湯たんぽヌメり

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きょうはとっても さむいの。
そうだ。
たしか あのへんに あれがあったはず…。
雨降りヌメリ
鼻をつんざくような寒さで目が覚めた。昨日まであんなに温かかったのに。
あの温かさは一体何だったのだろうか。
身震いをひとつして羽毛布団にクルマユのようにくるまって寒さから身を守る。
そこで隣にパドルがいないことに気が付く。
いつもなら俺に抱き付いているか、布団をすべて持って行っているかのどっちかなのに。
……仕方ない。
俺は安住の地を抜け出してパドルを探す旅に出ることにした。
まず、キッチン。
いない、よし次。
風呂場、いない。だろうな。
クローゼット。いるわけがない。
外……あ、雪降ってる。
どおりで寒いわけだ。
もう一度、身震いをして中へ戻る。
いないのなら長居したって仕方がない。
部屋に戻ってストーブを点ける。

ジジジジッ、ボッ

古いストーブが水蒸気を上げながら部屋を暖め始める。
「灯油使い切らなくてよかった」
そんなことをぼそっと呟いてケトルの電源を入れた。
寝室から毛布を持ってきてこたつとセットで売っていた椅子に体育座りで暖を取る。
末端冷え性の俺にはこういう突然の寒さは堪えるのだ。
沸いたお湯にココアパウダーを溶かしながらどうしたもんかと目の前にあるものを見ながら思う。
目の前にこたつが出ている。
つい二週間前に片付けたはずのこたつ。
しかもちゃっかりと毛布も二重に掛けてあるところを見るにこれは完全に理解したと考えてもいいだろう。
「ついに覚えてしまったか…」
甘いココアを啜りながらこたつの横に座る。
「パドル?」
呼んでみると顔だけがニュッと出てきた。
「おはよう、寒かった?」
パドルは頷くとまたこたつの中に消えていく。
「こたつむり…」
苦笑いを浮かべながらこたつ布団をめくるとこたつの中いっぱいにパドルの青い体が詰まっていた。
パドルは冷たい空気が入ってくるのが嫌なのかしかめっ面でこちらを見ている。
「ごめんごめん、俺も入りたいから場所開けて」
パドルがみっちりと詰まっていると俺の体の居場所がなくなるのがこたつの少し辛いところ。
パドルが体の配置を変えながらなんとかかんとか俺の体一個分のスペースを確保するとじっとこちらを見てくる。
「ちゃんと閉めるから、そんな顔すんな」
もそもそとパドルの開けてくれたスペースに体を押し込む。
パドルのヌメヌメのせいで何とも言えない感触がするが仕方ない。
「おぅっ?」
パドルが顎を俺の足に乗せてきた。
どれくらい前からこたつの中にいたのかは知らないが、パドルの体は外で雪が降っているとは思えないくらい温かかった。
まるで湯たんぽのようでとても気持ちよくてこのまま眠ってしまいそうだ。
きっと、目が覚めたら全身バッキバキだろうなと思いつつ、こういう時のためにこたつに装備してある長い棒でストーブの電源を切る。
ストーブの電源が切れたことを確認して俺ももう一度眠りに付く。
風の音が部屋の中に響き、雪は次第に勢いを増していく。
シンオウの春はまだまだ先のようだ。

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