壱参 通達

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読了時間目安:10分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 偶々出逢った調査団の二人の案内で、目的地に辿りついた僕、ミズゴロウのウォルタ。
 天文台がある街の主要施設で、僕は幻と言われているジラーチと出逢う。
 僕と心を共有しているシロも知らなかったみたいだから、あまりの事に揃って言葉を失ってしまう。
 おまけに僕の交友関係も言い当てられたから、彼の話をただ聴く事しか出来なくなってしまった。
 [Side Wolta]



 「ええっと、確かアイナに用があるんだよね? 」
 「あっ、はい。そうだけど、いますか~? 」
 つい忘れそうになったけど、このために来たからね~。僕のプライベートの事まで言い当てられたから驚いたけど、気を取り直して僕は要件に移る。施設の入り口で立ち話をしてるから、ふわふわと浮かぶ彼が思い出したように訊いてきた。だから僕は、まだ完全に立ち直ったわけじゃないから、ちょっと取り乱しながらも改めて尋ねてみた。
 「うん。今は史実の確認とかをしてると思うけど、話は通ってるはずだから大丈夫だと思うよ。じゃあ、ついてきて」
 「うん」
 「…にしても驚いたよ。まさミズゴロウのきみが、レシラムと知りあいだなんて思わなかったからね」
 いや…、僕の方だって、ジラーチとこんな街中で会えるなんて夢にも思ってなかったから、お互い様だと思うよ。五十センチぐらいのところを浮かんでいる彼は、客人の僕を手招きしながら建物の中に入っていく。僕は小さい種族だからそう見えるだけだけど、入り口は多分二メートルぐらいの高さはあると思う。その彼に案内されて、ロビー…、って言ったらいいのかな? 部屋の真ん中に水晶みたいなものの近くを通り過ぎたタイミングで、ジラーチの彼が興味深そうにこう訊ねてきた。
 「それなら僕も似たような感じですよ~。一部の人にしか言ってないのに、シロの事を言い当てられちゃったから~」
 「あははは、そうだね。ボクみたいな種族って、普通に生活してたら絶対に会えないもんね」
 確かに、それは言えてるかもしれないね。僕は普段から沢山の人に会ってるから、あまり実感は無いけど。
 『ウォルタ殿なら、そうかもしれないですな』
 『そうだね~』
 唐突に言い当てられたからビックリしたけど、彼はもしかして、結構社交的なのかもしれない。子供っぽく無邪気に笑う彼を見て、僕は率直にこう感じた。セレビィのシードさんとチェリーは例外かもしれないけど、幻とか伝説って言われている人は大抵、古風な感じとか威厳のある場合が多い。僕は立場上伝説の種族の人と話す事が多いから、ちょっと新鮮。心の中でそう感じたから、多分シロにも伝わったんだと思う。聞こえてきた言葉に、納得したような感情が直接伝わってきた。
 「ですね~」
 「うん。…アリナ、入るよ? 来る予定だったウォルタ君を連れてきたよ」
 へぇ、ここがアリナさんの仕事場かぁ~。気付いたら雑談に華が咲いていたけど、一つ上のフロアに上がった僕達は、一つの部屋の前で立ち止まる。ジラーチさんはその奥の部屋に向けて、少し大きめの声でこう呼びかける。彼の少し後ろから部屋を見てみると、そこはある意味予想通りの感じだった。まだ奥までは見てないけど、部屋の壁にはたくさんの書物が綺麗に並べられていた。
 アリナさんとはたまに調査を一緒にするから、何回も会った事がある。それにこの諸島には学者をしてる人は少ないし、同じジャンルの専門家だから、結構話も合う。
 「ん、ええ。アステル、ありがとう。ウォルタ君、待ってたわ」
 「ちょっと遅くなっちゃったけど、大丈夫だったかな~? 」
 「問題ないわ。私も資料を整理できたから、丁度良かったわ」
 そっか、なら良かった。部屋の奥から声が聞こえたから、僕はジラーチの彼、アステルさんに続いて中に入る。名前を聞くタイミングを逃しただけだけど、この時僕は彼の名前を初めて知った。確か別の諸島の古い言葉だったと思うけど、アステルは“星”っていう意味だったはず。ジラーチの彼らしい名前だなぁーって思いながら、僕は知り合いの彼女に視線を移した。
 僕が協会からの使いで会いに来た彼女、クチートのアリナさんは、さっきも言った通り、僕の同業者の考古学者。彼女と知り合ってから一年ぐらいしか経ってないけど、その時から結構良くしてもらっている。僕には兄弟がいなくて、アリナさんの方が年上だから、お姉さんみたいな関係…、なのかな? もしかすると、無意識のうちに師匠のエーフィと重ねてるだけかもしれないけど…。
 「…それでウォルタ君、ギルド協会からの話しがあるのよね? 」
 「うん」
 「そういえばそんな事、アリナが昨日言ってたね」
 「ええっと、この間起きた災害は、知ってるよね~? その事でギルド協会から通達が
あったんだけど…」
 諸島全体で話題になってるから、流石に耳に入ってるよね? 回転いすに座っていたアリナさんは、くるりと僕達の方に向き直って話始める。アリナさん側の協会から話はいっているはずだから、多分彼女はその事を言ってると思う。だから僕はこくりと頷き、彼女の問いかけを肯定する。僕にとっても割と身近な事だから、興味深そうに声をあげるアステルさんの声を聞き流しながら、その事について話し始めた。
 「ええ、聴いてるわ。ニアレビレッジで起きた、土砂災害の事よね? 」
 「そうだよ~。その事もなんだけど、最近ダンジョンの近くで自然災害とか事件が増えて来てるでしょ? だから調査団の方も、潜入する時は十分に注意してほしい、って」
 「確かにそんな気がするよ。天体の方も荒れた周期に入りはじめてるから、ボクもちょっと心配してたんだよ」
 僕は協会を通して知ったけど、ベリー達が救助活動にあたってくれてるみたいだから、心配なんだよね…。ベリー達なら、大丈夫だと思うけど。ペリッパー便の号外で報じられてたから、これだけで僕が話したかったことを察してくれた。その事について僕は、ギルド協会から頼まれたことをそのまま彼女達に伝える。幼なじみのチームが関わってる事だから、その事が気がかりといえば気がかり…。だけど私情を挟む訳にはいかないから、僕はその事を表に出さないように注意しながら言い切る。少なくともアステルさんには気づかれなかったから、僕は内心ホッとしながら、更に話を進めた。
 「それに砂の大陸の方でも、最近天候が荒れてきてる、って号外で報じてたよ」
 「確か砂の大陸は、キノト君の故郷のはずよね? 」
 「そうだけど、キノトはラムルタウンの出身だから、多分大丈夫だと思うよ~」
 その事で帰省してるけど、地域が離れてるから問題なさそうだしね。この流れで、アステルさんは思い出したように話題を提起する。話題に上がっている大陸が逸れたけど、僕が言いたい事とある意味同じ場所だから、気にせず話を続ける。その中でアリナさんは、僕の弟子の事が気になったらしく、その彼について訊いてくる。だから僕は、心配しないで、っていう感じで言いきった。
 「だけどやっぱり、あの史跡が心配だから、明日にでも様子を見に行ってみるつもりだよ~」
 「赤兌セキダの祭壇よね? 」
 「ええっと、赤い砂で有名な史実遺産だよね? 」
 「そうだよ~」
 砂の大陸の重要文化財として保護されてるから、心配なんだよね~。まだ詳しい調査も終わってない訳だし。
 「あそこも砂嵐が起きやすいから…」
 「だから、キノトと合流し次第、ダンジョンの様子もついでに確認してみるよ~。僕とキノトなら、天候が荒れてても、相性的にも突破しやすいから」
 キノトには二度手間になっちゃうけど、考古学者としては遺跡を保護しないといけないからね。僕はこの話の流れで、前から考えていたことを彼女達に伝える。彼女達の団も実力的には十分だけど、フリーの僕達の方が身動きは取りやすい。だから僕は、弟子の彼には申し訳ないと思いながらも、直近の予定を一言で言いきった。
 「ウォルタ君は水タイプだし、イワンコも岩タイプだから、適任だね」
 「ええ。それにニアレビレッジみたいに、赤砂の流通がストップしても大変なことになるから…、ウォルタ君、頼んだわよ」
 「うん! それと僕の知り合いの伝説の種族にも、一応各地の事を伝えておくよ~」
 それも、僕の伝説の当事者としての役目だからね~。ニアレビレッジの事で十分そう感じているから、アリナさんは真剣な表情で僕に言う。ニアレビレッジが壊滅的な被害を受けて香草の流通が止まってるから、早く対策をしないといけないのも事実。こう言う事例が最近起きているから、赤砂でも有名な赤兌の祭壇周辺の状況をいち早く確認する必要がある。現地のチームに頼む、っていう方法もあるけど、やっぱり現地の状況はこの目で見ておきたい。信頼してない訳ではないけど、人を通して伝わったり、一部の人の思い込みも混ざって、“真実”がズレる事もあり得る。“星の停止事件”の時だってそうだったから…。
 それに僕は、当事者っていう立場上、伝説の種族に知り合いが多い。そういう事もあって、僕はギルド連盟と一部の伝説の種族との橋架け役も担っている。“星の停止事件”で関わったディアルガさん達をはじめ、僕自身が関わってる伝説の種族との連絡が僕の仕事の一つ。十七歳っていう若い年で重要な役目を任されてるから、この事が原因で一部の連盟役員から嫌われてるけど…。
 …兎に角、僕は伝説の種族の人達の事も含めて、アリナさん達に要件を話しきった。



  続く

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