9話ー1 くそじじい

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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

カイトは何者なのか。分かるかもしれない…。

ナイロシティを一望できる標高低めの山の中腹に少々大きな平屋がぽつんとある。家の周りは緑に包まれてきれいな原っぱがあり、少し奥に行くと深い緑の木々が生い茂って探検できそうな森がある。カイトはそんな場所で産まれた。父はムクホークの“セン・ロッツォ”。母はルカリオの“フィン・ロッツォ”。父は軍で国を守る仕事をしているらしい。母は主婦だ。カイトと言う名前はセンが名付けたのだという。
母親(フィン・ロッツォ)は爽やかで優しいルカリオだったそうだ。
そして父親のセンは厳しかった。

1959年秋。
カイトが6歳のころ

「ただいまぁー!」
午後6:30。外は真っ暗である。カイトは汚れた体で家の扉を開けた。
「カイト!こんな時間まで何やってたんだ!」
「友達と遊んでた!!!!楽しかったよ!」
「ふ  ざ  け  ん  な  !!!!!こんな遅くまで遊びやがって!お母さんがすごい心配してたぞ!!何か言うことがあるだろ!!!!」
センはパシン!とキツくカイトの頬を叩いた。
「‥‥‥こ“め”ん“な”さ“い”…」
涙目で謝るカイトにセン深いため息をつく。
「はぁ‥‥‥6歳になるってのにアホみたいに遊びやがって。……それで?手洗いうがいはしたのか?」
涙目で謝ってから自分の部屋に逃げようとしたカイトを呼び止めた。

「後で洗う!!」

「い  ま  や  れ  !!!!!!!」
「後で洗うからいいじゃん!!!!」

「チッ。6歳で反抗期か。生意気になりやがって。反抗するくらいなら一生遊びに行くな!今日は飯もやらん!」
センは逃げるカイトをとっ捕まえてロープを体に巻き付ける。そして家にベランダに縛り上げた。
カイトは「うわあぁぁぁぁぁんおかあさぁぁぁぁん」と大泣きしながらロープで縛られ、吊り下げられたた体をどうにかして解こうと体を動きまくってもがこうとするが案の定、何も起こるはずがない。

「フン」
ベランダの窓とカーテンをぱっと閉めてリビングに入ってきたセンをルカリオであるフィンが腕組をしてじっと見つめる。

「ちょっとセン、やりすぎなんじゃない?」
優しい爽やかな声。まるでオルゴールのような優しい声だ。説得力がない。
「うるさい。親の言うこと聞かない罰だ。」
「それもそうだけど、いつ助けてあげるの?カイトもお腹空かせてるでしょう?」
「知るか、勝手にやってろ。………………おとなしくなったら助けてやれ。飯は食わすなよ。」
「はいはい。」

フィンはふんわり優しい声で言った。カイトが可哀そうであるがセンの言うことは間違いではない。夜遅くまで遊んで親が心配しないはずがない。センもカイトがいつ帰ってくるのか心配だったのだろう。


縛り上げられて約40分。カイトは静かになった(それまでギャーギャー大泣きしてた)。秋の夜は思った以上に寒い。吊るされておとなしくなったカイトは垂れてくる鼻水をすすって助けを待つしかない。そこにフィンがやってきて毛布を持ってロープをほどき、縛られたカイトを助ける。
「まったく…お父さんって最低よね。ごめんね。寒かったでしょ?さっ、早くお風呂に入ってきなさい。そしたら一緒にご飯食べましょ。暖かいスープもあるわよ。」
そう言ってフィンは寒がっているカイトを持ってきた毛布に包んでぎゅっと抱きしめる。
カイトが家に帰ってきたときからご飯は作られていた。センは既に食べていたが、フィンはカイトと一緒に夕ご飯を食べるために待っていてくれていたのである。
鼻水を垂らしながら毛布にくるまれたカイトはしゃべらずに縦に頷いて風呂に駆け込んでいった。
センは細かいことにうるさい。時間や規則、順番、姿勢、スプーンにフォーク、箸の持ち方まで、とにかくうるさい。カイトはそういう細かいことを言われるのが嫌いだった。だから反抗してしまう。お父さんなんか大嫌い。でも、お母さんは大好きだった。




センは軍で仕事をしているらしく、一、二年近く家に帰ってこないことがある。そして1・2カ月立った後にまた数年家にいなくなる。センは何をやっているのか。
「なんでお父さんは家に帰ってこれない日があるの?」
8歳になっても無知で馬鹿なカイトは休日の朝に新聞を読みながらコーヒーを口にするセンに質問する。センは細かいことにうるさくて嫌いだが、別にそれ以外で嫌いな要素はない。むしろ仲良くしゃべることの方が多い。でもカイトはセンのことが嫌いなのだ。

「そうだなぁ。父さんはね、悪い奴らと戦う仕事をしてるんだ。それを‘戦争’って言…」
「うえっ、なにこれまずい…」
「はっはっはっは。こらこら、話してる時にコーヒー飲むなよ。お前にはまだ早いな。……ゴホン。それで父さんは悪い悪党共をバンバンやっつけるヒーローなのさっ! 父さんは悪党どもをやっつけるためにいろんな場所に行かなくちゃいけないんだ! ヒーローは忙しいんだぞ!!」
センはエッヘン! と言わんばかりにバっと翼を広げて胸にあてて偉そうに言う。少々、自意識過剰なのかもしれない。
「ほんとにぃ?」
「当り前だろぉ? 父さんが嘘ついたことあるか?」
「へぇ~カッコイイね! 僕もヒーローになりたい!」
「そうかそうか! でもヒーローってのは大変なんだぞ~!」
「いいよ! 大変でもかっこいいもん!」
「へぇ~、ヒーローは勉強ができて賢い子しかなれないんだぞー。ねぇ勉強が嫌いなカイト君?」
「ヒェッ」
「ア~ッはッはッはッは冗談だよ冗談☆」
「お父さん嘘つかないって言ってたのに」
カイトが口を膨らませて拗ねた。センは「ごめんごめんって」とカイトの頭をなでて
「それはそうと3週間後にまたお仕事で遠くに行かなくちゃならないんだ。悪者が手ごわくていつ帰ってくるか分からない。お父さん頑張ってくるからな、カイト。俺がいない間、お母さんのいうことをちゃんと聞くんだぞ。」
「はーい!」





そして3週間後に
「それじゃぁ‥‥‥行ってくるよ」
「いってらっしゃぁーい!」
「気を付けてね。セン。」
にっこりと笑うセンは自分の体ほど大きなカバンをいくつも足で掴んで、口に咥えて大空を羽ばたいていく。翼を広げたお父さんの背中はとても大きかった。



事が始まったのは1962年2月14日。センが戦争に行ってから1年と3カ月たった頃である。カイトは誕生日を迎えて9歳になった。
センが帰ってきた。だが、様子がどうもおかしい。カイリューにバンギラス、フシギバナ大勢のガタイの大きいポケモンがカイトの家にやってきた。センは大きな担架に運ばれて家に帰ってきた。その担架は本だらけなセンの寝室に運ばれ、扉に鍵をかけて閉められた。
「お父さんどうしたの!?」
「‥‥‥待って。」
父さんが心配なカイトは様子がおかしいセンに近づこうとしたがフィンはカイトの両肩を優しくつかんで止めさせた。

心配するカイトにフィンは後ろからカイトをぎゅっと抱きしめて優しく声をかける。
「………。カイト。お願いがあるの。よく聞いてね。お父さんはね、悪い奴に攻撃を受けてケガしちゃったの。………だから、早く治すためにセンがいる部屋には入らないで。名前も呼んじゃだめよ。約束、守ってくれる?」

「‥‥‥‥‥‥うん‥‥‥?」
え?なんで?納得できない。なんでお父さんに会わせてくれないの? なんでお父さんと喋っちゃダメなの? なんで名前呼んじゃダメなの? せっかく家に帰ってきたのに………。‘これ’はいつまで続くの?
僕には分からなかった。



この状態が一週間続いた。
ガタッ!ダダダン!
「??」
お父さんの部屋から物音がする…?
夜。フィンが寝静まってからカイトは、本当はこっそりセンの様子を見に行こうと考えていた。センの部屋のドアの前に立ってドアノブを握ろうとして
「お父さ………」

(((カイト。お母さんの言うことはちゃんと守るんだぞ。)))
センが仕事に行く前に言った言葉を思い出した。

(((早く治すためにセンがいる部屋には入らないで。)))
約束はしっかりと守らなくちゃ。

カイトはドアノブから手を離した。







「カイトー!起きて―!センの怪我が治ったわよ♪」
さらに一週間がたった早朝。カイトの耳にビックニュースが流れた。
「ホント?!」
どうやらセンは無事だったらしい。眠たそうにしていたカイトは一瞬で目が覚めた。そしてセンの部屋へ猛ダッシュ!
それにしても2週間で完治できるものなのか…?
センの部屋に行くといつもと違う景色だった。
なんということでしょう。いつもは書類がそこら中に散らばっていて本は本棚にぎっしり詰まっている汚い部屋だったのだが、部屋には紙一つない。本棚にも本は一冊もない。まるで引っ越しする前のように家具がなくピッカピカではありませんか。劇的ビ〇ォーア〇ターのナレーションをしたくなるような変わり具合だった。

「よっ!カイト!遅くなっちまったな!ただいま!」
ベッドで点滴を打っているセンが手をいっぱいに広げて勢い余るほどの声で言った。
「それ言うの二週間も遅いよー!」
カイトはセンに抱き付いてぎゅっとする。
あはははははははははははははは
家族三匹で元気に笑った。





それから一週間がたった。
7時に晩御飯を三匹で食べているとき、
「わりぃ、また遠くに行かなくちゃならない。」
まだ怪我が治ってから一週間しかたっていないというのに。
「………そうなの。出発はいつ?」
「2週間後だ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
異様な雰囲気が家族を包む。
「ねぇ、なんでお父さんはいつもいつも遠くに行っちゃうの?約束してた学校の授業参観は?」
「これも仕事なんだ。すまん。」
しごと?ほんとうに仕事なの? 何で一緒にいてくれないの? 一緒にいてくれないせいで僕は学校でなんて言われているか知ってるの?

____________________________________
小学校で両親についての作文が宿題になった。学校の帰り道に
「俺のお父さんは工事現場のお偉いさんさんだぜ!」
「僕のお父さんは大工さんだよ!」
カイトの友達のヒトカゲの“ゴウ”とゼニガメの“ウォルズ”は自慢するように親を自慢する。
「そういえばだけどカイトのお父さんって何やってるの?」

「僕のお父さんはね、悪い敵をどんどんやっつけるヒーローをやってるんだって!」
カイトは父親が“悪い敵を倒すヒーロー”だということしか聞いていない。軍隊のポケモンだということをカイトは当時知らなかった。

「それって本当なの?」

「‥‥‥え?」
「だってヒーローなんてテレビでしか見たことないよ。」
「カイトのお父さんって本当にヒーローなの? 鉄腕アムロみたいな?」
ゼニガメのウォルは鋭い言葉を口にする。
確かにそうだ。僕はお父さんがどんなヒーローなのか、どんな仕事なのか、どんなことをしているのか知らないし見たことがない。でもお父さんは嘘なんかつかな……
「もしかして嘘ついてるのかもよ」
「…お‥‥‥お父さんは嘘なんか…。仕事が忙しいから家に何カ月も帰ってこない日があるくらいで‥‥‥」
「何カ月も帰ってこない時があるの? もしかして誰かと“フリン”してるんじゃない? テレビで見たけど、よくある兆候らしいよ。」
「‥‥‥フリンってなに?」
「そんなことも知らないのかよー。不倫ってのは簡単に言うと‘お母さんを‘裏切る’ってことなんだぜ」
ヒトカゲの一言にカッとなる。
「お父さんは嘘をつかないし誰も裏切らない!」
「じゃぁどんな職業なの?どこでどんなことしてるの?」
「っ‥‥‥し…知らない。」

「カイトのお父さんは
  嘘  
をついていると思うよ。」

「‥‥‥っ!!」
カイトは持っていたカバンを肩に担いで全力ダッシュで家まで休憩なしで走った。
逃げたかった。お父さんが僕に嘘ついているの?! 信じたくなかった。僕のお父さんが嘘つきだと言われるのが嫌だった。だから逃げた。

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「お前らに大事な話があるんだ。聞いてほしい。」
センは目を閉じてゆっくり目を開ける。目をキリッとして真剣な顔をする。
「お父さん」
カイトは大事な話に切り込みを入れる。
「ん? なんだい?」
思い切って言ってやる!!

「お父さんは本当にヒーローなの?」
「…当り前じゃないか。俺が嘘ついたことあ‥‥‥」
「本当に?………お父さんは僕に嘘ついてるんじゃないの?」

「………急にどうしたんだ、カイト。」
「僕を騙してるんじゃないの?! 本当はヒーローでも何でもないんでしょ?! 家にいない時にフリンとかしてるんじゃないの?!」
カイトは料理の並んだデーブルを力いっぱい叩く!

「カイト!!!!」
センが怒鳴るのも当たり前だ。
「じゃぁ教えてよ! お父さんは何してるの!!」
「私は嘘などつかない! 軍隊の隊長だぞ! 私は国を守るヒーローだ!!」

「じゃぁ何年も何カ月も家にいないときお父さんは何してるの?」

「‥‥‥‥‥‥!。」


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「そんなことも知らないのかよー。不倫ってのは簡単に言うと“お母さんを裏切る“ってことなんだぜ」
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「本当に不倫してるの?」

「‥‥‥‥‥‥!」

「“何をフリンしてるの?”」

「………………。」

センが返事をしない。答えが何なのか、馬鹿なカイトですら理解できた。

「クソジジイ! 嘘つき!!!!!!! お父さんなんか大嫌い!!!!!」
「だっ…誰がクソジジイだ!!! あぁそうかい! お前なんか家族でも何でもない! 出ていけ!! 二度と顔を見せるな!!」



それからカイトはセンが大嫌いになった。
カイトは一切口をきかなかった
その2週間後、センはまた大きな荷物を抱えて空を飛び去った。カイトは。




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