この作品はポケダン空のクリア後の世界観を元にしています。
また、この作品は作者の個人的な解釈、二足歩行などの改変を含みます。ご了承ください。
まずは簡単なプロローグから。
そこに光はなかった。
反射によって視覚をもたらす光はなく、全てが闇に溶け込んでいた。
全方位が黒い世界で、何一つ見えるものはない。
だが、存在を「認知」するのに光など必要ない。
ここでは視覚はほとんど必要ないからだ。
荘厳な雰囲気をまとって、山のようにぴくりとも動かない「それ」に、何かが音もなく滑るように近づく。
そして、女性的な声で口を開いた。
「ねぇ、あんた。世界への干渉はできないんじゃなかったの」
「それ」は口を閉ざしたまま。
しばらくまた静寂が戻ってくる。
しかし痺れを切らした彼女は、苛立つようにせかす。
「ねぇ! あなたは『創造』するだけで手は出せない、そういう話じゃなかったの!」
そして「それ」も、うんざりするでもなく、低く重々しく口を開く。
「あぁ...意図的な干渉はできない」
「......ッ 」
「だからこそあのような手段をとる他なかったのだ」
「......結果を操作できないものの、干渉は加えられるというわけね...でも...」
呆れたように彼女はため息をつく。
「だからって単純に『衝撃を与える』だなんてね......First programは脆く繊細なのよ?」
「だが強靭でもある」
「あんたって本当に付き合いづらいわ......テツガクっぽいのよね。いちいち。」
「分かりやすく説明する必要もないだろう」
うわっ、サイテーと小さく吐き捨て、会話を切る。
「まぁそれは別にいいの。干渉出来ること自体は。私が聞きたいのはその先。」
彼女は彼を“下から ”睨み付ける。
「じゃあ今までなんでやらなかったの? それに、なんで今な訳?」
「......たまたま、では駄目か」
「駄目に決まってんでしょ。あんた何回創造と破滅を繰り返してると思ってんの? 二回目三回目ならまだしも、数千万を越す繰り返しのなかで初めての取り組みなんて、理由が無いわけないじゃない」
「その二つの質問はひと繋がりだ。今回やろうと思えたから今回やった」
「じゃあなんでやろうと思ったわけ」
そこで彼の返答が詰まった。
一呼吸置いて、言葉をゆっくりと吐き出す。
「前回の世界の終焉の時に、ある少年を見た。彼は最後の最後に、悲しむでも、狂うでもなく、『こちらを睨んだ』のだ。......こちらを見たのは偶然だったかも知れない。だが私は思った」
息を吸う。
「彼なら世界を変えられるかもしれないと」
「最後の肝心な部分で論理が飛躍したわ。何でそう思ったかが説明されてない」
だがその疑問を無視して、彼は質問を投げ掛ける。
「君は、世界の終焉が早すぎるとは思わないか」
「......私達にとって時間の概念は重視されないわ。あと私の質問を無視し」
「少し、早すぎるのだ。希望もへったくれもない世界だ」
「............珍しく感情的な考えね。あんたの分野じゃないわ。......あと私の質」
「彼なら世界の寿命を延ばせるかもしれない。そうでなくとも、希望を与えられるかもしれない」
「............はぁ」
ため息をついて、まともな会話を諦める。
「で? 延ばしてどうする気? 全てのものに終わりは来る。延ばして延ばしても崩壊するのよ」
「そのスパンが問題なのだ。もし仮に、私達が長いと感じられるほどの時間を世界が生き延びられたら」
「夢物語ね」
「...なんにせよ、希望が必要だ」
「......希望ね......本当に、あんたらしくないわね」
「私らしい、か...君は君らしいな。流石『感情』だ。心情が目まぐるしく変化している」
「魂の中を透かし見るのは変態の所業よ」
彼女はまた呆れたようにため息をついた。
「はぁ...何でよりにもよって彼な訳よ」
「なんだ、もっと容姿端麗の方が良かったか」
「はぁ? 私は奴等の見た目なんて気にもならないわ。塵芥の個性を見分けるのと同じよ。ただ......」
久しぶりに会話が途切れ、静寂が訪れる。
何もない世界。全てが始まる世界。
そこに無駄はなく、合理もない。
彼が一歩を踏み出した。
瞬間、床が生まれ、一点の光が生まれた。
だが他を照らすことはない。ただ光を放つのみだ。
そして彼は光を覗き込む。
「まもなく始まるぞ」
「了解。いつも通りね。まるで劇みたい」
「......ただ一つ言えるのは」
彼は期待のこもった目で光を見つめた。
「彼の世界はきっと、台本どおりには進まない」