49話 ジュエルペンダント

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

お爺ちゃんイーブイの後をついていくと、間もなく少しボロっとした木造建築の小さな一軒家が見えてきた。
イーブイは鍵を開けて、ドアを横にスライドさせ、僕達を家のなかに案内した。
室内は完全に和室で床には畳、居間にはちゃぶ台と、どこか懐かしさを感じるような雰囲気に包まれていた。

「まあ、茶でも飲みながらゆっくり話そうじゃないか」
「あっ、私手伝うよー」
「それじゃ、コップでも運んでもらおうかの」

イーブイに言われて、台所からコップを5つ運んできたヒカリ。
コップはガラスではなく木製で小さなタワーを作るように重ねて運んできた。
コップをちゃぶ台の上に置くと、イーブイがそれぞれのコップに氷と麦茶を注いでいく。

「なんか、田舎の婆ちゃん家に来たみたいだな。 これで縁側に風鈴でもついていれば完璧だ 」
「そうだね。 ただ........」

ハルキが何か気にかけるように麦茶の入った容器を冷蔵庫にしまうイーブイに視線を向けた。
アイトはその態度を少し不信に思ったが、準備が終わって、みんながちゃぶ台を中心に座り始めたので、そこまで重要な問題ではないと判断し、席に着くことにした。

「あ、あの! このペンダントの秘密について教えてくださいです!」

少し緊張気味な声色でヒビキが問いかける。
イーブイは1口麦茶を飲むと、ゆっくり話し始めた。

「知っている。 と言っても、ワシの知るのは断片的な情報ばかりじゃ。 そのペンダントについては、古い文献を漁らんと情報が存在しなかったからのう」
「古い文献? ってことは、このペンダントはそんなに昔から存在していたのか? 見た目はほぼ新品同然だぞ」

アイトが言うように、ヒビキが首から下げているペンダントは白色が面積の大半を占めており、白色は汚れや傷が目立つ色のはずだが、大きな汚れどころか傷ひとつ見受けられなかった。

「そりゃあ当然じゃよ。 そのペンダントは魔法道具。 自然修復の魔法が込められておる」
「自然修復の魔法!?」
「し、知らなかったです...」

みんなの視線がヒビキのペンダントに集まる。
自然修復なんて、反則級レベル級に強力な魔法ということぐらい、この世界に来たばかりの僕でもわかる。

「それって、わたしでも使えるようになるです?」
「ホッホッホッ。 残念じゃが、遥か昔に術式から記録、何から何まで処分された魔法で、今じゃ使える者はいやせんよ」
「それは残念です...」

そう笑いながら話すイーブイの言葉にヒビキは少しガッカリした表情を浮かべた。
ヒカリに聞いた話だと過去に2度、大きな大戦が合ったと言っていたので、強力な魔法が昔は存在しても不思議ではない。
ただ、それだけ強力な魔法に関しての方法や記録を全て抹消する、か......。
手放すのが惜しいと考えるポケモンとかもいたと思うし、なんで処分したんだろう?

「まあ、この他にもいくつか存在事態が抹消された道具や魔法も存在する。 別に不思議な話ではない」
「てか爺さん、なんで抹消された道具や魔法の存在を知ってるんだ?」
「ホッホッホッ。 簡単な話じゃ。 過去の文献や遺跡を調査し、歴史を紐解いていけばおのずと存在には気づく。 調査団という歴史解明を生業にしておる組織もあるくらいじゃ。 まあ、そちらのポケモンの方がワシよりも、そこらへんの事情に関しては詳しいじゃろう」

そういえば、サラさんに調査団について少し教えてもらった時もそんな話を聞いたっけ。
確か、世界地図を作る事と過去の歴史を紐解く事を主の目的にしている組織だったはず。

「おっと、少し話がそれてしまったわい。 年寄りはこれだから困るのう。 ホッホッホッ」
「そうです! ペンダントについてです!」
「まあ、そう急かすでない。 いま話そう。 まず、そのペンダントは【ジュエルペンダント】と呼ばれているものじゃ」
「じゅえるペンダント?」

ヒビキの呟きにイーブイは無言で頷き、続きを話す。

「この世界のどこかにあるという、特殊な力を秘めた宝石を収納するための道具じゃ。 ペンダントの中身にはいくつか窪みがあるじゃろ? そこに宝石を填め込むんじゃ」
「なるほどな。 でも、こんな小さな窪みに入るほど小さな宝石なのか?」
「言うたじゃろ。 そのペンダントは魔法道具。 特殊な宝石を手頃の大きさにして、収納する事ぐらい造作もないわい」

これでペンダントに存在する謎の窪みに関しての謎については解決した。
だが、特殊な宝石をそのペンダント填め込むことに何の意味があるのだろうか。

「宝石を見つけて、ペンダントに填め込むと一体何が起きるんですか?」
「それはワシにもわからん。 古い文献に出てくるような道具じゃ、全容は簡単に理解できんよ」
「そうですか...。 何が起きるんですかね....」

イーブイは視線を上に向けながらコップの麦茶を一気に飲み干し、ヒビキもそれを真似るように麦茶を一口飲みながら天井を見上げた。

「..........でも、色んな文献を漁ったあなたなら、ある程度の予想はたっているのでは? 例えば、集めることで悪い事が起きる可能性があるとか」

ハルキが鋭い視線を向けながら問いかけると、麦茶を飲んでいたイーブイはその視線をものともせず、優しく笑って答えた。

「ホッホッホッ。 心配せんでもその可能性はないから安心せい。 ペンダントをつけているその子にとって必ずプラスになる」
「........その根拠は?」
「そうじゃのお~、強いてあげるならば『伝説のイーブイ』が所持していた道具。 と言ったら信じてくれるかのう?」
「あの『伝説のイーブイ』です!?」
「そうじゃ」

――『伝説のイーブイ』。
かつて、大戦の1つである『虹色の戦い』において、大活躍したイーブイの事だ。
前線で戦うときもあれば、後方支援や仲間の怪我を癒したりと、とにかくオールマイティーに何でもこなしていたらしい。
その功績を称えて、イーブイの里には祠が建てられるほどだ。
今回、話題の中心となっているペンダントを発見した場所こそ、『伝説のイーブイ』を称えるために建造された祠の中である。
『伝説のイーブイ』はヒビキにとって、憧れの存在であり、目標でもある。
それが関係しているのであれば、食いつくのは当然だろう。

「そもそも、その【ジュエルペンダント】を作ったのは『伝説のイーブイ』と言われておる」
「そんな道具をわたしが偶然手にしてしまったんですね。 何かおそれ多いです…」
「ホッホッホッ。 そう気負うでない。 ペンダントを見つけたのは偶然かもしれん。 じゃが、それを手にしようと決めたのは君じゃ。 誰かに指示をされたわけでもなく、君が自分の意志でした行為であって誇るべき行為じゃ。 もっと自信を持っていいんじゃよ。 それに、偶然は時に必然にもなると言うじゃろ?」
「偶然は、必然...」
「そうだぜヒビキ! お前は変わろうと決意して、あの日、祠に向かってペンダントを見つけたんだろ? ならきっと意味はあるって!」
「アイト君..! わかったです! 今すぐには無理ですが、この【ジュエルペンダント】の持ち主にふさわしいと誇れるように頑張るです!」

アイトの言葉にヒビキは両手(この場合は両前肢と言った方がいいのか)でガッツポーズをした。

「それでじゃ。 このシュテルン島には今ワシらがいる本島以外に5つの小島が存在する。 その中の3箇所にそのペンダントに入れるべき宝石があるのじゃ!」
「おいおい。 この世界のどこかにあるとか言っていた宝石が、こんな身近な場所に3つも存在していいのかよ!」
「運がいいねー!」
「いや、まあラッキーだけど...」
「ラッキー? ラディさんのことです?」
「いや、そのラッキーじゃなくて....」

ちなみに、ラディとはレベルグの救助隊で医療班に所属するラッキーの事である。
初対面ではアイスを食べ過ぎて、お腹を壊していたポケモンと言えばわかりやすいか。
そんなことはさておき、困り顔のアイトが僕に助けを求めるような視線を送ってきたので、話を戻すことにする。

「それで、その宝石がある小島ってどこですか?」
「ちょっと待っておれ。 ......ほれ、ここの印がついておる島じゃよ」

イーブイが地図を取り出し、ちゃぶ台の上に広げる。
シュテルン島の周囲には、本島を囲むかのように合計で5つの小島が存在する。
その小島は特段、何かがあるわけでもなく、せいぜい小さなビーチと小島が存在するレベルだが、本島であるシュテルン島が観光地として有名なため、周囲の小島も観光スポット扱いになっていて、定期的に島をめぐる遊覧船が出ている。
と、ここまでの情報は事前にカリムとサラから聞いていたが小島の名前は知らなかった。
イーブイの広げた地図を見るかぎり、島の名前はだいぶ適当につけられていて、
北の小島、東の小島、西の小島、南東の小島、南西の小島
と記されていた。
その小島の中からイーブイが示したのは北と南東、そして南西の小島である。

「1つの小島に約1時間停泊したあと、次の小島を目指す遊覧船が出ておる。それを使うと良いじゃろう。 じゃが、宝石を手に入れるためには、それ相応の試練を突破する必要がある」
「試練..です?」
「まあ、そう簡単に見つからない稀少な宝石なら何かしらの防衛システムがあってもおかしくはねぇな」

観光ポケモンが訪れられるように、定期的に遊覧船が出ている小島だ。
おいそれと盗られないように、何かしらの対策はしてあるのは当然だろう。

「わたしに突破できるでしょうか…」
「そう案ずるな。 試練の詳しい内容はワシも知らんがペンダントに選ばれた君なら、きっと突破できるじゃろう」

そう言いながら、ヒビキを励ますように背中をポンポンと叩いてあげるイーブイ。

「なんだか、とっても懐かしくて安心するです」
「ホッホッホッ。 こうして、歳をとると若者を励ますこともなれるもんじゃからな。 ほれ、そろそろ遊覧船が出港する時間が近づいておる。 行くのなら急いだ方がいいじゃろ」
「ありがとうです!」
「よし! それじゃあ、さっそく行ってみるか! 怪しいとか疑ってすまなかったな! 爺さん」
「ホッホッホッ。 怪しまれるのは慣れとるから気にしなさんな。 船着き場はここからまっすぐ西に進んだところにある」

麦茶を一気に飲みほしたアイトとヒビキは、立ち上がった。

「あっ、僕はちょっと聞きたいことがあるから、みんなら先に外で待っててよ」
「わかった。 早く来いよ!」
「うん」

アイト達はゾロゾロと外に出ていき、家の中はちゃぶ台を挟んで、ハルキとお爺ちゃんイーブイが向かい合って座っている状態になった。
ハルキは厳しい表情をしながら、深呼吸をひとつすると、視線を鋭くしながら目の前のイーブイに問いかける。

「あなたは、何者なんですか...?」
「はて? 質問の意味がよくわからんのじゃが 」

ハルキの問いかけに、首をかしげて、意味が理解できないと仕草でも示すイーブイ。

「とぼけないでください。 確かにあなたの言っていたことは、ほとんど嘘ではなかった。 でも、あなたは2つ嘘をついた」
「2つ....か。 ほぅ、面白いことを言う子じゃな。 どれ、その2つの嘘とやらが何か教えてもらおうかのう」
「まず1つ。 あなたはペンダントに宝石を填めることで何が起きるか知っていますよね?」
「なぜ、そう思うんじゃ?」
「視線です。 あなたは、あのヒビキの質問に答える時だけ右上に視線を向けながら話していました。 無意識に視線が右上にいく時は見たことの無い光景を想像している場合によく見られる心理動作の1つです」
「それだけでは、ワシが嘘をついているとは言えんじゃろ。 あの時は、ペンダントに選ばれたあの子も同じような動作をしとったし」

イーブイの言葉に、ハルキは首を横に振り、その言い分を静かに否定した。

「普通、何が起きるかわからない。 と言われたら、何が起こるのか予想を立てて想像します。 ヒビキの視線の動きは、それに該当するので不思議ではありません。 しかし、あなたの場合は、過去の文献についての内容を話している段階で、急に視線を右上にそらしました。 何かを思い出す場合ならば、左上に視線がいくはずですが、あなたは右上だった」
「ほぅ...」
「それに根拠は視線だけじゃない。 あなたはあの時、急に麦茶を一気に飲み干した。 まるで、コップで自分の口を隠すかのように。 口元を隠したり、気にするのも何か隠し事をしている時に見られる心理動作の1つです」
「....なるほど。 よく見ておる。 そして、君の持つ能力を抜きにしても納得のいくよう説明立てておるのも見事じゃ」
「..ッ!?」

まさか自分の能力まで知られていると思いもしなかったハルキは、思わず立ち上がった。

「まあ、そう身構えるな。 君と敵対する気はないからのう」

ハルキはその言葉に違和感を覚えない。
つまり、その言葉は嘘ではないということになる。
だが、この世界に来てから発現したこの能力。
どこまで信用できるかも未知数だ。
ハルキは警戒を解かずに、目の前の存在を見据える。

「ふむ...。 能力で嘘ではないとわかっても警戒は緩めぬか....」
「当たり前です。 あなたはもう1つ嘘をついている! ....それは、あなたが『イーブイ』ではないということです!」
「ほぅ! そこまで見えるか」

ハルキが核心をついた途端、目の前にいる『イーブイ』ではない存在の雰囲気がガラリと変わった。
姿はイーブイのままだが、和やかな雰囲気は消え、不敵な笑みを浮かべながらこちらを試すかような視線を向けてくる。
その雰囲気の変わりように、ハルキは鳥肌が立つのを感じたが、ここで怯むわけにはいかないと、震える声を無理やり動かす。

「【ジュエルペンダント】に関して、嘘はついていなかった。 けど、あなたは姿を偽っている。 そんなあなたを....ぼ、僕は信じきれない..!」
「...まるで、本当は信じたいような口振りじゃな」
「ッ!」



(「お前は、最後まで誰かを信じてやれる奴になれ」 )
(「疑うことは誰でも簡単にできる。 けど、誰かを思って、最後まで信じ通すことは難しいの」 )



ハルキの父の言葉、そして母の言葉。
幼い頃に言われたその言葉をずっと忘れずに、今日まで生きてきた。
完全に悪だと断定している相手ならともかく、そうでない相手をあっさりと信じられないと切り捨てたくはない。

「ハルキー、まだぁ?」
「ヒカリ!」

どう行動すべきかハルキが考えていると、外で待ちかねたのかヒカリが部屋に入ってきた。
ヒカリは部屋に入るなり、僕を見たあと『イーブイ』を見て、何となく事情を察したのか 「ふーん。 なるほどねー」と呟くと、僕に優しく話しかけてきた。

「ハルキ、大丈夫。 このポケモンは敵じゃないよ」
「でも...」
「私を信じて。 ....ね?」

ヒカリの青い瞳が優しくハルキに向けられる。
ただまっすぐ、こちらを見据える目。 ずっと信じてきたその瞳。
ハルキはため息をつくと、観念したかのように警戒を解いた。

「.....最後にこれだけ聞かせてください。 あなたは僕達の味方だと思っていいんですよね?」
「その認識で間違っとらんよ。 それに、ワシが敵にならん理由もあるしのう」
「その理由は....って、どうせ聞いても教えてくれないですよね。 わかりました。 これ以上の詮索は、今は止めて、あなたの言ったことを信じますよ。 あなたには、あなたの事情があるようですし」
「ホッホッホッ。 そう言ってもらえると助かるのう」

ハルキはそのまま部屋から出ていき、ヒカリもその後をついていこうとしたが、『イーブイ』に片腕を掴まれたので、ヒカリは振り向かずに足だけ止めた。

「・・・さま」
「その呼び方は止めてよ。 今は..ただのピカチュウ。 それに、ヒカリって名前もある」
「失礼しました。 ただ、どうか...どうかヒビキの事をよろしくお願いします..!」
「うん。 ヒビキは私にとっても大事な仲間だからね。 こっちこそ、君には辛い役ばかりまかせて、ごめんね」
「お気遣いなさらず。 それで、例の件ですが....まだ場所が場所なだけに確証は得られませんでしたが、・・・・・で間違いないかと..」
「......わかった。 他のみんなにも伝えといて。 ぼくもできるだけ準備は進めておくから」
「了解しました」

この2匹のやりとりは、小声で行われていたため、先に外に出ていた3匹に届くことはなかった。
色々と物語が動き始めてきた感じが出てきてるように作者は感じております(笑)

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