メモリー20:「止まらぬ爆発~でんじはのどうくつ#8~」の巻

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 ドォォォォン!!ガラガラガラ!!
 ドォォォォン!!ガラガラガラ!!


 “バーストボール・メンバー”との激闘が終わった直後、突如始まった爆発。轟音が響く度に地面が揺れて頭上ではミシミシと音を立て、そこから砂ぼこりが落ちてきました。


 「ビビビ!ナンナンダコノバクハツハ!?」
 「ビビビ!コノママダトドウクツガクズレテシマ!」
 「そんなことボクだってわかってるよ!」
 「とにかく地上に逃げなきゃ!」


 ユウキと私、それから私たちが救助した2匹のコイルもまだいびつなくっつき方をしながら、慌てて地上に繋がる階段を上りました。でも“でんじはのどうくつ”の最深部は地下6階のため、地上に脱出するためには同じ作業をあと5回する必要がありました。でもここは“不思議のダンジョン”。先ほどとフロアの造りも変化してるため、同じ場所に階段があるとは限りません。


 それだけでも悲観的になりそうだったのに、色んなポケモンとバトルしてきて、まともに傷を癒せてないユウキと私にとって、“脱出の為の階段を探す作業”というのは、かなり苦しい作業でした。


 そんな状況の中、私はある“異変”を感じていました。


 (おかしい。普通ならバッジを空に掲げれば、助けたポケモンと一緒にダンジョンから脱出できるはず………。なんで全然その効果が発動しないの…………?)


 先ほどの洞窟最深部で、コイルたちを見つけた直後に爆発が始まった訳ですが、そのとき私は脱出を図るためにバッジを掲げたのです。洞窟の天井に向かって高く。通常であれば、それで救助隊のメンバーと救助したポケモンはダンジョンから脱出できるはずでした。“メモリーズ”結成前から憧れだった救助隊のことを学んできたので、その事ももちろん私は知ってました。それなのにどうしても「脱出効果」は発動しませんでした。


 私は一人やや遅れながらも、バッジを天井に掲げました。バッジの持つ「脱出効果」をなんとか引き出すために。必死に。祈るような気持ちで何度も何度も。


 ……………ですが、その時でした。


 「チカ!!」
 「!?」


 少し離れたところから聞こえたユウキの怒鳴り声。私はそれにビクッとしました。私の行動に再び苛立っていたのでしょう。ましてこんな一刻を争う緊急時となれば、いくら私の行動がみんなのことを気遣っていたからだったとしても、彼が怒るのは無理もありませんでした。


 「もう…………そんなところで何してるのさ!!ちゃんとボクたちについてきてよ!」
 「カレノイウトオリダ、チカサン!………ビビビ!」
 「ミンナデダッシュツシナイトイミガナイゾ!…………ビビビ!」
 「う………うん、そうだよね………ゴメンね!」


 ユウキやコイルたちの呼びかけに頷き、急いで彼らの元へ私は向かうことにしました。ここは「脱出効果」に託すのを諦めて、とにかくみんなと早く地上に脱出すると考え方を変えて。


 (でも、本当ならこういう場面で力になりたかった………。こんな肝心な場面で何も出来ないなんて悔しいな)


 確かにバッジの不具合だから不可抗力かもしれない。けれども私は得てきた知識でみんなの力になれなかった自分に悔しさを感じていました。


 (ユウキに“リーダー”になってもらってしまった以上、変に足は引っ張れない。ユウキにとって、最高の“パートナー”になれるようにもっと頑張らなきゃ………)


 駆け足でユウキたちの元に向かうその途中、私は一粒涙を落としていたみたいでした。



  ドオォォォン!!ガラガラガラ!!
  ドオォォォン!!ガラガラガラ!!
 「ちくしょう!いつになったらこの爆発は収まってくれるんだ!?」
 「スナボコリナンカデマエガミズライ………ビビビ!」
 「コノママダトダッシュツスルマエニ、イキウメダ………ビビビ!」


 その後も容赦なく爆発は続きました。逃げ惑う私たちを嘲笑うかのように砂ぼこりが視界を奪い、時として頭上からは崩れた壁が岩雪崩として襲いかかる……………その度にユウキやコイルたちは苦しそうな表情を見せました。私は一歩離れて歩いていたのですが、その様子を見るのが嫌で仕方なく、彼らの苦しむ声がする度に視線を反らしては、「脱出効果」が発動しない小さなバッジを恨めしそうに見つめるばかりでした。爆発の原因がわからない今は、逃げることしかままならなかったのです。


 (こんなときにみんなの力になれないなんて…………)


 それでも私たちはなんとか地下4階部分まで到達。ここは私とユウキが言い合いをして離ればなれになった直後、大きな地震によって壁が崩れてしまったフロア。ただ、ここが不思議のダンジョンという特殊な場所ゆえに造りが変わったせいか、今は何事も無かったかのような雰囲気。それがかえって不気味な感じはしました。


 それにみんな身の危険を感じて避難してるのでしょうか。この爆発が起きてからは他のポケモンの気配は全くせず、辺りはシーンと静まり返るばかりでした。そこへ、


 ドオォォォン!!ガラガラガラ!
 ドオォォォン!!ガラガラガラ!
 「キャッ!」
 「コ、ココデモバクハツガ!ビビビ!」
 「ゲホッゲホッ!………なんてこったい!」


 爆発が再び起きたのです。私たちは急いで出口につながる階段を探し回りました。
 …………と、そのとき私はあることに気づきました。


 (これは…………ポケモンの気配!?しかも電気を帯びてるような。コイルたち以外に近くにでんきタイプのポケモンは見当たらないけど、もしかして他のポケモンがいるってことなの?)


 ハート型のしっぽが得たその僅かな感覚。今までバッジや脱出することに集中していたのでその事に全然気づきませんでしたが、確かにほんの僅かにポケモンの気配を感じたのです。


 (もしかしたら私たちを妨害してるポケモンがいるのかも。…………でも、そうはさせない!私の役目はユウキが困ってるとき、サポートことだから!…………えい!!)
 「わっ!チカ!?どうしたの?」


 突然のことにユウキは驚いていました。それもそのはず。バチバチと音を立てるくらい強めの“でんきショック”を私が放ったのですから。しかもその先にあったのはもうもうと砂ぼこりが立ち込め、様子がよくわからない壁付近。そこが私が僅かにポケモンの気配を感じた方向だったのです。


 バチバチバチバチバチバチ!!
 「イテッ!!」
 「ヤバい!居場所がバレちまった!」
 「お、お前ら!?」


 “でんきショック”を受けたポケモン…………ビリリダマが何匹か姿を現しました。そうです、爆発を引き起こしていたのは私たちが先ほどまでバトルをしていた“バーストボール・メンバー”だったのです。








 「しつこいぞ!お前ら!」


 チカが放った“でんきショック”が全てを明らかにした。コイルたちを救出してから突如起きた爆発。それは倒したと思った“バーストボール・メンバー”たちの仕業だったのだ。既にボロボロな体の様子を見ると、彼らは地震で崩れてできた隙間や壁の間に潜伏し、自分たちの身を犠牲にする代わりに大きなダメージを与える得意技、“じばく”や“だいばくはつ”を使っていたようだ。


 最深部で彼らを倒したあと、散々ボクを苦しめてきた謎の違和感はすっかりと消えていた
。その理由は自分でもよくわからないのだが、おかげで逃げてるときは、本来のヒトカゲとしてのスピードや力強さなどは復活していた。本音を言えば、このままコイルたちやチカを連れて逃げ回ることも出来た。………が、今までの爆発が彼らの仕業となれば、そうもいかない。


 「なんでそこまでボクたちの邪魔をするんだ!?」
 「決まってるだろ?お前らが俺たちの邪魔をしたからだ。このまま黙って帰れると思うなよ?」
 「そう言うことだ、あばよ。ククク………!」
 「やめろ!!自らを犠牲にしてそんなことするな!ここにだってたくさんのポケモンが住んでることぐらい、お前らだってわかるだろ!!」
 「知るかよ。各フロアに残ってる俺たちの仲間と一緒に、お前らも………この洞窟に住むポケモンたちも………みんなくたばれば良いんだよ!」


 激しく言い争ってる間に、ビリリダマたちの体が眩しく輝き始めた。その直後、いつもボクの背後で見守ってくれる“パートナー”、チカが慌てた様子で叫んだ。


 「危ない、ユウキ!早く離れて!!“じばく”に巻き込まれちゃうよ!」
 「え?」
 

 彼女はこの事態の重大さを理解していたのだろう。振り返ると、チカの絶望を覚えたかの表情が目に飛び込んできた。………しかし、それもほんの一瞬だった。


 ドガァァァァァン!!ドガァァァァァン!!ドガァァァァァン!!ドガァァァァァン!!
 「ぐわぁぁぁーー!!」
 「キャァァァ!!」
 『ウワァァァァ!!』


 次の瞬間、大爆発が起きた。爆風によってボクもチカもコイルたちも吹き飛ばされ、また天井や壁がガラガラと音を立てながら崩れ、岩雪崩となって襲いかかってきた。


 「ゴホッゴホッ………!ううう…………みんな………コイルたちは………大丈夫?………チカは!?」


 どうやらボクは大の字に倒れていたようである。怪我はしていないようである。砂ぼこりがまだ立ち込める中でみんなに呼び掛ける。


 「カノジョハココダ………ビビビ!!」
 「スグニキテクレ………ビビビ!!」


 聞こえてきたのはコイルたちの声だった。一体どうしたのかと思って駆け寄ってみると、そこにチカが傷だらけで倒れているのを目の当たりにした。呼吸も苦しそうである。ボクは彼女の体を揺すりながら必死で呼び掛けた。


 「チカ、どうしてこんなに!?大丈夫!?ねぇ、大丈夫!?」
 「チカサンハ、ユウキサンヲマモロウトシタノダ…………ビビビ」
 「何だって?」


 コイルたちの話はこうだった。爆発直後、とっさにチカは“でんこうせっか”によるすり抜け効果を利用して、ボクの前方に移動してきたのだと言う。…………ボクを爆風から守ろうとして。それだけで精一杯だった。次の瞬間、爆風によって崩れてきた壁や天井が小さな彼女の体に襲いかかってきたみたいである。


 「だから…………ボクは怪我をせずに済んだって訳か…………ちくしょう!!」


 コイルたちの話を聞き終わった直後、途端に自分に憎しみを覚えたボク。思わず握りこぶしを作り、そのままガツンと地面を叩かずにいられなかった。一体どれだけチカを傷つけてしまえば良いのかと。“リーダー”なのに、自分を信じてくれてる“パートナー”をずっと守れない自分が憎くて仕方なかった。


 ………しかし、今はそんな自分を責める時間さえもさほど無い。何度も“バーストボール・メンバー”によって爆発の影響で破壊されてきたことで、いつ洞窟そのものが崩壊するかもわからない危険な状態なのだから。一刻も早くここから脱出しないと全員の命が危ない。でも、いくら呼び掛けても一向にチカが気付くことは無い。


 「………しょうがない!チカの事を背負って脱出してやる!絶対みんなで脱出するんだ!」


 …………もう、こうするしかなかった。ボクは種族が違うとはいえ、女の子であるチカを背負う事にしたのである。多少躊躇いもあったけど、今は脱出することが先決なのだから。


 「ユウキサン。………ワレワレモ…………ビビビ!」
 「ゼッタイニダッシュツシナイトナ…………ビビビ!」


 これでなんとか準備は整った。あとはとにかく脱出するだけである。洞窟が崩壊するその前に………!


 幸いにも数々の爆発により壁が崩壊してしまったせいで、階段までの道が剥き出しの状態になっていた。ボクたちはその階段を駆け上がった。


 続く地下3階部分。ここでは特に大きな問題が起こることは無かった。ただ、壁や天井が所々崩れてしまって余計に道が複雑になってる印象があった。それでもなんとか次なる階段を見つけて上ることができた。



 ドォォォォォン!!ガラガラガラ!!
 ドォォォォォン!!ガラガラガラ!!
 「くっ………。またか………」


 次の地下2階部分。ここでは再び爆発が起きていた。地下4階部分にいたビリリダマたちが「各フロアに仲間が残っている」と話していたし、恐らくここにも彼らの仲間が潜んでるということなのだろう。


 (構うもんか。ここまで来て足を止める訳には行かないんだ、こっちだって!)
 「ビビビ、ユウキサン!?」
 「マッテクレー、ビビビ!」


 ボクはチカを背負ったこの状態のまま、全速力でフロア内を走った。しつこく続く爆風の影響で頭上から天井が崩れたり、壁が崩れたりして道が封じられてしまうときもあるし、砂ぼこりで視界を奪われたりもした。それでもボクはただ走り続けた。地上へと繋がる出口だけを目指して…………。それでも爆発が収まる様子は全く無かった。当然と言えば当然ではあったけども。


 『!!?』


 しばらくして一旦ボクたちは足止めされることになった。行き止まりになっていたからだ。だからといって爆発が続いてる後ろに戻る訳にもいかない。そこで崩れた壁を中心に、ボクは四方八方“ひのこ”を乱射。どこにビリリダマたちが潜んでるかはわからないが、ずっとここまでやられっぱなしの状況が続き、苛立ちは限界点を超えていた。


 「いい加減にしろ!!お前らあぁぁぁぁぁ!!」


 技を繰り出してる最中、ボクは思わず叫んだ。しかしこんな小さな火の粉じゃ正直なところ無意味だろう。でも一旦反撃することで、少しでも避難の妨害を防ぎ、願わくは壁も崩そうと思ったのである。


 「はぁ………はぁ………。ちくしょう!こんなところで………倒れてたまるか!ボクたちはみんなで一緒に………帰るんだ!このまま…………負けて………たまるかぁぁ!!」
 「ビビビ………ユウキサン!?」
 「ナンダアレハ…………ビビビ!?」


 再びボクは叫んだ。その直後の変貌っぷりに、コイルたちは驚く。体はボロボロだったけど、まだ熱い気持ちは途切れてなかったようである。むしろ、ますます強くなってくる。その証拠としてしっぽの炎は強くなっていた。


 (この感覚………昨日と同じだ。”ちいさなもり”でオニドリルやピジョンとバトルしたときと同じ…………。なんだろう、不思議だ………)


 これも“ヒトカゲ”が持つ本能なのだろうか。体がボロボロになるほど、崖っぷちになればなるほど気持ちが熱くなるというのは…………。自分にもよくわからなかったが、この逆境に屈する気がしなかった。


 (そうだ。この状態なら昨日みたく“ひのこ”もパワーアップしてるかもしれない!よし………!)


 ボクは直感任せで再び“ひのこ”を壁に向かって乱射する。予想通り、火力は強くなっているようだ。それらはもはや単なる火の粉というより、火の玉と呼ぶ方が相応しいかもしれない。先ほどは何の変化もなかった壁だったが、今回の“ひのこ”だと、ぶつかった衝撃や熱でボロボロと崩れる部分があった。…………もちろん、地震やビリリダマが起こしていた爆発なんかで、元々脆くなっていた部分に限ってだったが。


 ………それでも一歩前進できたことに変わりはない。そればかりかこのまま“ひのこ”を壁にぶつけて崩していけば、行き止まりになってるこの道も拓ける……………そんな予感さえもした。


 そうやって考えたボクは背負っていたチカをその場に一旦降ろす。まだまだバトルの経験が少ないボク。手負いのチカを背負いながらだと、今残ってる持てる力を全て出しきろうとするのはさすがに難しいと思うからだ。


 するとコイルたちも何かを感じてくれたのだろう。未だにいびつなくっつき方をしてるせいでバランスが上手く取れない状態にも関わらず、力を合わせて彼女を連れてボクの背後へと下がってくれた。


 (コイルたち………。よし、これでもう遠慮しなくていい!思いきってやるだけだ!)


 もう一度ボクはボロボロな体を崩れた壁に向け、大きく息を吸い込む。その勢いのまま、“ひのこ”を放ったのである!


  ボォッ!!ガラガラガラ!!
  ボォッ!!ガラガラガラ!!
  ボォッ!!ガラガラガラ!!
 (よし、そのまま行けっ!!行けーっ!!)


 ボクの思惑通り、火力が強まった“ひのこ”は壁を次々に崩した。その弾みで生じた砂ぼこりで視野がぼやっとしていたため、ハッキリと確認は出来なかったが、技を繰り出してる間に。特に悲鳴などが聞こえてこなかった。つまりこの先にビリリダマたちが潜んでる可能性は低い。あるいは様子が変化したのを感じて、先に別の場所へと逃げたのか。


  ガラガラガラ!ドォォォォォン!
 「やった!!道が拓けたぞ!」
 「ヤッターー!………ビビビ!」
 「ヨカッタ!…………ビビビ!」


 まぁ…………いずれにせよ、壁を崩せたことでボクたちはまた先に進めるようになった。その後砂ぼこりが収まると、階段を見つけることも出来た。ボクたちがそこを一目散に上ったのは言うまでもなかった。


 



 …………地下1階部分。ここまで来ると地上からの温かく明るい光が射し込んでいて、周りもより一層ハッキリと見えるようになってる。その光景に、何故だかボクは懐かしい気持ちを覚えた。


 (ようやくここまで来れた。………あと少しだ。本当にあと少し頑張れば地上だ。何とかこのままみんなと一緒に脱出しなきゃ)


 正直なところ、メモリーズとして…………正式な救助隊としての初仕事が、ここまで苦しいものになるとは誰が想像しただろう。気づけばボクもチカも、それから依頼主であるコイルたちの仲間たちまでもがボロボロになりながらも何とか持ちこたえてる………という状況である。果たしてここまで全員が傷ついてしまって、堂々と救助隊として仕事をやり遂げたと言えるだろうか。


 結論から言えばノーだった。例えこのダンジョンを抜けたとしても、“リーダー”になったボクの中には、しっかりと課題が残される事になるだろう。もっと“パートナー”のチカとの連携プレーなども含めて。少しばかり気は早いけれど、既に次の闘いは始まっているのだ。


 (でも全て終わった訳じゃない。まだどこかにビリリダマたちが潜んでるかもしれない、そもそもここを脱出しなきゃ話にならない)


 ボクはスゥーッと大きく息を吸い込み、もう一度気持ちを集中させる。コイルたちを連れ、そして未だ気絶したままのチカを背負いながら、また一歩ずつ歩む。出口を見つけるために。


 …………だが、その時だった。洞窟内だと言うのに、突然立っているのがやっとなくらいの猛烈な風が吹き荒れたのである。


  ブオオオオォォォォォ!!
 「なんなんだ!?」
 「コレハ………モシカスルト…………ビビビ!」
 「“ソニックブーム”カモシレナイ………ビビビ!」
 (“ソニックブーム”!?)


 ボクはこの発言を聞いたとき、すぐに誰かに攻撃されてることを察した。もちろんその攻撃を誰がしてるか理解するのにも全く時間はかからなかった。


 (ということは、またヤツらの仕業か…………くっ!)


 そう。ビリリダマたちである。洞窟内の最深部でも“ソニックブーム”でチカと共に襲われた………ということが、ボクをすぐにこの結論へと至らせた。もちろんそれは彼らがここでも潜んでることを意味してる。


 「どこにいるんだ!姿を見せろ!!」


 ボクは“ソニックブーム”が発射された場所を見る。そこは岩が崩れて小さいポケモンであれば容易に地下2階部分の時みたく、パワーアップした“ひのこ”を再び放った。もちろんチカを背負ったままの体勢で。このフロアで爆発が起きてないとはいえ、ここまでの爆発や地震による影響が出ているのか、洞窟に入った直後よりも、壁は既に脆くなっている印象があった。その為か先ほどからパワーアップしてる“ひのこ”がぶつかると、ガラガラと音を立てながら呆気なく壁は崩れていった。


 「隠れていても無駄だ!崩れた壁から“ひのこ”が伝わっていくハズだ!お前たちに逃げ道はどこにも存在しない!いい加減観念してボクたちの妨害を止めるんだ!」


 ボクは壁の中に隠れているだろう彼らに向かって警告を促した。事実“ひのこ”は崩れた壁からどんどん入り込んでいく。今はヒトカゲになってるおかげか、その熱さをあまり感じることは無い。だが、周囲の岩が“ひのこ”の熱によって段々と赤く変色していくのを見れば、壁の中の温度が相当なのは容易に想像できる。


 ………それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。“ひのこ”による熱気で岩が真っ赤に変色した以外、何の動きも無い。


 (…………おかしい。これだけ壁の中に熱を浴びせれば、並のポケモンだったら耐えるのは難しくなるはず。何も変化が無いってことは………もしかしてここには最初から誰もいなかったのか?…………だとしたら、ヤツらはどこにいるんだ?)


 ボクは一旦“ひのこ”を浴びせるのを中断した。もう一度周囲の様子を伺うが、シーンと静まり返ってるだけである。“ひのこ”を浴びせている間、襲撃されなかったことも踏まえても他の場所に潜んでる可能性は低いだろう。


 (………それに“ソニックブーム”が発射された場所は間違いなくこの崩れた壁の方だった。ヤツらは絶対ここにいるはずだ)


 ボクは“ひのこ”を放つために崩れた壁へと再び近づこうとした。…………と、そのときである!


  ズガアアァァァァン!ズガアァァァァン!
 「えっ………?うわああああぁぁぁ!!」
 『ユウキサン、ビビビビ!』


 突如起きた爆発。それによって生じた爆風や衝撃にボクは巻き込まれ、吹き飛ばれて反対側の壁にぶつかってしまう。それでもやっとの思いでもう一度なんとか立ち上がろうと試みる。


 「ぐっ…………くそ。………あっ!!やめろー!!」


 その時に自分の目に飛び込んできたもの。それは未だ気絶したままのチカを庇おうとしたと思われるコイルたちに、ビリリダマたちが体に電流をまといながらジリジリっと迫り、正に激突しようとしているシーンだった。


 「ククク………くたばりやがれ!!」
 『ウワァァァ!!』
 「やめろー!!“ひのこオォォォォ”!!」


 このままではコイルたちも、それからチカも無事では済まされないだろう。確かに“スパーク”もでんきタイプ。同タイプのコイルたちにも、チカにもダメージは少ないかもしれない。だけどそれは万全に近い状態のときの話。ボロボロに近い今、電流をまとって体ごとぶつかられたら、ひとたまりもない。何とかしなければ!…………そのように感じたボクは、10mほど離れていた彼らに“ひのこ”を放ったのである。


 『あちっ!!あちちち!』
 「タスカッタ………!」
 (間に合った………!)


 “ひのこ”は間一髪のところでビリリダマたちに命中して、少しの間彼らの動きが止まった。これならコイルたちがチカを引き付けれて避難する余裕も作れる…………と、一安心していたその時!


 「邪魔してんじゃねぇぞ、てめえら!!“ソニックブーム”!!」
 「うわわわっ!!伏せろ、コイルたち!」
 「!?」
 「グワアアアアアア!!」
 「コイルたちーー!!チカアアァァァァ!?」


 ボクの懸命の呼び掛けは間に合わなかった。次の瞬間、“ソニックブーム”が背後から直撃したコイルたちは吹き飛ばされてしまった。彼らに周りをカバーされていたこともあり、チカは衝撃波からの大ダメージは何とか負わずに済んだようだが…………深刻な事態に直面してるのは明らかだった。


 「コイルたち!チカ!!うう…………ちくしょう!“ひっかく”!」


 ボクはまだ痛みのひかない体を無理やり起こし、全速力でビリリダマたちへと向かう。そして大きく天井へ上げた左腕を、その反動の勢いでそのまま爪を立てながら彼らの体目掛けて振り下ろす!


 「ガハハハ!血迷ったのか?わざわざ“ひっかく”みたいな直接打撃の攻撃で、俺たちのところに飛び込んでくるなんてな!」
 「“スパーク”をお見舞いしてやるよ!!」


 馬鹿にしながら大笑いするビリリダマたちも、再び電流を体にまとって突っ込んでくる!それでもボクは止まらない。本来的には一度回避して遠くからでも応戦できる“ひのこ”を撃つのが良いのだろうが、ボクは止まることが出来なかった。


 確かに彼らも他のポケモンたちと同じく、この世界で起きている自然災害の影響を受けた“被害者”という事実には変わりない。しかし、だからと言って自らの都合だけで他のポケモンたちに危害を与え、その居住地まで破壊しようとすることがボクは許すことが出来ない。何がなんでもこれ以上の被害を阻止しなければ………と、そんな想いが強かった。


 ………だが、熱意は必ずいつでも叶う訳ではなかった。


 ドカッッッ!!ビリビリビリビリ!
 「ぐわっっ!!くうぅ…………体が………!」
 「クククク………」
 「ざまあみやがれ」


 次の瞬間、ボクは地面にうつ伏せになる形で叩きつけられていた。“スパーク”の電流による痺れと痛みも重なる。顔から汗が滲み出てくるほどのその苦痛に、ボクは歯を食い縛り必死に耐えていた。


 「これでとうとう終わりだな、救助隊メモリーズさんよお?お前の大切なピカチュウも動けない、お前らが助けようとしたコイルたちも動けない、そして遂に…………お前も動けないとくれば、成す術も無いだろう?」
 「あと少しでここから脱出出来たのに、残念だったな?クククク…………」


 ボクは悔しさが込み上げてくる。口を大きく開ければまだ“ひのこ”で攻撃するか、“えんまく”で翻弄させて時間稼ぎが出来るかもしれなかったが、痺れで思うようにそれさえもできない。さすがにこのままでは彼らに確実にやられてしまう。


 「覚悟しろよ、お前ら。このフロアにいる仲間で一斉に“だいばくはつ”を起こして、洞窟もろとも潰してやるからな」
 「何だって!?そんなことしたらお前たちだって無事じゃ済まされないぞ!?」
 「知るかよ!下のフロアで聞かなかったのか?みんなくたばればいいんだよ!どうせ生きていたってそのうち自然災害でやられてしまうんだからよ!」
 「!!!?」


 気づいたら壁の中から更に2匹ビリリダマが姿を現した。全員で4匹潜んでいたことになる。


 「覚悟しろよ、これで本当に終わりだ!!」
 「やめろおおぉぉぉぉー!!自分たちも傷つけるような破壊をして、それで一体何の意味があるんだ!?」
 「ケッ、そんなもん知るかよ」


 ボクの叫びも、もう彼らには届かないようだ。ピカッと体が眩しく光出したのだから………。正に絶体絶命の状況だった。




         ……………メモリー21に続く。

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