新緑の目覚め(伊月視点)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 パソコンの謎の文字列を見た途端、俺は最高な夢を見ていた。夢だとわかるってことは、これがいわゆる明晰夢なのだろう。……え、どんな夢を見ているのかって? はは、聞いて驚け! なんと、彼女ができた夢だ!
 うん、これには何も言わないで欲しい。というか言うな。……言わないで下さい、お願いします。彼女いない歴イコール年齢は辛いよ。とにかく、俺は夢の中で彼女とデートをしようとしていた。彼女の名前はナツ。本名は知らない。ま、夢の中だからな。
 だが、夢の中と言ってもそのクオリティは現実並み、いや現実以上だった。彼女の長い髪は漆黒で、太陽の光を反射して天使の輪を浮かべている。黒い目はクリッと大きく、ずっと見ていると夜の世界に引き込まれそうになる。
 更に声も服も俺の好みにドストライクで、あとなぜか懐かしい感じがした。まぁ後者はどうであれ、神様! 例え夢であっても俺の夢を叶えてくれてありがとう! ……何か被っているけど、そこは気にしない。気にしてはいけない。
 俺は緊張で汗ばむ手をハンカチで拭きながら、ナツにどこに行きたいかを尋ねる。
「ナツ、どこに行きたい?」
 彼女は青い髪飾りを弄りながら、笑顔でこう言った。

「起きて、アラン! こんなところで寝ていたら風邪引いちゃうよ!」




「は!?」
 謎の展開に思わず飛び起き、そして尻餅をついた。何なんだ、今の声は。あれはどう聞いても女の子ではなく十代の少年の声だった。一体誰だろう。俺の聞き慣れた声じゃないのは確かだが。
「あ、アランやっと起きた~。ちゃんと家で寝ないとダメだよ~」
 声の主が誰かを考えていると、まさに今正体を探ろうとしている声とそっくりな、というか同じ声が横から聞こえた。なるほど、こいつが犯人か。
 声の言っていることを聞く限り、どうやら俺をアランとかいうやつと間違えているらしい。アランという横文字から考えておそらく外国人だろう。
 横文字の欠片も感じられない姿の俺と、外国感溢れるそいつを普通の人が間違えるとは思えない。きっと、天然系のやつだろう。天然なら全てが許されるというわけではないが、それがかわいい子なら大抵許せる。だが、男は範囲外だ。俺はデートの邪魔をされた文句の一つでも言ってやろうと、声が聞
こえた方向を向いて口を開く。

「おいお前。お前が話しかけたせいでせっかくの…………!?」

 デートが台無しじゃねぇか! と続けるはずだった俺の口は、「の」の形のまま固まってしまった。
 なぜなら、そこには――

「しゃ、シャワーズ……!?」

 ――そこには、犬か猫みたいな顔にヒレがあり、尻尾が魚のもののようになった青いポケモン……、シャワーズが座り込み、俺の顔を心配そうに見ていたからだ。種族や行動はともかく、なぜポケモンが俺の目の前に? というか、あの本の説明によるとポケモンの言葉は特殊な機械を使わない限り絶対にわからないはずなのに、どうして言葉がわかる?
 それよりも、そもそもなぜ俺は自分の部屋じゃなくて、どこかの森にいる(今更ながら気が付いた)? 未確認飛行物体にでも誘拐されたのか?
 様々な疑問が頭の中を渦巻き、一度立ち上がってから深呼吸して落ち着こうとしたらバランスが上手くとれず、また尻餅をついた。目覚めたばかりだからか?
 そう思い、もう一度立ち上がろうとする。だが、またバランスがとれずに尻餅をついてしまった。

「……え?」

 まさかと思い、もう何回か挑戦をしてみる。だが、何度やってもバランスがとれず、尻餅をついてしまう。な、何なんだ? まるで体の構造が変わってしまったみたいだ。
「アラン、どうして二足で立とうとしているの? リーフィアは基本四足歩行でしょ?」
 内心焦りを覚え始めた頃、シャワーズが俺を見て不思議そうに言った。俺はその言葉が理解できず、二、三秒フリーズする。
 ………リーフィア? この俺が? まさかと思いながら、自分の手を見てみる。人間なら肌色の手が見えるはずだ。
「…………」
 俺の手は、茶色だった。いや、茶色なのは手だけで、手首よりも上はクリーム色に近い。で、葉っぱらしきものが腕から生えている。本で見たリーフィアって、こんな腕していたよなぁ……って、違う! 俺の手、というか腕はどこに行ってしまったんだ! もしやと思いもう片方を見てみても、結果は同じ。人間のではなく、リーフィアのものだ。
 そうか、俺はリーフィアになってしまったのか……。いや、諦めるのはまだ早い! リーフィアなら、葉っぱのような耳と尻尾があるはずだ!
 俺は片手で頭を触りつつ、腰の方に目を向けた。腕はダメでも、頭と腰に証拠がなかったらセーフだ。……多分。
「…………」
 片手が触れたのは、髪ではなく何かの耳。触っていくと、それは葉っぱのような形をしているとわかった。そして、腰を見つめる俺の目が捉えたのは、葉っぱのような尻尾。自分の意思でどちらも自由に動く。
 ……ここまで知ってしまった以上、もう認めるしかない。

 俺、葉山伊月は、リーフィアになっていました。……って、何で!?

 続く

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