午前三時の妖精

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:3分
毎日ハロウィン企画:15日目のお話
 それは、ある町での出来事。夜もだいぶ深くなって、あたりがしんと静まり返ったころ。どこからともなく、音楽が聞こえる。閉めた窓から扉から入り込んで、風のようにするりと抜ければ、眠っていた子供は虚ろに目を覚ます。ドアを開け、着の身着のまま裸足でふらふらと外へ出ると、同じような子供がゾロゾロと連れ立って歩いていく。音楽に引き寄せられるように、子供達の行進が始まるのだ。

その先頭、ジャックランタンを手に持って歌うヒトモシが、みんなおいでよと手を招く。ぴょこぴょこ飛び跳ねて、暗闇の中の道を照らしだす。上を漂うランプラーは、はぐれたり迷子にならないよう、子供達をしっかり優しく導いていく。手にはフルートを持ち、甘いメロディーを奏でながら。音楽に合わせて、子供達は知らないはずの歌を唄い出す。
「さぁいこうよ みんなで手を繋いで 甘いお菓子と 夢を見ようよ かぼちゃの頭をかぶってしまえば パパもママも ぼくだなんてわからない」
虚ろなまま歩き続ける行進は、キャンディよりチョコレートより甘い夢を見続けたまま進む。

町を出たあたりで、ランプラーがかぼちゃの頭を子供たちに被せていく。まるでハロウィンの仮装のような光景が、どこまでも列をなしていく。
「さぁいこうよ 誰にも内緒で 幸せなだけの 夢を見ようよ かぼちゃの頭はもう取れないから パパもママも わたしだなんて気がつかない」
子供達の見るステキな甘い夢は、シャンデラの炎に包まれて、本物のお菓子に変わっていく。アップルパイにミントパイ、プリンやクッキーなどが、壊れた自販機のように、夢のあるだけ山のように吹き出して、ヒトモシのジャックランタンは、ほんの一瞬で溢れるほどいっぱいになった。
足元に落ちるお菓子のことなど目に映らない子供達は、ぐしゃりと踏みつけながら歩いていく。

行進は続く、続く。町から子供がひとっこひとりいなくなるまで。
やっぱり子供の見る夢は、とびきり甘くて美味しくて、お菓子にするにはピッタリと、シャンデラはケーキを頬張って嬉しそうに揺れる。やがて、子供達の夢がすっからかんの空っぽになると、お菓子の山はヒトモシが座って海を眺められるくらいまで高く積もった。ランプラーは、はじけるほのおを空に打ち上げて合図を送り、フルートを吹くのやめた。

こんなにたくさんの夢を抜き取ってもいいなんて、ヨノワールもたまには気前のいいことをするよねと、ヒトモシはマシュマロを笑顔でもちょもちょ食べるのだった。三匹の手を離れても、子供達の行進は止まることなく進んでいく。音楽が止んでも歌を口ずさみ、甘い夢が無くなっても、シャンデラの催眠が解けるまで列から抜けることは許されないのだった。

後にこの行進は、地方最大の子供達の集団失踪事件となり、今でも真相が解明されない謎とされている……。

きょうのおはなしは、これでおしまい

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想