46話 お前じゃない
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
〜バンギラスギルド前〜
シャルル達が交戦し、アブソル達がこちらに向かってくる中、残ったバンギラス率いるグループは体制を整えるために護衛のレアコイル達とギルドへ戻っていた…しかし…。
バンギラス「私達は今、ギルドには入らず入口近くの岩陰に身を潜めていた…!」
ヘラクロス「…あの…親方…?誰に話してるッスか?」
バンギラス「へ?読者の皆様だけど?」
ドレディア「えぇ…。」
バンギラス「だって久しぶりの出番だよ!?アブソル君やボスゴドラ君達が今頃は死闘を繰り広げているであろうこの時に…この時に…!私は逃亡を選んだんだよ…!」
ミミロップ「あーこらこら…リーダーがメソメソ泣きながら膝をつかないのせっかく珍しくリーダーらしい判断したんだから…それで?エーフィ、キルリア、アレの様子はどう…?」
エーフィ&キルリア「……………。」
ミミロップの声には振り向かず、額に流れる汗をも拭わないで二人は集中しギルドを見ている…。それ程なのかとミミロップは二人の肩に手を触れた。
ミミロップ「二人とも…?」
エーフィ「あ…ミミロップさん…何か…?」
ミミロップ「大丈夫?そんなに警戒するほどなの?アイツ?」
キルリア「ですね…同じタイプを持つ私達だから分かるエスパー特有の殺意です…!」
ドレディア「ですが一体これは…。」
バンギラス「誰に対しての殺意なのかが不明だ…。」
ヘラクロス「あ、親方復活した。」
バンギラス「まぁね、さて、こっちはどう行くべきなのか…。」
岩陰からそーっとのぞき込むとやっぱり動かない…先程からずっとこの調子なのだ…ギルドの入口前でじっと何かを待っている…そう、エーフィ達が警戒するほどの静かな殺意をむき出しにして…。
ミミロップ「なんか見れば見るほどに不気味ね…瞬きすらしないわアイツ…えっと…名前なんだったかしら?」
バンギラス「シンボラー。」
バンギラス達が小声で話してる間もまるで置物のように動かないシンボラーはじーっと前を見ているまま…ヘラクロスも気になってその姿を拝見した時だった…。
シンボラー「………。」(ジーッ)
ヘラクロス「……っ!?」
ドレディア「ヘラクロスさん!?」
ヘラクロス「目…!なんかアンテナみたいな所の目だけ…!こっちみてるッス!」
エーフィ「え!?あれ飾りじゃないんですか!?てっきりあの丸い部分(顔)にある二つが目かとばかり…!」
ミミロップ「あちゃあ…ずっと気づいていたかもってわけね…先手はもう打てない…!」
キルリア「これではもう時間をかけても警戒が薄れません…!強引ですが戦闘を…」
ヘラクロス「こうなったのも俺の責任ッス!先陣は俺…が!?」
シンボラー「………。」
決意と同時に、ヘラクロスが岩陰から飛び出そうとした時、紡がれる筈の言葉が止まる…入口前で動かなかったシンボラーが今の僅かな時間でヘラクロスの目の前まで距離を詰めていたのだ。
ヘラクロス「なっ!?」
バンギラス「ヘラクロス君下がって!」
この一瞬にしてピンチに切り替わっても尚、バンギラスは冷静を欠くことなくストーンエッジを発動し、ヘラクロスとシンボラーの間に落とす…その勢いでヘラクロスは後ろへと吹き飛ばされ、シンボラーもやむ無く飛んでストーンエッジを避けた。
バンギラス(速いな…レベルは私と同格かそれ以上か…!)
シンボラー「貴殿らに求む…虹を出せ…。」
ミミロップ「やっと口を開いたわね……ってコウ…その名前を知ってるってことは…!?」
ドレディア「アブソルさんの関係者…!」
攻撃の手を構えると同時にバンギラスは頭の中で思考を始める…。
バンギラス(アブソル君の本名…虹(コウ)…これを知っているということはシルヴァ君と同じくアブソル君の元手持ちと考えるのが妥当…だがしかし問題はこの静かな殺意だ…!このシンボラーは恐らくアブソル君に殺念を抱いている…となれば他の可能性に絞り込んで…まさか…!アブソル君の探している3人のうちの…!)
アブソルが記憶の泉の報告をしてくれた時…バンギラスはある推測を立てていた…アブソルが最後に人間の虹から聞いた「先にここへ来た3人」、そして未だになぜこの記憶を見せたのかが分からなかった「虹の両親の死」、そして…その時に見た「三人の殺人者」、ここから立てたものはこうだ…。
「アブソル君の両親を殺した3人がゲートを潜って先にここに来た3人と同一人物…。」
バンギラス(記憶の泉は触れた本人の知りたいものの経緯を見せることが書物で明かされている…となればこのシンボラーの殺意がもしアブソル君に向けられることにも正体が殺人者の一人として合点がいってしまう…。)
バンギラス「虹君を…どうするつもりだ…?」
シンボラー「何…?」
ここで下手に動くと最悪アブソル君に敵を増やしてしまう可能性もある…バンギラスはそう考え、アブソルのことを虹と呼び、逆にシンボラーに問いかけた…。
シンボラー「どうする…だと?」
バンギラス「あぁ、お前は先程から殺意を隠せていない…もしそれが虹君に向けられていた場合…私達はお前を止める必要がある…!」
シンボラー「………なるほど…それなら…。」
バンギラスの言葉に納得したのか、シンボラーはゆっくりと地上におり、アンテナの目を閉じてゆっくりと大きく息を吸う…すると…。
シンボラー「…これでどうだ…。」
エーフィ「さ、殺意が…消えました…!」
シンボラー「驚かせてしまったのなら非礼を詫びよう…我はただ主に会いたいと思いここを訪れただけだ…。」
ミミロップ「主…!」
ヘラクロス「ってことはやっぱり…。」
バンギラス「…虹君の元手持ちのポケモン…か。」
バンギラス(良かった…私の最悪の仮説は外れたか…。)
シンボラー「我の名前は………いや、そんなことよりだ…主は帰ってきておらぬのか…早くこの目で見たくて身体が疼くのだが…。」
ヘラクロス「いや、疼く割にはさっきと全然表情も声色も変わってないっスけど…。」
シンボラー「それは生まれつき分かりにくいのだ…よく見るが良い…我はこんなにもワクワクウキウキしているではないか。」
ドレディア(全く動かないのでワクワクもウキウキも感じられないのですが…。)
ミミロップ(最初に見た時と全然様子が違って見えるわ…。)
バンギラス「すまない…君の待っている主の虹君のことなんだが…今はちょっと別件で…。」
シンボラー「…今こちらに近づいてくる4人は違うのか…?」
キルリア「4人…?」
アブソル「バンギラスさん!」
バンギラス「えっ!?虹君!?」
シンボラー(虹だと…あれが?)
階段を上がってこちらへと向かってくるのはアブソルとフィオーレ、シルヴァとリオルだ…特にアブソルは返り血で本来の白い身体が赤く染まっているがそんなことを考える暇がなかった…バンギラスは突然の帰還に戸惑いを隠せない。
バンギラス「アブソル君…何故戻ってきた!キングドラは!?ボスゴドラ君達はどうしたんだ!?」
アブソル「その件も兼ねて報告を!…ところで…そのシンボラーは…。」
シルヴァ(まさか…!)
ビユンッ!
アブソル「なっ…グッ!?」
リオル「先生!?」
アブソルを目に移した瞬間…シンボラーは凄まじい速さでアブソルに突撃し、喜びを表す。
シンボラー「主よ…私だ…!覚えておるか…!」
フィオーレ「え?アブソルの知り合い…ってことはもしかして…!」
シルヴァ「はい…そのもしやです!久しぶりですね、シンボラー。」
シンボラー「シル姉も一緒か!よかった…本当によかった…!主にもこうしてまた会うことができ…む!?」
その時だった…シンボラーの目から急に安堵は消え、風のような速さでアブソルから距離をとる…。
シルヴァ「シンボラー…?」
ミミロップ「様子が一変した…どうしたのかしら…?」
シンボラー「……っ!」
急な反応に全員が驚く中、シンボラーの3つの目は赤く光り輝き始める…。
バンギラス「何をしているんだ…?」
キルリア「何かを調べているように見えますが…。」
シンボラー「…………。」
シンボラーの目はまだ光り続け、その場に沈黙が流れる…そしてようやくその目が元の薄い緑色の目に戻った時だった…。
シンボラー「違う…。」
アブソル「…え?」
シンボラー「お前じゃない…お前は…我らが主の虹ではないな!」
バンギラス「なんだと!?」
シンボラーの言葉にアブソル達は驚く…だがここにいるのは間違いなくアブソルになってしまった虹…ちゃんと人間の記憶も一部だが残っている…。
シルヴァ「どういう事ですかシンボラー!姿は変わってますが間違いなくこのアブソルは私達のマスター!八雲虹です!記憶だって…」
シンボラー「違うのだシル姉!此奴は…此奴は…!空っぽなのだ!特徴こそは似ているものの我らの記憶は微塵も残っておらぬ!」
アブソル「それは…!まだ記憶が取り戻せて…!」
シンボラー「うるさい!…偽物は口を閉じろ…!我らが主の面影を偽ろうなど片腹痛いわ!」
シルヴァ「シンボラー!」
慌ててシルヴァが仲裁に入ろうとするがシンボラーの怒りは収まらない。
シンボラー「此度は情報が少ないが為…やむなくここを引いてやる…だが真相を知った時、貴様は微塵を残さず塵にしてシル姉を返してもらうぞ…!」
ヒュオオオオオッ!!
ミミロップ「くっ…!」
ドレディア「す、すごい強風です…!」
シンボラーはそう言い残すと「おいかぜ」を呼び起こし、凄まじい風圧を残して姿を空へと消してしまった…アブソルは呆然となり、その場に立ち尽くす。
(お前は…我らが主の虹ではない!)
アブソル「僕は…虹じゃ…ない…!?」
シンボラーに言われた言葉が衝撃的過ぎて頭の中に響き渡り、繰り返される…。
アブソル(どういうことだ…!?じゃあ…なら…それなら僕は…一体誰だと…!)
バンギラス「アブソル君!」
フィオーレ「アブソル!」
フィオーレ達の声に返す言葉も出せないまま、アブソルは目の前の暗く…重い事実に精神を押しつぶされかけていた…。
〜遠く離れた場所…名も無き森〜
シンボラー「…主よ…一体…貴方はどこに…。」
大きめな木の太めの枝に止まり、シンボラーは羽を休め、思考を整理する。
シンボラー(調べが外れたか…元人間のポケモンがいると聞いて来ては見たものの…!)
シンボラー「…最初は主かと思ったのだが……。」
シンボラーがあの時調べたもの、それはアブソルの記憶だけでなく身体の仕組みだ…確かにちゃんと肉があり、熱があり血もある…だが圧倒的に足りないものがあった……それは…。
シンボラー「脳と脈がなかった…あやつは…あのアブソルは…。」
アブソルの身体…その中を見た時、シンボラーの背筋には寒気のようなものを感じていた、それも全てこの事実のせい…。
シンボラー「霊体…幽霊の類とでも言うのか…はたまた…。」
自然の風に揺らされる木々からは緑の葉が大量に散り雪のように地へと落ちる…風が止み、葉が散るのが止まった時にはもう…シンボラーの姿は枝から既に消えていた。