22話 ヒビキの理由(わけ)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年7月29日改稿
「着きました! ここがわたしの家です!」
「ここって……」

案内された場所は、ハルキ達がイーブイの里に着いて、1番最初に訪れた、あの大きなツリーハウスだった。

「パパ~、ただいまです! お客さん連れてきましたー!」
「おかえり、ヒビキ。 今日は遅かったな。 ん? そちらの方々は……」
「あっ、先程はどうも」

ハルキは苦笑いを浮かべながら、ツリーハウスから出てきたリーブに挨拶をした。

「あれ? パパとハルキ君達は知り合いだったんです?」
「ああ。 そちらの方々は今日、レベルグの救助隊ギルドから進化の石を受け取りに来た子達だ」
「救助隊!? それはすごいです! 実はさっき、タイショー君達から、わたしを助けてくれたんですよ!」
「そうなのか? どうやら娘が世話になったみたいだね。 ありがとう」
「いえいえ! お気になさらず」
「当たり前の事をしただけだしな」
「お礼といってはなんだが、この里に滞在する間、是非ここに泊まっていくといい。 ヒビキも歳が近い子がいれば楽しいだろうし、ここは無駄に広いからね。 部屋は有り余っているんだ。 ハハハッ!」

こうして僕達はヒビキの家、もとい、イーブイの里の長であるリーブの家に泊まらせてもらうことになった。

――――――――――――――――――――

「ごちそうさまでした」
「ハァ~、美味しかったねー」
「さすがは里長の家と言うべきか、出てくる料理も一味違った気がするなー」
「です! わたしの家にいる使用ポケモンの皆さんは、料理がとっても上手でどれも美味しいんですよ!」

尻尾を振りながら嬉しそうに話すヒビキ。
この家には里長の家と言うだけ合って、使用人ならぬ使用ポケモンが何匹かいた。
ハルキ達はその使用ポケモンが作った料理をたった今、ご馳走になったというわけだ。
夕食を食べ終えたハルキ達は、お客さんが泊まる用の部屋に案内された。
最初は全員別室で用意していたようだが、わざわざ別室に1匹ひとりでいても暇なので、全員同じ部屋にしてもらう事にした。
その際、ハルキ達とお話がしたいと言っていたヒビキも同室で寝る事になり、ちょっと広めの部屋を4匹よにんで使うことになった。

「うわあ~!すごくいい景色だね!」

案内された部屋はツリーハウスの最上階に位置する部屋の1つで、部屋の隅にある松明たいまつの光で中は照らされていた。
部屋には既に、この世界では見慣れた藁のベッドが4組用意されており、使用ポケモンの手際の良さが窺える。
部屋の外にはベランダがあり、ここら一帯の景色を一望できるようになっている。

「他に高い建物はこの里にはないんだね。 遠くまでよく見えるよ」
「というか、やっぱり俺達の世界と違って灯りは少ないな」
「俺達の世界?」
「あっ、いや、なんでもない」

外の景色を見ていて、ついポロッと人間の世界の事を漏らしかけてしまったアイトだが、ヒビキはその後、特に追及することも無く、今日のお礼を言ってきた。

「あらためて、今日は助けてくれてありがとうございます!」
「当たり前のことをしただけだから、そんなに頭を下げなくていいよ」
「そうです?」
「それより、なんであいつらにあんな事をされていたのかを教えてくれないか」

ヒビキは下げていた頭を少し上げ、一瞬悩む素振りをしたが、やがて複雑な表情をしながら話し始めた。

「この里では進化の石を採掘しているのはもう知ってますよね?」
「うん。 僕たちがこの里に来た目的でもあるからね」
「わたし達イーブイは不規則な遺伝子を持つポケモンとされていて、特定の進化の力を持つ石に触れると、新たな姿に進化することができるんです」

ハルキの知っているイーブイと言うポケモンについての知識は、特定の条件を満たすことで進化のできるポケモンで、進化先が他のポケモンよりも多かったのが特徴だ。
そして、特定の条件の中には炎の石や雷の石などを使った進化方法も存在した。

「へぇー! そいつはすごいな」

人間時代にあまりゲームをしてこなかったアイトはあまりポケモンに関しての知識が無く、イーブイについての情報は初耳だったらしい。

「でも……、わたしには無理なんです」
「え? どういうことだ?」
「あれは、わたしが10歳の誕生日を迎えてから少したった日のことでした。 この里では10歳になったら進化の石を使って進化することが認められるのですが、わたしはパパがずっとイーブイなのもあって進化する事に興味がありませんでした。 ただ、同年代の子達はみんな競うように進化し、進化した自分の姿を周囲に自慢していました。 そんな中で、わたしは進化しないでずっとイーブイのままでいました。 そんなある日、誰かがわたしの事をみんなと違って進化しないのはおかしいと言いました」
「いや、別に10歳になったから進化するのを認められているだけであって、進化しなくちゃいけないわけじゃないんだろ?」
「そうです。 強制ではないのでパパや周りの大人達も気にするなと言ってくれました。 ……けど、わたしよりもあとの誕生日の子がどんどん進化していく度に、私はどんどん孤立していきました。 だから、わたしは進化することを決意してパパに炎の石を譲ってもらいました。 でも……」

ここで言葉を詰まらせると、ヒビキの瞳が僅かに揺らいで見えた。
話の続きを言うには決心がいるという事なのだろう。

「……無理に話さなくてもいいよ」
「ああ。 辛い話なのは何となく分かったから、ここで話を終わりにしてもいいんだぜ?」

炎の石を譲って貰った筈のヒビキがイーブイの姿のまま、ハルキ達の前にいるという事から何が起きたかは容易に想像できた。
「……大丈夫です。 ここまできたら最後まで話させてください」

ヒビキはハルキとアイトの提案に首を横に振ると、ヒビキは続きを話し始めた。

「わたしは、すぐに譲ってもらった炎の石を触りました。 でも、進化するどころか石は何も反応を示しませんでした。 あの時のわたしは正直、進化できるのなら何でもよくて、とにかく孤立されている状況をなんとかしたいと思っていたので、他の石にも手当たり次第に接触してみました。 ……ですが、結果的に、わたしはどの進化の石に触れても進化する事ができませんでした」
「……」
「この事が広まるのに、時間はかかりませんでした。 そして、わたしは周りから落ちこぼれと呼ばれるようになったのです」

孤立しているということは、裏を返せば悪目立ちしている状態でもある。
そんな状況の中で、さらに進化できないという情報が追加されれば噂なんてすぐに広まってしまうだろう。
しかも、ヒビキは里長の娘だから尚更悪い噂はすぐに広がってしまう。
話し終えたヒビキになんて声をかければいいのか迷ってしまい、一瞬沈黙が流れたが、ヒカリがその沈黙を破るようにヒビキに質問をした。

「話が変わるんだけど、その首から下げてるペンダントってどうしたの?」
「あっ、このペンダントは、伝説のイーブイを祀った祠の中で見つけたんです」
「へぇー、祠のどこら辺にあったの?」
「祭壇の奥にあった部屋です。 でも、変なんです。 この話をパパや里のみんなに言っても、みんな、そんな部屋はないって言うんです。どうしてでしょう?」
「ちょっとみてもいい?」
「もちろんいいですよ!」

ヒビキは首から下げたペンダントを外すとヒカリに渡した。
外見は白く、丸い形をしていて、茶色の大きな星が刻まれた、いたってシンプルなデザインだ。
どうやらロケットペンダントのようで、中を開けてみると中身は空っぽで、小さな窪みがいくつかあるといった作りになっている。

「ん? この窪みは何か意味があるのか?」
「いや、どうだろう? 単にこういうデザインってだけかもしれないし。 でも、なんか不自然ではあるよね」
「パパはただのデザインだと気に止めなかったんですが、わたしは何かあると思うんです」
「私も意味はあると思うよー。 みんなが存在しないと言った部屋に合ったペンダントだもん。 意味が無いわけが無いよねー」
「確かにな。 そういえば、ヒビキはどうやってその部屋を見つけたんだ?」
「部屋を見つけたのは偶然です。 さっき話した通り、進化できないと知ったわたしは伝説のイーブイのように強くなろうと、1匹ひとりで祠にお祈りしに行ったんです。 その際、祭壇の後ろに扉があるのに気づいて、中にはいると星の形をした模様が地面に描いてあったんです。 その星は青く光っていて、とても素敵な部屋でした! ペンダントはその部屋の中央の台座に置いてあったんです!」

途中から熱が入ったように語るヒビキの様子から、よほどその光景は神秘的だったのだろう。

「エヘヘ~、やっぱりね~。 教えてくれてありがとー」

なぜかやたら嬉しそうなヒカリを横目にアイトが気になっていた事を口にした。

「あのさ、さっきからちょくちょく出てくる『伝説のイーブイ』ってなんなんだ?」

「『伝説のイーブイ』はイーブイの里に古くから言い伝えられているとても強かったイーブイのお話です」
「……そのまんまだな」

伝説のイーブイ――
それはイーブイの進化形でもないただのイーブイが多くのポケモン達を救ったお話。
明るく、仲間思いで、この世界で起きた大戦の1つである『虹色の戦い』では最前線に立って戦ったと言い伝えられている。
時には前線で敵を倒し、時には仲間を後方から援護し、時には仲間の怪我を癒したりと、
とにかく何でもできるイーブイのようだった。
そういった、エピソードからイーブイ達はこのイーブイを『伝説のイーブイ』として称え、代々語り継ぐために祠を里に建てたとされているらしい。

「わたしは進化できないのならば、イーブイのままでも強かった伝説のイーブイみたいになると誓ったんです! このペンダントはその誓いを立てた日に見つけた大事な証しでもあるんです!」

そう笑って話すヒビキの瞳は先程と変わって輝いて見えた。

「だったら俺達もヒビキが強くなれるよう協力するしかないな」
「えっ? いいんですか?」
「まあ、僕らもあと3日ぐらいはこの里にいるつもりだったからね」
「私も手伝うよー」
「みなさん……!! ありがとうございます! 救助隊に手伝ってもらえるなんて、心強いです!」
「まあ、救助隊と言っても、入隊したのは昨日なんだけどね」
「救助隊は救助隊だよ! ハルキ!」
「そうです! なにより、ハルキ君達はわたしを助けてくれた立派な救助隊です!」
「そ、そうかな?」

ヒビキの言葉に照れくさそうにハルキは頭をかいた。

「よし! そうと決まれば明日から特訓だ。 ヒビキを馬鹿にしたアイツらをギャフンと言わせてやろうぜ!」
「そうです! ギャビュンと言わせてやるです!」
「「ギャビュン?」」

ヒビキの独特な擬音に力が抜けかけたが、とりあえず明日からこの里にいる間の方針はヒビキの特訓という事になった。
そう!
奴らを1匹残らずギャビュン!といわせるのだ( ・`ω・´)キリッ

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