。
そう彼に言うと、

「ええ……楽しみなの……?」

ちょっと引き気味。

「実際楽しみじゃない? 俺はワクワクしてるよ、ヨゾラと戦うの」

身体を動かすのは嫌いじゃないし、それに何だかんだダンジョン以外での初戦なら、ちょっとでも知り合ったポケモンのほうが抵抗が少ない。

「そうかなぁ……知り合ったポケモンのほうが戦いにくいかも」

「まあまあ」

リアルはヨゾラを宥めながらコートまで連れていく。コートには赤のスカーフを首に巻いたサンドパンが立っていた。

「リアル君とヨゾラ君だね。これから僕が審判を行う。じゃ、定位置について」

サンドパンはコートの両端を指した。そこには白い線が引かれていて立ち位置が指定されている。
小走りで線に向かい、二匹は向かい合った。

さあ、いよいよだ。
さっきまでは不安だったけど、いざ始まるとなるとワクワクが止まらない。戦闘狂のつもりは無いけれど、互いに力をぶつけ合うのが楽しみだ。ヨゾラがどんな戦いをするのかも見てみたい。

そのヨゾラもついに覚悟を決めたようだ。
一度目をつぶって深呼吸をし、リアルを強い眼差しで見つめた。

「わかった、やってやるよ! リアル、負けても不合格になる訳じゃない。本気で来なよ!」

「分かってる。全力でやろうぜ!」

拳を叩き、気合を入れる。
さあ、息を吐いて集中。
ダンジョンのモンスターハウスとは違う、準備をした上の、一対一の真剣勝負。

見据えるはヨゾラただ一匹。
不安なことは沢山あるけど、今はこの試合だけに……!

互いに腰を落とし、息を吐いて構える。
そして声が響き渡った。

「始め!!」

「…………ッ!!」

リアルは一直線に飛び出した。

           ※


「ソワぁ! 早く早くー! 始まっちゃうよー?」

「はぁ……はぁ……間に合ったぁ……」

観客のど真ん中に席を構える師匠の元に、ソワが猛ダッシュで駆けつけた。おかげで息は切れ切れだ。

「受験生の誘導ご苦労さま、ソワ」

「はぁ……それが私の……仕事ですから……ふぅ」

既に試験自体は始まっている。ソワは誘導の後、一度ギルドに戻って必要な資料の整理を行っていた。審判や呼び出しは他のギルドメンバーが手分けしてやってくれている。

そして今始まろうとしているのは、リアルの試合だ。

「……どうでしょうか、彼。ちゃんと戦えますかね」

勝てるか、ではなく戦えるかを訊くソワ。

「ん……どうだろうね、正直厳しいかもだ」

「やっぱり……?」

師匠はコートを見つめたまま難しい顔をしている。

「でも勝てないわけじゃない。彼にも得意分野はある。それをしっかり発揮すれば問題ないよ♪」

「そうですか……」

不安げなソワ。
試験前から、師匠と「リアルを特別扱いしない」という約束を決めていた。
確かに身元を引き取ってから随分経ち、ダンジョンでの仕事すら共にしているソワにとってはリアルに少なくない情がある。
だがそれで贔屓をしてしまっては彼にも他の受験生にも失礼だ。そのために特別扱いを禁じたのだが。

心配なのは心配なのだ。
忙しなく小刻みに動き、ソワソワする。

「もう……ソワはやっぱり落ち着きがないんだね……♪ せっかくの大イベント、楽しまなきゃ」

「はい……」

普段は彼に厳しく接しようとは心がけているが、こうなっては気にかけているのがバレバレだ。
ツンデレと言うなかれ。これは親心だ。と、ソワは内心信じている。

いよいよ二匹が向かい合った。試合が始まる。

高く掲げられる審判の手。
そして、それが振り下ろされると同時に声が響き渡る。

「始め!!」

「さぁ、頑張れ!」

ソワの叫びは空へと響いた。

            ※


猪突猛進。一直線にリアルは走り出した。
一気に間合いを詰める。狙うは接近戦。
だがヨゾラは構えたまま動かない。それなら、と勢いそのままに突っ込んで──!!

その瞬間、リアルは微かな違和感を覚えた。
ほんの僅かな気の揺らぎが、身体を竦ませる。

そして一陣の風。

次の瞬間、顔の横の空気が切り裂かれた。

「……ッ!?」

体勢を崩して勢いそのままに転がるリアル。だが上手く受身を取り、倒れることなく立ち上がった。

「なん……だ!?」

キッとヨゾラを見つめると謎が解けた。
ヨゾラの首元から伸びる二本の触手。いや、違う。それは「ツタ」だ!

「これが僕の武器だよ! リアル!」

そう言って誇らしげにツタをくねらせるヨゾラ。そのツタも身体と同じように美しい深い青に染まっている。だが見とれている場合ではない。

さっき、半ば本能で体を止めていなかったら、その素早いツタの槍をもろに受けていただろう。自分の勢いで威力を増して。

確かにツタージャという種族にツタがあるのは知っていだが。まさかそこまで素早く打ち出せるとは!

「……危なかった」

リアルの背中に冷や汗が流れる。
軽いステップで間合いを取り直す。

リアルが体勢を立て直すのを見て、今度は隠すことなく、ヨゾラはツタを構えた。

「じゃ、今度はこっちからいくよっ!」

そう言って、ヨゾラはそのツタを二本同時に繰り出した。
容赦なく顔面を狙って打ち出されるツタをリアルは腕で受け流し振り払う。
だがツタの雨はやまない。

次々と縦横無尽に飛んでくる猛威の槍。
どれかひとつでも受け逃すと大ダメージ間違いなしだ。観客の声はもはや聞こえない。集中が切れると押し負ける!

(重い……!)

攻撃に転じるどころではない。一つ一つが重すぎて受けるだけで後ろに押し返される。
前に詰めようにも勢いが足りない!

「どうだ! 僕の攻撃は!」

したり顔で叫ぶヨゾラ。

「くう……っ!」

埒が明かない。いやむしろこのままではジリ貧だ。こうなれば!

「!?」

ツタの雨が止む。リアルはその二本のツタをがっしりと鷲掴みして動きを封じていた。
驚いた顔のヨゾラ。

ギャラリーが湧く。

だがリアルも楽ではない、受けそこねていくつかツタを食らってしまっていた。だが痛みに耐えツタを離さない。

訪れる均衡。だが膠着状態も長くは続かなかった。

手を離すリアル。しかしそれは意図的。
リアルはツタを放すと同時に、二本のツタの間に潜り込んで走り出した。

ツタより手前の間合いに入ってしまえばツタの攻撃は間に合わない。

「なっ!?」

ヨゾラはツタを引き戻す。しかし長く伸ばしたツタを戻して防御するには時間が足りない。

(獲ったッ!)

瞬く間に間合いを詰めて接近する。
ヨゾラへの道を塞ぐものはなく、一直線に突っ込んで……!

「……! 『はっぱカッター』!!」

「やばいっ!」

ヨゾラが必死に技を繰り出す。想像より対応が早い! これでは押し返される、ここで退けばまた接近するのは困難だ!

技は腕では受けきれないかもしれない。とすれば選択肢は……。

(……やるしかない!)

走りながら全身に力を溜める。それは電流。頬袋から流れ出す電気を全身で溜め込み、一気に放出させる……!

体から閃光がほとばしる。それは、目の前に迫る攻撃を相殺するために──!

「『でんきショック』!!」

視界が眩い閃光に包まれた。
世界が閉じる。
そして訪れる結果は……。


          ※



「痛い痛い痛い!」

無様に弾き飛ばされるリアルがいた。
ヨゾラのはっぱカッターを全てまともに食らって切り傷だらけ。グラウンドを転がる。



「えっ……なんだ今のピカチュウ」

「でんきショックって言ったよな……でも何もしてないぞ?」

観客がざわめく。それもそのはず。
何故なら、リアルはでんきショックが「出せなかった」のだから。

(やっぱりダメだったかぁ……!)

そう。リアルにとっての不安とはまさにこの事。
結局、リアルは技が出せないのだ。

おだやかな森での依頼の後、リアルは実技試験対策としてバトルの特訓を行った。
基礎体力は上々。運動神経も良い。
だが相変わらず電気技は出せないままだった。
電気を溜めることができても、放出させるのが出来ない。その場で集めることが出来ず勝手に放電していってしまう。

そしてその症状はテスト当日まで治ることは無かった。
師匠は将来的には問題ないとは言っていたけど、テストでの使用は絶望的とも言っていた。

だから身体能力で補いたかったのだが。

ヨゾラも目を丸くして立ちつくしている。
いやまさか、攻撃をしたとはいえ、反撃もなしにもろに食らってくれるとは思わなかったようだ。
まさに呆然。いや、こっちとしても呆然だ。自分自身に。

が、ハッと我に返り、スルスルとツタを伸ばしてリアルを絡めとる。

「う、うわっ」

ツタは傷を負って反応が遅れたリアルの胴体にしっかりと絡みつき、空高く持ち上げた。

「高い、高いって!」

というかツタでこんな力が出せるのか! 腕が四本あるようなものではないか。

完全に優位をとったヨゾラが戸惑いつつ話しかける。

「えっと……なんだか分からないけど、もうこれで王手だね。あとは……」

そう言って反動をつける。
待った、まさかこのまま振り回して放り投げるつもりか!?

「ちょちょ、ストップストップ!!」

「なんだよう。これはバトルなんだから仕方がないでしょー?」

「いやそうは言っても! 怖いって!」

うーんと唸るヨゾラ。確かに可哀想と思うのかもしれない。
そしてリアルは口で時間を稼ぎながら必死で頭を回していた。

(どうすれば勝てる? 自分には技が出せないし……動きはもう止めれない……! どうすれば……?)

状況は万事休す。今まさにヨゾラが動き出せば戦闘続行は不可能になるだろう。

「そうは言ってもこの試合リタイアは認められて無さそうだし……」

チラッと審判のサンドパンを見るヨゾラ。それに対しサンドパンはゆっくりと頷き返す。

「リアルにとってもリタイアは良くないでしょ?」

「そうだけどさ!」

足をばたつかせるリアル。正直この高さは本当に怖い。ただ落とされるだけでもかなり痛そうだ。

地面を見つめて息を吐くリアル。仕方がない。覚悟を決めた。

「じゃあ、リアル、いくよっ」

「待った! 最後にひとつ!」

「なんだよー……もう」

……正直、正直ちょっと申し訳ない。
だって実質、ヨゾラが優しくて、その優しさに付け込んでいるようなものなのだから。

でもこちらも負けられないのだ。ならば、できる限りの事は何でもしよう。
自分にも、目指すものがあるのだから。

「じゃあ一つだけ。……ヨゾラ、これから俺を振り回すんだろうけどさ」

息を吐いて、そして深く吸い込んで言い放つ。




「それ、ほんとに出来る?」

「!?」



その瞬間、リアルは全力でツタを振りほどいた。
地面に向かって落下する。が、転がることで衝撃を最小限に。そしてすぐさま立ち上がるとヨゾラに向かって走り出した。

咄嗟にヨゾラはツタをリアルに向けようとして、驚愕した。

「な……んで……!?」

体が動かない。
ツタから足の先まで、全く言うことを聞かずその場でフリーズしていた。まるで全身が麻痺してしまったように。ヨゾラのツタは空中で固まったままだ。

「……! そうか……、『せいでんき』か…!!」

そう。それはリアルが試験勉強でモル先生から教わった自身の「とくせい」。

ポケモンにはそれぞれ、種族ごとにある程度決まった「とくせい」が存在する。
それはほとんどが常時発動する技のようなもので、自分の戦闘に有利に働く。

そしてピカチュウであるリアルのとくせいは『せいでんき』。触れた相手を麻痺させることがあるのだ。
無論、常に痺れさせられるわけではないが、長時間触っていればその確率は上がっていく。

そのための時間稼ぎ。少しでもいい、ヨゾラの動きを止めることが出来ればそれは大きなチャンスとなる。
ヨゾラが時間をくれなければほとんど負けていたようなもの、でも実際今は形勢逆転を迎えている!

これが最後のチャンス!これを逃せば次はない!

未だ身動きの取れないヨゾラに向かって今度こそ接近するリアル。

技は出せない。ならば信頼するのは自分の体!

拳を強く握りしめて振り上げる。


この一発に全てを賭ける!

焦った顔のヨゾラ。勢いそのままに、その体に拳を打ち込む!!

「はぁぁぁッ!!」

一閃。

その瞬間、何かが爆ぜる音がした。
そして、再度二匹は一瞬の光に包まれる。

鈍い感触。そして迸る閃光。



リアルは、ヨゾラを殴り飛ばした。


宙に舞うヨゾラ。
彼は何も発さず、ただ地面に堕ちた。

そして静寂。立ち上がることは無い。


「……そこまで! 勝者、リアル!!」


歓声が、聞こえた。

どよめくような歓声にコートが包まれる。
訓練場が熱気に満ちている。
興奮した叫び声や応援が訓練場を揺らしているような錯覚を感じた。

そしてリアルは自分の手を見つめていた。

「……なんだ……? いまの……」

それは、ただの殴打ではなく。
明らかに、電気をまとったひとつの技。

恐らく、それが無ければヨゾラを一撃で倒すことは出来なかっただろう。

「救護班! 担架を!」

叫ぶ審判の声でハッと我に返る。
そうだ、ヨゾラは!?

ラッキーとタブンネがヨゾラに駆け寄っている。
リアルも急いで確認しに行く。

「大丈夫です。気を失っているだけですよ。ダメージは大きいですが……」

ラッキーがリアルに言う。

(良かったぁ……)

ホッとしてため息をついた。

ラッキーとタブンネは協力してヨゾラを担架に乗せ、持ち上げた。

「あの、ヨゾラはどこへ?」

「これから救護テントへ連れていきます」

「俺も行きます」

そう言うとタブンネは頷いた。

これはバトルで、お互いにダメージを負うのは当たり前なのだが、それでも自分が倒したのだから、その責任としてちゃんと看病すべきだと思ったのだ。

そして運ばれるヨゾラに着いていこうとした時、リアルは後ろから呼び止められた。

「お疲れ様♪ リアル」

「あ、師匠……」

「試合、凄かったよ♪ 勝利おめでとう」

「ありがとうございます。師匠のおかげです……
! あとソワも」

「なんだそのオマケみたいな言い方は!」

師匠の後ろでプンスカ怒っているソワ。

「ま、あれだけギルドのメンバーが手をかけてやったんだ、勝って当たり前だな」

「ソワったらまたそんな事言ってぇ。リアルが掴まれてた時なんかガタガタ震えてたくせにぃ」

「ちょっ!?、なっ、師匠!? 」

そのあまりの必死さに思わずプッと吹き出してしまう。

「あーそうそう」

と、師匠が振り返った。

「キミの最後の技、あれは多分『かみなりパンチ』だね。まだ不十分だけど」

「かみなりパンチ……?」

「うん。本来はピカチュウとしては覚えられない技のはず。多分キミは電気を溜めたまま放出出来なかったから、たまたま出来たんだろうけど、バトル中に技を編み出せるのはとっても凄いことだよ♪」

「そうなんですか……!?」

意外と凄いことをしてしまったのか。
もう一度自分の手を見つめる。何の変哲もないが、自分にしかできないこともあるのかもしれない。

と、ハッとヨゾラのことに気づいて、師匠とソワに頭を下げた。

「彼の付き添いをするんで、また後で。ありがとうございました!」

手を振って答える師匠。

リアルは急いで救護テントへと向かった。


           ※


「いやあ、凄かったね、彼!」

興奮した様子の師匠。楽しそうに小さく飛び跳ねている。

「確かにびっくりしました。いきなりかみなりパンチなんて打つから……」

「これで彼の合格は決まったかなあ」

「いや師匠。それが筆記試験の仮採点の点数が……」

師匠に耳打ちするソワ。



「はえっ!?」

師匠は素っ頓狂な声を上げた。

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