新たな世界で

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 あなたが三個全ての宝石をはめて扉を開けると、そこは最初に来た樹の裂け目の前だった。何が起こったのかと辺りを見渡すも、樹とあなた以外の何もない。さっきまで一緒だったはずのパートナーの姿も、まるで幻だったかのように消えていた。
 訳が分からなくなったあなたは再び裂け目に入り、樹を登っていく。登れば何かがわかるかもしれない。そう思ったからだ。
 しかし、登れども登れども最初に着いた小部屋に辿り着けない。ここはダンジョンのようだと言っただけあって踊場のようなところで分かれ道があったり、行き止まりがあったりする。
 だが、どれも一度は突破したのだから道順は大体覚えていた。大部屋に戻る時も道は変わっていなかったから、一部の構造が変化した可能性はないに等しい。歩き疲れて階段に腰を降ろそうとした途端、眩い光があなたを襲った。
 思わず手で顔を覆ったあなたが恐る恐る手を放してみると、そこには先ほども見た樹と裂け目が。混乱のままに辺りを見回し、今も光を降り注いでいる太陽の位置を見て衝撃を受ける。一度戻った時と位置がほとんど変化していないのだ。
 どれだけの間樹を登ったのかはわからないが、足がパンパンになるまで歩いたことからかなりの時間樹の中にいたのは確かだろう。あなたは自分がタイムループしていることを確信し、絶望する。
 なぜこんなことになってしまったのか。原因は全くわからなかった。いや、違う。原因は嫌と言うほどわかっていた。途中からパートナーの気持ちを全く理解しようとしなかったからだ。自分では何もしようとはせず、全ての苦痛をパートナーに押し付けたからだ。
 これは、そんな自分への罰なのだろう。あなたはそのことを痛感すると膝から地面に崩れ落ち、ぼうっと樹を眺める。太陽がぽかぽかと体を温め、心地よい眠気を誘う。眠っている場合ではないのに、とあなたは重たくなるまぶたに舌打ちをするが、それに構わず目は完全に閉じられた。

*****

 大変不快な朝がやってきた。あなたは粘つくような日差しを受けながら、それを振り払うように背を伸ばす。そんなあなたの傍にやってきたのはパートナーではなく、心配性なお隣さんだった。
 不思議に思うあなたをよそに、お隣さんは「誕生日おめでとう。今日からあなたもポケモンを持てるわね!」と嬉しそうに言う。その言葉に固まったあなたを心配するも、お隣さんは「以前から友達になりたいと言っていたポケモン、博士から譲り受けてきたから」と一個のモンスターボールをテーブルに置いた。
 置かれたモンスターボールを見て顔を青くするあなたにお隣さんは何事かと尋ねるが、あなたの耳には届かない。壊れたテープレコーダーのように嘘だ、嘘だと繰り返すあなたを見て、お隣さんは緊急事態だと医者を呼びに行った。
 扉の音にも気づかず、あなたは自分に起きたことをハッキリと理解する。今度はタイムループではなく、パートナーを受け取った日にまで時間が戻ったのだと。
 これからあなたは、何も知らないイーブイと道を歩まねばならないだろう。イーブイをいらないと言えばそれは防げるが、ずっと周りに言い続けていたのに突然意見を変えるのはいくら何でもおかしい。皆を納得させる理由が思いつけばいいが、空っぽになった頭では思いつかない。
 この絶望は避けられない。それを何とか受け入れようとするあなたは、震える手でモンスターボールを取るとボタンを押した。パカリとボールが割れ、青い光が徐々にポケモンの形を作っていく。

「ぴっか!」

 ボールから現れたのは、黄色い体に稲妻のような尻尾。先が黒い耳に赤いほっぺが特徴的なポケモン……ピカチュウだった。イーブイでは、ない。
 どうやら、あなたが体験したのはただの時間の逆行ではなさそうだ。新たな絶望に言葉をなくすあなたを不思議そうに見つめるも、ピカチュウはボールを持ったままの手に優しく触れた。
「ぴーか?」
 どうしたの? と言いたげな無垢な瞳でこちらを見つめるピカチュウに、あなたはただ強張った笑いを返すことしかできなかった。

エンド6「新たな世界で」 終わり

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