この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
お待たせしました。第七話です。
第七話 親友
…あの2匹はとても強い……敵う相手ではないみたいです。だから……
必ず…助けに…来てくださいね……
ハヤテの脳裏に少女の声が響き渡る。
「…行かなくては……」
体に力を入れ、ハヤテは立ち上がった。
[第七話 親友の思い]
「うう……ハヤテ、すまねえ……奴らと戦えるのは俺とお前しかいないのに、その俺が戦えなくなっちまうなんて……ほんと、すまねえ……」
ツバサが申し訳なさそうな顔をして、側に立つハヤテに謝った。
「気にするな、ゆっくり休むといい。」
ハヤテは優しく答えた。そしてそばにいるハハコモリの方へ体を向けた。
「ハハコモリさん、あの時貴方の助けがなければ、我々はこうして無事にはいられなかったでしょう。助けていただき本当にありがとうございました。」
そういって頭を下げるハヤテに、ハハコモリも笑顔で答えた。
「そう固くならないでください。あなた方はわたしたちを守るために戦ってくれた、ならわたしたちはあなた方のサポートをするのが当然のことですよ。」
そう、あの時ツンベアーたちに負け、意識を失った2匹を自分の家に運び、介抱してくれたのはこの里の住民のハハコモリだった。聞けばヒノアラシとは彼女が里に来た頃からの付き合いで、彼女が義父のリザードンを喪った時は、真っ先に彼女を心配し、1匹となった彼女を自分の家に住まわせたという。つまりここは少女の家でもある。
「しかし、我々はヒノアラシちゃんを守ることができなかった。本当に申し訳なく思います……」
ハヤテは悔しそうに、そして申し訳なさそうに俯いた。
「あなた方は悪くないですよ、ヒノを、みんなを守ろうとしてくれた。それにヒノは連れ去られたのではなく、自分の意思でついていったのですから。」
「そのヒノちゃんの行動で我々は助かった……なら今度は我々がヒノちゃんを助けてあげなければいけません。」
「でもツバサさんは怪我をしているし、ハヤテさんも完全に回復したわけではありません。今戦っても返り討ちにあうだけです。それにヒノは大丈夫です。あの子には『白陽の力』があるから……」
◆◆◆
同刻、ツンベアーのアジトでは……
「おい、こいつみろよ、すげぇ可愛いじゃねぇか。」
「少し横にずれてくれよ、見えねぇ。」
「俺、こんな子と番いになりてぇ!」
「バーカ、こいつは高く売りさばくんだよ!ボスはそのために攫ってきたんだろ」
盗賊団の下っ端たちが小さな檻を囲んで騒いでいた。その檻の中には、
「うう…どこか行って……」
小さく丸まったヒノアラシがいた。ツンベアーたちに捕まったヒノアラシはこの小さな檻に入れられ放置されたのだ。
当然、頭の悪い下っ端たちが檻の周りに群がるのだ。
「ぐへへ、俺が奪っちゃおうかな。」
「いや、こいつは俺の物だ!」
「いやいや、俺だ!」
下っ端たちが言い合いを始める。
「だから、俺が奪うって言ってんだろ!」
「何を奪うって?」
「何ってそりゃ…えっ…?」
その声に下っ端たちは一瞬で黙り込んだ。恐る恐る振り返ると、
「ひゃっ!」
「ガブリアス様!」
「檻には近づくなと言ったはずだが…分からなかったのか…?」
ガブリアスは鋭い目線で下っ端たちを睨みつける。
「あ、あああっ……」
「もっ、申し訳ありませんっ!」
下っ端たちは怯えたり、必死でガブリアスに頭を下げたりしている。
「分かったらさっさと消えろ……邪魔だ…!」
「はっ、はいいっ!」
下っ端たちは一目散に逃げ出した。
「それで…あなたはわたしに何の用なんですか……」
少女は檻の前に立つガブリアスに、警戒しながら低い声で尋ねた。
「…………」
ガブリアスは答えない。ただ彼女を見下ろしている。
「くっ…何とか言ったらどうなんです!わたしはあなたみたいなポケモンが大嫌いで…!」
「…ほらよ……」
コロン……
少女の叫びを遮り、ガブリアスはヒノアラシの前に何かを転がした。
「食え……」
「食えって…これは…?」
ガブリアスの転がした物の1つはピンク色で桃のような形をしている。とても甘いことで有名なモモンの実だった。他にもリンゴやオレンの実など、木の実が沢山置かれている。
「もう少しの辛抱だ、我慢してくれよ、ヒノ……」
ガブリアスはそう言うとゆっくりと歩き去っていった。
「あのポケモン、わたしのことをヒノって呼んだ……どうして…?」
ズキッ……
「うっ……」
突然の頭痛に少女は頭を抱える。
「うう……」
少女の脳裏にどこかの風景が浮かぶ。その中にはヒノアラシが映っていた。
「わたしと…あれは…誰…?」
その風景の中にはもう1匹、ヒノアラシと共に歩くポケモンがいた。だがそのポケモンは歪んだ形をしており、誰なのかは分からない。
「わたし…何かを忘れているような……何かしら…?」
しかし、いくら考えても分からなかった。
「まぁ…いいよね……」
少女はそう思うと、置かれていた木の実の1つに手を伸ばした。
同じ時、それを物陰から見つめるポケモンがいた。ガブリアスだった。
「…どうやら記憶は消えたままのようだな……自分の名前も…俺のことも……」
ガブリアスはフッと笑うと少女に背を向けた。
「まあいいさ、顔が見れただけで十分だ。」
ガブリアスは少女に背を向け、ゆっくりと歩き出した。
「俺のことなど…覚えてはいけないのだからな。」
その顔はどこか寂しそうだった。
◆◆◆
戻って、ハハコモリの家では……
「白陽の力?」
ハハコモリの放ったその言葉に、きょとんとした表情を見せるハヤテ。知識のある彼ですら聞いたことのない言葉なのだ。
「白陽の力って何だ?」
ツバサが首を起こしながら尋ねる。
「それが…よくわからないのです。それをわたしに教えてくれたのはあの子の義父のリザードンでした。彼はあの子には強き白陽の力がある……そう言っていました。」
ハヤテもツバサも黙り込み、その話を聞いていた。ハハコモリは話を続ける。
「わたしはその力をよく知らないし、実はリザードンも自分の目でそれを見たわけではないのです。その力を直接見たのは彼の親友らしくて……彼はその親友からその話を聞き、それをわたしに教えてくれたのです。」
「親友?」
「はい、リザードンの子どもの頃からの友達です。」
「そのポケモンは今どこに?」
「分かりません、リザードンによると旅ポケモンらしく今もどこかを旅しているのかもしれません。」
つまり「白陽の力」を知るポケモンは今いないという事になる。
ハヤテは少し話を変えた。
「ところでハハコモリさん。失礼ですが貴方はそのリザードンさんとはどのようなご関係なのでしょうか?」
「えっ、何故でしょうか?」
「先ほどからリザードンさんの事を口にする度に俯かれたりしていらしたので。」
ハハコモリは驚くような顔をした。そして小さく笑顔を浮かべた。
「流石レスキュー探検隊ですね。あの会話の中でそんなことに気づくなんて。」
ハハコモリはどこか虚空を見つめながら話し始めた。
「わたしとリザードンと親友のポケモンは幼馴染でした。子どもの頃はよく3匹で遊んでいました。喧嘩もしたことのない、それほど仲が良かったのです。」
「親友のポケモンの居場所を知らないというのも嘘ですよね。」
ハヤテの言葉にハハコモリも苦笑した。
「そこまで見抜いていましたか……。はい、そのポケモンがどこにいるかも知っています。」
そこまで言い終わると、ハハコモリは少し息をついた。そして言葉に力を込めて叫んだ。
「ハヤテさん、お願いです。彼を……
…わたしたちの親友、ガブリアスを止めてください!」
いかがでしたでしょうか。このとき考えた設定はなかなか安易なものが多かったので、後々積むような事にならなくてよかったと思っています。