Eight-Eighth 避けては通れぬ骨肉の争い

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ダンジョン地帯を突破したウチらは、作戦を立ててから事件の首謀者と対面する。
 シルクの演技もあって上手くいき、先手をとることに成功する。
 このとき初めて詳しく聞いたけど、シルクは潜入中に色んな事をしていたらしい。
 そんでキノト君とサードさん、遅れてシリウスとミナヅキさんも合流し、最後の戦いが幕を開けた。
 [Side Haku]




 「――まとめて返り討ちにしてくれる! 」
 『臨むところよ! 』
 ウチの方こそ、絶対に捕まえたるでな! 対峙する暴君の一声で、ウチらは一斉に動き出す。ウチら六人に対して敵は二人やけど、ウチが狙うのは当然大嫌いな父親。ほんの少し滑空する間に見た感じやと、あの暴君も狙いは同じ。ウチの事だけを真っ直ぐ見、地面スレスレを飛んできている。やからウチも即行で尻尾を硬質化させ――。
 「アイアンテール! 」
 宙返りするようにして尻尾を振り上げる。
 「ドラゴンクロー! 」
 敵対する暴君も全く同じタイミングで、紺色のオーラを纏った爪を振り下ろしてきた。
 「ちっ……」
 手加減したつもりやけど、結果は相打ち。ウチは元来た方に弾かれ、暴君も反対方向に仰け反っていた。
 「出来損ないが、少しはできるようだな」
 「あんたこそ、そんな歳で動けるなんて思わんかったで」
 さっきの攻撃は相打ちで終わったけど、そもそも様子見で使ったで問題ない。それにまだ本気やないと思うけど、暴君がどのくらい戦えるんかも少しだけ分かった。
 「この儂を誰だと思っている? 」
 「力に溺れた独裁者、そうやろ? 」
 あの暴君の事やから、上級技を使えてもおかしくなさそうやな……。ウチは背を向けないようにして体制を立て直し、すぐ相手に向けて滑空する。今のところドラゴンクローしか分からへんで、本音を言うともう一つぐらい探ってから本腰を入れて戦いたい。やからウチはあえて、エネルギーを活性化させたまま滑空し続ける。
 「お前とは違い有能な統治者だ。ドラゴンテール! 」
 「十万ボルト! くっ……! 」
 距離が二メートルぐらいになったところで、暴君はその太い尻尾を大ぶりで振りかざしてくる。この一瞬では技の種類までは判断出来んかったけど、尻尾技って事だけは動作で分かったで、ウチは攻守を兼ねた電気を体に纏わせる。……やけど大ダメージだけは免れたけど、ウチは技の効果で派手に吹っ飛ばされてしまった。
 「どこで覚えたかは知らんが、詰めが甘い! げ――」
 ウチが無防備になってしまったって事もあって、暴君はここぞとばかりに追撃してくる。あの様子やと多分、全身にありったけの力を蓄えて、暴れるようにしてウチにトドメを刺してくる。まさか政治家の暴君が逆鱗を使えるなんて思わんかったけど、力に固執する暴君といえば暴君らしい技やと思う。弱点属性を食らったウチは解除された電気を再――。
 「――っ! 」
 「ぐぅっ……! 」
 もう一度十万ボルトを発動させようとしたけど、それよりも早く、ウチと暴君の間に稲妻が急降下してきた。タイミングが良……、操作されとるって事もあって、電気タイプの中でも最上位に位置する技、雷がカイリューに直撃する。
 『ハクだけじゃなくて私もいることを忘れないでほしいわ! 』
 ブレーキをかけながら後ろを見てみると、そこには銀色の長針を咥えたエーフィ。親友のシルクがウチと入れ替わるようにして駆けてきてるところだった。
 シルクのことやから、ウチが戦っとる間に色々準備しとったんやと思う。咥えとる針の先に薄水色のエネルギー体が憑いとるで、多分あれはオリジナルの“依属の針”。“玖紫の海溝”の時に使っとった技を考えると、属性は多分氷やと思う。丁度今シルクとすれ違ったけど、このタイミングで彼女はサイコキネシスを発動させたと思う。
 「フォスか……。お前を失うのは惜しいが、それほど死にたいようだな? ギガインパクト! 」
 「……」
 ウチの見間違いかもしれへんけど、シルクは尻尾には今まで見たこと無い、薄紫色のオーラを纏ってるような気がする。攻守が代わってシルクが前に出ることになったけど、向こうは向こうでお構いなしなような気もする。潜入中に何があったんかは知らへんけど、ついさっき聞いたこともあって、暴君はシルクにも恨みを抱いとるのには間違いなさそう。ありったけの力を全身に溜め、捨て身でシルクに突っ込もうとしていた。
 それに対してシルクは、予想しとったのか冷静に対処する。咥えていた氷の長針を前に飛ばし、それを見えない力で操る。
 「っ! この程度、痛くもかゆくも無い! 」
 針の方が力負けし、明後日の方に弾かれる。このままやと“チカラ”の“代償”で守備力が無いシルクはやられてしまう。……やけどシルクの事やから、何か作戦があるんやと思う。攻撃が失敗しても全く動じず、前の方へと大きく跳躍する。体を横に捻るようにして――。
 「っ! 」
 『その言葉、そっくりあなたに返すわ! 』
 薄紫色のオーラを纏った尻尾を、迫る暴君の頭に思いっきり叩きつけた。
 「しっ、シルク? 今――」
 端から見たらただ尻尾で攻撃しただけやけど、それがシルクって事もあってウチは言葉を失ってしまう。相当威力があったのか、ギガインパクトの反動なのか……、どっちかは分からへんけど、軽い脳しんとうを起こしたんか暴君が立ち上がる様子は無い。
 ……そんなことよりも、“代償”でシルクは物理技が封印されとる。なのに確かに今、シルクは尻尾で暴君のギガインパクトに打ち勝った。
 『“月の次元”の“尾術”。見よう見まねだったけど、潜入中に身につけておいて良かったわ』
 「“尾術”って――」
 『訊きたい事は分かるわ。何で私に物理攻撃が出来るのか、って事よね? 私も最初は驚いたけど、“術”は“代償”には含まれないらしいのよ』
 “術”……、あっ、そっか! “術”は“月の次元”のやから……。最初は何でなんか分からへんかったけど、シルクに話してもらったで何となく分かった気がする。“術”のとはそこまで深くは知らへんけど、潜入前にミナヅキさんから少しだけ聞いた。やけど途中で二人を置いて来てしまったで、異世界の攻撃方法、ってぐらいしか分からへんけど……。
 「そっ、そうなん? 」
 『らしいわ。……ハク? 一つ相談があるんだけど、いいかしら? 』
 「うん、ええで」
 何か気になる事でもあるんかな? 横目で見るとまだ頭抱えてるみたいやから、その間に親友はウチに問いかけてくる。相談って事は作戦とか……、そういうことやと思うで、ウチはすぐに大きく頷く。
 『ハクなら分かってくれると思うけど、“証”を外すから、もしもの時は頼んでも……、いいかしら? 』
 「外すって、まさか……」
 そういうことやんな? シルクが提案してきたことに、ウチは言葉を失ってしまう。“証”っていうのは“絆の従者の証”の事やけど、“絆の従者”とか……、伝説の当事者は絶対に外したらあかんことになっとるらしい。つい最近ウォルタ君が外したって聞いとるけど、戻ってこれなくなる一歩手前までいった、って言っとった。やからシルクが躊躇っとるように見えるのは、そういうことやと思う。
 『ええ、そのまさかよ。街自体もダンジョン化が進んでるって言うのもあるけど、さっきも言ったとおり私にもあまり時間が残されてない。だから動けなくなる前に決着をつけたいのよ』
 「……だけど何でウチに――」
 『戻ってこれなくなった時に、ハクになら殺してもらっても良いかな、って感じかしら』
 シルク、そんなにウチの事を……。やけどシルク、本気みたいやな……。
 「……分かった。ならウチはどうすればいいん? 」
 出来ればそうなってほしくないけど、真剣な表情のシルクに思わず頷いてしまう。それだけ本気……、決心しとるシルクは、多分ウチが何を言っても訊かないと思う。やからって事でウチは、そんなシルクに逆質問。すると親友のエーフィは、間髪を開けずに答えてくれた。
 『多分五分ぐらいなら私のままでいられると思うけど――』
 「――分かった。そうすればええんやね? 」
 『ええ。……ハク! 』
 「そやな! 」
 「……」
 それからシルクは一度暴君の方を見、声なき言葉でウチに呼びかける。同時に見えない力で水色のスカーフの結び目をほどき――。
 『“絆”の名に賭けテ――』
 「いくで! 」
 ようやく立ち直ったらしい暴君の方に一気に駆け出す。ウチもその背中を追い、エネルギーレベルを高め始めた。
 『ジク、悪イけどここで終わラせてもらうワ! 』
 「グルルぅ……」
 話には聞いとったけど、まさかこんなに浸食が早いなんて思わんかったなぁ……。前を走るシルクは、唸り声をあげながらも技を発動させる。ウチの頭の中にちゃんとした言葉が聞こえてきとるで、今のところは自我を保てとると思う。彼女は尻尾に薄紫色のオーラを纏わせ、相手に狙いを定める。同時に吹き出した冷気をサイコキネシスで操り、“尾術”を発動させている尻尾にコーティングする。
 「っさっきは隙を見せて……しまったが、そういう訳には……いかん! 」
 立ち直った首謀者も滑空し始め、迫り来るウチらに対抗してくる。
 「儂に逆らうとどうなるか……、思い知るがいい! 逆鱗! 」
 向こうもこの一発で終わらせるつもりなのか、持っている力を最大限に解放する。位置関係敵に暴君が狙っているのは、“チカラ”を暴走させているシルク。右手の爪にありったけの力を送り込み、跳びかかろうとしているシルクに思いっきり振りかざす。
 「ぅガアぁっ! 」
 当然シルクもこれに対抗し、右側から尻尾を叩きつける。相当集中しとるらしく、シルクのこめかみの辺りから汗が滝のように流れとるように見える気がする。
 「ぐぅっ……! だが……、まだ……まだ! 」
 「ッ! 」
 『ハク……! 』
 尻尾と爪がぶつかり合い、辺りに鈍い音が響き渡る。威力で勝ったのか暴走する“チカラ”を抑えきれてないからなんか……、どっちかは分からへんけど、体格の大きい方が大きく弾き飛ばされる。ウチは反動で反対方向に弾かれとる親友の下をくぐり抜け――。
 「逆鱗! 」
 暴君と全く同じ技を発動させ、追撃する態勢に入った。
 「出来損ないの癖に……! 」
 一発目。飛ばされる暴君に追いつき、そのまま頭から突っ込む。相手の方もまだ効果が続いとるで、体を捻って尻尾で迎え撃ってくる。
 「ウチだって、あんたのことを一度も――」
 二発目。相殺した反動を利用し、長い尻尾を撓らせる。向こうもタイミングを合わせて、左手の爪を外側に向けて大きく振り抜く。
 「――親って思った事なんてない! 」
 「っ! 」
 三発目。ここで暴君の技が切れたのか、宙返りして振り上げた尻尾の先に軽い衝撃が伝わってくる。多分暴君も右手で防いどるつもりやと思うけど、ウチの意地が勝って吹っ飛ばされている。
 「ウチの妹……、ソクの仇! “エアリシア”最凶の殺人鬼ジク、あんたもこれで終いや! 」
 四発目。回りきったところで更に加速し、瞬時に暴君に追いつく。そろそろ技の効果が切れそうな気がするで、ありったけの力……、殺された妹と暗殺されそうになった弟の想いも込めて、殺人鬼の喉元を角で思いっきり貫いた。
 「ぐあぁぁっ……! ばっ……ばかな……、儂が……出来損ないの……家出娘……に……」
 ウチら姉弟の想いのこもった一撃を食らった父親は、派手に部屋の壁に叩きつけられる。やけどそんなことよりも、ウチは――。
 「シルク! 無事やんな? 」
 崩れ落ちるカイリューに背を向け、かけがえのない親友の安否を確認する。
 『危ナカッタケド、何トカ……』
 目を向けたその先には、首元にスカーフを結び直したエーフィ……。弱々しいけど、確かにホッとしたような笑顔を見せてくれていた。




  つづく……

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