1-5 活気づく街

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読了時間目安:9分
主要登場キャラ
・ピカチュウ
・ソワ(ルンパッパ)
 玄関の大きな扉を開けると、青空が広がっていた。
 思えば空から落ちてきたあの日以来、外に出ていなかった。森が広がっていたのは覚えている。ただそれ以外はあまり。

 自分の記憶は空にいた時より前のものは無い。
 自分の名前すら分からなければ、自分がピカチュウであったと言われればそんな気もするし、違うような気もする。そのくせ最低限の常識は知ってる。読み書きだってできる。

 自分自身がよく分からない。
 それなのに急にギルドだとか、探検隊だとか。正直不安で仕方がないし、手一杯だ。
 これからどうするのが正解なのか……。

「ほら!行くぞ!」

 ソワが外で叫んでいる。
 彼は自信ありげで何か策があるようだし、とりあえず思考を一旦保留して外に向かうことにした。


          ※


 玄関を出て垣根の間の門を抜けると、正面には森の入口があった。

「ああ……この森だな。お前が落ちていたのは」

「こんなに近かったんですか」

「ん? ああ、いや確かに森は近いがな。ギルドから近かった訳では無いぞ」

「え?どういうこと……?」

「この『おだやかな森』は迷宮《 ダンジョン》だからな」

「??」

 ますますよく分からなくなる。
 ま、後で話すさとソワは左のほうへ進んだ。

 ギルドを出て左側、その道をまっすぐ進むと大きな下り坂があった。その通りを進むとその先には。


          ※


「いらっしゃいませー!!」
「きのみジュースはいかがー!!」

 大きな道に集まる熱気と飛び交う声。

「ここが……タウン!」

 そこは、ギルドの下で栄える街一番の大通りだった。

「ここがトレジャータウン。プリンのギルドが安全を守ってるんだ」

「すごい…お店が沢山!」

「ふふ……お前も興奮するか、こういうところは」

 自慢げにふんぞり返るソワ。

「なんせ我らが師匠のギルドの街だからな! 私たち探検隊は街を守り、街のポケモンたちは私たちを支援する。常に助け合いってわけだ!」

 ソワの話を半分聞きながら、当たりを忙しなく見回すピカチュウ。
 通りで世間話をしているポケモンたちは皆笑顔で、店を営むポケモンも楽しそうに働いている。
 まさに活気のあるいきいきとした街だ。

「ほぉ〜……ん?」

 と、ふと2匹のカクレオンが立っている店に目がとまってピカチュウは駆け出した。

「お、おい! そう勝手に突然走り出すんじゃない!」

 慌ててソワも後を追った。


         ※


「いらっしゃいませー! ようこそ……おや?」

「おやおや? あまり見ないお顔で。ここは初めてですかな?」

 そこに居たのは二匹のカクレオン。
 緑の身体のカクレオンが左。紫の身体のカクレオンが右に。色以外はそっくりな二匹だ。

「えっと……はい、まあ数日前に来たばかりで」

「おやおや……来たばかりということはやはり、探検隊志望ですかな!?」

 緑のカクレオンが目を輝かせる。
 それに対しピカチュウは歯切れが悪い。

「……まだ迷ってて」

「その子はウチで保護した迷子ですよ。身寄りがないらしくて」

 後ろからソワが追いついてきてカクレオンに声をかけた。

「おおっ! これはこれはソワさん、いつもお世話になっております〜」

「いや、こちらこそいつも助かってますよ」

 いつも助かってる……というとこの店は探検隊にとって重要なんだろうか。

「まあまあ、なんにせよ初めての御方。これからもし探検隊に入られるのでしたら是非ごひいきにしてもらわなくては! ということでご挨拶!」

 2匹のカクレオンが顔を見合わせて頷いた。

「いらっしゃいませ〜! 私たちはカクレオン商店!」
「&専門店でございます! こちらの緑が兄で、この紫の私が弟!」
「「探検の前にはぜひこちらで道具をお買い求めください!!」」

 二匹揃って大きなお辞儀をするカクレオンたち。
 釣られてピカチュウも軽く会釈を返す。

「我々カクレオン一族は世界各地で、さらにはダンジョン内でも商店を営んでおりますので」
「色んな街、色んなダンジョンでも是非ごひいきに〜!」

「ダンジョン……?」

 二匹の華麗なコンビネーションに気圧されながらも、度々話題に上る言葉が気になって呟くピカチュウ。
 それを見てソワがあっと何かに気づく。

「そう言えばまだ、ダンジョンについてのことを話していなかったな」

「おや、ご存知ないので?」

「ダンジョンは誰もが求めるお宝の眠る、ロマンのつまった迷宮なんですよ〜!」

「お宝!」

「まあ大まかに言ってしまえばそうだ。この世界では10年以上前から、各地の山や洞窟や森が入り組んだ迷宮になってしまう『ダンジョン化』が起きているんだ」

 ソワがフォローを入れる。

「ダンジョン化した場所は『不思議のダンジョン』と呼ばれている。不思議のダンジョンは入る度に地形が変わる、まさに不思議な場所でな。未だに原因は分かっていない」

「入る度に地形が変わる? そんなことあるんですか?」

「まあ、だからこそ踏破するのは難しいんだな。ただ、その代わりに」

「そう!お宝があるんです! ダンジョンの主が隠した秘宝や財宝! 自然が育んだ宝石などなど! あぁ〜夢がありますよねぇ!!」

 ハイテンションな兄のカクレオン。どうやらお宝には目がないらしい。

「ただ、ダンジョンで注意しなきゃならないのは、凶暴化したポケモンたちが襲ってくることだ」

「そうなんですよねぇ〜。襲ってくるポケモンたちは私たち一般人には強すぎて……大変なんです!!」

 弟のカクレオンが顔に両手を当てて叫ぶような、大げさな仕草をする。

「そこで私たち探検隊の出番というわけだ! ダンジョンで遭難したポケモンを救助したり、ダンジョンにしかない道具を取ってきたりするわけだ」

「そうそう! そしてその探検の際には私たちカクレオン商店&専門店がしーっかりバックアップさせていただきますよ!!」

 ……なるほど。思ったより大変そうな話だ。ただ……。

「お宝を探すのってのは……なかなか面白そうだ……」

「でーすーよーねぇ!! あーいいですよね探検隊! 冒険!友情!ロマン! 私も一度探検してみたいものです!!」

 先程からテンションがマックスな兄を弟がなだめている。

「説明としてはそんなところだ。参考になったか?」

「……はい。とっても」

 じゃあそろそろ、と店を離れることにした。
 街をもっと見回りたい。

 別れ際、兄のカクレオンが声をかけてきた。

「ピカチュウさん、是非頑張って下さいね! ああ、そうだ、はいこれ」

 手渡されたのはリンゴ。

「え、いいんですか」

「どうぞどうぞ! 探検隊の皆様にはいつもお世話になっていますし! 困った時はぜひ頼ってくださいね!!」

「……」

 兄弟揃って笑顔で手を振って見送ってくれた。
 その歓待にピカチュウは、しばし無言で立ちつくす。


 それから、深くお辞儀をしてソワを追いかけた。




(優しいポケモン達だった……)

 ずっと手にあっても持て余してしまうので、リンゴを食べ歩きしながらピカチュウは考えていた。

 初めて見かけたポケモンに警戒もせず、賑やかに迎えてくれて、さらにはリンゴまでくれるとは……。

 辺りを見回すと、通行人も含めてみな笑顔で楽しそうにしている。中には大声で話したり、ムッとした顔をしているポケモンもいるが、険悪なムードではないからきっと個性の範囲なのだろう。

みんな争いもなく、カクレオンたちも含めて、優しさに満ちているような……

「こういう雰囲気、結構好きだな」

「楽しそうにしてるポケモンと一緒にいれば、こっちまで自然と笑顔になるもんだ」

 ソワが腕を組んで頷いている。

「ただ、さっきも言った通り、中には困ってるポケモンもいる。そのために、これだ」

 ソワが立ち止まって手で示したのは、大きな看板のような立て板。
 いや、これは……。

「これがギルドで言ってた掲示板?」

「そうだ。ここならギルドの探検隊以外も依頼を受けられる」

 掲示板の前にはポケモンが数匹集まっている。
 だがそれはギルドの掲示板と比べると少ない。それほどギルド以外の探検隊が少ないということなのだろうか。

「ちょっと待ってろ」

 と、ソワがピカチュウを置いて掲示板の方へ行ってしまった。

「?」

 食べ終わったリンゴの芯をゴミ箱に捨て、しばらくソワを待つ。
 掲示板の前の集団を眺めていると、ピカチュウはあることに気づいた。

「なんかみんなバッジみたいなの付けてるな……」

手のひらサイズぐらいの小ささで良くは見えないが、確かに誰もが身体のどこかしらにバッジをつけていた。

(そういえばギルドのポケモンたちも何か付けてた様な。ソワさんも付けてたかな?)

 何かしらの意味があるのだろうと考えていると、ソワがドタドタと戻ってきた。手には紙を持っている。

「これくらいなら今日中にパパっと終わるだろう」

 そう言って紙をピカチュウに渡す。

「なんですか、これ」

 紙にはこう書かれていた。

『森の奥にある、大きなリンゴを取ってきてください! ぜひ食べてみたいんです! 場所:おだやかな森 お礼:200ポケ 依頼者:ミズゴロウ』

「これは……依頼書?」

「そうだ。これを今から受けるんだ」

「今から……? 誰が?」

「お前がだ、ピカチュウ」



「え、えええええええ!?」

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