この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
お待たせしました。第十話です。
[第十話 激戦!ツンベアー!]
ヒュオオオッ……
鋭い風が突き刺す盗賊団のアジト。その最奥地にてハヤテ、ガブリアスとツンベアーが対峙していた。
「てめえら、いつ手を組んだ…?!」
ツンベアーが怒りの形相で2匹を睨みつけるが、対するガブリアスは物怖じせずに冷たい表情でツンベアーを見下ろす。
「お前は見てはいないが……俺は最初に俊足の種を食べ、ハヤテに接近するとこう言ったのさ、波導で俺の頭を覗け、とな。」
「覗けだと…?どういうこった…!」
ガブリアスのその説明をツンベアーはうまく飲み込めていない。そこでガブリアスに代わってハヤテが答えた。
「言われた通りにやってみたところ、ガブリアスからはこの様な言葉がひとまとまりに伝わってきた。俺はツンベアーの味方ではない、これから俺の動きに合わせて戦ってくれ、とな。それが嘘ではないことも波導で読み取れた。だから私はガブリアスと互いにアイコンタクトを取りながら戦うふりをしていたのさ。共通の敵であるお前を倒すためにな…!」
ハヤテは語尾を強めて言った。ツンベアーは黙ってその話を聞いていたが、話が終わると薄気味悪く笑いながら立ち上がった。
「ぐはは……そうか、俺に殺されたい奴が2匹に増えたということか……面白い……面白い!」
ゴオオォォッッ……
不気味に笑うツンベアー。途端にその周りの空気の流れが変わった様な気がした。
「なら俺も本気ださねぇとな。」
そう言うと、ツンベアーはバッグから不思議玉を取り出した。
「煙玉!」
ボォン!
途端、辺り一帯を煙が覆い、ツンベアーの姿はすっかり見えなくなってしまった。
「ちっ、煙か!ハヤテ、気をつけろ!」
「大丈夫だ!波導で感知してる!奴の居場所は特定できる!」
不思議玉の力により、煙は風に押されることもなくその場に留まり続けている。ハヤテとガブリアスは煙の中をじっと見つめ、ツンベアーの急襲に対抗しようとしていたが、ツンベアーはいつまでたっても出てこなかった。
「…出てこないだと…?」
ガブリアスが訝しみの表情を見せる。
「ハヤテ、奴は逃げたのか⁉︎」
「いや、ツンベアーの波導は煙の中から感じられる……逃げてはいない…!」
しかし、それからもツンベアーは攻撃を仕掛けてこず、またハヤテたちも、先制攻撃を仕掛けることがツンベアーの罠だと考え、煙に突撃しようとしなかった。煙を介しての、両者の睨み合いがしばらく続いた後、少しづつ煙が消えていった。煙玉の効果時間が切れたのだ。
「煙が晴れていく……一体何のつもりだったんだ…?」
「ハヤテ、油断するなよ!奴は強い!煙の中で何かをしていたはずだ!」
ガブリアスは構え直す。ハヤテも棍棒を居合の様に腰に当て、ツンベアーの奇襲に対抗する構えをした。
「構える必要はねぇよ。今は俺は奇襲をしねぇ。」
煙が完全に消え、ツンベアーが姿を現した。見た目では特に変化がない。
「ツンベアー!煙の中で何をしていた!」
ハヤテが強い口調で聞き正そうとする。
「ちょっとな、戦ってみればわかるさ。」
そう言うとツンベアーは腕を大きく振ると、ハヤテに向かって突進してきた。その勢いのまま、ツンベアーはハヤテに真っ直ぐにパンチを放つ。
(うっ…速い!)
ハヤテは咄嗟にジャンプし、ツンベアーの拳に足を合わせた。敵の勢いを止めつつ、攻撃を回避しようとしたのだ。しかし、
(ぐ…!重い!)
ツンベアーの拳は予想以上に重かった。ハヤテはパンチを回避できず、ツンベアーの拳はハヤテの足を弾き、防御力のない腹部にめり込んだ。
ボゴォッ!
「がはっ!」
勢いのまま、ハヤテは地面に叩きつけられた。
(ドラゴンテール!)
ハヤテに気をとられ、後方に隙ができたツンベアーの背後をガブリアスは狙うが、
ブンッ!
ガブリアスの《ドラゴンテール》は空を切った。ツンベアーが技の当たる前にその場にしゃがんだからだ。
「なっ!気づかれた!?」
ツンベアーはその体勢から空中のガブリアスに素早くパンチを叩き込んだ。
バキッ!
「がああっ!」
ガブリアスも硬い地面に落とされ転がされた。
「うう……」
ハヤテが腹を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
「その力……その素早さ……やはりあの煙の中でお前は…!」
「そうさ、猛撃の種、俊足の種を食わせてもらったよ。バッグに1個ずつしか入ってなかったのが残念だったがな。」
地面に打ち付けた部分を押さえながら、ガブリアスも起き上がった。
「ツンベアー!またしても道具に頼る気か!卑怯な奴め!」
「悪いが俺は勝つためには手段を選ばない派なんだ。それにお前らも2匹でかかってきてるだろう。だから、お互い様、さ!」
言い終わるが否や、ツンベアーは俊足を飛ばしてハヤテたちに急接近し、殴る蹴るの連続攻撃を始めた。
バキッ!ドカッ!ドゴッ!ズガッ!……
「ハ、ハヤテさん……」
ヒノアラシが檻の中から心配そうにハヤテを見つめる。ヒノアラシは今すぐにハヤテを助けに行きたかったが、檻がそれを邪魔する。
「こんな…檻…!」
ヒノアラシは檻を破ろうと蹴り始めた。だが、見たところそれ程頑丈そうでないその檻も、ヒノアラシの力では破れなかった。ヒノアラシは《火の粉》で柵を壊そうとしたが、耐熱性があるらしく、またヒノアラシが非力な為、熱せられたその部分が熱くなっただけだった……
◆◆◆
「がはっ…!」
「ぐおおっ…!」
ツンベアーの連続攻撃を受け、ハヤテとガブリアスは傷だらけで倒れた。
「はっは、もうギブかぁ?」
反対にツンベアーは余裕そうである。
「ぐっ……ツンベアー…!」
ハヤテが苦しそうに唸る。
「お前らに技を使わなかったのは、すぐに殺しては俺の復讐にならないからな。だが……」
ツンベアーの顔から笑みが消えた。
「それも、もう飽きた…!」
ツンベアーがゆっくりとハヤテの元へ歩み寄る。
「まずはお前からだ、ハヤテ…!」
ツンベアーはその拳を大きく後ろへ引いた。その拳からは冷気が上がっている。
「ハヤテさん!逃げて!」
ヒノアラシの悲痛な声が響く。ハヤテは後ずさりしようとしたが、
「逃がさねえぞ…!」
ツンベアーに押さえられてしまった。
(うっ、動けない…!)
ハヤテはもがくが、ツンベアーからは逃げられなかった。
「お前らが此処に来なければ…こうはならなかったんだ…!」
ツンベアーが鋭い眼差しでガブリアスとハヤテを交互に睨む。
「死ね…!冷凍パンチ…!」
ツンベアーの拳がハヤテに当たりかけたその時、
「ハヤテさんを離してっ!!!!」
「うんっ?」
ゴオオオオッ!!
「なっ…!?」
突如、どこからか透き通った青色の炎が飛んできた。ツンベアーは避けることが出来ず、炎はツンベアーを押し飛ばした。
ドオオオーン!
「がああっ!あっ、あちいいっ!」
ツンベアーは炎の当たった左肩を押さえ、ゴロゴロと転がっている。
「いっ、今のは…?」
ハヤテが起き上がり、辺りを見回す。だが、辺りに炎タイプのポケモンはおろか、彼ら以外のポケモンの姿は見当たらない。
「いや、1匹だけいる……」
ハヤテは右方向を向いた。そこには、
「はぁ…はぁ……」
息を荒くしたヒノアラシがいた。
(今のは…ヒノちゃんなのか……)
「はぁ……ハヤテさん、無事ですか?」
「ああ、ありがとう。おかげで助かったよ……ヒノちゃん、火炎放射が使えたんだね……。」
ところがヒノアラシはその言葉を聞いてきょとんとした顔をした。
「えっ、火炎放射…?何のことですか…?」
「ヒノちゃんじゃないのか?」
ハヤテは驚いたような表情をした。
「わたし、叫んだだけです……あっ、檻が……」
よく見ると、ヒノアラシが入れられている檻の柵が赤くなって溶けている。
(ヒノちゃんが放ったのは間違いない……だが、気づいていない……しかし、無意識で放てるものなのか?)
「恐らく、『白陽の力』だ。」
ガブリアスが近づいてきた。
「今のが『白陽の力』なのか?」
「ああ、だが説明は後だ!」
ガブリアスはそう叫ぶとツンベアーの方を向いた。ツンベアーは未だに肩を押さえながら転がっている。その肩は黒く焦げ、薄く煙が上がっている。
「行くぞ!ハヤテ!」
「おうよ!ガブリアス!」
2匹は同時に飛び出した。ツンベアーはようやく痛みを落ち着かせ、立ち上がったが、気づいた時には既に目の前にハヤテとガブリアスが……
「食らえ!我らの連携攻撃!」
「ぐっ、ま、待て!」
ツンベアーは制止するも、ハヤテとガブリアスは止まらなかった。そして、
「瓦割り!」
「ドラゴンテール!」
2匹の連携攻撃が炸裂した。
「ぐ、がああああっ‼︎」
ハヤテの《瓦割り》、ガブリアスの《ドラゴンテール》を受けたツンベアーは吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられてしまった。
「ぐ…が……」
ツンベアーは背中を壁に滑られながら目を回して倒れた。
「はあ…はあ……」
「ふう…ふう……」
ハヤテとガブリアスは仰向けになって荒い息をしている。
「ハ、ハヤテさん…?」
溶けた檻から出てきたヒノアラシが心配そうに近づいてくる。
「はあ……ふ…ふふっ……」
ハヤテは汗だくになりながら、静かに笑った。
「…やったな…ヒノちゃん!」
「はっ、はい!」
つられてヒノアラシも、目元に涙を浮かべながら大きく笑った。
◆◆◆
「さて!ツンベアーも倒した!あとは攫われた里のポケモンたちを探すだけだ!ガブリアス、何処にいるんだ?」
オレンの実を食べながらハヤテはそう叫んでガブリアスに聞いた。だが、ガブリアスは、
「残念だが俺も知らないんだ……。ツンベアーはポケモンたちの居場所を俺には教えなかった……だから何故ポケモンたちを攫ったのかは分からないんだ……」
暗い顔をしてそう答えた。
「そうか……なら、ツンベアーから直接聞き出すまでだ!」
ハヤテはツンベアーの元へ詰め寄った。
「ツンベアー!里のポケモンたちの居場所を教えろ!」
ハヤテは棍棒をツンベアーの首元に突きつけ言った。だが、ツンベアーは、
「フン…誰が教えるか……」
「ツンベアー!お前は負けたんだ!答えろ!」
ガブリアスもツンベアーの元へ詰め寄る。だが、ツンベアーは動じない。
「お前らなんかに教えても、どうせ救えないだろうよ……」
「ツンベアー!貴様!」
「それより俺を縛らなくていいのか?俺は今逃げられるぜ…!」
「何っ…?」
ツンベアーは素早くバッグからあるものを取り出した。
「煙玉……もう一つ…!」
「俺はまだ負けを認めてはいない!」
ツンベアーは煙玉を上げるとそれを発動した。途端、玉は光に包まれ、
ボンッ!
爆音と共に白い煙が発生し、ツンベアーを包み込んだ。
「ポケモンたちを救いたいならこの先のダンジョンを超えて来てみろ!『隠された神殿』!そこで全てを見せてやる!」
煙の中からツンベアーの声が響く。
「ハヤテ!波導だ!」
「言われなくても!」
ハヤテは再び波導を解放し、ツンベアーの姿を追ったが、
「ダメだ!此処にはもういない!」
ツンベアーは既に去った後だった。
「ガブリアス!『隠された神殿』とは何処だ?」
「分からん、聞いたことのない場所だ。」
ハヤテとガブリアスは首を傾げていたが、
「わたしが知っています。」
「ヒノちゃんが?」
「『隠された神殿』は向こうにあります。」
ヒノアラシが指差したのは、ハヤテが入ってきた洞窟とは反対側、鬱蒼と茂った森へ続く道だった。
「何とも怪しげな雰囲気の漂う森だな……」
「あそこは危ない場所だとみんな言ってるんです。」
ヒノアラシの説明によれば、『隠された神殿』とは、緑の里ができる以前よりあった神聖な場所だという。かつてポケモン同士の争いがあった時代に、伝説ポケモン『レシラム』がこの地に降り立ち、争いを鎮めたという。それ以来、レシラムを祀る為にこの神殿が作られたのだ。
「でも、時が経つにつれ、みんなが神殿の存在を忘れていったんです。そんなある時、里の小さな子どもたちが遊びであの森へ入り、再びあの神殿が見つかった。しかし、その子たちはそれからしばらくして、崖から落ちて亡くなってしまったんです。神殿に入ったことと、崖から落ちたことは関係ないのでしょうけど、その日からその神殿は、呪われていると言われ、誰も近寄らなくなったのです。事実を知っている大人たちは、子どもたちにその話をしません。子どもたちが、神殿に興味を持たないようにする為です。だから、今の里のポケモンたちのほとんどはその事実を知りません。」
「しかし、だとしたら何故君は知っているんだい?」
だが、ヒノアラシは、
「分かりません……でも、何故か、何故か知っているんです!『隠された神殿』について、誰がに聞いたわけではないのに……」
「………………」
この時、ハヤテは何かに気づいたようであった。だが、あえてそれをこの場では言わなかった。
「とにかくヒノちゃん!隠された神殿まで案内してくれ!」
「はい!こっちです!」
ヒノアラシに先導され、ハヤテとガブリアスは森へ入る。だがハヤテは、この先にあるものについて、何か嫌な予感がしていた。そしてこの後、その予感が正しかったことがツンベアーとの戦いによって……
…証明されてしまうのだった……
いかがでしたでしょうか。本話は、別サイトに投稿した版では最初にこのシリーズについての説明書きがあったのですが、今見てみると結構設定変わってるなーって思えます。超ダンは登場しないって言いながら、後々普通に登場しちゃってますし。