39話 深夜の侵入者

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ラディ、どうだ?」
「うーん。 イオは怪我もしてるけどそこまで大したことはないよ。 頭を強く打って気を失っているだけだから、しばらくすれば目を覚ますと思う。 ただクロネは......」
「ああ、わかってる。....クッソ! 」
ハルキ達はヒカリがふしぎだまを使ったことで、シャドーから逃げることに成功し、移動先がレベルグの救助隊ギルドの目の前だったので怪我をしているメンバーを医務室まで運んで診てもらっていた。
アイトは怪我もしていたが、意識があったことから簡単な治療とオボンの実を渡された。
さっきまで、まともに立つことすらできなかったのに、オボンの実を食べたら普通に動けるぐらいまで回復したのだからポケモンの体は不思議だ。
やっぱり、技を繰り出せるだけのエネルギーをこんな小さな体に持っているのだから、体の作りも丈夫で、治癒力も比較的高いのだろう。
「はやくあいつを取っ捕まえて、起こし方を聞き出さねぇと!」
「待って、ラプラ」
「はなせッ! ラディ! あたしはッ!」
「ラプラッ!!」
ラディの腕を乱暴にほどこうとするラプラの動きが止まった。
「...落ち着いてラプラ。 チームメイトがやられて焦る気持ちはわかるけど、ラプラだって戦闘で体力を消耗しているんだよ? そんな状態じゃ、仮にシャドーを見つけてもやられるだけだよ。 ほら、これ食べてゆっくり休みな。 休んで体力を回復させることも大切なことだよ」
ラディがそう言うと、ラプラにオレンの実を投げつけた。
「そう、だよな....うん! ごめん。 あたし、少し焦ってた」
ラプラはオレンの実を受けとると、それを食べながら、少し落ち着いた表情でラディに返事し、ラディも無言で微笑みを返した。
「おい! お前らは先に部屋に戻って休んでいていいぞ」
「ラプラさんはどうするんですか?」
「あたしは、もう少しここにいる」
「....わかりました」
ハルキ達は医務室を後にし、自室に戻ることにした。

――――――――――――――――――――

「よし、みんな座ったな? それじゃあ、シャドー対策考えようぜ!」
「そうだねー」
「です!」
「あのー、なんで僕の部屋?」
ハルキ達が寮に戻り、ハルキが自分の部屋を開けると当然のようにアイト達も入って来て、みんなそれぞれ座り、僕も促されるまま座らせられて現在に至る。
「そりゃ、こういう話し合いするのはリーダーの部屋だろ」
「そうだねー」
「です!」
約2名ほどさっきと同じ受け答えをしているが、そこは気にしないでおこう。
まあ、実際に一人で考え込むよりもみんなで意見を出しあったほうが建設的か。
「それじゃあ、救助隊で共有されていた情報と実際に僕らが遭遇して知った情報を照らし合わせてみようか」
「そうだな。 確か救助隊で共有されていた情報は、
・犯人は救助隊に所属するポケモンしか狙わない。
・去り際にクローバーを置いていく。
・襲われたポケモンの多くが暗闇で敵の姿をきちんと把握していない。
・共通しているのは赤と黄色の目
・襲われたポケモンの中には目が覚めてから精神的に強いダメージを負っている場合がある。
この5つだったよな? 」
無言でみんな頷く。
「そこに、俺らが実際にみた情報を照らし合わせると、ほぼ合致する」
「わたし達は途中で逃げちゃったからクローバーだけはわからないですが、その通りです!」
「少し違うと言えば、僕達が襲われたのは夜じゃなくて夕方だったね」
「あー、確かにな。でも見通しの悪い森だったし、姿を隠しながらでも戦えると思ったんじゃねぇか?」
アイトの言うとおり、姿を隠すことが目的ならば、少し薄暗くなった時間帯の森という条件は確かに合致する。
けど、何か引っかかる。
「それか、暗い場所じゃなきゃいけない理由がある、とかねー」
ヒカリの言葉にハルキはハッとした。
さっきの戦闘を思い返してみれば、なぜ『シャドーパンチ』といった、接近戦を仕掛けてくるのか?
姿を隠すことが主の目的ならば、遠距離技の『シャドーボール』主体の戦法の方が姿を見られるリスクも少ない。
それに暗闇とはいえ、あんなド派手な赤いマントを羽織っていては簡単に見つかる。
「そうだよ...、盲点だった!暗い方が有利になることが何かあったんだ!」
「暗い方が有利って言っても、視界が悪いぐらいしか浮かばないけどな~。 まさか、あいつだけずば抜けて夜目がきくとかじゃないだろうし...」
「うーん。 あのポケモンの種族ならではの事ができるとかです? ただ、いろんな本を読んできましたがあのポケモンは見たことなかったです...」
「マーシャドー」
「え?」
みんなが腕を組んで悩んでいるところにヒカリがシャドーの種族名を呟いた。
「あのポケモンはマーシャドーって言うんだ。かげすみポケモンで滅多に姿を見せない珍しいポケモンなんだよ」
「かげすみポケモン......ってまさか、度々姿を消していたトリックって!?」
「影に潜ってたんだろうね。 僕も幻覚世界に落とされた時に影に潜るのをチラッと見たし、ヒカリに言われて納得したよ。 それに、これで暗い方が有利な理由もわかった」
「え? どうしてだよ?」
察しの悪いアイトにハルキが教えようとしたら、ヒビキがそれよりもはやく理由を教えた。
「太陽が出てる時間帯よりも、夜の方が影が多いです! つまり、バトルフィールド全てに影がかかっていて、影に潜っての奇襲がしやすいです!」
「あっ、なるほどー」
ヒビキが影から飛び出てくるようなかわいいジェスチャーを交えて説明をしてくれたおかげで、アイトもすんなり納得できたようだ。
「あと、多分だけど。 シャドーの幻覚に落とす技の条件は、対象者の影に潜る事だと思う」
「はぁ!? それが本当だとしたら、防げねぇだろ!」
「いや、手立てはあるよ。 ね? ハルキ?」
ヒカリの問いかけに無言で頷く。
確かに一見、無敵そうなこの能力。
だが、弱点はわりとシンプルだ。
「ジャンプすればいいんだ」
「は? ジャンプ?」
ハルキの答えに拍子抜けするアイト。
「そ。 僕があの攻撃を受けた時、僕は『アクアジェット』でシャドーを叩きつけた後、すぐに飛び退いたんだ。 それと同時にシャドーも影に潜ったけど、空中にいる間は意識が遠退くこともなかったんだよ」
「え~、それが根拠になるかぁ?」
まあ、根拠としては薄いが、過去にやられたポケモンの中には鳥ポケモンも混ざっていて、話を聞く限りではわざわざ技で打ち落としているらしいし、可能性が0とは言えないだろう。
「それに、対策はそれだけじゃないよ。 あの戦闘で、少しの間とはいえ1対1でラプラさんが戦っているときに、シャドーはどうして影に潜らなかったんだと思う?」
「あー、確かにラプラの電気の剣を影に潜らないで、普通に回避してたよねー」
ヒカリがその場面を思い出すように視線を上に向けながら言った。
「っても、そんとき俺は少し離れた場所にいたし、わっかんねぇーよ」
「いや、ここまでの話を思い出せばあの場にいなくてもわかるよ。 ヒントは電気」
ハルキがイタズラっぽく、笑いながら片手でヒカリを示した。
当のヒカリは示してきたハルキの手を両手で握り返して、上目使いでハルキを見ながら「えへへ~」と嬉しそうに笑っていて、ハルキも困惑しつつも、顔を少し赤くして目をそらしていた。
(なぜ俺は、シリアスな雰囲気の場にいるのに、目の前でイチャイチャを見せつけられているのだろうか....)
アイトがそんな事を思っているときに隣でヒビキが「あっ!」と何か気づいたようだ。
「わかったです! 影に潜らなかったのは、ラプラさんが電気の剣を使ってたからです!」
「正解」
ハルキが微笑むとヒビキは「やったです!」と喜んでいた。
「ちょっと待ってくれ。 俺、いまだにわかんねぇんだが」
「影って光が当たる方向にできるだろ? じゃあ、その光源が不規則に変わるタイプだったら影はどうなる?」
「そりゃあ、影だって不規則に....あっ!」
ここまで言われて、ようやくアイトもシャドーが影に潜らなかった理由がわかった。
「潜らなかったんじゃない。 潜れなかったんだ!」
「そういうこと」
ラプラはでんきタイプで繰り出す技も大半は電気を用いた技だ。
そして電気は光源にもなる。
さっきの戦闘では、光源である電気の剣を武器にラプラは戦闘をしていたので、ラプラの周囲の影が不規則になってシャドーは影に潜ることができなかったのだ。
「つまり、対策としてヒカリの電気を上手く使うってわけだな」
「私より、もっとシンプルに光源を作れる人がいるじゃない!」
「え?」
「アイト君は、ほのおタイプです!」
「....ああああ! 確かにそうだったわ! すっかり忘れてたな~、これは盲点だわーアハハハ」
笑って誤魔化しているが、
アイト。さすがに自分のタイプを忘れてたのを盲点と言うには少し無理がある気がするぞ。
そんなわけで、次に戦闘する機会が合った時は、ヒカリとアイトには援護にまわってもらい、炎と電気で影を翻弄すると言うことに決まった。
「そうだ! 最後に1つ聞いておきたいんだが、ハルキはどうやって幻覚世界から出てきたんだ?」
「あっ、それわたしも気になるです!」
「あ、えーと....」
ここまであの攻撃を喰らわないようにと、対策をたてる話をしてきたが、いざというときにあの世界から出る方法も知っていて損はない。
だけど、どうやって説明すべきかハルキが悩んでいるとヒカリが代わりに答えてくれた。
「あの世界から出る条件は3つ。
1つ、自分のいる場所が幻覚世界だと自覚すること。
2つ、幻覚を消し去ることができるほど心を強く持つこと。
3つ、元の世界に戻ると強く思うこと。
ざっくりと言うとこんな感じだね~」
「おお、わりと簡単そうだな」
「それがそうもいかないんだよねー。
ほら、夢を見ている時って、夢の世界のなかで「今、夢をみている!」なーんて、自覚することは滅多にないでしょ?」
「た、たしかに! 前にお腹いっぱいケーキを食べた夢を見ましたが全く夢だと思わなかったです」
人の世界では明晰夢と言って、夢を夢だと自覚して見ている人もいるけど、基本的に夢をみるとき、脳も少し休むので意識がぼんやりとしていて、夢だと気づかないのが大半だ。
「じゃあ、ハルキはその条件全部突破したってわけか。 どんなだった?」
「確か...みんなに責められて、追い込まれるような内容だったよ。 ハハハー」
「ハハハーって...お前なぁ」
苦笑いをしながら、幻覚世界でのトラウマになりかねない内容を言うハルキにアイトは呆れた表情をした。
「でも、よく幻覚の世界だと気づいたですね!」
「違和感がすごかったからね」
「それって、前に話していた、嘘を見抜ける能力か? 幻覚も見破れるのは強いなー。 けど、これでハルキ以外が中々幻覚世界から抜け出せない理由にも納得だ。 みんな幻覚だと瞬時に見抜けないから中々目が覚めないんだ」
「なるほどです。 でも、それはつまり、わたし達があの攻撃を受けたら、1発でボヨンですね..」
「ボヨン?........ああ、ドボンって言いたいのか。 ってかボヨンだとむしろ沈んでないだろ!」
「あれ? そうなんです?」
やや擬音語の使い方が特殊なヒビキにツッコミを入れるアイト。
そこにヒカリが鞄から青い液体の入った小瓶を3つ取り出すとハルキ達に手渡した。
「とりあえず、今日はみんな疲れてるし、このリラックスジュースでも飲んでゆっくり寝よう!」
「ってもなぁ......ハルキ、お前先に飲んでくれよ」
どうやらアイトはこの前、ヒカリが作ったスペシャルケーキの味が頭を離れないようだ。
ハルキは1度受け取った小瓶から視線を外して、ヒビキの方をチラッと見る。
当のヒビキはとても美味しそうな顔をして飲んでいた。
「うん! なんだか不思議な味ですが美味しいです!」
ヒビキはこう言っているが、この間の一件でヒビキの味覚は、向こう側の世界にいってる説があり、安心はできない。
ハルキは色々と考えたが、ヒカリの気持ちを無下にはできないと思い、小瓶の液体を一気に口の中にいれた。
「..........あっ、わりといける!」
「マジか? じゃあ俺も」
ハルキが飲みほして、問題ないと判断したアイトも小瓶の液体を全て飲みほした。
「うん。 なんか不思議な感じがするジュースだけど、変な味ではないな」
「よかったー! 元々、飲みにくいジュースだったのを色々と改良して、味を整えたから不安だったんだー」
ヒカリが真底ホッとしたような表情をしていたので、少し意外だった。
「ヒカリが自信ないなんて珍しいね。 この飲み物はどんな飲み物なの?」
「うーんと、詳しくは言えないけど、元々は、とおっっっても苦かったんだよ! 」
「そんなに、ためて言うってことは相当だな....。 てか、なんでそんなもん俺達に飲ませたんだよ?」
「ねん..じゃなくて、上がった腕前を知ってもらうためかなぁ~? あははははー!」
ヒカリに笑って誤魔化されたが、なんだかんだヒカリの作るものは、おかしな方面に冒険した料理以外は、体力回復のオレンの実を混ぜていたりする。
今回はリラックスジュースと言っているので、落ち着く木の実でもブレンドされているのだろう。
「ふぁ~......そろそろ、わたし......眠いです....」
リラックスジュースが効いたのかヒビキがうつらうつらと頭を上下に揺らし始めた。
気づけば時刻は夜の11時をとっくにすぎており、今日の疲労を考えれば眠くなるのも当然の時間だった。
「あんまり無理しても仕方ないし、今日は解散して寝ようか。今話したことは、 明日の朝、団長達が帰ってきてから話せばいいと思うから」
「そうだな。 それじゃあな。 ほら、ヒビキ、行くぞ」
「は..ぃ....むにゃむにゃ」
「しゃねぇ。 俺の部屋で寝かせるか。 さすがに、鍵かかってない部屋に女の子を一匹で寝かせるのは心配だ」
アイトは、ほぼ寝てしまっている、ヒビキをお姫様抱っこで持ち上げると、ハルキの部屋から出ていった。
「アイトって、ほんとサラッとああいうことやってのけるよねー」
「鈍感と言うか、羞恥心がないと言うか...」
「さてと! それじゃあ、私も部屋に戻るね! おやすみ! ハルキ!」
「あ、うん! おやすみ」
ヒカリが部屋から出るのを見送ると、部屋の鍵をかけてハルキも早々に寝てしまった。


自分の部屋に戻ってきたヒカリは、今日の出来事を思い出していた。
イワンコ達を引き連れてのダンジョン探索。イワンコ達を村に送り届ける。
そして、シャドーとの戦闘。
あの戦闘中にヒカリはずっとあることが気になっていた。
ヒカリがシャドーに対して、感じた音は、強い怒りと悲しみだけだった。でもラプラが庇ってくれた時だけ、怒りの感情が消えて、強い悲しみと驚きの感情が混ざったのだ。
ラプラを誰かと重ねていたのだろう
「それに、ハルキやアイトとよく似た波長......もしかしたら....」
ヒカリはそんな事を呟きながら寝床につくと、ゆっくり目を閉じた。

――――――――――――――――――――

まだ夜更けの中、1つの影がレベルグの救助隊ギルドの前に現れた。
「見つけたぞ。 ここがレベルグの救助隊施設....。 奴らはきっと、ここにいるはずだ。必ず見つけ出してやるッ! 待っていろ! 」
そう言って、ギラついた目で救助隊ギルドの建物を見上げる、深夜の侵入者_シャドーは、建物内に侵入していった。

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