第十九話 鉢合わせの争乱

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「ええっと、ここだったよね? 」
 マリー、一人で残ってるけど、大丈夫かな……? マリーも生物兵器だけど、向こうは二人だよ? マリーの本気、まだ一回も見た事無いけど……。
 「……何か凄く沢山有るけど、どれなんだろう? 」
 フロルは確か……、“AC612”で、リツァさんが“AB588”だったよね? だけどこれだけ多いと、俺一人で見つけられるかな……? けどファルツェアさんからの特別任務だし、動けるのは俺しかいないから、なんとしてでも見つけないと!

 ……ドロップ、待ってて。俺たちが、フロルを助けてみせるから!






――




 「――だからもう、僕は迷わない。リツァ、絶対に……」
 『……ええ! 』
 研究員のエネコロロ、シャサの部屋で、僕は決心、する。僕の知ってるシャサが本当のシャサ、じゃないって知ったのには驚いた、けどそれ以上に僕は、研究員達も助け、たい、って思った。……確かにシャサの事は嫌い、だけど、無理矢理やらされてたって思うと、何か凄く悲し、くなってくる。洗脳されて、るから今の研究員達は何も思ってない、だろうけど、やっぱり……。
 「シャサも研究員も、救おう、僕達、で」
 それでシャサの荷物を持って、僕達は彼女の、部屋を出る。部屋に入って出たばかりだ、から、どっちから来たのか分から、なくなってる。多分リツァが覚えてくれて、ると思うけど、もし僕だけだったら、迷ってたかもしれ、ない。三本生えてる尻尾のうち真ん中……、元々のリツァの尻尾で扉を閉め、て、シャサの部屋を後にする。僕はリツァに言われて初めて気づいた、けど、真ん中の尻尾だけ、少し長い。移植してる僕の尻尾、それから誰のか分からない左の尻尾、も、一回切断されてるのを縫い付け、てるから、その分短くなってるのかも、しれない。よく見ると、付け根に縫い目も残って、るからね。
 『そうと決まったら、急ぎましょ』
 「うん。団長さん達もいる、けど、リツァと同じ“AB”型が来たら、流石に勝てなくなる、からね。そうなったら、倒せるのはマリーと僕達しか、いない」
 部屋を出てすぐ左に曲がり、僕達は、前足と後足、両方に力を、込めて、一気に駆け出す。確かに団長さん達も強い、けど、生身だとそれも限界が、ある。“狂化”して自我が無くなってるから当たり前、だけど、“狂化”した生物兵器は痛み、を感じない。それにバテたりもしないから、全く消耗しない、って言っても良いかもしれない。四十五パーセントで“狂化”が止まってるリツァは、どっちも中途半端、な状態。それはそれで、ちゃんと自我も残ってるし、尻尾の攻撃も凄く、強化されてる。……だけどその代わりに、何故か僕はその間は表に、出られなくなるんだよね……。
 『そうよね。マリー大丈夫かしら……? 』
 「うーん……。マリー、凄く優しい、から、僕が生きてる時、も自分では戦わ、なかった。だからちょっと心配、だ――」
 全速力で走ってる、から、僕達はすぐに角を曲がる。確かもう一回曲がったところに階段があった、筈だから、このまま階段で転ばなかったら、すぐに地下に行ける、と思う。……今リツァの部屋の前を通り過ぎたから、階段まであと少し……。マリーの事が凄く心配だけど、僕達は駆ける脚を更に――
 「はぁ、よりによってたたき起――っ? 」
 「うわっ! 」
 脚に力を込めて加速しようとしたけど、急に部屋から出てきた誰かと鉢合わせになってしまう。一番階段から近い部屋だったけど、あまりに急すぎ、たから、僕達は勢い余ってそのひ――研究員とぶつかってしまう。結果的に跳ね飛ばす事になった、けど、僕は黄色い種族の彼――
 「痛っ……、だっ、大丈夫で――」
 「うぅっ……なっ? 」
 その人に驚いて、しまう。何故なら僕に跳ね飛ばされて壁に叩き、つけられた彼は――
 『ひっ、ヒプニオ? 』
 「リツ? 二課で処理されたはずだが、何故ここに? 」
 シャサの写真に写ってた、管理職のスリーパー。僕は生前一回も会った事ない、けど、リツァの記憶で見たか、ら、知ってる。確かリツァが“ルヴァン”で最初、に会ったのがこのスリーパーで、彼の案内、でシャサを紹介されて、たような気がする。その彼も凄く驚いてる、けど、彼は多分、リツァがいる事が信じられないのかもしれない。それに裏にいるリツァ自身も、まさかの事に声を、荒らげてる。……よく考えたら、リツァはここで完全に“狂化”されて、自我も奪われてる事に、なってるからね。
 「リツ……そっ、そっか。そう呼ばれ、て――」
 「いや……、まっ、まさか……! いや、だがそんな筈は」
 僕はついうっかりしてたけど、リツァのここでの、呼び名はリツ。シャサは今もリツって呼ん、でるけど……。で、スリーパーは目の前のエーフィがすぐに、誰なのか気づいたらしく、またビックリして声を、上げてしまっている。けど僕は喋った途端、彼、は信じられない、って言う感じで、驚愕してる。まだ疑ってるような感じ、はあるけど、どこかで聞いたみたいで、確信したように――
 「02は解体されたはずだよな? 」
 僕の本名を唱え上げる。
 「うん。確かに僕は“SE02”。何ヶ月か前に、解体さ、れた、“探査型自由進退化モデル”の実験機、だよ」
 だからって事で、リツァの体の僕は淡々、と話す事にする。その間も彼は凄く驚いて、るけど、それは仕方ない事、だと思う。
 「まさか本当に……」
 「うん、本当、だよ。それにこの体は、リツァ……、“AB588”のもの。だから僕は、SE02だけどSE02、じゃないし、AB588だけどAB588じゃない」
 『けどまさか、こんなに早くヒプニオを見つけられるなんて思わなかったわね』
 リツァが言ったとおり、僕もまさか最初に会うのが、このスリーパーなんて、思わなかった。だけどこれはある意味、チャンスかもしれない。居住区にいる、って事は、このスリーパーは何の生物兵器、も連れてない事に、なる。だからもしかすると、彼を洗脳から解放するのは、今以外に無い、のかもしれない。
 「ということは、やはり……」
 「うん。……ヒプニオ、って言った、よね? 僕達は脱走した生物兵器、なんだから、捕まえなくて、いいの? 」
 多分リツァも同じ事を思ってる、はずだから、僕は彼を煽ってみる。確か彼は研究所の管理職、だから、僕達――、スパイを改造して作った“戦闘乙型”を見逃す、筈が無い。だからこんな風に挑発、すれば、向こうも僕達を捕まえようと、動き始めるかも、しれない。
 「……そういう訳にはいかない、か。はぁ、タダでさえ侵入者騒ぎでたたき起こされ――」
 「その侵入者の一人、が、僕達、だからね」
 この感じだと僕達の挑発、に乗ってくれそうだから、僕はリツァの三本の尻尾を高く掲げる。気絶させれば洗脳を解ける、ってリツァが言ってた、から、普通の人相手でも、戦うつもり。重心を前に落として身構え、僕は戦闘態勢を取る。
 「それに僕達、だって、ヒプニオ、君を探してた。悪いけど、ここで倒れて、もらうよ! 」
 「っ! 」
 そして一気に跳び出し――
 「リツァ、いくよ! 」
 『ええ! 』
 三本の尻尾、全てを彼に振りかざした。それに合わせてリツァも答えてくれ、たから、彼女も戦う準備は出来てると思う。本当の事を言うと、“気刃”で一気に、攻めたい。……だけどそれは、相手が僕達と同じ、生物兵器だったら……。相手は普通のスリーパーだから、僕はリツァの真似を、して、腰の捻りを利かす。右から左に振り抜――
 「……甘いな」
 「え……」
 『うっ、嘘よね? 』
 振り抜いたけど、その尻尾――、誰のか分からない左のそれを、鷲づかみにされてしまう。まさか防がれるなんて思わなかったから、当然僕――とリツァも声を荒らげてしまう。それどころか……
 「これで“戦闘乙型”、聞いて呆れるな」
 「くぅっ……! 」
 宙づりにされて、お腹を思いっきり殴られてしまう。それも向こうは普通のスリーパーでリツァは生物兵器なのに、物凄く重くて痛い一撃……。おまけに内臓にダメージがいったらしく、僕は思わず、血を少し吐いてしまう。
 「っかはぁっ! 」
 『トゥワイス! 』
 もう一発お腹を殴られて、そのまま僕は壁に、吹っ飛ばされてしまう。背中を長打してむせて、しまい、一瞬目の前が真っ暗になりそうになる。だけど僕は何とか耐えて……、目眩がしながらも、何とか立ち上がる。
 「何で……、普通のス――」
 「……! 」
 「何っ? 」
 だけど生物兵器の僕達が力負けするなんてあり得ない、から、僕は本当に訳が分からなくなってしまう。だからその考え込んで、しまって、走ってきた相手に気づくのが遅れてしまう。このままだとまた殴られてるところだった、けど、ギリギリのところで僕は裏のに引き戻、される。リツァが表に出て、スリーパーが殴りかかってきたところで、彼を浮かせてくれる。確かテレキネシス、っていう技だったと思う、けど、敵を浮かせた常態のまま、リツはその場で軽く跳び上がり
 「私の油断したけど、ここからはそうはいかないわ! 」
 三本の尻尾、全部を硬くする。その状態で真横に回転、して、ヒプニオの画面を思いっきり叩く。
 「ぐぅっ……! 」
 すると今度はちゃんと命中して、ヒプニオは派手に吹っ飛ばされる。部屋の扉に叩きつけられて、その衝撃で扉が鈍い音をあげて壊れてしまっていた。
 『リツァ、ごめん』
 叩きつけられた衝撃で目眩がしてるみたいだから、僕はその、間に、リツァに謝る。僕が裏になったから頭は下げ、られないけど、僕が考え込んでなかったら、僕達は血を吐く事は、無かった。
 「気にしないで。もし私なら、同じ風になってたと思うから」
 ……だけど僕の心配は無駄、だったのか、彼女はヒプニオをまっすぐ見ながら、こう返事してくれた。戦闘中だから、なのかもしれないけど……。
 『ありがと』
 「……ぅっ」
 『ん? 』
 それでヒプニオは立ち上がったけど、僕はふと、ある事が、気になってしまう。多分見間違い、だと思うけど、ヒプニオの後に、透明な影みたいな何かが……、見えたような気がする。だけどリツァがまばたきした後、には、その透明な影は無くなってた。だから体を強く打って、僕がちょっとだけおかしくなって、るのかもしれないね。
 「トゥワイス、どうかした? 」
 『ううん、何でも、無いよ』
 「……流石に……だがこれなら……どうだ? 」
 『りっ、リツァ、来るよ! 』
 この様子だと多分、リツァはあの影に気づいて、ないんだと思う。僕が裏で小さく声を、上げたから、その事を僕に訊いてきた。一瞬言った方が良いかな、って思った、けど、ふらつきながらも近づいてきた、から、話す時間は無いのかもしれない。右手に持ってる振り子? を前に出して、左右に振ってきた、から、僕は尻尾を真上と右、左に広げて構えてるリツァに、注意を促した。
 「ええ。トゥワイスも教えてもらったアレ、準備しておいて」
 『うん』
 するとリツァも何か、考えがあるみたいで、こんな風に頼んできた。
 「ふっ……、“AB588”これで……お前も……」
 「これでハッキリしたわ。ヒプニオ、研究員を洗脳……、いえ、技の催眠術にかけていたのは、あなただったのね」
 リツァが頼んできたのは、多分、フィナルさんが教えてくれた技のことだと思う。“ラクシア”の街にいる時、僕は戦い方と一緒に技? も教えてもらった。その技っていうのはよく分かってない、けど、多分普通のひとにとっての“機能”なのかもしれない。リツァが物を浮かせたり、尻尾を硬く出来るのは、その技の効果、とも言ってた。……まさか生物兵器の僕が使えるなんて、思わなかったけど――。
 「ふっ、バレては……仕方ない……。が、何故……、何故効かない? 」
 「私も分からないわ。それにあなたもあなたね。トゥワイス……、02の“催眠”を使ったのに、眠らないなんて初めてよ」
 “気刃”と違って攻撃に使える、技じゃ無いけど、“探査型”の僕らしい能力、だと思う。だからって事で僕は、リツァ達が視線を合わせあって話してる間に、教えてもらったとおりに属性? を高めてみる。
 「さぁ……な……。俺もキミが……初めてだ」
 「ならお互い様ね。……けど、これならどうかしら? 」
 すると僕は、急に引っ張られるような感覚に襲われる。流石にもう慣れた、けど、僕はリツァが発動させたから表に引きずり出される。準備出来てたからビックリしなかった、けど、表に出た僕は、リツァの目でしっかりとヒプニオを狙う。彼は握りこぶしを作って走っ、てきたけど、僕は気にせずに、ノーマルタイプ、っていう属性を三本の尻尾に集める。それを“気刃”と同じように放つと――
 「っぁ! 目がぁ……っ! 」
 目を隠したくなるような、強い光が放たれる。僕ははじける前に目を瞑ったから大丈夫だ、けど、悲鳴が聞こえたから、スリーパーは直接見ちゃったんだと、思う。確かこれは、フラッシュ、っていう技みたい。こういう“機能”は誰も使えなかったけど、強い光で敵の目を眩ませれるらしい。
 『トゥワイス、今よ! 』
 「うん! 」
 だから僕は目を瞑ったまま、ヒプニオがいるはずの場所に、向けて走り出す。大体の距離は覚えてるし、何秒かすると光が、消えるから、十歩ぐらい走ってから、目を開ける。すると丁度目の前で、スリーパーが目を押さえて蹲ってたから、この隙に僕はヒプニオの真後ろに回り込む。軽く跳び上がりながら――
 「リツァ! 」
 「ええ! 」
 リツァと体の主導権を、入れ替える。この間にリツァは尻尾を硬くする技、アイアンテールの準備をしてくれてる。それで入れ替わってすぐに硬くして――
 「これで決める! 」
 三本の尻尾を真ん中に寄せて、思いっきり頭の後ろを、叩く。
 「っ? 」
 すると目が眩んでいる、ヒプニオはかわす事が出来ず、まともに食らってしまう。バンッ、って派手な音を上げて壁に飛ばされた彼は、流石に耐えられず気を失ってしまっていた。
 『リツァ、これで倒せた、のかな? 』
 「そのよう――ね」
 これで多分気絶させられたと思うけど、僕……というよりリツァは、ふと不思議そうに首を、傾げる。僕の彼女が目を向けてる、から、同じ景色を見てるけど、ヒプニオの体に、ナニカが纏わり付いてるような気がする。それもさっき、一瞬見えた、透明な影みたいなもの、そのもの……。それも今はハッキリ、見えていて、ソレは取り憑いていたヒプニオからふわりと浮き上がる。かと思うとそれは――
 『きっ、消えた? 』
 最初からそこにいなかったかの、ようにスッと見えなくなってしまう。
 「……今のは何だったのかしら? 」
 『うーん、何、なんだろう……? 』
 取り残された僕達、は、ただ首を傾げる事しか、出来なくなってしまった。




  続く

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