陸壱 夜行船での語らい

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Wolta]




 「…ふぅ。――さんとも連絡がとれタし、これダけ書いておけば分かってくれるかな? …アれ、こんな時間にメール? どッチからだろう…? 」




―――
――



  To:Wolta


    詐いつわりを以って偽を粛す
    其の為我が身を捧ぐ


  From:相反の半糸



――
―――



 「…相反の半糸? それに偽って、何ノ事だろう…? 」




――――



 [Side Kinot]




 「とりあえず間に合ったけど、走る事も無かったんじゃあ…」
 「だけどキノト君? それはそれで良かったんじゃない? 」
 そう、かな…? ししょーに急かされて病院を出たぼくとシャトレアさん、ライトさんとシオンさんの四人は、全速力で“アクトアタウン”の港に向かった。…向かいはしたんだけど、ぼくが思ってたよりはギリギリの時間ってことでもなかった。多分病院を出てアクトア港に着くまでにかかった時間は、五分ぐらいだと思う。船着き場に着くまでの道もあまり混んでなかったし、乗船が始まってから少し時間が経ってたみたいだから、窓口もほとんど並んでいなかった。そうなると何で急がせたのか謎だけど、ししょーの事だから、きっと何か意味があるのかもしれない。結局いつも、その時にならないと教えてくれないけど…。
 それで“ルデラ諸島”に行く船にも乗れたから、ぼく達は乗船券に書いてあった指定の席につく。席というよりは個室みたいな感じで、狭いけどソファーぐらいのベッドがいくつかある。広さは少し狭くて、体が大きいライトさんがいるから結構窮屈…。だけどその代わりに、外側の個室だから日中なら外の景色が見えると思う。
 「…ギリギリ個室とれたから」
 「だよね」
 それで話を今の事に進めると、鞄を簡易ベッドの傍に置いてから、ぼくたちは腰を下ろして話し始める。少し時間が経ってるから息は整ってるけど、シオンさんだけは少し疲れていそうな顔をしている。それを言うとぼくとシャトレアさんも一日中動きっ放しだけど…。けどシオンさんは大して堪えてないみたいで、ぼくが呟いた事にこう返事していた。
 「うん。私はそこまで詳しくないけど、自由席よりまマシなんじゃないかな? 高速船だったらどうって事無いけど、夜行船だから寝れなくなるからね」
 「そうだよね。…ええっとシャトレアさん、だったっけ? シャトレアさん、知ってるって事は、“ルデラ諸島”に行った事あるの? 」
 「ううん。私は協会の先輩から聞いただけ、かな? 」
 高速船? ならそっちを使った方が良かった気がするんだけど…。ぼくと同じで前足を揃えて座っているシャトレアさんは、ライトさんに続いてこくりと頷く。そのままこの船のことについて、ぼく達三人に目を向けながら話してくれる。シャトレアさんが言った協会は“保安協会”の事だと思うけど、ぼくはそれよりも高速船って言葉に首を傾げてしまう。…よく考えたら陽が沈んだこんな時間だからだと思うけど、高速船があるならそっちを使った方が早く行ける、ぼくはひとりそう感じる。これもししょーの考えだと思うけど…。
 「協会? 」
 「うん」
 「協会って、ゲームにあった探検隊とか? 」
 「探検隊…、じゃないかな」
 「そうですね。…何か今更な気がしますけど、シャトレアさんは保安官なんです」
 そのゲー、何とかっていうのは知らないけど、探検隊と関係があるから、ある意味間違いじゃないのかもしれないね。ライトさんは何かが気になったのか、シャトレアさんを右目で見て問いかける。左目は包帯で隠れて見えないけど、興味がある、って感じで尋ねていた。この二人を見てぼくは、うっかり忘れていたことを思い出す。ここまで慌ただしくてそれどころじゃなかったけど、シャトレアさんはライトさんとシオンさんの事は知らないみたいだし、ぼくも二人とは初対面。だからぼくは、隣に座ってるシャトレアさんの事を話すことにした。二人はぼくの事を知ってるみたいだけど…。
 「えっ、エネコロロさんって保安官なの? ジバコイルじゃないのに? 」
 「教官の事かな…? そもそも私も、二人の素性も分からないし…」
 「あっ、ごめんごめん。私の事、まだ何も話せてなかったね。私はラティアスのライト。職業は…、保安官みたいなもの、かな? 」
 「そうだね! わたしはシオンって言うんだけど、ライトさんは五千年前の世界から来てるんだって」
 「ごっ、五千年? 嘘…、じゃないみたいだけど…」
 そっ、そんな事ってあり得るの? シャトレアさんに言われて自己紹介を始めたけど、ぼくはシオンさんが言った事に思わず耳を疑ってしまう。初めて聞く種族って事もそうだけど、それ以上に過去の世界から来てる、って事に驚いてしまった。そんな大昔の人が何でいるのか分からないし、そもそもどうやってここに来たのかも謎…。そもそも何でししょーが知り合いなのか分からないし、ぼくの事を知ってる意味も分からない…。分からないことだらけだけど、心が読めるシャトレアさんを見ると、本当なのかもしれない、ぼくは率直にそう思った。
 「やっぱり信じられないよね? …ええっとシャトレアさん? 腕のソレ、画面が点いてるけど…」
 「もしかしてウォルタさんからの連絡じゃないかな? 」
 「連絡? …あっ、そうかもしれないね。うーんと、あっ、開けた」
 「それで…、何て書いてあるんですか? 」
 「結構書いてあるから、見せたほうが早いかな? 」


―――
――



  To:Chatler


   急に無理を言ってゴメン
   時間的には問題なかったと思うけど、ちゃんと乗れたかな?
   
   前置きはこのぐらいにして、本題に入るよ

   四人に乗ってもらった船なら明日の朝に着くから、それまでの間にゆっくり体を休めておいて
   着いたら僕の知り合いが出迎えてくれるはずだから、その人の案内で最終的に“伍黄の孤島”に向かって
   誰が出迎えてくれるかにもよるけど、もしかすると“ポートタウン”の案内とかもしてくれると思う
   
   次は、潜入してもらう“五黄の孤島”について

   名前の通り島にあるダンジョンだから、“ポートタウン”からも船で向かってもらう事になると思う
   ラスカ諸島の基準だと、総合評価はシルバーレベル
   野生の強さは言うほど高くないけど、島の大半がダンジョンになってるのが難点かな
   ただ例の事件の余韻も残っているみたいだから、油断はしないで
   “ビースト”がいる可能性があることもそうだけど、“闇に捕らわれし者”と遭遇する事も考えておいて

   諸島の外に出ると電波が届かなくなるけど、僕から伝える事は以上かな
   もし分からない事があったら、迎えてくれる人にでも訊いてみて

   調査の結果、楽しみにしてるよ


   四人の求める真実に、光あらんことを願って



  From:Wolta



――
―――



 「…シルバーレベルなら、何とかなるかもしれませんね」
 「そうだね。私はダンジョンに一回しか行った事無いけど…」
 「でも何とかなるんじゃない? ライトさんは伝説のポケモンだし、凄く強かったから」
 「シオンちゃんは私の事を良く見すぎかな? 左目が見えなくなってから初めて潜入するけど、調整は済んでるから何とかするよ」
 えっ? ライトさんの包帯って、目が見えないからだったの? 結局途中からぼくが読み上げたけど、ぼくは何でししょーがこの船を乗るよう頼んだのか、何となく分かタ気がする。ししょーは“ビースト”を倒して、暴走を止めてもらってたから気を失ってやけど、慣れないダンジョンに潜入したぼくとシャトレアさんは全然休めてない。それから、ししょーが“ルデラ諸島”の知り合いと連絡をとるため、そのためにも敢えて高速船じゃなくて夜行船を選んだのかもしれない。…だけどそれとは別に、ぼくはライトさんの左目は見えていない、けどそれでも強い、って事に驚いてしまった。



――――




 [Side Unknown]




 「…ほぅ、デアナの女二人が自ら志願するとはな」
 「志願というほどでもないけれど、…単なる暇つぶしね」
 「……」
 「暇つぶしか。…しかしそういう以上、貴様等は相当の実力を有しているのだな? 」
 「いえ、私はコレの…、マネージャーみたいなもの」
 「コレ…、―――の小娘の事か? 」
 「……」
 「そうよ」
 「……」
 「―――のお前、何か言…」
 「“フォス”、便宜上こう呼んでいるわ。コレは口を利けないけれど、…使い勝手と強さは保障するわ」
 「強い、か。貴様がそう言うが、証明はできるのか? 」
 「…ならばムナール殿、ムナール殿から借りた“・・の首輪”の性能を試してはどうだ? 」
 「……? 」
 「うむ、そうか。それも悪くない。“太陽”でも作動するか、か」
 「ならば…、お前、例の奴を連れて来い! 」
 「…かしこまりました」
 「ほぅ、ジク殿は早速使ったのか」
 「当然だろぅ? 奴は先日捕えたギルドの親方…、この小娘の強さを試す良い駒だと思わないか? 」
 「…そうね。親方クラスなら…、コレに相応しいわね」
 「……」




  続く

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