はちのさん 情報の裏付け

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ハクさん達のギルドに帰った私達は、偶々近くにいたスパーダさんとグレイシアのフィリアさんに迎えられる。
 彼女と会うのは初めてだけれど、ギアで話していたという事もあって簡単に自己紹介を済ませる。
 その間にリアン君とスパーダさんはこの場を離れていたけれど、コット君はそれに気づいていなかったらしい。
 それからアーシアちゃんは何を思ったのか、リアン君から貰った“変色のブレスレット”で姿を変え始めていた。
 [Side Kyulia]




 「…て言う事は、フライさんはまたどこかに行っちゃったんですね? 」
 「うん。急ぎだったみたいだから、何をするのかは訊けなかったけど…」
 誰かは分らないけど、ここのギルドの関係者って事は確かね。リアン君から貰ったブレスレットを確かめた私達は、そのままこの場で話し込んでいた。途中でフィリアさんはルーター? の調整があるって言って席を外したけれど、彼女が戻ってくるまで雑談をして時間を潰すつもりだった。けれど最中に、今日街中を奔走していたシリウスさん、どこかに出かけていたらしいマフォクシーのティル君、それから私の知らない二人が戻ってきた。二人はシリウスさんに連れられて二階に上がっていったけれど、ティル君だけはこの場に残って話の輪に入ってきていた。
 「ですけど何か理由があるのかもしれませんね」
 「そのようね。フィリアさ…」
 「…着いたで」
 「あっハクさん、おかえりなさいですっ! 」
 この声は…、ハクさんね? フィリアさんが戻ってから夕食をとりに行きましょう、私はそう言おうとしたけれど、それは叶わなかった。何故なら声としゃべり方ですぐに分ったけれど、ギルドのエントランスの方からした声が遮ったから…。入り口の方を向いていたからすぐに見えたけれど、シャワーズの姿になっているアーシアちゃんの方が先に声をかける。
 「知らない人もいるから…、リヴァナの人も一緒かしら? 」
 「そうなるな」
 入口にいたのは、“リヴァナビレッジ”に行っていたハクさん達。何人か欠けているけれど、その代わりに知らない二人がその中にいた。一人はハクさんの隣を歩いてきたリーフィアで、パッと見ウチよりも年上やと思う。そしてもう一人は、最近ここのギルドにいるゴチルゼルに抱きかかえられた、イーブイの男の子。顔立ちとか大きさを考えると、アリシアさんの子供のリア君と同じぐらいかもしれない。
 一方のハクさんはというと、姿が違うアーシアちゃんに呼ばれて一瞬首を傾げる。けれどシャワーズの彼女がアーシアちゃん、ってすぐに気づいたらしく、明るい表情に戻って尻尾で会釈していた。
 「キュリアさん達はどのぐらいに帰ったん? 」
 「僕達は夕方ぐらいです」
 「俺達もそのぐらいかな? 」
 ちょっとの差で私達の方が早かったから…、そうなるわね。尻尾の先を上げたハクさんは、一時間ぐらい前に帰っていた私達に問いかけてくる。彼女の後ろからゴチルゼルとイーブイ、それからラティアスのライトちゃん達が離れようとしたのが見えたけれど、私は構わずに耳を傾ける。すぐに応えようとしたけれど、今度はサンダースのコット君に先を越されてしまう。結局訊きそびれるかたちになったけれど、コット君に続いてティル君も帰った時間を伝えていた。
 「ティル君達もなん? 」
 「うん。シリウスさんに頼まれてね、ミナヅキさんから色々聞いていた、って感じかな」
 「ミナヅキ…、異世界のルガルガンの事やな? 」
 いっ異世界の? 異世界って事はもしかして…、あのルカリオが言ってた“月の次元”…? 私達も帰ってきてから知ったけれど、この様子だとハクさんも初耳だったらしい。確か例の彼はシリウスさんが身元を引き受けたって言ってたから、ティル君はその彼から情報を引き出していたらしい。…だけれど私は、その彼が異世界の出身ってことは聞いてなかった。だから思わず、私は驚きで声をあげそうになってしまった。
 「そうらしいです。…そだ。ハクさん、今日の調査で色々と分った事があるのですけど…」
 「と言う事は、アーシアちゃん達も何か分ったんやな? 」
 「はい。ってことはもしかすると…、ハクさんもですか? 」
 「そうやで」
 分ったって事は…、“ビースト”についてかしら? シャワーズの彼女は大きく頷くと、何かを思い出したらしくハクさんの方を真っ直ぐ見る。多分あのルカリオ達から聞いた事だと思うけれど、アーシアちゃんはそのことをすぐに伝えるつもりらしい。私もそのつもりだったから、話を持ち出すタイミングとしては丁度よかったのかもしれない。この様子だとハクさんも何か情報を持っているのか、コット君の問いかけにも首を縦にふっていた。
 「そういえばそんな事言ってたわね。“ルノウィリア”の事だと嬉しいけど…、シャワーズのあなた達はどんな事を? 」
 「りっ、リーフィアさん達もですか? ぼっ、僕達も“ルノウィリア”の事です! 」
 「コット君達もなん? 」
 「ってことは…、ハクさん達もなのね? 」
 水と風で大陸が違うけれど…、こんな偶然もあるのね? リーフィアの彼女は、若干表情を曇らせながら口を開く。この様子だと何かあったのかもしれないけれど、何とか表に出さないように私達に尋ねてきていた。私はてっきり“ビースト”の事だと思っていたから、思わず話の内容に声を荒らげてしまいそうになる。けれどコット君とハクさん、二人揃って言葉にならない声をあげてしまっていたから、私はそれを見てある意味冷静になれた気がした。
 「ええ。こっちのギルドにリヴァナから避難してきている、って事は知ってるわね? 」
 「シリウスさん達からそう聞いているわ。今日一日かけて、他の風の大陸の街からの避難者も受け入れているのよね? 」
 「そうやで。その事でなんやけど…、避難した後で襲撃されたらしいんよ」
 「ハクちゃん自身も、その“ルノウィリア”の一味と戦ったらしいわ」
 「そう…だったのですか…」
 そうなると…、風の大陸は全滅、って事になるわね…。リーフィアの彼女が訊いてきたから、私はすぐに肯定する。そのためにシリウスさんとスパーダさんは一日中、連盟とか病院、役所の方に必要な手続きをしに行ってたはず。避難自体は最後のチャーター便が着いた夕方過ぎには終わった、ってスパーダさんから聞いたらしいティル君が言っていた。…けれどその後に彼女たちから言われたリヴァナでの出来事に、私は開いた口が塞がらなくなってしまった。
 「そうなんよ…。シル…、その相手は二人やったんやけど、赤い鎖で繋いだ沢山の人達を道具みたいに使っとったな…」
 「赤い鎖、ですか。僕達の方もです。人数は二人だったんですけど、その中に“エアリシア”の親方も混ざっていたらしいです」
 「ウィトさんも? 嘘やろ? 」
 「はいです。なのですけど…、野生の方達みたいに理性が無い状態でして…」
 シルクって…、まっまさか、シルクちゃんの事を隠してる事がバレた…? 頷いたハクさんは、続けて詳しい事を話してくれようとする。けれど私の聞き間違いか…、どうかは分らないけれど、確かにシルク、って言いかけたような気がする。あの時ここのギルドにいたハクさん以外の全員と口裏を合わせているけれど、言いかけたって事は、どこかで情報が漏れたのかもしれない。立て続けに不幸が続いたハクさんのための嘘だったけれど、内心私は焦ってしまう。表情はそのままに出来てるはずだから、バレてないと思うけれど…。
 「…それからこれはいい知らせなのですけど、私達以外にも“エアリシア”の事件を調べてる方がいました」
 「ハク達以外に? アタシはそれどころじゃ無かったけど、確か連盟がスーパーランク未満は着手するな、って通達してたはずよね? 」
 「そう聞いてるけど、俺達みたいに流れで協力してる人もいるから、探検隊以外の人なんじゃないかな? 」
 「ライトちゃん達も“ビースト”の討伐には協力してくれとるでな。せやけど協力してくれとるんなら、凄く嬉しいやんな」
 「そうね」
 そうなると…、今があの事を伝える時かもしれないわね。アーシアちゃんは頃合いを見て、私達が一番伝えたかった事を話題に出してくれる。そんな彼女に感謝しつつ、私はもう一度あのルカリオから聞いた事を頭の中で整理し始める。それと同時に私は、情報を聞き逃さないためにも耳を傾ける。この言い方だとリーフィアの彼女も何かしらの隊員だと思うけれど、この場にいる全員に聞こえるように問いかけていた。
 それに答えたのは、何の隊にも所属していないマフォクシーの彼。ティル君は“エアリシア”の件に関わっては無いけれど、“ビースト”の討伐には協力してくれている。私は直接見た訳じゃ無いけれど、ウルトラランクとかそれ以上の実力はある、ってシリウスさんが言ってたような気がする。
 「それでその人達の事でなんだけれど、明後日に“ルノウィリア”…、本拠地の“エアリシア”に総攻撃を仕掛けるから、協力者を募って欲しい、って頼まれたわ」
 「その人達もZギア? を持ってたんですけど、当日に色々情報を交換する事になってます」
 「明後日やな。…わかった。そうなると明日中に準備できそうやな」
 一日あれば、必要なものも作戦も決めれそうね? ハクさんはハッキリとは言わなかったけれど、この様子だと協力してくれるんだと思う。ハクさんはここのギルドの代表だから、避難者の事さえ落ち着けば明後日の準備も始めれると思う。…それによく考えたら、今ここのギルドには私達火花を含めて、マスターランクの探検隊員は五人いる事になる。それ以外にもアーシアちゃんとティル君…、過去の世界から来てくれてる子達も入れると、結構な人数の実力者が揃う事になる。だから打ち合わせと情報伝達をしっかりすれば、何とか上手くいくかもしれない、ほんの少しだけれど、そう思えてきた気がした。




  つづく

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