44話 私が今出来ること

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

シャルルの大切なものを消すとアジトを破壊して逃走したヴェレーノは近くに避難していたデンリュウとイーブイに矛先を向けた、しかし身体を張ったデンリュウの捨て身の行動により、シャルルも追いつき合流に成功する。
〜突入作戦開始前の崖〜

アバゴーラ「………。」

キングドラ「………。」

アバゴーラ「……怒っとるか?」

キングドラ「当たり前だろ…あのドククラゲを倒して早くあいつ(ボスゴドラ)と合流したかったのに…倒してそうそう作戦開始地点の崖に戻るとかどうかしてるぞお前!」

コードを使って強化されていたヴェレーノとは別のドククラゲを退けたキングドラとアバゴーラは全壊したアジトの方ではなくアブソルがゾロアークを殺めた崖の下に戻っていた…ボスゴドラとデンリュウを心配していたキングドラからしたら焦りと不安でイライラが収まらない、しまいにはアバゴーラの行動に不満をぶつけていた。


アバゴーラ「まぁそう焦りなさんな…ちょっと気になったことがあってな…何ならお前さんだけでも先に行ったらどうだ…?傷もきのみや薬で回復しとるし、今ならまだ間に合うかもしれんぞ?儂はこの崖を登ってから行くがな。」


キングドラ「…いや…アンタが気になることは重要なヒントに繋がることが多い…俺の頭も使えるなら少しでも早く事を終わらせたい。」

ぐぬぬ…と小さく唸ると一つのため息と共にキングドラは力を抜きアバゴーラの意見に妥協した。


アバゴーラ「うむ、そういってもらえると助かる…話は崖を登ってからにしよう…ほれ甲羅に乗れ…お主手がないから登るのは跳ねるだけでは難しかろう…。」











崖を登りきったアバゴーラとキングドラは周りを物色し始めた…一面にはアブソルが槍を使って怒り任せにただひたすら刺して刺して刺しまくったことによる血の海…ポケモンからここまで血がてるかと驚くくらいに周りの植物、地面を紅に染め上げている…ここまでは予想はついていた…だがアバゴーラの気になるの予想はそれとは別の形で当たっていたのだ…。



キングドラ「死体が…ない…!?」

アバゴーラ「…やはりな…胸騒ぎの原因はこれか…。」


アブソルが徹底的に手を下したはずのゾロアークはその姿を消しており、キングドラはその事に驚きを隠せない…反面、アバゴーラは引き続き周りを調べ始めると地面に落ちていたあるものをひょいと拾い上げた。

キングドラ「それは…?」

アバゴーラ「いのちのたまという道具じゃな、アブソルがゾロアークを後ろから刺した時に転がっておったわ…。」

キングドラ「いのちのたまか…たしか所有者の体力と引き換えに技の威力を上げるって効果だったな…学校で習ったから覚えてる。」

アバゴーラ「さよう…ではこのいのちのたま…何故ここに転がっておると思う…?」

キングドラ「なぜって…俺たちに強力な一撃を当てようとしたらアブソルに不意を付かれ、その時に落としたからだろ?」

アバゴーラ「普通はそう考えるな、だがなキングドラ…その先についても考えて見たらどうなるか?」

キングドラ「その先…?その先ってなったら…アブソルに殺されたゾロアークがいつの間にか消えていたという所までか。」

アバゴーラ「おかしいとは思わぬか?あろう事か儂らが戦っている間に死体が消えた…見ての通り外部からの助けはない…地面に他のポケモンの足跡はないし、かといって空を飛ぶポケモンだったら羽や鱗粉が落ちるはず…血が固まっているからと言ってここまで綺麗には連れ出すことは不可能だ…。」

キングドラ「それは最初からの疑問だろ?いのちのたまと関係があるとは思えない…何故俺達に自らが犠牲になりかねない攻撃を仕掛けに来たのかは分からないままだが…ん?」

キングドラは自身の発言になにか引っかかるものを感じ、紡ごうとした言葉を止める…「犠牲」…殺された敵のゾロアークにその言葉は確かにおかしい…だがそれだけではない、ふと疑問に思ったのだ…。


キングドラ「なぁ…確実に仕留めるためとはいえこれを使う必要はあったのか…?」

アバゴーラ「気づいたか…。」

キングドラ「おい…!試していたのか!?」

アバゴーラ「そういう訳ではない、これはあくまで儂の考え方だった…だが冷静に物事を見極めるお前さんが同じ結論だ…現に儂の胸騒ぎはこのような形で的中した…。」


キングドラ「まぁ…そうだが…。」

思ってもみなかった状況の変わりようにキングドラは頭が追いつかないでいた…アバゴーラはゾロアークが倒れていたと思われる血溜まりが一番大きい所に足を運び、キングドラの方を見ずに口を開く。

アバゴーラ「儂らを片付けたかったのなら簡単に店で買えるタイプ一致のやみのジュエルを使用すれば良かったはずなのじゃ…いのちのたまよりも技の威力は上がるし、一度きりの切り札だが、デンリュウに変装してまでコソコソ来たのだ…いつ訪れるかも分からない儂らの隙を体力を削ってまで待つメリットがあるとは思えん…。」

キングドラ「…じゃあ…なぜこのどうぐを選んだのか…そして自分でこの場から離脱したなら何故この貴重品(いのちのたま)を装備し直さずに去っていったのか…それほど余裕が無かったのか…?誰もいなかったのに…。」

推測しながら考えるというのは相手の気持ちになりきるということだ、だがキングドラはゾロアークについてはほぼ何も知らないに等しいため当の本人が何がしたかったのかを理解しきれない…。


キングドラ「…ダメだな…情報が少なすぎる…推測を立てるのが精一杯だ、真実にたどり着くのはまだ時間を有する。」

アバゴーラ「そうか…では儂の考えも当たりの可能性がまだあると言うことか…。」

キングドラ「…何か心当たりが…?」

アバゴーラ「…いや、この可能性は明らかに狂ってる…すまんな、無駄な時間を浪費した、ここから先は暫し後回しにして合流にいくか…!」

キングドラ「あ、おい村長!」


キングドラの呼びかけは耳に届かず、アバゴーラは崩れたアジトに向かって走りながら未だに頭から離れない自分の疑念と戦っていた。


アバゴーラ(奴の手口…爪が甘かったにしても明らかにおかしい所が多すぎる…。変装してまで慎重に事を進めてきたのだ…馬鹿ではないことは確実…だとしたら…。)


いのちのたまから始まったひとつの謎…キングドラは情報が少ないからと一度様子見を選んでいたがアバゴーラは一つだけとある予想を立てていた、だがそれは明らかに常識を外れている…コードの能力が未知数だとしても流石にやりすぎだと思うのだ…。


アバゴーラ(奴は…別の目的のためにわざと虹君に殺されたというのか…?)















〜全壊したアジト付近〜

ブォンッ!!


シャルル「フェイントだデンリュウ!左!」

デンリュウ「……!!」

シャルルの指示に従い、すんでのところで左から伸びる一刺しをしゃがんで避ける…だが大量の触手は豪快な破壊衝動と共に変幻自在に攻めてきており、その勢いはとどまることを知らない。




ヴェレーノ「ギギ…!!ガァァァァ!!!」


シャルル「とうとう残りの自我も失い始めたか…恩恵が切れかかってる…!」

デンリュウ「恩恵…何のこと…?」

シャルル「詳しいことは後で話す!まずはコイツのコードを全て取って機能を停止させる!」

一瞬で間合いを一気に詰め、シャルルはメタルクローで猛攻を仕掛ける…目に追いつかない爪と触手の応戦…だが周りではカラン…と物が落ちる音が響く…自然の力を借りて強化されたシャルルの身体は暴走したヴェレーノに取り付いた残りのコードを一つ…また一つと丁寧に引き裂いていた…。


デンリュウ「なんて集中力…!」

ガキィン…!!

互いの打ち合いが爪と頭のランプで一際大きく響き、二人は一度大きく後ろに下がる…ヴェレーノのコードはシャルル達から見たら残り十数個…だがヴェレーノの触手は何度もシャルルに引き裂かれ短くなっており、殆どは使い物にならなくなっていた。


ヴェレーノ「ア…ガ…!!?」

シャルル「動きが止まった…!これで…グッ!?」

最後の猛攻を仕掛けようともう一度ヴェレーノに突っ込んだ所でシャルルの身体に異変が起こった…力がどんどん抜けていく感覚…同時にシャルルの周りに吹いていた突風も勢いを落として消えていった…いつの間にか目も緑では無くなっており、スーッと元の色へと戻っていく。


シャルル(ここで時間切れかよ!?クソっ止めれねぇ…!)

攻撃のモーションは既に実行されており、シャルルの選択肢は当てるしか残されてなかった。


ギュンッ…!ドゴッ!


シャルル「チッ…!!」

集中が途切れた攻撃は案の定ヴェレーノには届かず、身体を軸にした回転打ちで吹き飛ばされる、あと少しで手に出来る筈の勝利が通さがっていく…そんな感覚に焦りを覚えた。





デンリュウ「ボスゴドラ…!」

シャルル「すまない…助かった!」

デンリュウの投げたオレンのみを口でとらえ噛み砕く、同時にデンリュウが前へ走り出て前衛と後衛を切り替わった…シャルルの表情を見てヤバいと判断したのだろう…彼女の判断力に救われたと気づくのはそう時間をかけなかった…。



デンリュウ「今度こそ…!」

ヴェレーノ「ギ…ガ…!!」

シャルルを休ませる時間を稼ぐため、ヴェレーノに正面からアイアンテールとかみなりパンチの猛攻を仕掛ける…だがヴェレーノも避けるだけではなかった、残りの触手はまだ動き、デンリュウの攻撃を最小限のダメージで抑え、ある時は受け流している。




ヴェレーノ「ガァァァ!!」

デンリュウ「させないっ…チャージビーム!」

ヴェレーノ「ギギッ…!?」


攻撃の隙をついてデンリュウをかわし、シャルルを潰そうとするがスライディングで咄嗟に体制を立て直したデンリュウの遠距離攻撃で動きを止められる。


ヴェレーノ「ジャ……マ…!!」

その時だった、ヴェレーノの赤い眼光はシャルルではなくデンリュウに焦点を合わせた…睨まれたデンリュウは怯えることなく、口に溜まった血を唾液と一緒に吐き出すとしてやったりと言いたげならしくない表情でニヤリと笑う…。



シャルル「デンリュウ!お前とイーブイだけでも逃げろ!今のままじゃそいつに致命打は与えれない!死ぬぞ!」



デンリュウ「それでも…逃げるよりはマシ…!」

ボスゴドラ「なっ…!?」


ビュンッ…バチーン!


ヴェレーノの触手をパンチや尻尾で弾き返し、デンリュウはまた攻撃を始めながらシャルルに答える。


デンリュウ「今の私じゃ確かにこれが限界…!でも…私はまだ戦える!コイツに…勝つ!」


ボスゴドラ「馬鹿野郎!それはただの自己犠牲だ!一度身を引け!」


ヴェレーノ「グルァァァ!!!」

デンリュウ「くっ…!!」

シャルル「デンリュウ!!」

渾身の一撃をコットンガードでなんとか防ぐが身体は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる…だがそれでもデンリュウは立ち上がる…普段の彼女からは予想できない姿がそこにある…シャルルはそれを見て一瞬言葉を失なった…。


デンリュウ「私は負けるつもりなんてないし…仲間を置いて絶対に逃げたくない…!逃げるとしてもそれは…全員が生きて帰る時にしかしないわ…!」


迷うことなく歩みを進め、デンリュウは電気を纏いながらシャルルに答える…決意と勝利への執念、今の彼女にはそれが強く感じられた…。


デンリュウ「だから…お前らだけでもなんてもう言わないで…君はもう充分に苦しんだ…戦った…何百人のポケモンの代わりに涙を流した…!」


ボスゴドラ「…お前…!」

デンリュウ「罪滅ぼしなんて正直どうだっていい…!今こうして君はここに立っている事実は変わらない…風も浴びれるし生きていることも実感できる…!」


血に濡れた手でデンリュウは肩掛けの探検隊バックから金属音と共に勢いよく一本の紫色に光るナイフを取り出す…太陽に照らされるその輝きはデンリュウの思いを表しているように錯覚するほど真っ直ぐだった。


デンリュウ「…らしくないよね…でも…これは私の心からの本音…あの人から教えて貰った大切な感情だから…。」


ヴェレーノ「グル…ギギ…!!」


デンリュウ「…来なさいヴェレーノ…!貴方を殺してでも…私はこの子の本物の笑顔を取り戻す!!」



逆手にナイフを持ち替え…邪魔になった肩掛けのバックをひきちぎって捨てると声高々に叫ぶ…孤独の閃光は今ここに、ひとつの舞を楽しむかのようにナイフを上に掲げて宣言した。










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