メモリー28:「所詮ボクたちなんてこの程度~ハガネやま#3~」の巻

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 なんとかまたピンチを脱出出来たけど、これ以上辛い気持ちは抱えたくないな。やっぱり「優しさが欲しい」っていう私の考え方じゃ、救助隊は向いてないのかな………?


 「チカ?どうしたんだい?また泣いてる。笑顔を見せてよ………ねぇ…………?」
 「ユウキ…………」


 ボクは“しばりだま”の効果が切れるや否や、すぐにチカのところへ駆け寄った。彼女は涙で顔を濡らしている。せっかくこのピンチを乗り切ったと言うのに、一体どうしてだろうか。


 「わかんない。わかんないよ。なんで?なんで嬉しいことなのに、こんなに苦しい気持ちにならなきゃいけないの?」
 「…………」


 ボクは返答に困った。答えは何となくわかるのだが、その内容をここでチカに伝えるべきなのか躊躇っているのだ。


 (彼女は………チカは、“強さ”ではなく“優しさ”が欲しいって言っていた。だから時には自分の感情を投げ出してでも相手を傷つけたり、倒していかなきゃいけない状況を突破したとき、途端に苦しく感じるんだと思う。仮にチカがボクみたく“強さ”が欲しいのであれば、きっと素直に目の前の壁を壊せたことを嬉しいって感じるはずだから)


 出逢った当初、恐らく彼女はそこまで頭が回ってなかったのだろう。バトルすらまともに出来ないくらい“おくびょう”な部分があったし、とにかく目の前の状況を突破してキャタピーちゃんを助けることだけでいっぱいいっぱいだったと思うから。


 でも、日毎に少しずつ救助隊での生活に慣れてきて、気持ちが落ち着いていくに連れ、彼女には救助隊になる前のとはまた別の………新たな自分の“理想像”が出来た。多分その“理想像”と、今の彼女の周りの状況や彼女自身の技術とに落差がありすぎるのだろう。今はまるでこの大地から望遠鏡も何も使わずに、肉眼で星空に浮かぶひとつひとつを詳細に調べようとしてるようなものである。この表現でちゃんと読者さんに伝わってるかはかなり怪しいけど。


 (だからと言ってそれが悪いとも言い切れないところが困るね。新しい目標が出来たってことは逆に言えば、彼女に自信が芽生えてきてることを意味するし。誰かを助けたり自分を強くするために、他の誰かを傷つけることって凄い矛盾してる話だし…………)


 ボクはうーんと腕組みをしながら考え込んだ。………で、たどり着いた答えがこちら。


 「わからないままでも良いじゃん」
 「え?」


 チカがキョトンとしている。あーあ、また勢い任せでこんなこと言っていいんだろうか。しかも笑顔で。まぁ、苦笑いな感じだけど。演技が下手くそだなぁ。こんなんでよく物語の主人公やってるよ。人間だった頃からこんな感じだったのか、ボクは。ため息しか出ないよ。


 「よくわかんないけどさ、全ての物事に答えとか理由とか根拠ばっかりなんて疲れちゃうよ。そんなこといちいち考えたら何も出来なくなっちゃうよ。確かに根拠が分かっていたら凄く安心するし、自信にもなるけどさ………。そういうのって自分や周りが絶体絶命な状況を脱出しなきゃ行けないときでも探せば良いじゃん」
 「そうかな…………」


 あーあ、言っちゃったよ。大体自分だってヒトカゲになった理由が知りたくてしょうがないくせに。チカだって困ってるじゃんか。たまにボクって周りのこと考えないよなぁ。言って後悔。やっぱり人間だった頃からこんな感じだったのかな。


 「ユウキってさ、やっぱり変。やっぱり私の気持ち考えてくれない。普通だったらこういうときって黙って相手の話聞くものだよ?こんな曖昧な話、どうせちゃんと解決法なんて見つからないんだから。なのにカッコつけてアドバイスなんかしちゃって」
 「しょうがないじゃないか」
 「え?」
 「そっちが泣いてるの見てたら…………助けたくなるだろ、普通。そっちこそボクの気持ち分かってないじゃん!もしかしてまた…………ボクのこと試してるのかよ!!?」
 「違うよ!!そんなことない!」


 いつの間にかまたボクはチカに怒号を浴びせていた。なんでだ。こんなつもりじゃなかったハズなのに…………。


 「とにかく面倒なんだよ、キミのその性格!」
 「何よそれ…………ヒドイ!」
 「黙れ!ボクだって疲れてるんだよ!弱音言いたいんだよ!うんざりなんだよ!お前だけじゃないんだよ、苦しいのは!この…………」


 …………止めろ。それ以上何も言うな。その先を言ってしまったら…………取り返しがつかなくなるぞ…………!!


 「この……………!」


 待て!!止めろ!………止めてくれ!!


 


  ……………この、足手まとい!!役立たずが!!!





 「………………え?」



 ボクとチカの時間は止まった。彼女を睨み付けながらゼェゼェと息を荒げるボク。震える指を差されて一瞬何が起きたのか理解できず、呆然と立ち尽くすチカ。恐ろしく冷たく殺伐とした空気にボクたちは包まれていた。


 「………………そう。わかった。ゴメンね………」


 チカはそうやって言うと、再びボクの後ろについた。ボクは彼女がいなくなるのを覚悟していたので、正直その行動には驚きを隠せなかった。もしかしてここまで酷いことを言われてもまだボクを支えようとしているんだろうか。


 ……………違う。そうではないの。私にはもう他に何一つ残されてないから。救助隊になってしまったことを理由にエーフィさんから追い出されてるし、だからといって元々暮らしていた町は大火事で消えてしまってる。友達も恋人も家族も………私には何一つ残されてないの。帰る場所も行く場所も無い。どうしたら良いのかわからないの。だからユウキのそばにいる。ここでディグダを助けられたら、後は自分一人で何とかする。だからせめて……………


 (…………せめて今だけは、あなたのそばにいさせて。こんな“役立たず”で………ユウキの力になれなかった私だけど………)


 私は声こそ出しませんでしたが、涙がまた一筋頬を伝いました。そしてエーフィさんのあの言葉がよみがえってきたのです…………。



 ………………いずれ後悔する日が来るわ。







 そのあと再びチカと会話することは無くなった。ヤジロンとのバトルをきっかけに一度は蘇えりかかったボクと彼女の“絆”。しかし、完全に戻ることはもう無い。やっぱり種族も生まれ育った道も違う二人が、力を合わせるのには無理があったのかもしれない。まぁ、所詮ボクたちなんかこの程度。この程度しか力が無いのだ。これが現実。夢とか希望なんて抱く方が間違いだと思う。まぁちょっとだけ………ちょっとだけ期待したけど。


 (チカだってボクのこと考えなくて良くなるから、きっとラクになれるだろ。それこそ自分の気の合うポケモンと一緒に。なんだったらボクがあの基地も出て、別の場所に移住すればいいし)


 ボクは不貞腐れるように地面を蹴った。こんなはずじゃなかったのに…………と。


 だが、こんな状況になってもチカは一緒に歩いてくれた。彼女は今どんな気持ちなんだろう。一番信じていたボクに“役立たず”と罵られも、なおまだ一緒に行動するなんて………正直その心情を理解することができなかった。ここまできたら単なるお人好しだと思う。


 (鬱陶しいな…………!!ついてくんなよ!)


 彼女なりの優しさなんだろうけど、今はその優しさに鬱陶しさしか感じない。イライラを増長させるだけ。やっぱり彼女は何一つわかってない。……………と、そのときだ。轟音と共に地面が大きく揺れたのは。


  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
 「じ、地震!?」
 「キャーーーッ!!」
 「くっ!!」


 チカが悲鳴をあげる。ボクも上手く身動きができない。天井からミシミシという音が聞こえ、辺りに砂ぼこりが舞う。もはや揺れが収まるのを待つしかなかった。


 ………………やがて揺れは収まった。どこかが崩落したようなことは起きず、とりあえず何事もなく過ぎたことにボクは安心した。…………しかし、チカの姿が見えない。途端に不安が心を支配した。


 「そういえば、チカは?チカ!チカー!!」


 ボクはチカの名を叫ぶ。いくら彼女に鬱陶しさを感じても身に危険はあって欲しくなかった。まだもうもうとする砂ぼこりを振り払いながら、ボクは必死に何度も叫んだ。すると、


 「ユウキ!!私は平気だよ!」


 チカが慌てた様子で姿を現した。砂ぼこりを被ったためか黄色い体は薄汚れていたが、目立った傷は無さそうだった。ひとまずは安心である。


 (やっぱりボクにはチカがいないとダメなのかな………。あんなにムカつく事があっても、結局彼女のこと気にしてるし。鬱陶しいはずなのにそばからいなくと凄く不安になっちゃうし………。なんだかよくわかんないや!!)


 ボクはチカが無事で嬉しいはずなのに、そんな表情を彼女には見せなかった。ますます心のモヤモヤが酷くなるだけだった。イライラ感も増していく。もうチカに構ってる余裕なんかない。素直になれないこんな自分が嫌になっていた………。


 (くそっ!!)



 「ユウキ…………酷いよ」


 そのとき私は彼に見捨てられたのだと思いました。でも仕方ないのです。なぜなら私はこれまで周りから言われてきたように、彼にとってもやっぱり“役立たず”だったのですから。


 いつもなら温かい炎のように庇ってくれたり、私の身に何かあれば心配してくれたユウキ。でも、今は優しい言葉ひとつさえ無かった。やっぱりこのままもう“メモリーズ”は終わってしまうんだと覚悟しました。


 (たった4日間で…………。もっと続けたかったな………)


 ユウキと過ごした記憶がよみがえってきます。みんな辛かったし苦しかったけど、だけど大切な記憶。特に昨日は依頼を成功させて基地に戻るまで、恐らく彼が一番私を必要としてくれていた時間。凄く弱っていてずっと甘えていて………恥ずかしかったけど嬉しかった。あの時間が忘れられない。“リーダー”を支える“パートナー”として、ようやくその役目が果たせたような気がしたから。


 (本当はもっとユウキを支えたかったのにな。約束だったから。ユウキがヒトカゲになった理由を探すって………。それさえも出来なくなっちゃうなんて…………それに、)


 価値観の合う新しいポケモンとコンビを組めば、多分今よりも楽しくなるかも知れません。言い合いも無いだろうし。でも、その新しいポケモンがユウキと同じように、


 (温かい励ましをしてくれるとは限らないよね。ユウキにはそれがあるから、一緒に救助隊やって欲しいんだ。あの温かい励ましは本当に自分の力になって、一人じゃないって思えたんだよ?わかってよ…………。お願い…………)


 私はちっとも振り返ってくれないユウキの背中を一生懸命ついて歩きました。けれど寂しくて辛い。温もりを感じられないのってこんなに辛いことなんだと………そのように感じました。別に恋愛的な意味では彼のことを好きじゃないはずなのに…………。


 それから5階へと続く階段を見つける途中、住民のポケモンとのバトルを何度か私とユウキは重ねました。バトルの間だけは不思議と私たちもあのギクシャクした感じはなく、むしろ協力的でした。…………いつの間にか私たちは、お互いに無意識のうちに自分のやるべき事を理解していたようです。


 …………それなのになんでバトルが終わると私はユウキと…………、




 …………ボクはチカとまたあんなもどかしい関係に戻っちゃうんだろう。


 「ユウキ。何となく感じたんだけど」
 「何?いきなりこんなところで」
 「もしかして…………だけどね、ユウキって仲間とか仲間とか作らないで生きてきたんじゃないのかなって」
 「人間時代のこと何もわからないし、そんなこと確かめられないよ」
 「そうなのかな?」
 「は?うるさいんだよ!」
 「キャッ!!何するの!?」


 彼女の無神経さが出てるような質問の数に、ボクはもう限界だった。仲間とか作らないで生きてきたなんて…………そんなことあってたまるもんか。冗談じゃない。……………気付いたらボクは彼女に向かって“ひのこ”を放っていた。当然のことながらチカは驚いてしまう。まさか仲間に攻撃されるなんて、夢にも思わなかっただろうから。


 「うるさいんだよ!!わかったフリして話しかけてくんじゃねぇよ!!お前なんか黙ってついてくればそれで良いんだ!!」
 「ユウキ…………!!ねぇ、どうして!!?どうしてこんなことするの!?女の子に手を出すなんてサイテーだよ!!」
 「結局それが言いたかったんだろ?普段はこっちのことお構い無しにベタベタしてくるくせに、困ったら自分が女の子だってアピールして!そんなのに振り回される男の気持ちなんか何も考えてないくせに!!」
 「男の子とか女の子とか、そんなこと今は関係無いじゃない!」
 「そっちが言い出したんだろ!?ほらまた自分の立場が危うくなったら逃げやがって!」


 ますますボクとチカの間に流れる空気は悪化していった。でもわかっているんだ。ボクが情けないだけなんだと。ボクが弱いだけなんだと。彼女はボクの頑張ってる姿に力をもらっているって聞いてしまったから、ずっとチカには弱い姿見せたく無くて、意地を張ってるだけなんだと。


 「うううう……………何さもう!ユウキのバカ!わからずや!!そっちこそ何も考えてないくせに!!!」
 「うわあ!!………この野郎!!よくもやりやがったな!!!」
 「キャッ!!!もうなんで!?」



 さすがにチカも我慢の限界を超えたのだろう。泣きながらボクに向かって“でんきショック”をぶつけてきたのだから。
 …………痛い。もの凄く痛かった。今までバトルしてきた他のポケモンのどの技よりも痛かった。それくらい技に彼女の気持ちが込められてるのだろう。だけど、これでますますボクは素直になれなくなった。ボクはあり得ないことに、もう一度彼女のことを“ひのこ”で攻撃してしまったのである。無論彼女だって電撃で抵抗をする。そんなことがしばらく続けば当然のことながら、体はボロボロになるばかり。やがてボクとチカは呼吸を荒くさせながらその場に座り込んだ。


 「はぁはぁ………」
 「うううう………」


 完全にボクたち二人の関係は崩壊していた。お互いにだらんと腕が垂れ下がってうつむいている。傷が痛む。とても救助活動どころではない。ここで他のポケモンたちに襲われたら終了だろう。なんで………なんでこんなことになるまで、ボクはチカに対して素直になろうとしないんだ。


 (戻りたい…………人間に。もうこんな生活、嫌だ。なんで………なんで自分は今この世界で生きているんだ………帰りたい。帰らせてくれ。元の世界に)


 力を失ったボクは、そのまま地面に落ちた。






 私はユウキに攻撃されるなんて思いもしませんでした。体がひどく痛みました。涙も止まりません。それでも私は彼の気持ちを理解しようと懸命になろうと思いました。このまま終わってしまいたくなかったから。………そうです。不思議なことに気持ちは「離れる」どころか、ますます「そばにいて支えたい」気持ちが強くなったのです。これだけ罵られて、酷いことをされているのに………。自分でも何が原動力なのかわかりませんでした。


 (そうだよ。だって…………だって私は………私はユウキを助けるって………そうやって決めたんだから…………)


 多分これが原動力だったのでしょう。私は道具箱の開けて“オレンのみ”を一つ取り出し、そして無心で噛りました。気持ちがぐしゃぐしゃになった影響で涙をボロボロ溢しながら。その瞬間体が温かく優しい光に包まれ、みるみるうちに傷が癒えていきます。


 (私は………私の役目は“パートナー”なんだ。“リーダー”が苦しんでるときに助けるのが私の役目。………助けなきゃ…………私がユウキのこと)


 私は立ち上がって、一歩ずつ一歩ずつ倒れ込むユウキの元へと近寄って、寄り添いました。まるで彼のお母さんになったような感じで。


 「ユウキ…………。やっぱり私には無理だよ。あなたを見捨てるなんて。不思議だよね。馬鹿だよね、私って。あんなに酷いことされてるのにほっとけないなんて…………」


 道具箱から“オレンのみ”を取り出し、今までのように電撃をぶつけて柔らかくする私。今の私が彼に与えられる精一杯の優しさを届けました。でもきっとユウキはそれには気づいてくれないでしょう。彼は今、気絶して地面に伏せているだけなので。


 「でもね。やっぱり私、ユウキと一緒に頑張ろうと思う。“役立たず”って思われてしまったけど。だってあなたと一緒の時間、凄く幸せな気持ちになれるから。辛いときは励ましてくれて独りぼっちじゃないんだって思うし………。だから、これからも一緒にいたいな。だってユウキは“友達”だから。この世界でたった一人の………“友達”」


 自らの手でユウキの口を開けて、“オレンのみ” を食べさせる私。次の瞬間、彼の体にも優しく温かい光が包み、傷もそうして癒えていきました。私はその様子を愛おしく見ていました。


 「…………チカ?」
 「ユウキ?気付いたの?」
 「うん。なんか体が軽いや。もしかしてチカがまた助けてくれたの?」
 「そうだよ。だって私の役割は“パートナー”だから。ユウキが困っていたり、苦しんでるときにサポートしなきゃいけないから………」
 「……………それはもう何度も聞いてるよ。本当にお節介だな。あんなに酷いこと言われたりしたのにさ」


 私は極力笑顔を作ってユウキの気持ちを解そうとしました。しかし、彼はまた面白くなさそうに私から目を反らしたのです。そうですよね。だって彼は私に弱い姿を見せたくなかっただろうし、それでなくても“リーダー”という役割に大きな責任を感じて行動しているのですから。何度も何度も私に助けられて、自分の無力さに嫌気を差しても不思議じゃないでしょう。そのくらいのことは私にも充分理解できました。


 ………でも私は、彼に自分の気持ちを理解して欲しかった。


 「ユウキ………お願い。一人になろうとしないで。私、寂しいんだよ?こんなバラバラな気持ちって。それにユウキ、約束してくれたでしょ?私と一緒に世界一の救助隊になる………って?」
 「そんなこと………もう忘れちゃえよ。どうせもう無理なんだから」
 「そんなこと言わないで………」


 私の言葉にめんどくさそうに答えるユウキ。でもここで引き下がる訳には行きませんでした。私はそのとき、今までのように弱々しく涙ながらに話すのはやめようと思いました。


 “優しさ”だけじゃ、彼はきっとこのままだと思ったから。



 「ユウキ。それじゃあ何で?………何で私と一緒に救助隊してくれたの?私はずっとユウキと一緒に頑張りたくて、あなたが“ヒトカゲ”になっちゃった理由を見つけて…………あなたを助けたいって………そんな風に言ってるよね!?あなたにどんな風に思われても!あなたは………?ユウキは………どうなの?何でユウキは…………私と一緒に救助隊してくれたのさ!!?」







 「それは……………。チッ、うるさいな!!元はと言えばチカが頼んできたからだろう!?」


 ボクはもう、何もかもが馬鹿馬鹿しく感じた。振り返って目にしたチカは、体をわなわなと小刻みに震わせてボクへ必死に訴えているのに…………。


 「それに………そんなこと、何も関係ないじゃないか………」
 「関係なくないよ!!それに………それだけが理由じゃないよね!?本当は別にも理由があるんでしょう!?よく思い出してよ!!」


 彼女は真剣な表情で訴え続けてきた。今までのように優しく温かく…………だけどちょっと鬱陶しいくらい弱々しく、ベタベタした感じのチカはどこにもいない。何となくだけど、まるで自分の子供を叱るような………強い母親みたいな姿の彼女がそこにいた。ほら、「男の子なんでしょ?強くならなきゃダメでしょ!?」的な感じの。


 「ねぇ!ユウキ!!何とか言ってよ!?」
 「あるよ…………あるに決まってるよ」
 「………え?」
 「あるよ!ボクだってあるよ!別の理由だって!でも言わない!!!言えるわけないだろ!?」
 「何それ…………呆れた」


 自分でも何が何だかわからなくなってきた。チカもボクのすっとんきょうな答えにすっかり萎えてる感じだ。


 「もうわかったよ!とにかくボクはキミと一緒に救助隊を続ければ良いんだろ!?」
 「ユウキ!」
 「負けたよ。本当にチカは優しすぎるんだから…………」
 「ありがとう♪」
 「いや、お礼言われる場面でも立場じゃないし………」


 ボクはやれやれと言った感じでようやく立ち上がる。相変わらず無神経なところがあるよなぁと。チカはボクを「友達だから」「ユウキとの約束だから」って理由で、自分がどんなに酷い目にあっても離れようとしない。今なんかそれまでの険悪ムードが、どこかに飛んでいってしまったかのような満面の笑みである。そんな彼女の笑顔を見てると、なんだかこっちの方が恥ずかしくなってきた。


 (…………言えるわけないだろ。キミにずっと笑顔でいてほしいから……………だなんて。キミの笑顔がボクの癒しなんだなんて。でもさ、一緒に救助隊やってるだけでキミが幸せでいられて、笑顔になるんだったら…………ボクは続けるよ。ゴメン。素直に言えないけどさ)


 ボクは敢えてチカと視線を合わせなかった。なんか恥ずかしかったから。もしかしたらちょっとだけ顔が赤くなってたかもしれない。


 「ユウキ!!もう、ちょっと待ってよ!」


 チカはボクの後をついてきた。苦笑いで困った口調だったけど、なんとなく足取りが軽いように感じたのは気のせいだろうか。





 (良かったぁ~。これでユウキと離ればなれにならなくて良いんだ!)


 彼の言葉を聞いた瞬間、私の中にあった不安な気持ちは一気に吹き飛びました。ユウキにされたことだってどうでも良くなったし。それくらい彼が救助隊を続けてくれることが嬉しくて嬉しくてたまらなかったのです。彼は私と視線を合わせてはくれませんでしたが。でも、その不器用でちょっと慌てん坊なところに、私は普段見せてくれる表情とのギャップを感じて可愛く思ってしまったのでした。………あれ?もしかして私………ユウキにキュンってしてる?


 ……………と、そのときでした。彼が私に話しかけてきたのは。



 「………どうしたの?顔赤くして。無茶してるんじゃないの?大丈夫?」
 「だ、大丈夫………」
 「なら良いけどさ。ほら、だいぶ遅れもとってるし…………急がないと」
 「うん、そうだね」
 「歩ける?無理しないでね。“いっしょにいこう”か…………」
 「………………!!/////////」


 私はビックリして頭の中が一瞬真っ白になってしまいました。顔から火が出そうとはこの事を言うのでしょう。無理もありません。彼は私の手を………つないでくれたのですから。それもしばらく見せてくれなかった温かく優しい笑顔で。ますます自分の胸の鼓動が高まり、そして頭から湯気が出てきそうなくらいグーンと体温が高まっているような、そんな感覚を私は感じていました。


 「ハハハ。やっぱり一緒に頑張る方が良いかもね。キミの言う通り。不安にならなくても済むしさ。それに……………前にどこかでキミが言っていたように…………ボクたち“友達”だしね?」


 ユウキは少し恥ずかしそうに苦笑いしながら、このように私に言いました。その言葉に私は大きく頷いたのです。嬉しい事を伝えるため、満面の笑みで。


 でも、この気持ちはちゃんと伝えようと思いました。


 「ユウキ。私の気持ちを理解してくれてありがとう。でも、無茶だけはしないでね?役目が“リーダー”だから引っ張らなきゃとか、責任持って頑張らなきゃって気持ちは分かるけれど………何かあったら遠慮なく相談したり…………あ…………甘えたって良いからね………?」




 ボクは頭がフリーズした。自分の気持ちを一生懸命に、だけど恥ずかしそうにしているチカが口にした「甘えていい」って言葉が原因だった。彼女はボクを現状唯一の“友達”だからとか、自分の役目が“パートナー”だからとかって…………多分そんな単純な理由なんだろうけど、ボクは男である。女の子にそんなことを言われたら“友達”だからとか、“パートナー”だからとかそんな簡単な理由では済まされない。意識してしまう。急になんと言うか………本当に種族なんか関係なく、普通に……………恋愛的な意味でボクはチカ好きになってしまいそうだった。………やめてくれよな、マジで。一体何を考えてるんだよ………。





 最後に彼女はこのように言った。ボクが一番好きで癒しとなっている、可愛い笑顔で。


 「私はユウキの不安そうな心を助ける………ユウキを助ける………そんな救助隊になるからね?」


 急に顔をすりすりして、ボクにギュッと寄り添ってきた。


 その瞬間、ボクは別の意味で気絶した。



         ……………メモリー29へ続く。

 






 


 


 



 


 



 




 





 




 










 









 

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